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昆虫シリーズ67 シリアゲムシの仲間、ガガンボ、その他

  • ♀のためにエサを確保するシリアゲムシ
     ♂の腹部の先端は、まるでサソリのように丸まって立ち上がり背中に反転する。ただし刺したりする危険性はない。お尻が上がっているのは、交尾する時、♀をガッチリ挟むためである。頭部は口吻が長く、馬面である。この仲間は、交尾の時に♂が♀にエサをプレゼントする習性がある。幼虫はイモムシ型で落葉の下や地中に穴を掘って生活する。化石も発見され、古代からの昆虫である。日本には5属44種が分布。体長15~22mm。 
  • 名前の由来・・・♂のお腹の端がサソリのようにそっているので、「シリアゲムシ」と名付けられた。 
  • 参考動画:【日本の昆虫】シリアゲムシ - YouTube
  • 昆虫の中でも最も起源の古い昆虫・・・2億5千万年以上前のペルム紀から生息しているグループで、化石も見つかっている。 
  • ♂と♀の見分け方・・・♂の腹部の先端は、背中に反転するように上がっているが、♀(上の写真)の先端は立ち上がらないことで簡単に見分けられる。 
  • 参考動画:【戦う】シリアゲムシの群れが現れた! - YouTube
  • 婚姻贈呈・・・この仲間は、交尾の時に♂が♀にエサをプレゼントする習性がある。♂は葉の上で植物の実や昆虫をくわえ、頭を立てて♀を待つ。♀が来ると食べ物を送って、メスがそれを食べている間に交尾する。未消化のエサを吐き出して♀に与える仲間もいるという。 
  • 参考動画:シリアゲムシの婚姻贈呈 - YouTube
  • なぜ♂が♀にプレゼントするのか・・・カマキリのように肉食の昆虫は、♀が食べている間に交尾をすれば、♂は♀に食べられることなく安全だからと言われている。
  • 生息場所・・・やや湿った草むらや林に生息していて、葉の上に止まっていることが多い。 
  • ヤマトシリアゲムシ
     本州から九州に生息し、最も普通に見られる。エサは主に昆虫で、弱った虫を捕らえて食べたりする。死んだ虫にもやってくるほか、キイチゴなどの果実にも集まる。体長15~20mm。年2回の発生。 
  • 5~6月の初夏に発生・・・黒色 
  • 8~9月に発生・・・赤みを帯び、別名ベッコウシリアゲとも呼ばれている。 
  • ♂がエサを見つけると、その場で食べずに待機。時々ハネを動かして、♀にエサがあるよと合図する。エサは自分で食べずに、♀にプレゼントするためである。 
  • プライアシリアゲ・・・ハネの模様には変異があり、北ほど紋が小さくなる傾向がある。プライアシリアゲの「プライア」は、明治時代初期日本に滞在したイギリス人昆虫学者の名前である。プライアが居住していた横浜で採集された個体を元に1875年に命名された。♂は交尾時、唾液を吐いて♀に与える。体長13~18mm。本州から九州まで分布。 
  • ホソオビトゲシリアゲ・・・両羽のほぼ中央に細い黒筋があるのが特徴。 
  • スカシシリアゲモドキ(シリアゲモドキ科)・・・全身が黄褐色。♂のハネは無紋だが、♀のハネには個体変異が著しい。山林で見られる普通種。主に花粉を食べる。体長15~17mm。本州から九州まで分布。
  • ガガンボの仲間
     ガガンボの仲間は、日本で約700種が知られているが、この数倍が分布すると考えられている。蚊を大きくしたような体形で、体色の変化に乏しく、種の識別が難しいと言われている。幼虫は、水中、腐植土、キノコ、朽木、鳥の巣など、様々な環境に生息する。 
  • 参考動画:コウヤボウキの花に来たクチナガガガンボの仲間 - YouTube
  • キリウジガガンボ・・・比較的大形で、身近なガガンボの一つで個体数も多い。田んぼや畑の周りに多く見られる。幼虫は、イネの根を食害する害虫とされている。成虫は春と秋に発生する。体長14~18mm。 
  • 凄腕ハンター・ムシヒキアブの仲間
     昆虫を捕まえて、その体液を吸うアブがムシヒキアブ。その狩りは、待ち伏せ型。見晴らしの良い枝先などに止まって辺りを見張っている。大きな複眼は、飛翔中の昆虫を逃さない。獲物が目の前を通り過ぎるやいなやパッと飛び立ち、背後から襲い掛かる。奇襲戦法で虫を捕らえると、抱えたまま近くの枝や葉に止まって、時間をかけて体液を吸う。時にはスズメバチやオオカマキリ、オニヤンマなどの肉食昆虫を捕らえて食べることがある。昆虫界の中でも、ハンターとしての能力はピカイチ。その飛翔能力と、良く見える大きな眼、昆虫を捕らえるのに適した脚の構造が、完璧と言われるほど発達した昆虫界きってのハンターである。特に農家にとっては、野菜畑の害虫とされる虫をことごとく捕食してくれる、ありがたい昆虫である。 
  • 参考動画:アワフキムシを捕らえたムシヒキアブ - YouTube
  • シオヤアブ(ムシヒキアブ科)
     大形で、♂の腹端に白色の毛が密生している。♀には白色の毛がない。アオメアブに似ているが、目の色が茶褐色な点で識別できる。草地や林縁などで見られる普通種。甲虫目やハチ目の昆虫を好んで捕食する。7~8月に現れる。全国に分布。体長22~30mm。
  • 参考動画:【ウルトラスロー動画】シオヤアブ【Chronos 2.1 Highspeed】 - YouTube
  • シオヤアブ♀・・・腹端に白い毛がない。
  • シオヤアブの交尾
  • ハンターの能力に長けた獰猛な仙人・・・正面から見ると、大きな目玉とフサフサしたアゴヒゲが、まるで仙人のように見える。狩りの対象は、ハエなどの小さな虫からセミ、コガネムシなどの大きいもの、さらには肉食昆虫のトンボなども捕食する。それらの獲物が飛行中であっても、追い掛けて捕獲するなど、ハンター能力に長けている。
  • ムシヒキアブの仲間・交尾
  • 参考動画:最強のハンターとも言われるムシヒキアブのホバリング 求愛 交尾 富津市岩瀬の自然 - YouTube
  • アオメアブ(ムシヒキアブ科)
     目が緑色の美しいアブ。真夏の草原に普通に見られる。大形の昆虫を好んで捕食し、時にトンボまで捕らえることがある。6~9月に現れる。全国に分布。体長20~29mm。
  • 参考動画:アオメアブ(ムシヒキアブ科)Cophinopoda chinensis 2024年6月 沖縄本島 - YouTube
  • マガリケムシヒキ(ムシヒキアブ科)
     腹が細く、後頭の毛が途中で前に折れ曲がっていることが特徴。類似種が多い。アブやハエを好んで捕食する。北海道から九州まで分布。6~8月に現れる。体長14~23mm。 
  • オドリバエ(ムシヒキアブ上科オドリバエ科)
     ムシヒキアブに近い仲間で、花の蜜も吸うが、基本的に捕食性の昆虫である。この仲間には、♂が♀に求愛給餌するものがいる。日本に住む1000種以上のオドリバエのうち、半数以上が求愛給餌を行うという。これらの仲間は、♂が獲物を捕らえてプレゼントしないと、♀は相手をしないらしい。その理由は、獲物を捕らえることができる♂を受け入れると、強い子孫を残せることに加えて、自分もエサにありつけるからである。上の写真は、♀が交尾しながらプレゼントされた獲物を食べているところ。体長約10mm。5~6月に見られる。北海道から九州まで分布。
     オドリバエの仲間のフウセンオドリバエとベールオドリバエは、獲物を自分の分泌液で包むという手のこんだ方法でプレゼントするという。中には、包装しているが、中身のない詐欺師まがいの♂もいるらしい。昆虫の世界も、人間の世界と似ているから、その生き残り戦略は興味が尽きない。
  • 参考動画:オドリバエの婚姻贈呈 - YouTube
  • スズキベッコウハナアブ(ハナアブ科)・・・ミズナラの種液にやってきた濃いオレンジ色のハナアブ。幼虫は、スズメバチの巣に寄生する。寄生したハチの死骸や幼虫、サナギを食べて育つ。
  • コウカアブ(ミズアブ科)・・・体は黒色で、ハネは全体が黒褐色。成虫は、5~10月、ゴミ捨て場や畜舎などに多く見られる。幼虫は、草や果実、動物の死体などの腐敗有機物を採食し、家庭用コンポストで大量発生することがある。全国に分布。体長13~28mm。
  • 美麗種・オオセイボウ(セイボウ科)・・・全身が金属光沢のある青色に輝く美麗種。成虫は、オミナエシなどの花に集まる。♀は、トックリバチ類の泥の巣の中に産卵し、スズバチの幼虫と、宿主が運んでくるイモムシなどを食べて成長する。5~11月に現れる。全国に分布。体長12~20mm。
  • 参考動画:オオセイボウ - YouTube
  • ヨツボシオオキスイ(オオキスイムシ科)・・・樹液に集まり、木の汁を吸う「四つの星」がある虫。体が小さく、樹皮の窪みに埋没するので目立たない。4~9月に現れる。体長11~15mm。北海道から九州まで分布。
  • ハバチの仲間・・・原始的なハチの仲間で、腹のくびれもなく、毒針もない。幼虫は植物の葉や茎を食べる。母バチは針をもたない代わりに、ノコギリの歯のようなギザギザの産卵管で葉や茎に傷をつけて卵を産みつける。イモムシ型の幼虫は、毛を持たず、腹脚が5対以上あり、単眼は1対しかない。母バチは肉食だが、幼虫は生みつけられた植物を食べて育つ。一部のものは、植物に寄生して虫こぶをつくり、その内部を食べて育つ。幼虫は集団生活をするので、ルリチュウレンジはツツジ、チュウレンジバチはバラ、カブラハバチはアブラナ科の作物の害虫として知られている。(写真:コンボウハバチ科)
  • ルリチュウレンジ(ミフシハバチ科)・・・ハネ全体は青色味がかった暗色で、体は美しい藍青色の金属光沢をもつ。普通に見られる種で、幼虫はツツジ科の植物の葉を食べて育ち、少なくとも年3回発生する。体長8~10mm。
  • 参考動画:ルリチュウレンジの産卵 - YouTube
  • チュウレンジバチ(ミフシハバチ科)・・・産卵・・・成虫はハネは黒く、腹部は黄色。♀は、バラの枝に縦の切り込みを入れながらその中に産卵する。
  • 考動画:チュウレンジバチの産卵 - YouTube
  • 幼虫はバラの大敵・・・年3~4回発生し、5月頃から目立ち始める。一度にたくさん発生して、葉裏に群棲し、葉縁から葉を食べつくす。
  • 参考動画:産卵(寄生)のためハナバチの巣に進入するアリバチ - YouTube
  • アリバチ(アリバチ科)
     ♂はハネを持っているが、♀はハネがなく、地面を歩くからハチのように見える。手でつかもうとすれば、毒針に刺されるので要注意。ハナバチ類は、地面に穴を掘って巣をつくる。♀は、その巣を探し、ハナバチ類の幼虫に卵を産みつける。ふ化した幼虫は、ハチの幼虫やサナギを食べて成長する。
  • 参考動画:カギバラバチ科 キスジセアカカギバラバチ - YouTube
  • カギバラバチ科の仲間・・・まるで宝くじのようにしてスズメバチに寄生する。まず、カギバラバチは植物の上に非常にたくさんの微細な卵を産みつける。その葉を食べるイモムシが、葉と一緒に卵を食べる。イモムシに傷つけられた卵は、イモムシの体内でふ化する。今度はスズメバチがそのイモムシを捕まえて、肉団子にして巣に持ち帰り、幼虫に与える。運よくスズメバチの体内に入ったカギバラバチの幼虫は、スズメバチの体内を食べ、それを食い破って、さらに外から食べ尽くすという。しかし、現実は、植物の上に産み付けられたままで、例えイモムシに食われたとしても、そのイモムシがスズメバチに狩られる確率はかなり低い。だから宝くじ的な寄生方法と言われ、この仲間には個体数の少ない珍種が多いという。
  • ハキリバチの仲間
     ハキリバチは、その名のとおり、葉を切り取るハチである。切り取った葉は、石や壁の隙間、地面の浅く開いた穴などに運んで、巣の材料に使う。だから丸い穴が幾つも空いた木の葉を見つけると、それはハキリバチが巣作りをしている印である。巣は、葉で囲ったコップ型の部屋が幾つも並べてつくられる。それぞれの部屋には、腹部の毛をつけて運んだ花粉と蜜を混ぜ合わせてつくった花粉団子が置かれ、卵が1個産み付けられる。孵化した幼虫は、巣の中で花粉団子を食べて育つ。 
  • 葉の切り取り方・・・葉を脚で抱え込み、アゴをハサミのように使って切り取っていく。蓋の部分は円形に、側面の壁になる部分は楕円形に切り取る。切り取った葉は、内側に丸めるようにして巣へ運ぶ。
  • 参考動画:バラの葉を切るハキリバチ - YouTube
  • ゴキブリ
     ゴキブリの祖先プロトファスマは、3億年以上も前の石炭紀に現れ、その後形態をほとんど変えていないことから「生きた化石」と呼ばれる昆虫の一種。家に住み着いて嫌われるゴキブリは、世界中にいる約4千種のうち1%ほどに過ぎない。ほとんどのゴキブリは、熱帯の森林や湿地帯に暮らしている。
  • ゴキブリの特徴①・・・雑食性で、肉や野菜など人間の食べ物、その他腐敗物、動植物の死がい、家の中では人間の髪やツメまで何でも食べる。さらに飲まず食わずで数十日は生きられるほど飢えにも強い。
  • ゴキブリの特徴②・・・3対の脚がいずれも均等に発達しているから、脚が速い。
  • ゴキブリの特徴③・・・繁殖力がスゴイ。♀は卵が20~50個も入った卵しょうを腹部につけていて、ふ化の一ヶ月ほど前に卵しょうをふ化させたい場所に貼り付ける。ワモンゴキブリなどは、1年半も生きるが、その♀は、卵しょうを最大で80回も産む。さらに幼虫はすぐに成虫になって繁殖する。
  • ゴキブリは何か良いことをしているか?
     ゴキブリは、生態系の中で分解者の役割をしている。落ち葉や果実、動物の糞、菌類など。例えばオオゴキブリは、朽木を食べて生活しており、木が土にかえる一助になっている。こうした分解してくれる生き物がいなければ、森は落ち葉や朽木だらけになって、新たな植物が芽吹きづらくなる。ゴキブリは、森の新陳代謝に大きく役立っている昆虫なのである。
     ゴキブリは、植物の種子散布にも一役買っている。ギンリョウソウという植物は、モリチャバネゴキブリなどに果実を食べてもらい、種子が糞として排出されることで散布ができている。このように生態系は、様々な生き物が関係をもち、絶妙に組み合うことで保たれていることを忘れてはいけない。
  • 参考動画:ゴキブリをゾンビ化させる寄生バチ! - YouTube
  •  日本にも生息しているセナガアナバチ科のハチは、ゴキブリを専門に狩り、幼虫はそれを食べて成長する。熱帯アジアに生息するエメラルドセナガアナバチ(別名)は、その名のとおり胸部が細長く、エメラルドの美しいハチである。そのハチは、ゴキブリよりかなり小さいので、飛んで運ぶことができない。ところが実に効率的な方法を用いる。まず、胸部神経節に注入し、前脚を穏やかに麻痺させる。次に逃げる反射行動を司る神経を刺す。この2度の動作を実に正確に行う。これでゴキブリは何とか歩けるものの、自分の意志では逃げられない状態となる。そして、このハチは、ゴキブリの触角をくわえて誘導することで、半死半生のゴキブリは、ゾンビと化して歩き、巣穴の中へと引き込まれてしまう。そこで体内に卵を産みつけられ、ふ化した幼虫のエサとなるのである。
  • ムカデの仲間
     体は頭と胴に分かれ、頭には1対の触角がある。胴にはたくさんの脚があり、1節目に毒を出す牙をもつ。林の落ち葉などに棲み、成虫も幼虫も自分より小さな動物を捕まえて食べる。
  • トビズムカデ・・・オオムカデの仲間で、21の節と42本の脚がある。脚の先は細く尖ったツメがついている。昼間は、石や落ち葉などの下の湿った場所で休んでいる。夜になると、ゴキブリやバッタなどを捕まえて食べる。家の中で見かけるのもほとんど夜である。気が付かずに触り、毒ヅメで咬まれると、激しく痛み、赤く腫れるので注意。
  • ゲジ・・・たくさんの長い脚で素早く動く。獲物を捕まえる時も、複数の脚を使う。脚は30本。
  • ヤスデの仲間・・・菌類や枯葉などを食べる。動きがゆっくりで、突かれると体を丸め、匂いのする液を出して身を守る。
参 考 文 献
  • 「ニッポンのヘンな虫たち」(日本昆虫協会・監修、Gakken)
  • 「昆虫博士入門」(山崎秀雄、全国農村教育協会)
  • 「日本のへんてこな虫」(養老孟司・海野和男、新日本出版社)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「きらわれる虫の真実」(谷本雄治、太郎次郎社エディタス)
  • 「虫の顔」(石井誠、八坂書房)
  • 「4億年を生き抜いた昆虫」(岡島秀治、KKベストセラーズ)
  • 「ゴキブリ研究はじめました」(柳澤静麿、イースト・プレス)
  • 「散歩で見つける虫の呼び名辞典」(森上信夫、世界文化社)
  • 「昆虫はすごい」(丸山宗利、光文社新書)