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昆虫シリーズ49 アリジゴク、クサカゲロウ・・・

  • ウスバカゲロウの幼虫「アリジゴク」
     アリジゴクとは、ウスバカゲロウの幼虫のことで、成虫より遥かに知名度が高い。ウスバカゲロウの♀は、神社やお寺の縁の下、えぐれた崖の奥などの乾いたサラサラの地面を探して腹部を差し込み、卵を1個産む。孵化した幼虫は、地面にスリバチ型の巣を掘り、底に潜んで落ちたアリなどを捕らえる。その巣は、アリにとってまさに地獄の入り口のようなものである。
     アリジゴクの成虫のようにトンボの姿に似ている仲間に、クサカゲロウやツノトンボ、ヘビトンボの仲間などがいる。
  • INDEX アリジゴク、クサカゲロウヘビトンボカマキリモドキツノトンボ
  • 幼虫「アリジゴク」・・・ずんぐりした体に大きなアゴをもつ。どう見ても、成虫からは想像できないほど姿形が異なる。成虫になるまでの2~3年間は、主に土の中で過ごす。
  • 英語やフランス語でも、「アリのライオン」という最強の虫の名前で呼ばれている。 
  • アリがアリジゴクの穴に落ちるとどうなるか・・・這い上がろうとしても斜面の土が崩れて上るどころか、徐々に下に落ちていく。さらに巣穴の真ん中の土の下から、主が土を投げかけてくる。それがアリの体にかかると、アリは土もろともずり落ちる。アリは斜面を滑り落ちながら、穴の真ん中に落ちていく。そしてついに捕らえられる。は虫類や鳥、ほ乳類にも、これほど巧妙な仕掛けを作るものは見当たらない。 
  • 参考動画:アリジゴクのわな/海野和男 - YouTube
  • アリジゴクの牙は、尖っているだけでなく、中が管のようになっていて、そこから消化液を出して獲物に注射する。そして獲物の体が溶けると、中身を吸う。吸い終わると、邪魔にならないように穴の外へ跳ね飛ばす。 
  • 狙う獲物・・・アリやダンゴムシ、小さな甲虫たち。
  • アリジゴクの幼虫は、2~3年間土の中で過ごす。その間2回脱皮すると、口から絹糸を吐いて土を固めて、丸い繭を作り、その中でサナギになる。1週間ほどすると、成虫が羽化する。それがウスバカゲロウの成虫だ。
  • 成虫になると、幼虫時代に貯めておいた糞を一気に出す。そして身軽になると、空を飛ぶようになる。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ウスバカゲロウ、蟻地獄
     トンボに一見似ているのにウスバカゲロウがある・・・トンボはヤゴから蛹を通らず親になる不完全変態だが、こちらはちゃんと蛹になり、むしろ蝶蛾により近い種類といってよい。
     幼いころからその名だけは知っていた・・・てっきり薄馬鹿下郎と思いこんでいた。そいつはのろのろと飛びめぐり、障子にぶつかってばかりいたからだ。今となっても、薄馬鹿下郎のほうがどうしても私にはぴったりする・・・
     ウスバカゲロウの幼虫がおなじみの「蟻地獄」だ。縁の下などのさらさらした砂地にスリバチ型の穴をつくるが、これは土にうみつけられた卵からかえった幼虫が自分でこしらえるオトシ穴である。
     蟻地獄へアリを落としてやると、パッパッと砂をひっかけながらグロテスクな幼虫がどんな具合に巣をつくるかを観察することができる。幼虫は前にはすすまない。うしろむきに円を描いてあとずさりしてゆく。そして幅のひろい頭に砂をのせ、はずみをつけて外へほうりだす。ぐるぐるとあとずさりしながら次第に穴を掘っていって、ついには見事なスリバチをつくりあげる。穴ができると彼はその底の土に身をひそめ、大アゴだけをわずかにだしてじっと辛抱づよく獲物を待っている。
     蟻がうっかりすべりおちてくると、あとはご存じのとおりだ。幼虫はアリを食べはしない。体液だけを吸いとり、あとの固いキチン質の殻は砂粒と同じようにポンと外へほうりだしてしまう。幼虫の期間は一定していないようだ。餌が少ないと二年間も土中生活をつづけ、それから砂の中で繭をつくり、ウスバカゲロウという優雅でかつ気の毒な名前をもった親虫となって夏の宵をとびはじめる。 
  • 参考動画:砂の悪魔!?アリジゴク…巣に隠された驚異のメカニズムとその生態を解明!!【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】 - YouTube
クサカゲロウ
  • 卵が「ウドンゲの花」と呼ばれるクサカゲロウ
     クサカゲロウの白い卵は、細い糸のようなものについていて、まとめて産む。昆虫の卵というよりは、摩訶不思議な形をしていることから、「ウドンゲの花」と呼ばれている。ウドンゲ(優曇華)とは、3千年に一度花を開く想像上の植物のこと。この花が開くと、如来がこの世に降臨すると言い伝えられている。だからウドンゲの花が咲くと、良いことが起こる前兆となるはずだが・・・クーラーがなかった時代は、夏に窓を開けていると、灯に引き寄せられたクサカゲロウが電灯の傘などに卵を産む。その摩訶不思議な卵を見て、不吉なことが起きる前兆と恐れられていたという。 
  • 名前の由来・・・緑色の種類が多いからという説と、捕まえると臭い匂いをだすなどの説がある。 
  • 成虫は、猫と同じくマタタビの匂いにひかれて集まってくることが知られている。灯にもよく集まる。クサカゲロウの幼虫は、アブラムシを食べるものが多く、害虫の天敵として役に立っている。 
ヘビトンボ
  • ヘビトンボ(アミメカゲロウ目ヘビトンボ科)
     ハネを広げると10cm近くもある大型の昆虫で、ウスバカゲロウやクサカゲロウと同じアミメカゲロウ目の昆虫。よく見られる種は、ヘビトンボとヤマトクロスジヘビトンボである。ヘビトンボの幼虫は、渓流の石の下に棲み、他の昆虫の幼虫などを大アゴで捕食する。イワナ釣り用のエサとして川虫採りをしていると、度々網の中に大きなヘビトンボの幼虫が入る。つかもうとすると、すかさずあの鋭いアゴで噛まれるので、エサとして使ったことはない。ヤマトクロスジヘビトンボは、汚染がなければ平地の小川にも生息している。
  • 名前の由来・・・捕まえる時に腹部やハネをうかつに持ったりすると、まるでヘビのように体をくねらせて、鋭い大アゴで噛みついてくるから。 
  • 食性・・・幼虫は凶暴な肉食性で、カゲロウやカワゲラなどの幼虫を捕食する。釣りエサにも使われる。成虫は、6~9月頃に活動し、夜行性。クヌギやコナラなどの樹液に集まるが、その樹液に集まる昆虫も捕らえて食べていると言われている。 
  • 孫太郎虫・・・幼虫は、古くからカンや結核、胃腸病などの治療に効くとされ、孫太郎虫と呼ばれている。昔、漢方薬局では、数匹を串に刺して真っ黒になるくらいに黒焼きしたものが売られていた。
  • (画像出典:ウィキメディア・コモンズ)
カマキリモドキ
  • カマキリモドキ・・・体はカゲロウだが、前脚はカマキリと同じく鎌になっている。その鎌で小さい虫を捕まえて食べる。顔もカマキリそっくり。 
  • 不思議な生態・・・カマキリモドキのメスは、卵をバラバラ産み落とす。孵化した幼虫は、あちこち這い回って、クモを見つけると、その体に這い上る。そしてクモが卵を産むと、その卵の塊に潜り込み、卵を食べて育つ。全て食べ尽くすと、繭を作り、その中でサナギになるという不思議な生態をもっている。 
  • ただし、孵化した幼虫がクモに出会う確率は、宝くじを買うようなものと言われている。もちろん、クモに出会えなければ食べ物がとれず、死んでしまう。
ツノトンボ
  • ツノトンボ・・・一見、トンボの仲間かと思うが、角のような長い触角が特徴。日本には、ツノトンボ、オオツノトンボ、キバネツノトンボの3種。幼虫は水の中ではなく、地面をはい回る。胸や顔のあたりに毛がたくさん生えている。アリジゴクの親のウスバカゲロウに近い仲間である。活動中はハネを開いて止まり、休む時はハネを屋根型に閉じて止まる。
参 考 文 献
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(監修・須田研司、日本文芸社)