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昆虫シリーズ48 ガの仲間②・ヤママユガの仲間、ミノムシ

  • ♀はフェロモンを出して♂を呼ぶ・・・ガは、視覚の働かない夜間に活動する者が多い。そのため交尾相手を探し、同種かどうか判断するため、性フェロモンを利用している。♀は、羽化後しばらくすると腹部を持ち上げた独特の姿勢でとまり、腹部の先から誘引腺を露出して性フェロモンを放出する。その匂いに引き寄せられた♂と交尾を果たす。(写真:ヤママユの♀)
  • ♂の触角は、櫛毛を発達させたものが多い。これは、♀が放出する性フェロモンへの感度を高くし、交尾相手を見つけやすくするためだと考えられている。(写真:ヒメヤママユの♂) 
  • ヤママユ(ヤママユガ科)
     ハネを広げると15cmほどもある大きなガの仲間。ハネの色は、茶色っぽいもの、黄色っぽいものなどがある。幼虫は大きな青虫で、雑木林のクヌギ、コナラ、カシワ、クリ、ミズナラなどの葉を食べる。成虫は、年1回、8月に羽化する。卵の状態で越冬する。(写真:ヤママユ♂) 
  • ヤママユ♀
  • 天蚕糸・・・ヤママユの繭から貴重な高級品の絹糸が採れ、「天蚕糸」と呼ばれている。長野県穂高町の有明地方は、天明年間(1781~1789)の昔から天蚕の飼育が続けられている。 
  • 休眠・・・ヤママユガは、卵の中で幼虫のまま8カ月間も休眠する。その間、体内で細胞を眠らせる物質を出していることが分かっている。この物質は、「ヤママリン」と呼ばれている。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ヤママユ
     スズメガも大型の蛾だが、大きいほうの代表はヤママユ蛾の類であろう。ヤママユガは翅の開張十二センチほどの黄褐色の蛾で、日本じゅうどこにも普通にいる。クスサンもこれに似ているが、この幼虫からは一種のテグス糸がとれる。俗に「白髪太郎」とよばれる白い長毛をもじゃもじゃと生やした大きな毛虫だ。ウスタビガは翅の開張十センチほど、すこし小型になるが、その繭に特徴があり、気づかれる方も多いだろう。冬、すっかり葉の落ちつくしてしまってがらんとした雑木林を歩いていると、枝の先などに、あざやかな薄緑色をしたカマスのようなものがついているのが目につく。これがウスタビガの繭で、その蛾は十一月に羽化してしまっているから、蛾のでたあとの脱け殻なのである。  
  • ファーブル昆虫記
     ある夜、ヨーロッパ最大のガ、オオクジャクヤママユがいっぱい家の中に入って来た。このガは、栗色と焦げ茶色の地に、クジャクの羽のような瞳に似た模様が入っている。それも♂ばかりであった。研究室には、羽化したばかりの♀が、金網のカゴに入れて置いてあった。彼がその研究室に行くと、♀を入れたカゴの周りを、たくさんの♂のガたちが、その数40匹もコウモリのように飛び回っていた。
     オオクジャクヤママユには、食事をするための口がない。だから♂は、わずか2、3日の間に、何も食べずに必死で♀を探すしかない。♀も、交尾して卵を産むことだけである。 
  • ♀探しの手掛かりは何か・・・ファーブルの実験
    1. 8匹の♂の触角をハサミで切った。その夜、♀のカゴには25匹の♂がやってきた。そのうち触角がない♂は1匹だけだった。
    2. 次の日、24匹のガの触角を切り落とした。その夜、7匹の♂が来た。その全てに触角があった。触角が重要な役割をしていることが分かった。
    3. 2年後、♀を密封した箱に入れると、♂は一匹も飛んでこなかった。その反対に、少しでも空気が漏れる箱に入れると、♂はどんどん飛んできた。
    4. ある夜、♀を洋服ダンスの奥の方に入れて置いた。♂たちは、扉を叩くように洋服ダンスにぶつかってきた。♀は、どうも人間には分からない何を発しているようだ。
    5. カレハガによる実験・・・木の枝に♀を止まらせ、ガラスケースの中に入れてみた。すると♂たちは、ガラスケースを通り越して、前の晩、♀のガが入っていた金網のカゴの周りを探していた。
    6. 次に♀を木の枝に止まらせて、♀の発散物がしみつくようにした。それから小枝を取り出し、窓の近くの椅子に置いた。すると、♂たちは、ハネを震わせながら小枝を調べている。
    7. 布で♀を包んでから、布だけを置いてみた。♂は、やっぱりその布に惹きつけられた。♂は、♀の発散物に惹きつけられることがはっきりした。
    8. 今では、この発散物を「フェロモン」と呼んでいる。 
  • ウスタビガ(ヤママユガ科)
     ハネは黄色で、半透明の目玉模様がある。雑木林のコナラなどが黄色に色づく頃に成虫になる。ハネを広げると10cm近くある大形の美しいガ。10~11月に出現。 
  • 美しい緑色の繭・・・冬の雑木林で、良く目立つ緑色の繭がウスタビガの繭である。この繭は「ヤマカマス」と呼ばれている。木の枝に繭をつくるのは、深緑の頃だから全く目立たない。繭の中でサナギになる。 
  • 繭のつくり方・・・4月頃に孵化した幼虫は、6月中旬頃に繭をつくる。繭は、幼虫が口から吐く緑色の糸を編むようにしてつくられる。木の葉のように緑色の繭は、夏の間は全く目立たない。緑色の袋状の巣は、長い柄で枝に固定されている。上部には、成虫が抜け出すための切れ目があり、下部には水が溜まらないように穴が開いている。繭の幅は15~20mm、長さ33~42mm。
  • 黄葉が始まる頃に成虫になる。交尾の後、繭や近くの木の枝に産卵する。(写真:秋田県立博物館標本)
  • 卵で越冬し、春に孵化した幼虫は、コナラやエノキなど様々な広葉樹の葉を食べる。触ると「キーキー」と音を出して威嚇する。 
  • 参考動画:ウスタビガ(Rhodinia fugax/FUMIHIKO HIRAI) - YouTube
  • クスサン(ヤママユガ科)
     色彩は、褐色、黄褐色、灰黄褐色など変異がある。ヤママユなどに似るが、ハネの帯が波型であること、後ハネの眼状紋が黒っぽいことで見分けられる。年1回、9~11月に出現。夜間は灯火に飛来し、昼は建物の外壁などに止まっているのを見掛ける。 
  • クスサンの幼虫・・・幼虫は、成長すると全身が白く長い毛に覆われ、俗に「白髪太郎(しらがたろう)」と呼ばれている。体長80mmの超大型の毛虫でよく目立つ。4~7月に現れる。古くからクリの害虫として知られている。クリやクヌギ、リンゴ、ナシ、ウメ、カキなどの葉を暴食する。 
  • サナギ・・・7月頃、楕円形の固い網目の繭を作ってサナギになる。
  • オニグルミの木の幹に繭をつくったサナギ(2023年9月10日、樹木見本園にて撮影)
  • スカシダワラ・・・9~11月、黄葉する頃に成虫になる。卵は灰白色俵状で、地上2mまでの幹や太枝に数十個ずつかためて産みつけ、卵で越冬する。冬から初夏にかけて、木の枝に羽化した後の粗い網目状の空繭をよく見掛けるが、俗に「スカシダワラ」と呼ばれている。
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄)・・・クリムシ(クスサン)のテグス
     初夏の六月中旬ぐらいになると、栗の木にクリムシが発生する。栗の葉を食う虫だからクリムシと呼ばれたわけだが、正しくはヤママユガの一種クスサンの幼虫である。早い話が体長十センチぐらいの大型の毛虫で、白い長いがびっしり生える。これがやがてマユをつくり、サナギになり、夏の終わりごろ羽化すると、黄色い大羽根の蛾になって街灯などに飛んでくる。
     六月頃はせっせと栗の葉を食べているので、緑色の糞を出し、体色も淡緑色をし、白い毛をバッサリはやしているが、七月も中旬にさしかかると、しだいに毛が脱け出し、胴体がすけてみえるようになる・・・つまりマユをかける寸前で、体がすけてみえるのはマユの素が体にギッシリつまっているためである。
     テグスのつくり方は、このタイミングを見計らって・・・採集し、水でシメた後、腹をひきちぎってマユの素を小皿に絞り出す・・・もうひとつ酢を入れた小皿を準備し、その酢をくぐらせながら引き延ばすのである。酢はいうまでもなくタンパク質を固める役目である・・・
     このテグスは、もちろん今日のナイロンテグスの比ではなかったが、かなり細くひいても腰が強いことと、何といっても水中に入って透明になる点で、多くの魚を釣ったことはいうまでもない。 
  • エゾヨツメ(ヤママユガ科)
     その名のとおり、青い目玉模様が「四つ目」に見える大型のヤママユガ。その目はなんとなくタヌキに似ているように思う。夜行性の動物は暗闇の中、目だけが異様に光ってよく目立つ。そんなタヌキに擬態しているとも言われている。サナギで越冬する。北海道から九州まで生息。食草は、ハンノキ、ブナ、クリ、コナラ、カシワなど。
  • シンジュサン(ヤママユガ科)・・・模様が特徴的で、ハネには三日月紋がある。前ハネは、弓形に湾曲する。寒冷地では1年に1回、夏に出現する。夜行性でよく灯火に飛来する。幼虫は、シンジュ、ニガキ、キハダ、クヌギ、エゴノキ、クスノキなど多くの樹木の葉を食べる広食性。 
  • 開張 110~140mmと大形
  • シンジュサンの交尾
  • ヒメヤママユ(ヤママユガ科)・・・前ハネに赤紫紋がある。クスサンやヤママユに似るが小さい。 9~11月に現れる。幼虫は、サクラ、ナシ、ウメ、クリ、クヌギ、ケヤキなど、いろいろな樹木の葉を食べる広食性。
  • 開張 85~105mm
  • ヨナグニサン(ヤママユガ科)・・・日本最大のガとして知られ、怪獣映画「モスラ」のモデルになったと言われている。片方の前バネの長さは14cmほどもある。幼虫は、アカギという樹木の葉などを食べる。和名は、沖縄県与那国島で初めて発見されたことによる。沖縄県八重山諸島(石垣島、西表島及び与那国島)にのみ分布。沖縄県の天然記念物に指定。
  • 前バネの先端は、天敵の小鳥たちが嫌がる蛇の頭の模様がある。
  • 弱い光も逃さない夜行性のガの眼・・・夜行性のガは、月の光を頼りに地上を飛び回る。ガが、こうした暗い中でも飛べるのは、弱い光を逃さず感じ取れるから。ガの眼は、小さな眼が幾つも集まった複眼で、全体として表面に小さなデコボコがたくさんある。このデコボコが光を逃さないようにしている。光を反射させないので、他の動物に見つかりにくくする効果もある。この光を反射させないガの眼は、「モスアイ」と呼ばれ、太陽光パネルや反射防止フィルムなどに利用されている。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・オオミズアオ
     もっとも特色のあるヤママユガはオオミズアオであろう。全身水色の鱗粉におおわれた大きな蛾だ。美しいことも美しいが、あまりにあおざめた美しさなので気味わるがる人もいる。一名をユウガオビョウタンともいい、メンガタスズメが西洋風の妖怪の相をおびているとすれば、こちらには日本的な幽霊の相がある。もっとも、われわれが幽霊という文字から連想するおなじみの姿態は、それほど古いものではない。むかしはわが国でも、人間の幽霊よりも、オニ、カッパ、ヒヒ、テングのたぐいの怪異のものだけがはびこっていた。人間の幽霊は鎌倉時代からあとのことだし、それに足がなくなったのは応挙の幽霊画以来のことである。日本の妖怪については柳田国男氏などが蒐集していられるが、明治の世に井上円了氏が妖怪研究会なるものを創始したのが最初といわれる。世人は氏のことを「おばけ博士」と呼んだが、べつに一つ目小僧などを呼びだして一緒に酒をのんだりしたわけではなく、逆に民間の迷信を排除するのが目的であった。つまらぬことをなさったものである。
     オオミズアオは五月ころと七月ころ、年二回出現する。うす曇りの夜、窓硝子にたくさん蛾が灯にひかれて集まっているなかに、ひときわ大きな水色のこの蛾が、硝子戸の桟にじっととまっていたりする。その色彩はたしかに日の光によって生れたものではない。月や星の光、いや、それはやはり幽界の水のいろなのであろうか・・・
  • 開張 80~120mm
  • ・・・触角は櫛歯状でよく発達している。
  • どくとるマンボウ昆虫記」・・・蝶と蛾の区別
     蛾と蝶の区別について記しておこう。昼間とぶ蛾はいくらもいる。翅をひらいてとまるのが蛾という説も例外が多すぎる。アゲハチョウの類はべったり翅をひらいて休息するし、イカリモンガは蝶のように翅をたててとまる。触角を見るのが一番いいようだ。蝶の触角は先が太くなっている棍棒状で、蛾のそれは糸状だったり羽毛のようにわかれていたりする。
  • ミノムシ
     枯れた草の茎や細い小枝、枯れ葉などを綴り合せて袋のような衣装を作り、その中に隠れている虫のこと。それが昔の雨具の「蓑(みの)」を被っている姿を思わせることから、俗称「ミノムシ」と呼ばれている。正式には、「〇〇ミノガの幼虫の巣」となる。よく見られるのは、チャノミガとオオミノガである。
  • 枯葉の衣装の下には、絹でできた柔らかい袋があり、その中にイモムシが隠れている。絹の袋は、イモムシが口から絹糸を吐いて、袋を作っている。 
  • 糸をよく吐く夏から秋の初め頃、蓑を剥がしたミノムシの傍に、毛糸や折り紙を細かく切って置くと、それを材料に、色鮮やかな衣装を作る。昔は、子どもの遊びとしてよく知られていた。 
  • ファーブル、ミノムシの正体観察
    1. 6月の終わりごろ、ミノの中から茶色い♂のガが出てきた。このミノムシは、オオミノガの幼虫だった。
    2. ♀は、ミノの中から顔を出さない。♂のガは、花嫁の顔を見ることなく、♀のミノにお尻を伸ばして交尾する。
    3. ♀の成虫は、ガの形にはならず、ハネも触角もない。丸々太ったお腹は、はちきれそうで、お尻の先の方にはビロード状の毛が生えている。
    4. ♀の体は、まるで全体が 卵の袋のように、何千もの卵がぎっしり詰まっている。その後、サナギの殻の中に卵を産み終えると、小さく萎んでしまう。卵は、ミノと殻とで二重に守られる。
    5. ♂は、♀の顔を見ることなく交尾できるのは、フェロモンという香りのお陰である。
    6. ♀が一生ミノの外に出ないという不思議な生態にもメリットがある。鳥に食べられることもないし、厳しい寒さにさらされることもないといったメリットがあるからだ。 
  • オオミノガ・・・♀の成虫は、ハネも脚もなく、ミノに入ったまま交尾して産卵する。関東地方以西、四国、九州、南西諸島に生息。 
  • ミノガの幼虫のミノづくり
    1. 卵を産んでから2、3週間すると、♀が脱いだサナギの中で、3千もの卵から幼虫が孵化する。そして糸を吐いて外に出てくる。風に吹かれて、近くの枝や葉に移っていく。
    2. 葉の上に落ちた幼虫たちは、すぐに葉をかじってミノを作り出す。まず腹巻のようなものを作り、次に削り取った欠片を糸でくっつけて、三角帽子を被ったような姿になる。
    3. その後せっせと葉を食べ、ミノの上に木の葉などを付け加えて、丈夫で大きなミノムシを完成させていく。
  • 動画「ミノムシの、みの作り」(NHK) 
  • 一茶と蓑虫
    みの虫や鳴ながら朶(えだ)にぶら下る
    蓑虫は蝶にもならぬ覚期哉(かくごかな)
    蓑虫や梅に下るはかれが役
    父恋しとてや蓑きて虫かせぐ
    寝ぐらしや虫も蓑着てかせぐ世に
    蓑虫が餅恋しいと鳴にけり
  • 絵本真葛が原」ミノムシ(蓑虫)・・・茶摘みの風景をよく見ると、茶の木にミノムシが2匹ぶら下がっている。小さな子どもが茶の木の枝から吊り下がっているミノムシに手を伸ばしている。
参 考 文 献
  • 「日本の蛾」(岸田康則、Gakken)
  • 「ボクの学校は山と川」(矢口高雄、講談社文庫)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「すごい自然図鑑」(PHP)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「散歩で見つける虫の呼び名事典」(森上信夫、世界文化社)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「昆虫のふしぎ」(監修寺山守、ポプラ社)  
  • 「大江戸虫図鑑」(西田知己、東京堂出版)