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昆虫シリーズ50 擬態する虫

  • 昆虫の擬態
     「自然のだまし絵 昆虫の擬態」(海野和男)の前書きには、「昆虫の擬態の不思議さは、人間が考えることとのあまりの類似である・・・攻撃に遭わないようにするにはできるだけ目立たないようにする。強ければそれを誇示し、強くないのに強そうなふりをする人はいくらでもいる。隠れられないと思えば、空威張りで脅してみる。人間の行動と昆虫の行動はほとんど変わりないのである。人間は頭が良くなったから、考えてそういう行動をとる場合もある。昆虫の場合は長い進化の歴史の中で作られ、行動するようになったわけだ」と記されている。この本には、葉になりきる、枯れ葉になりきる、だまし絵、枝にそっくり、幹に溶け込む、苔になりきる、花を装う、糞を真似る、派手な色や模様の危険信号、ハチに似る、毒チョウを真似る、目玉模様で脅す、死んだふりなど、昆虫の進化が生んだ驚異の擬態を紹介している。
     また「擬態と人との接点」の項では、「昆虫の擬態は、我々人間にはとても分かりやすい現象だ・・・人類の歴史は昆虫の歴史に比べればずっと短いけれど、脳の発達と文化の蓄積によって・・・昆虫が長い歴史の中で獲得してきた様々な生き方を、短期間で獲得したのである・・・最も繁栄している昆虫というグループと、単一の種として最も成功した我々には当然のごとく共通点があり、擬態は最も分かりやすい生き方の一つの例であると考えるのである」(写真:枯葉に化けるムラサキシャチホコ)
  • カムフラージュ(隠蔽型擬態)・・・周囲の植物や地面の模様にそっくりな姿をすることで、捕食者、獲物から発見されないようにすること。(写真: 枝に化けるオオシモフリエダシャク/写真出典:ウィキメディア・コモンズ)   
  • カムフラージュの名手①/枝に化けるシャクトリムシ・・・シャクガの仲間の幼虫・シャクトリムシは、危険が迫ると、体をピンと伸ばして木に止まり、まるで木の枝の一部になりきる。 
  • シャクトリムシ(尺取り虫)の名の由来・・・シャクトリムシの歩き方は、大きな魚などのサイズを測ろうと、親指の先から中指の先までを単位にして測る時とそっくり。だから、尺を取る(=測る)という意味から、「尺取り虫」の名がついた。
  • 枝に化けるクワエダシャク・・・お尻にある末端の脚で枝に止まって枝に擬態する。冬の間は、2センチほどと小さい。春になって葉が出てくると、その葉を食べて大きく成長する。
  • アリにも気付かれないスゴ技・・・クワエダシャクが木に化けていると、臭覚に頼っているアリにも気づかれないという。なぜなら、この幼虫は、姿だけでなく、匂いまで枝に似せて気配を消しているらしい。
  • 化学擬態・・・ クワエダシャクやトビモンオオエダシャクの幼虫は、葉を食べることによって、その成分を体に取り込み、見た目だけでなく、体表の成分までその植物に似せている。鳥など視覚でエサを探す捕食者だけでなく、臭覚でエサを探すアリなどの天敵に対して有効と言われている。このように化学成分を別のものに似せることを「化学擬態」という。
  • 「土瓶割り」の異名をもつトビモンオオエダシャク・・・頭に一対の突起を持つ大きなシャクトリムシ。この幼虫は、枝に後を固定して真っすぐに伸ばす姿勢で静止すれば、見事な枝に化けることができる。別名「土瓶割り」と呼ばれている。
  • 土瓶割り・・・幼虫が7cmくらいになると、木の幹や枝に腹脚でつかまり、ピーンと一直線の姿勢で静止すると,木の枝にそっくり。昔、農家の人が畑で働いていて、お茶でも飲もうと思った。土瓶に入れたお茶を持ち込み、枝とまちがえて土瓶のつるを掛けると、土瓶が落ちて、割れてしまった。だからこのシャクトリガを「ドビンワリ」と呼んだ。
  • 冬芽や新芽に擬態する名手・カギシロスジアオシャクの幼虫・・・クヌギやコナラの葉を食べるカギシロスジアオシャクの幼虫は、冬芽から芽がほころぶ変化に合わせて、脱皮しながら自分の姿を変えていく。若齢幼虫の時は、コナラの冬芽に擬態。中齢幼虫の時は、クヌギの新芽に擬態。終齢幼虫(上の写真)の時は、ほころびかけたクヌギの芽に擬態する。
  • カモフラージュの名手②/錯覚で立体を演出するムラサキシャチホコ(シャチホコガ科)
     まるで枯葉がクルリと巻いたように立体的に見えるムラサキシャチホコは、昆虫写真家・海野和男さんによると「日本一すごい擬態の巧者」と、高く評価している。実際には、ハネが丸まっているのではなく、単に前ハネと胸の模様の陰影によって立体的に見えているだけ。鳥や人間の目の錯覚で立体を演出する「自然のだまし絵」そのものである。このカモフラージュの技はスゴイとしか言いようがない。幼虫はオニグルミの葉を食べ、サナギで越冬する。成虫は4~9月に現れる。北海道から九州まで分布。体長48~59mm。
  • 参考動画:究極のトリックアート 丸まった枯葉、ムラサキシャチホコ/海野和男 - YouTube
  • カモフラージュの名手③/折れた枯れ枝に化けるツマキシャチホコ(シャチホコガ科)
     ハネを丸めて静止すると、まるで折れた枯れ枝にそっくり。その巧妙な擬態には驚かされる。年1化、6~8月に現れる。食草は、ブナ科のミズナラ、コナラ、クヌギ、カシワ、クリなど。北海道から九州まで分布。開張♂50~60mm、♀約62mm。
  • 参考:折れた小枝に化けるバフチップ(シャチホコガ科)
     ヨーロッパ、アジアに住むシャチホコガの一種。日中は、木の上や地面に静止していると、折れた小枝にしか見えないカモフラージュの達人。
  • カモフラージュの名手④/小枝そっくりなナナフシ
     ナナフシは、木や竹の小枝にそっくり。歩く時は、風に揺れる小枝のように、揺れながら歩くのもオモシロイ。日中は擬態してほとんど動かない夜行性の昆虫である。日本には15種以上いるが、よく見かけるのはナナフシモドキとエダナナフシ。成虫になってもハネを持たず、飛ぶことができない。擬態が最大の防衛手段だが、外敵に捕まると、トカゲの尻尾切りのように脚を自ら切ることがある。失った部分は、脱皮を繰り返すうちに再生される。ナナフシは、孵化してから数回の脱皮を繰り返して成虫になる不完全変態昆虫。最終脱皮や成虫になると、自切りした部分は再生されない。 
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ナナフシ
     ナナフシという細竹そっくりの昆虫がいる。漢字では竹節虫とかく。キリギリス、カマキリなどと共に直翅目に属するが、はじめて昆虫図鑑でこの虫の写真を見たとき、こんな面妖な虫がいるとは私にはほとんど信じられなかった。台湾とか外地に棲む虫だろうと考えた。しかしナナフシは、内地でもそれほど珍しくなく見つけることができる。ただ、その完璧な擬態のため、よほど注意しないと見のがしやすい・・・
     ナナフシはいろいろな木の葉を食べる・・・この類は極めて特徴のある卵をうむ・・・それは彫刻のある天然の工芸品で、虫の卵というより植物の種子と間違えられる。内地にはナナフシのほかに、少し小型で美しい桃色の翅をもつトビナナフシ、こぶのある木の枝そっくりのトゲナナフシなどが棲んでいる。いずれも特徴のある卵をうみ、卵によって種類の識別がつく。
     ナナフシで面白いのは、うっかりその長い肢をつかむと、たわいもなく付根からポロリととれてしまうことだ。これは「自割」といって、防衛の一手段である。とれた肢は次の脱皮のときにまた根元から再生してくる。トカゲのシッポと同じなのだ。 
  • エダナナフシ(ナナフシ科)
     ナナフシモドキに似ているが、触角が長いのが本種で、短いのがナナフシモドキ。♂は小形。有性生殖をおこなう。ナナフシモドキと同じく、夏の終わりに卵を地面にばらまくように産み落とす。卵は植物の種子に似ている。まるで種が発芽するように、翌年の5月頃に幼虫がふ化して木に登る。7~9月に見られる。本州から九州に分布。体長♀82~112mm。
  • ナナフシモドキ(ナナフシ科)
     ハネや体にトゲはなく、触角が短い。体色は褐色、緑色など様々。通常、♀だけで単為生殖を行うが、ごく稀に小形の濃褐色の♂が出現する。色々な広葉樹の葉を食べる。6~9月に見られる。本州から九州に分布。体長70~100mm。
  • トゲナナフシ(ナナフシ科)
     日本産ナナフシの仲間では、全身に短いトゲがあるのは本種のみ。秋、落葉の上に静止すると、枝が折れて落下した枝にしか見えない。地表で、秋によく目にする。本州から九州に分布。体長60~75mm。
  • ニホントビナナフシ(ナナフシ科)
     ハネがあるトビナナフシの仲間。複眼の後ろに黄色の線があり、前ハネの下部は赤褐色。緑色のトビナナフシの中では最も普通に見られる。8~11月に見られる。本州以南に分布。体長46~56mm。
  • 参考動画:昆虫の擬態のお話し、第4回は枝に化ける/海野和男 - YouTube
  • カムフラージュの名手⑤/止まると葉に化けるコノハチョウ
     コノハチョウは、沖縄や台湾、東南アジアにいるタテハチョウの仲間。擬態の紹介者として有名なイギリスの博物学者ウォレスは、世界の擬態の存在を知らしめた虫の一つとして紹介したのがコノハチョウである。ハネを開くと、藍色やオレンジ色のきれいなチョウだが、ハネを閉じると、薄茶色で枯れ葉そっくりである。特に巧妙なのは、ハネの上下の端が尖っていて、枯れ葉そのものに擬態している点である。 
  • コノハチョウの表・・・濃青色で、前ハネの中央部に太い橙色の帯がある。その直下に小白点がある。
  • ・・・枯葉状、色彩変異が大きい。
  • 止まる時は、頭を下に向け、木の枝から落ちそうに見える工夫もしている。これなら人間はもちろんのこと、鳥やトカゲなどの天敵に対して、見つかりにくいのがよく分かる。 
  • カムフラージュの名手⑥/コノハムシ・・・東南アジアにいる虫
     ハネには、細かい葉脈までついていて、種類によっては、虫に食われたような痕までついている。まさに木の葉そっくりである。木の葉が青々としている雨季に現れるものは、体が緑色。枯れ葉の多い乾季のものは、茶色をしている。 
  • 昼間はあまり動かず、じっと木の葉に止まり、夜になると葉をたくさん食べる。その姿は、葉っぱが葉っぱを食べているようだと言われている。 
  • 木の葉に擬態するのは♀だけ・・・♀の後ハネは退化して飛ぶことができない。つまり♀は飛ぶことを捨てて擬態に専念した結果、極限まで葉っぱらしい幅広さと薄さを手に入れたというわけ。♂は、あまり葉に似てないが、飛ぶことができる。♂は、♀の匂いを感知する触角が長く、毛が生えている。
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・コノハムシ
     日本にはいないが、南方やボルネオなどにいるコノハムシ・・・これこそ破れた木の葉そっくりの虫で、よくまあこんなイタズラを造化の神がしたものだと感服させられる・・・とにかくナナフシの類は南方系のもので、熱帯地方ではその姿もますます怪異になってくる。
  • 参考動画:コノハムシの秘密/海野和男 - YouTube
  • カムフラージュの名手⑦/花になったカマキリ
     1906年、イギリスのアナンデールは、マレーシアで、ノボタンの花に腹部を上に持ち上げて止まっているハナカマキリを見つけた。大きなハエが花に止まると、あっという間に捕らえて食べてしまったことを報告している。ハナカマキリが花に止まると、どこにいるのか分からなくなるほど花に成りきる。花の蜜を吸いに来たチョウは、ハナカマキリがいることに全く気付かない。チョウがカマの届く範囲に来るのをじっと待つ。チョウが近づくと、目にもとまらぬ早わざで捕まえてしまう。 
  • 美しい花に化けた殺し屋
     葉の上に止まると、ピンク色の花に見える。蜜を吸う虫は、紫外線で蜜のある花を探している。試しに頭の尖った部分を紫外線で見ると、花の蜜標のように見えるらしい。だからハチは、ハナカマキリの正面に寄って来る。さらにハチやチョウを集めるフェロモン出しているとの説もある。花の蜜を好む虫たちにとって、ハナカマキリは「美しい花に化けた怖ろしい殺し屋」そのものなのである。
  • 参考動画:擬態5 ハナカミキリ/海野和男 - YouTube
  • ヨモギの花穂に擬態するハイイロセダカモクメの幼虫・・・ヨモギの花穂そっくりなガの幼虫。幼虫は、模様だけでなく、花穂の形状に似た感じに表面が隆起している。そんなヨモギの花穂にそっくりそのまま擬態し、花穂だけを食べるのである。
  • カムフラージュの名手⑧/アゲハに見る「だましのテクニック」
    1. 糞に化けるアゲハの4齢幼虫・・・敵の目をあざむき、身を守る方法に、捕食者が口にすることのないものに化けるという方法がある。その代表的な例が鳥などの糞に化ける方法である。
  1. 5齢幼虫は、サンショウの葉っぱに似せる。
  1. 目立つための標識型擬態・・・アゲハの目玉模様には二つの効果がある。一つは、捕食者に対して目玉を連想させて攻撃を避けること。もう一つは、偽目玉の方を狙わせることで捕食者の攻撃を急所からそらすことである。
  1. サナギ・・・幹にいる時は、幹の色(茶色)に、細くすべすべした枝には緑色に擬態している。 
  • カムフラージュの名手⑨/ 糞に化けるガ、ゾウムシ
     鳥の糞に化けるのはアゲハだけではない。ガの仲間・ヒメマダラエダシャクやユウマダラエダシャクの成虫がハネを広げて葉に止まると、葉の上に広がった鳥の糞にそっくり。またオジロアシナガゾウムシは、危険を感じると、落下して死んだふりをする習性がある。さらに脚を縮めてじっとしていると、鳥の糞にそっくり。
  • トリノフンダマシ(コガネグモ科)・・・日中、葉の裏などで脚を縮めてじっとしていると、その姿が鳥の糞に似ていることが名前の由来。
  • 夕方から夜にかけて動き出すと、脚が全て現れるので、クモであることが分かる。
  • カムフラージュの名手⑩/ 幹に化けるニイニイゼミ
     日中、幹に止まって鳴き続けるセミは、最大の敵である鳥に見つかるリスクが高い。事実、アブラゼミがヒヨドリによく襲われ食べられているのを何度も撮影している。ニイニイゼミは、鳴き声は聞こえるが、幹に化けるので、なかなか見つけるのが難しい。
  • カムフラージュの名手⑩-2/ 幹に化けるキノカワガ(コブガ科)・・・樹皮に化ける。鱗片が厚く、質感がより樹皮に似ているので、幹にじっと止まっていると、非常に見つけるのが難しい。成虫で越冬する際は、ピクリとも動かないので、生きているのか死んでいるのかも定かではない。。個体変異はかなり激しい。幼虫は、カキノキやニワウルシなどの葉を食べる.
  • カムフラージュの名手⑩-3/ 地衣類に化けるゴマケモン(ヤガ科)・・・樹皮に生える地衣類に化ける。淡いコケ色に、黒色模様が和名のゴマを振りかけたような模様に見えるのが特徴。幼虫は、ミズナラ、ブナ、クリ、シラカンバなどの葉を食べる。
  • 参考動画:昆虫の擬態のお話し、第6回は木の幹や砂地にとけ込む方法/海野和男 - YouTube
  • カムフラージュの名手⑪/ 草木に紛れるバッタ
     体色は、生息している場所によって決まると言われている。緑色のバッタは草の葉や茎に、褐色のバッタは枯れ葉や枯れた茎に姿を似せている。茶色や灰色のヒシバッタは、小石にと同じ色をしている。(写真:オンブバッタ) 
  • 草むらに溶け込むショウリョウバッタ(上写真)、ショウリョウバッタモドキ、オンブバッタ、オオカマキリの幼虫 
  • 地面に擬態するヒシバッタ
     ヒシバッタは擬態だけでなく、発達した太い後ろ足をもつ。その足で体長の100倍以上もの距離を跳び、一瞬で視界から消える跳躍力がある。この擬態と跳躍力という防衛戦術によって繁栄してきた昆虫である。
  • 地面や岩などに擬態するイボバッタ
  • 強い虫の真似をするベイツ型擬態
     スズメバチの仲間や毒をもつマダラチョウの仲間など、多くの捕食者から忌避される一部の昆虫になりきることで、その威を借りる擬態のこと。(写真:ハチモドキハナアブ) 
  • 大型のオオスズメバチに擬態したトラカミキリ(トラフカミキリ)・・・黒と黄色の目立つ模様と短めの触角は、大型のオオスズメバチに擬態している。クワの害虫として知られ、トラフカミキリとも呼ばれている。
  • ハチに擬態したヨツスジトラカミキリ
  • ハチに擬態するヨツスジハナカミキリ
  • ハチ類に擬態する蛾・・・毒針をもつハチ類に擬態して、敵を避けるヒメアトスカシバ (スカシバガ科)
  • ハチに擬態したムナブトヒメスカシバ(スカシバガ科)
  • ハチ類に擬態するハナアブ
     花に来るハナアブの仲間は、毒針をもつハチによく似ている。ハチに刺されて痛い目に遭ったカエルや鳥は、ハチに似ている昆虫を怖がり、襲うのをやめてしまう。こうしてハチに似ているものが生き残り、進化していった。
  • ハチモドキハナアブ
     ドロバチ類に擬態するハナアブ。見分け方は、触角の根元が1本で先が二つに分かれていること。ハチには、そのような触角をもつ種はいない。
  • ベッコウハナアブとスズメバチ
     黄色と黒の縞模様をしていて、毒針を持つハチに擬態したアブの仲間。どう見てもスズメバチには似ていないが、その巣に自由に出入りして、堂々と卵まで産みつけるという。孵化した幼虫は、スズメバチの巣の底で暮らす。そこには、育ちきれないで死んでしまったスズメバチの幼虫の死骸がある。それを食べて巣をきれいにする役割を担っている。だから、スズメバチも殺したりせずに許しているのであろう。
  • テントウムシに擬態
     テントウムシの仲間は目立つ色をしている。触られると臭い液を出す。自分はまずい虫だと警告しているのである。そのテントウムシにそっくりなイタドリハムシ(左上写真)、ヨツボシテントウダマシ(右上写真)など。
  • 毒チョウに擬態
     毒をもつカバマダラにそっくりなツマグロヒョウモン♀(上写真)、有毒のジャコウアゲハにそっくりなアゲハモドキ、有毒のベニモンアゲハにそっくりなシロオビアゲハなど。チョウの場合、♀だけが擬態している場合が多い。それだけ♀が種の生き残りのために、♂よりも重要だからであろう。
  • 目玉模様で驚かすチョウとガ
     カムフラージュの上手な昆虫でも、動けばバレルから、できだけジッとしている。しかし敵に見つかればひとたまりもない。休憩時は姿を隠し、危機が訪れると、隠していた大きな目玉模様を見せつけることで、危険を回避する捨て身の技は、究極のダマシ戦略である。 
  • クスサンの目玉模様・・・普段は、淡く地味な色だけが見えているが、刺激を受けると、前ハネをパッと開き、後ハネに隠していた目玉模様を見せつける。
  • 参考動画:昆虫の擬態のお話し 第9回 目玉模様と死んだ真似/海野和男 - YouTube
  • 人の顔に似せたジンメンカメムシ(写真出展:ウィキメディア・コモンズ)
     マゲを結ったお相撲さんの顔にも見える模様には、進化とはいえ誰しも驚かされる姿である。チョウやガの目玉模様と同じく、人の顔に似せて天敵から守るためとの説がある。
  • 参考動画:Man Face Bug ジンメンカメムシ/海野和男 - YouTube
  • 蛇に化けるガの仲間
     生きものの世界では、蛇は嫌われ者。その習性を利用して身を守る術がある。セスジスズメやビロードスズメというガの幼虫は、ガの中でも大きな虫になる。体が大きいということは、かなり目立つ。ガの幼虫が好きな鳥にとって、大きい幼虫はごちそうである。幼虫は、敵が近づくと、頭を思いきり下げて、前の方を膨らませ、大きな目玉模様を目立つようにする。敵には、まるで、蛇が狙っているように見える。鳥は、蛇が嫌いだから、慌てて逃げ出す。
  • 参考動画:スズメガの幼虫の擬態がすごい - YouTube
  • ヤママユガの仲間のハネの縁は、蛇の頭によく似た模様をしている。
  • カマキリモドキ
     上半身はカマキリ、下半身はスズメバチに擬態しているような奇妙な外観に驚かされる。生まれたばかりの1齢幼虫は、網を張らずに歩き回るタイプのクモにとりつき、クモが産卵する時に卵のうの中に入り込んで生活する。十分に成長すると、動けるサナギになり、卵のうの外に出て自ら場所を選んで羽化する。日本では9種1亜種が知られている。
  • アリに擬態するアリグモ
     アリを専門に食べる動物もいるが、アリは一般的に鳥や動物に嫌われる存在である。アリは鋭い大アゴをもっていて噛みつく上に、臭いギ酸も出す。針があって刺す種類もいる。軍隊のように群れで暮らし、攻撃性も強い。だからアリに変装すると、捕食者が嫌がって攻撃されにくくなる。だからアリに変装した虫は、アリグモのほか、アリカマキリ(マレーシア)、アリギリス(マレーシア)、カメムシの幼虫などたくさんいる。
  • アリに擬態するアリバチ・・・♂にはハネがあるが、♀にはハネがなくアリのように地面を歩く。毒針を持っているので注意。地面に巣穴を掘るハナバチ類の巣の中の幼虫に卵を産みつける。ふ化した幼虫は、ハチの幼虫やサナギを食べて成長する。(写真出典:ウィキメディア・コモンズ)
  • アリに擬態するホソヘリカメムシ
  • 参考動画:昆虫の擬態のお話し 第7回 強い虫や,毒のある虫に似る/海野和男 - YouTube
  • ミューラー型擬態
     毒のあるチョウどうしが似ていることにも意味がある。毒のあるものが数多くいることで、捕食者の学習チャンスが増え、犠牲になる個体が少なくて済むという考え方である。南米のアマゾンなどでは、ドクチョウ類、トンボマダラ類など毒のあるチョウが、同一地域で別種間に類似の色や模様が出現している。このような擬態をミューラー型擬態と呼んでいる。身近な例としては、スズメバチやアシナガバチなど、毒針をもつハチ類は、いずれも黄色系と黒色系の組み合わせで、この色彩のものは危険であるというイメージを高めている。
  • 攻撃擬態
     捕食者のカマキリは、周囲の植物にそっくりな姿をすることで、獲物に気づかれないようにして、獲物をおびき寄せたりする。ハナカマキリは、自身単体で花に成り切り、ハチやチョウなどを惹きつけて捕食する。さらにフェロモンに似せた化学物質を放出し、特定の種類のハチを呼ぶ化学擬態までやるというから怖ろしい。
  • 防戦一方の平和主義者の戦法は、戦わず死んだふりをする
     ハネが退化したゾウムシは、飛ぶことができない。捕まえようと手を出すと、ゴロンと足を丸めて横倒しになり動かなくなる。死んだ真似をしているように見えるので、「擬死」と言う。葉の上で死んだ真似をすると、そのまま地面に落ちて、敵の目の前から消えてしまう。また獲物を狙うものは、動くものに対して攻撃を加えようとする。ところが、相手がピクリとも動かなくなると、攻撃しなくなる。その理由は、敵が襲って食べようとする気をなくすからではないかと言われている。タヌキも、「タヌキ寝入り」と呼ばれる死んだふりをする。相手が油断して、すきができると目を開けて逃げ出す。
  • 「北の虫ほどよく死んだふりをする」コクヌストモドキ
     虫にとって、天敵を回避するために有効な戦略といえば「死んだふり」だが、岡山大学の研究チームは「北の虫ほど死んだふりをよく行う」という研究結果を発表した。研究対象となったのは、全国各地に設置されたコイン精米機から採集した「コクヌストモドキ」という昆虫。研究チームは、北は青森県五所川原市から南は沖縄県の西表島まで38箇所で、このコクヌストモドキの野外個体群を採集。地域によって、死んだふりをした「個体の割合」「持続時間」が異なり、さらに「緯度が高い個体群」の方が、「緯度の低い」 方よりも死んだふりをする割合が高く、持続時間が長いことが明らかになったという。研究チームでは、これらの結果は、コクヌストモドキの死んだふり行動に「緯度クライン」つまり「生物の形質が、緯度とともに変化する現象」があることを示しているとしている。(画像出典:ウィキメディア・コモンズ)
  • 参考動画:センストビナナフシの解説/海野和男 - YouTube・・・まるでオシャレなナナフシ型扇子の美しさには驚かされる。枝に擬態するだけでなく、敵を驚かすためであろう。
参 考 文 献
  • 「自然のだまし絵 昆虫の擬態」(海野和男、誠文堂新光社)
  • 「ダマして生き延びる虫の擬態」(海野和男、草思社)
  • 「別冊太陽 昆虫のとんでもない世界」(平凡社)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「4億年を生き抜いた昆虫」(岡島秀治、ヴジュアル新書)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
  • 「だましのテクニックの進化 昆虫の擬態の不思議」(藤原晴彦、オーム社)
  • 「昆虫館はスゴイ!」(全国昆虫施設連絡協議会、リビックブック)
  • 「花になったカマキリ」(海野和男、新日本出版社)
  • 「楽しい調べ学習シリーズ 擬態のふしぎ図鑑」(海野和男、PHP)
  • 「虫のかくれんぼ」(養老孟司・海野和男、新日本出版社)
  • 「だましあう生き物の話」(伊藤年一、Gakken)
  • 「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(日本文芸社)
  • 「虫の顔」(石井誠、八坂書房)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「世界のふしぎな虫 おもしろい虫」(今村光彦、アリス館)
  • 「集めて楽しむ 昆虫コレクション」(安田守、山と渓谷社)
  • 参考動画:unnokazuo(海野和男) - YouTube