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昆虫シリーズ54 カメムシの仲間①

  • 臭いが意外に美麗なカメムシ
     家の中に侵入する臭い虫と言えばカメムシ。別名「屁こき虫」とも呼ばれ、独特の臭いガスを出す。植物の葉や茎に、ストローのような口吻を刺して汁を吸ったり、他の昆虫の血を吸うものもいる。そんなカメムシの仲間は、全世界に約4万種、日本に1,500種が生息している。背中の部分が、カメの甲羅に似ているから、カメムシと呼ばれている。日本では、昔から作物を荒らす上に、悪臭においても迷惑になる害虫とされてきた。しかし、意外にも美麗な虫が多く愛好家も多いという。南アフリカ、南米、東南アジアなどの一部地域では、貴重なタンパク源としてカメムシを調理して食べる習慣がある。 (写真:宝石のような美麗種・ニシキキンカメムシ)
  • カメムシの臭い
    1. カメムシの匂いは、胸のお腹側にある臭腺から出る。臭いの素は液体で、空気に触れると瞬時に気化して臭くなる。
    2. 臭い匂いの素は、アルデヒド、酢酸、酪酸、アルコールなどの化学物質で、それぞれの多少で匂いが変わる。植物から吸った汁を原料に、体内で合成する。カメムシの体は、「化学工場」とも言われている。
  • 家に入ってくる嫌われ者のカメムシ・・・特に臭くて嫌われる種類は、クサギカメムシ、マルカメムシ、スコットカメムシなどである。 
  • 家の中に侵入する臭い虫・クサギカメムシ
     成虫は、越冬のため集団で家屋に浸入する臭い虫。豆類やミカン、カキなど多くの果実の汁を吸う。越冬を控えた成虫は、日当たりの良い場所を探して移動し、気温が下がる午後4時頃、家に潜り込み、壁の隙間などでかたまって越冬する。うっかり踏みつけると、強い悪臭を放つ。 
  • 農業害虫や不快害虫として重要視されている。北海道から沖縄まで広く分布し、年に1~2回発生。
  • カメムシの臭いと防御効果
    1. 人間でも不快な目に遭うので、相当の防御効果はある。
    2. 刺激の強いカメムシ類では、小さな容器やビール袋にたくさん入れて振ると、自らの臭気成分で悶死してしまうほどである。
    3. 集団となれば、効果は倍増する。フェロモンとしての伝達機能もあり、一部を刺激すると警報が発令され、全体が臭くなる。
    4. ヘリカメムシやツチカメムシは強い酢酸刺激臭、サシガメやトコジラミは履き古した靴下のような悪臭を放つ。
  • 参考動画:カメムシと巨大カエル - YouTube
  • 集団をつくるクサギカメムシの1齢幼虫・・・葉の上に産み付けられた卵は一斉に孵化する。これは、一部の卵の殻が割れる振動が他の卵に伝わって一斉孵化の合図になっていることが確かめられている。
  • 小林一茶・・・「屁ひり虫」の俳句
    おれよりは はるか上手ぞ 屁ひり虫 
    窓にきて 鳴くかはりかよ 屁ひり虫
    御仏の 鼻の先にて 屁ひり虫
    枯た木に 花を咲せよ 屁ひり虫
    屁ひり虫 人になすった 面つきぞ
    虫の屁を 指して笑ひ 仏かな
  • カメムシの集団行動・・・一般的に越冬集団が知られているが、種によっては交尾の機会を増やすため、捕食者による被害を軽減するためと言われている。一部のカメムシは、若齢幼虫の時に集団をつくる。集団でいる方が生存率が高く、発育が早まるという研究結果がある。成虫では、♀が集団を形成し、強い♂が♀を独占するハーレムをつくる種類がいるなど、それぞれに集団行動をとる理由があると考えられている。(写真:キバラヘリカメムシの幼虫)
  • 集団交尾するオオツマキヘリカメムシ・・・細長い体系のオオツマキヘリカメムシは、イタドリやゴンズイなどの茎に、尻合わせの格好で集団交尾する。しかも交尾時間が2、3日と長いので、いつ見ても交尾しているように見える。交尾は、数時間もあれば充分だが、♂は他の♂と交尾しないように長時間の交尾姿勢を続けるのだと考えられている。 
  • 交尾様式・・・種によって異なり、♂♀が反対向きになるもの、♂が♀の背中にマウントするもの、V字型に傾くものなど、違った体位が観察される。 
  • 「歩く宝石」と言われる3種・・・金属光沢を放つキンカメムシ科の中でも、断トツ美しいニシキキンカメムシとアカスジキンカメムシのほか、暖かな南方系のナナホシキンカメムシ、照葉樹林で生活するオオキンカメムシなどがいる。
  • ニシキキンカメムシ・・・日本産で最も美しいカメムシは、ニシキキンカメムシで異論はないだろう。金緑色の地に真っ赤な帯状の模様が断トツ美しい。虫嫌いな人でも、この美麗種を見れば虫好きになるかもしれない。残念ながら秋田には生息せず、関東以西と朝鮮半島に生息する。オサムシは北方系が美しいが、カメムシは南方系が美しいように思う。このニシキキンカメムシは、ツゲの実で繁殖する。だから本種を探すなら、ツゲが植えられた郊外の墓地公園や森林公園を狙うのが良いらしい。5齢幼虫で越冬し、5月頃に成虫が現れ、6~7月には幼虫が見られる。
  • 目立つ警告色・アカギカメムシ・・・成虫も幼虫も赤と黒の非常に目立つ警告色をもつカメムシ。敵に襲われると、非常に不快な匂いを出す。琉球列島に生息。
  • 警告色
    1. 派手で目立つ色彩斑紋は、外敵への警告色・・・カメムシは、敵に遭うと、臭腺という器官から臭くて強烈な臭いを出す。だから肉食昆虫や鳥が食べると、「マズイ!」と、二度と食べなくなる。「俺は臭くてマズイ」とアピールするため、派手で目立つ模様になったと言われている。
    2. 構造色をもつカメムシ・・・メタリックカラーのキンカメムシ類は、タマムシやモルフォチョウと同じく、光をきらびやかに反射させるミクロの表面構造をもっている。その派手な色彩が警告色の意味をもつと考えられている。 
  • アカスジキンカメムシ
     緑色の金属的な光沢に、紅色の帯模様を配した美しいカメムシ。この派手な配色は、外敵に対して危険を知らせる警告色と考えられている。幼虫は白と黒の地味な色だが、脚や腹の横線にはメタリックな色彩を使っている。終齢幼虫は、落ち葉の下などで越冬し、翌年の5月頃には美麗な成虫に変身する。平地から山地の林縁の樹上にいることが多い。体長16~20mm。 
  • ミズキやフジ、キブシ、ヤシャブシ、ウルシ、クヌギ、エゴノキ、スギ、ヒノキなどに生活し、幅広い植物から吸収している。
  • 黒褐色の周囲に白色の帯状紋をもつ5齢幼虫で越冬する。初夏に羽化し新成虫になる。 
  • ナナホシキンカメムシ
     金緑色に輝く美しい大型のカメムシで、背面に7個ほどある斑紋が名前の由来。美しい輝きは生きている時だけで、死ぬと青く変色する。日本では奄美大島、沖縄諸島に分布する南方系のカメムシである。体長15~20mm。 
  • オオハギやカンコノキ類、ツルグミなどの実の汁を吸って育つ。越冬時や初夏の一時期に集団をつくることが知られている。刺激を与えると、普通のカメムシ臭を放つ。 
  • オオキンカメムシ・・・体長が25mmにも達し、日本産では最も大きいキンカメムシ。関東から南の海岸の暖かな地域の照葉樹林で生活している。赤みがかった橙色に黒色斑紋と紫の光沢がある。アブラギリの害虫として知られている。飛翔力が強く、北海道や東北でも採集されている。 
  • ルリクチブトカメムシ・・・強い青色の光沢をもつ美麗種。日本全国の草むらに見られる。6~10月に現れる。体長6~8mm。
  • 背中にハートマークをもち卵を守るエサキモンキツノカメムシ
     茶色と緑の混じった地色に、黄色いハートのマークがある。「エサキ」というのは、昆虫学者・江崎悌三博士の名にちなんで付けられた。北海道から九州に分布する。
  • 最もよく見られるミズキのほか、ハゼノキ、コシアブラ、ウドなど多くの植物の葉裏に見られる。成虫は、スギやヒノキなどの樹皮下や朽木、落葉間、時には家屋内に浸入し越冬する。
  • 交尾
  • 卵を保護する習性・・・越冬した成虫は、ミズキ開花期の5月中旬頃から飛来し、ミズキの実ができる6月頃、♀は葉裏に70~80個の卵を産む。♀はその卵塊に覆いかぶさって卵を保護する習性がある。昆虫は産みっぱなしが多い中では珍しい習性をもつ。6月下旬頃から孵化し、8月入ると新成虫が現れる。 
  • 愛情のハートマーク・・・卵がふ化して1齢幼虫から2齢幼虫になるまで2週間以上かかる。親は、その間飲まず食わずで守り続ける。その親の背中のハートマークは、外敵に対する警告と考えられているが、親の愛情を現すハートマークにも見える所がオモシロイ!
  • 参考動画:エサキモンキツノカメ 幼虫の保護/海野和男 - YouTube
  • 子の保護・育児 (写真:コオイムシ)
    1. エサキンモンキツノカメムシやミツボシツチカメムシなどは、卵や幼虫を一定期間保護したり、エサまで運んでくれる子煩悩な親もいる。
    2. コオイムシのメスは、オスの背中に卵を産む。オスは、背中に産み付けられた卵を保護するという習性があり、それを子守りする人間の親に見立てて、「子負虫」と名付けられた。 
  • アカスジカメムシ
     赤と黒の縦じま模様が美しく、その特徴的な体形と模様で識別が容易。平地から丘陵地のセリ科植物の花で見つかる。庭のレースフラワーやパセリ、ニンジンの葉などにもつく。全国に分布。
  • 赤と黒の派手な模様は外敵への警告色と言われている。
  • 体長9~12mm。5~10月に現れる。
  • 交尾・・・♂♀が反対向きになる。
  • ナガメ
     アブラナ科植物の生える草地で見られ、畑の栽培植物にもつく。ヒメナガメより個体数も産地も多い。赤と黒の模様が特徴的なカメムシ。年に2回発生し、成虫のまま越冬する。北海道から九州まで広く分布。
  • 名前の由来・・・菜の花につくカメムシの意味から、「菜亀」と書く。
  • 体長7~10mm。4~10月に現れる。
  • 交尾・・・♂♀が反対向きになる。
  • 幼虫
  • 畑作物の害虫・・・ダイコン、キャベツ、カブ、ノザワナ、ハクサイ、コマツナなどのアブラナ科の野菜の汁を吸う害虫。
  • ホオズキカメムシ
     地味な褐色のカメムシ。その名のとおり、ホオズキやナス、トマト、サツマイモなどを食害する農業害虫。集団を作って生活し、その中に♂がハーレムを作って、互いに争い合う行動が知られている。本州以南に分布。
  • 名前の由来・・・ホオズキに付くカメムシの意味から。
  • 体の縁や脚に細かいトゲがある。体長13~14mm、4~11月に現れる。
  • ミナミアオカメムシ
  • 成虫と幼虫
  • ホソヘリカメムシ
     一般的な六角形のカメムシではなく、縦長のスリムな体型をしている。大豆などのマメ科作物の害虫として忌み嫌われている。飛ぶと模様が現れ、アシナガバチに似ている。幼虫は、アリに擬態していると言われている。臭い匂いはないらしい。
  • 幼虫は、アリに似ている
  • 体長14~17mm。4~11月に現れ、成虫で越冬する。
  • 集合フェロモン・・・親が食草に産卵しないので、幼虫は食草を探し歩かなければならない。その手助けになっているのが、♂の集合フェロモン。特に2齢幼虫を集める集合フェロモンを発散すると言われている。
  • なぜ食草に産卵しないのか・・・ホソヘリカメムシの卵には、天敵の寄生バチが産卵するため、それを避ける必要があるからだと言われている。食草には♂成虫がおり、その集合フェロモンに反応した寄生バチも呼び寄せる。だから、卵ではなく、幼虫の段階で、集合フェロモンに導かれて食草にたどりつく戦略をとっているという。
  • ハラビロヘリカメムシ
  • イチモンジカメムシ
  • チャバネアオカメムシ
  • チャバネアオカメムシの幼虫
  • ブチヒゲカメムシ
  • スコットカメムシ
  • 畑や庭のカメムシMEMO(写真:アオクサカメムシ)
    1. マメ科植物・・・アオクサカメムシ、ミナミアオカメムシ、ホソヘリカメムシ、ハラビロヘリカメムシ、アズキヘリカメムシ、アカヒメヘリカメムシ、イチモンジカメムシ、クサギカメムシなど
    2. ナス科作物・・・アオクサカメムシ、ミナミアオカメムシ、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ホオズキヘリカメムシなど
    3. ウリ科作物・・・ノコギリカメムシ、アシビロヘリカメムシ
    4. アブラナ科作物・・・ナガメ、ヒメナガメ、ブチヒゲカメムシ、クサギカメムシ、アオクサカメムシ、ミナミアオカメムシ
    5. セリ科作物・・・アカスジカメムシ、ハナダカカメムシ、アカスジカメムシ
    6. ヒルガオ科植物・・・ヒメマダラナガカメムシ
    7. 果樹・・・チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、アオクサカメムシ
    8. 庭先のマユミ・ニシキギ・・・キバラヘリカメムシ
参 考 文 献
  • 「おもしろ生態と上手なつきあい方 カメムシ」(野澤雅美、農文協)
  • 「別冊太陽 昆虫のとんでもない世界」(平凡社)
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「4億年を生き抜いた昆虫」(岡島秀治、ヴジュアル新書)
  • 「カメムシ博士入門」(安永智秀ほか、全国農村教育協会) 
  • 「どんどん虫が見つかる本」(鈴木梅花、文一総合出版)   
  • 「虫の顔」(石井誠、八坂書房)