昆虫シリーズ60 水生昆虫その2
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- 世界でも最大級の大きさを誇るゲンゴロウ(ゲンゴロウ科)
ゲンゴロウ類は、水辺の生き物を代表する種で、身近な田んぼ、ため池、水路から池や沼、河川、地下水まで、あらゆる淡水域に生息している。日本では最大級の大きさの水生昆虫で、世界のゲンゴロウの仲間の中でも最大級の大きさを誇る。寿命も2~5年と長く、飼育も容易で、古くからペットとして親しまれている。黒い体色に黄色い縁取りが目立つ。見る角度によって緑色や赤色に変化する。後ろ脚が発達していて、泳ぎが上手く、水中を自在に泳ぎ回ることができる。日本には、130種ほども生息している。
様々な水生生物を食べて生活しているので、蚊などの害虫の発生を抑える一方、水鳥のエサにもなっている。ゲンゴロウは、水辺の生態系で重要な位置を占めている。かつては、誰もが知っている虫であったが、農山村の水辺環境の悪化が進み、今では非常に少なくなっている。それだけに身近な水辺環境を守る指標として見直されている。絶滅危惧II類
(VU)に指定。体長約35mm、時期4~10月。主に夜行性。
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- 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ゲンゴロウ
水の中を覗いてみると、まだまだいろんな連中がいる。ゲンゴロウには種類が多いが、もっとも普通で大型のナミゲンゴロウは田舎では食用にする。死んだ蛙や魚を水中につるしておくと、その匂いを嗅ぎつけてゲンゴロウがびっしりたかってくる。こうした水棲昆虫の多くはたいてい貪欲な肉食家なのだ。子供のころゲンゴロウとその二倍はある金魚とを一緒に飼っておいたことがあるが、金魚は日ならずして骨だけにされてしまった。そうした貪欲のために今度は彼らが一網打尽にされるわけだが、捕えたゲンゴロウは固い翅をむしってカラ揚げにして食べる。ガムシも食べる。
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- 名前の由来・・・漢字で源五郎と書く。源五郎が池でフナになり、そのゲンゴロウブナを食べていた虫を「ゲンゴロウ」と呼ぶようになったとの説がある。また「振るたびに小判が出る代わりに体が小さくなるという小槌を手に入れた欲張りの源五郎が、小槌を振り過ぎて、ついに小さな虫になってしまった」という話からきている説など多数の説がある。
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- 参考動画:ゲンゴロウ大繁殖/いきもの自然探訪- YouTube
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- オリジナル酸素ボンベをもつ・・・水生昆虫のほとんどは、元々陸上にいた昆虫と同じ。だから魚のようなエラ呼吸はできない。ゲンゴロウは、オリジナル酸素ボンベをもち、ハネと腹部の間に空気をため、酸素をお腹の横にある気門に取り入れながら水中を泳ぐ。酸素が少なくなれば、お尻の先を水上に出し、酸素を補給する。
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- 飛んで移動・・・田んぼやため池に棲んでいるゲンゴロウ類は、田んぼで幼虫が育ち、羽化後にため池に数百メートルほど移動して冬を越し、春~初夏の繁殖期にため池から田んぼや水路に移動する例が知られている。
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- 食性・・・小型の種はボウフラなど、大型の種はミズムシやオタマジャクシ、トンボのヤゴなどを食べる。
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- 新たな脅威・外来種の侵入・・・アメリカザリガニは、ゲンゴロウ類が産卵する水草やエサとなる小動物を食べてしまう。全国のため池に放流されたブラックバスは、水辺の生き物を何でも食べてしまうので、ゲンゴロウ類などの水生昆虫に深刻な影響を与えている。他にブルーギルやウシガエルなどの外来種も同様である。
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- 乱獲、国内希少野生動植物種・・・1990年頃から始まったゲンゴロウブームにのって、昆虫マニアや業者が乱獲するようになった。特にナミゲンゴロウとよく似た希少種・シャープゲンゴロウモドキは、高値で売買され、一度に100頭単位で捕獲する者さえいて、地域の希少な種を絶滅に追い込んでいると言われている。このため、2011年、シャープゲンゴロウモドキは国内希少野生動植物種に指定され、採取・売買などが禁止されている。
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- クロゲンゴロウ・・・ゲンゴロウは黄色い縁取りあるが、クロゲンゴロウには黄色い縁がなく、背面・腹面とも緑褐色から黒褐色という特徴がある。
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- 産卵・・・水草の茎に5~7月頃。
- 幼虫は池沼の浅い部分などで5~8月に現れ、他の水生昆虫などを捕食する。老熟すると岸辺に上陸し土中で蛹化する。8~9月に成虫になる。10月頃に越冬し、寿命は3年。成虫も肉食である。700mほど飛び、ため池や水田を移動して生活する。本州から九州に分布。
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- ハイイロゲンゴロウ・・・背中は灰色を帯びた黄褐色で、上羽には黒い点がならぶ。側縁に3対の黒い点、後方に黒い帯がある。都会のプールにもよく飛んでくる。
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- シマゲンゴロウ・・・背中は黒色で、頭と胸、上羽の前方にある1対の丸い点、側縁にある2対のたてじまは黄褐色。裏面は赤褐色。
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- マルガタゲンゴロウ・・・体は他の種よりやや幅が広く、全体に丸みがある。頭と胸は黒色で、それぞれ前の方が黄褐色。上羽は暗褐色。
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- ガムシ
体が黒色で、ゲンゴロウより厚みがあり、背中が盛り上がった形をしている。泳ぎは下手で、水の中を歩いているように見える。水面から触角を突き出して空気を取り入れ、腹部に蓄える。成虫は、主に水草などを食べるが、幼虫は肉食で、主にモノアラガイを食べる。名前の由来は、後ろ脚の付け根に、一つの尖った突起があり、これを獣の牙にたとえて「牙虫(がむし)」と呼ばれるようになった。
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- コガムシの幼虫・・・体長約25mm。黄緑色で、体全体が太い。幼虫は肉食で、オタマジャクシや小魚、水生昆虫、落下昆虫などを食べている。ガムシより小さく、ヒメガムシより大きい。成虫は、長い方のヒゲと足は赤褐色。北海道と北東北には、よく似たエゾコガムシがいるが、長い方のヒゲと足が黒色をしているので見分けられる。
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- 日本最大、水生昆虫の王様・タガメ(コオイムシ科)
タガメは、水中で生活する水生カメムシの仲間で、大きいものでは65mmにもなる日本で最大の水生昆虫である。その名のとおり、田んぼに生息する亀のような姿をした昆虫。普段はピクリとも動かず、獲物が来るのをじっと待って、そばに来た魚やカエルを強力な鎌状の前脚で捕らえる。そして口針を刺して消火液を注入してその体液を吸う。これは食べる前に消化してから摂取する方法で、体外消化と呼ばれている。自分より大きなカエルなども食べる水生昆虫の王様だ。
農薬による汚染に弱く、今では多くの水田で姿を消してしまった。ただし、数が激減した原因は農薬だけでなく、夜間の外灯に飛来して乾燥死したり、越冬場所である雑木林の減少などが指摘されている。
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- 参考動画:夏休み自由研究「タガメ」~ 田んぼの王者の凄腕ハンティング - YouTube
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- 産卵・・・6月頃、水面上に出ている植物や木の杭などに上って交尾し、♀は60~100個ほどの卵を産む。
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- イクメンパパの見本・・・子育ては♀ではなく、♂が行う。♀は卵を産みつけると、そのままいなくなってしまう。♂は、卵に覆いかぶさり、飲まず食わずで卵を世話し、孵化するまで外敵や直射日光から卵を守るのだ。さらに卵が乾燥しないように水を与えたりもする。やがて孵化した幼虫は水に落ちるが、しばらくは幼虫を見守る子煩悩ぶりを発揮する。まるでイクメンパパの見本のような子育てをする。4回脱皮すると成虫になる。冬場は、近くの雑木林の腐葉土の下に潜って越冬する。
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- 参考動画:タガメが産卵した。│タガメ飼育Vlog #1 - YouTube
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- ♀の子殺し・・・交尾の相手が見つからない♀は、♂が守っている卵を壊しに来る。つまり別の♂の子を殺すのである。守る卵を失った♂は、子殺しをした♀と交尾し、その♀が産んだ卵を守ることになる。昆虫界の♀は何とも恐ろしい。
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- 飼育のポイント
- 寿命は2~3年と長く、ペットに適している反面、金魚やドジョウなどの生き餌を必要とする。
- 気が荒く共喰いをするので、単独飼育が基本。
- 食べる量が多く、水質が悪化しやすいため、こまめに水替えをするか、ろ過器を使用。
- 水中での足場に止まり木、陸に上がって甲羅干ししたり、産卵できるようにアク抜きしたヘゴや杭、流木などが必要。
- ヘゴなどに産卵したら、♂が卵を保護するので、♀は共喰いしないように取り出して孵化を待つ。
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- 背中に卵を背負うコオイムシ(コオイムシ科)
初夏の頃、♂は背中に卵を背負っているのが特徴。♂が複数の♀と交尾して、♂の背中に卵を産ませて、♂が卵の世話をするという変わった生態をもつ。だから「あべこべ虫」とも呼ばれている。減っているタガメに比べると、今でも普通に見られる。本種の場合は、灯に引き寄せられる性質が弱いため、人家近くでもある程度きれいな水があれば生きていくことができるからと言われている。泳ぎが得意で、危険が迫ると素早く泳いで水底に身を隠す。小魚やオタマジャクシ、貝類を捕らえて汁を吸う。
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- 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・コオイムシ
コオイムシはその名のとおり、産卵期になると雌は雄の翅鞘の上にびっしりと卵を産みつける。哀れな父親は卵がかえるまで飛ぶこともできない。これはやはりのどかならざる話だから、英名ボートマンと呼ばれるマツモムシはどうだろう。この虫は奇妙なことに逆さまになって泳ぐ。腹部を上にむけてオールのように長い後肢で泳いでいるのを見るのはなかなか面白い。しかし特別にするどい口をもっていて、うっかりつかめばイヤというほど刺されることは確実だ。
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- タイコウチ・・・光沢のない暗褐色の体は細長く平たい。鎌状の前足の付け根近くに1対の歯がある。細長い呼吸管は体とほぼ同じ長さ。本州以南に分布。体長30~38mm。
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- マツモムシ・・・全体に淡い黄褐色で、柿の種に似た体形。水面で逆さに浮き、後脚をオールのように伸ばし、驚くと素早く背泳ぎで逃げる。農耕地や里山周辺の湖沼や小さい人工の水辺で見られる。飛翔するが、明かりに飛来することは稀。体長11~14mm。北海道から九州に分布。
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- ミズカマキリ(タイコウチ科)
カマキリと名付けられているが全くの別種。水田や池沼に生息し、水中の小魚から水面にいるアメンボまで広く捕食する。水中での動きは鈍く、遊泳能力も低い。水草や水没草本などの足場に擬態しながら、じっと動かずエサが来るのを待つ。エサが射程内に来ると、鎌状の前脚で捕らえ、口針を刺して消火液を送り込み、溶けた汁を吸う。
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- 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・ミズカマキリ
ところで、水の中にはまだミズカマキリという奴もいる。これはほっそりとした枯茶色の虫で、のろのろしているように見えるが、カマキリ様の前肢でほかの虫などをつかまえて食べてしまう。タイコウチはもっと大型で、さらに大きく 不気味なものにタガメがある。カッパムシという俗名なら思いあたる人も多いだろう。見るからにたけだけしい
悪役の相をそなえた奴で、太いカマ状になった前肢でカエルでも何でもひっつかまえて生血を吸う。一見のどかそうな水底も、実はこれら獰猛なギャング共のはびこる血なまぐさい世界なのである。
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- 参考動画:ミズカマキリがオタマジャクシを捕える - YouTube
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- 水面をスイスイ移動するアメンボ(アメンボ科)
水面を住み家とする肉食性のカメムシの仲間。水面に浮くことができ、長い脚をボートのオールを漕ぐような動作で、水面を素早く移動する。上から見ると4本脚のように見えるが、ちゃんと6本ある。前脚は短く、獲物を押さえつけたりするために使い、泳ぐためには中脚と後ろ脚を使う。日本に住むアメンボには25種ほどで、流れのある場所にしか住まない種や海にだけ住む種もいる。
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- 名前の由来・・・水生カメムシの仲間と同じく、飴のような良い匂いを発することから、「飴ん坊(棒)」からアメンボになったとする説がある。この飴のような匂いは、繁殖期に出すフェロモンのような役割があると考えられている。漢字では「水馬」と書く。関西では別名「みづすまし」。
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- 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・アメンボ
糸のように細長い肢の先からロウ様のものを分泌しているから決して水に沈まない。いかにもスムーズにすいすいと走ってゆくが、中肢をもっともよく使っている。ボート界の人たちは研究してみる必要があろう。雨あがりのあと、よく路上の水たまりにアメンボが浮いているのを見ることがある。子供のころは、こんな小さな水たまりにどうしてアメンボが湧いたのだろうと不思議に思った。しかし、アメンボに
はちゃんと翅があり、空をとんで移動してきたのである。もっとも海にいるウミアメンボには翅がない。強風の吹きつける小島や砂漠の昆虫に無翅のものが多いのと同じ理由なのであろう。アメンボの名称は飴ん坊で、飴に似た体臭からきている。
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- 表面張力・・・脚が接している水面がへこんでいるように見えるのは、表面張力で浮いているからである。アメンボの脚には、細かい毛が生えていて、水をはじく。
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- 洗剤が混じった水の上を歩けるか・・・洗剤に含まれる界面活性剤は、表面張力を除去してしまうので、アメンボにとって致命的で、うまく泳げない。
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- 食性・・・肉食性で、小さな虫が水面に落ちると、その波を感知して捕食する。その際、口針を突き刺して体外消化を行い、溶かした肉汁を摂取する。
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- 多くの種類は、成虫になると飛ぶことができる。水たまりにいたアメンボは、水がなくなる前に、もっと環境の良い場所に楽々移動できる。
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- 俳句 あめんぼう、水馬、水すまし
あめんぼう時に向き合ひ争へり 右城暮石
少年の焦燥あめんぼうのにほひ 中村草田男
川上へ頭そろへて水馬 正岡子規
ある時は空を行きけり水すまし 正岡子規
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- 参考動画:【実は超肉食】アメンボは空を飛び、獲物の体液を吸う!不思議だらけのアメンボの本当の素顔とは!?【どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU】 - YouTube
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- ヘビトンボ(ヘビトンボ科)
成虫は初夏から夏にかけて現れ、薄暮れに活動する。灯火を求めて飛来することが多い。昼間は水辺の木の幹に静止している。幼虫は、水生で渓流の石の下などに棲み、他の昆虫の幼虫などを大あごで捕食する。幼虫は釣り餌に利用されたり、「孫太郎虫」と称して、昔から子供の゛かんの虫゛として売られていた。
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- 参考動画:飛ぶヤマトクロスジヘビトンボ Parachauliodes japonicus - YouTube
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- 名前の由来・・・捕まえようとすると、大顎で噛みつく習性を蛇に例えて名付けられた。 (写真:幼虫)
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- 成虫は夜行性で、6月頃から9月頃まで見られる。成虫の胸部は長く、体長45~60mm、ハネを広げると100mmにもなる。
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- ハリガネムシがカマドウマを操る
ハリガネムシが産卵後、ふ化した幼虫をトビゲラなどが捕食する。ハリガネムシを宿した水生昆虫が羽化して陸に上がるとカマドウマ(などキリギリスの仲間)が川の周りで捕食する。こうしてハリガネムシはカマドウマに宿主を変える。その体内でヒモのような形状の成体になる。ハリガネムシは水中で繁殖行動を行うため、カマドウマの脳を操作して川に誘導し入水すると、腹部を破ってニョロリと出てきて生殖行動を行う。(写真:ハリガネムシ)
- ハリガネムシが寄生する昆虫・・・カマキリ、カマドウマ、バッタ、キリギリスなど。
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- 参考動画:[密着]ハリガネムシに操られたハラビロカマキリの末路 - YouTube
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- ハリガネムシが渓流生態系を支える(右上のカマドウマ写真出典:ウィキメディア・コモンズ)
神戸大学佐藤拓哉准教授の「ハリガネムシが生態系に与える量的評価」によると・・・イワナは、8月ぐらいまでは、水生昆虫や他の陸生昆虫を食べているが、8月を過ぎると、それまでの3倍に達するエネルギーをハリガネムシ由来の陸上昆虫から得ている。年間で換算すると、何と6割ぐらいのエネルギーをハリガネムシ由来の陸上昆虫が占めているという。つまりハリガネムシが渓流生態系を支える重要な役割を担っていることが分かった。
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参 考 文 献 |
- 「子供の科学 水生昆虫大集合」(築地琢郎、誠文堂新光社)
- 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
- 「虫のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)
- 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫)
- 「よみがえれ ゲンゴロウの里」(西原昇吾、童心社)
- 「4億年を生き抜いた昆虫」(岡島秀治、KKベストセラーズ)
- 「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(監修須田研司、日本文芸社)
- 「田んぼの生きもの おもしろ図鑑」(湊秋作、農文協)
- 「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(日本文芸社)
- 「田んぼの生きもの図鑑」(農村環境整備センター)
- 「川を育てる寄生虫~不思議な生きものハリガネムシ~事業報告書」(厚沢部町教育委員会)
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