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昆虫シリーズ71 昆虫標本

  • 標本を作る意味
     昆虫標本には、種名・採集年月日・採集場所・採集者のデータラベルを付けて保存する。こうしたラベルの付いた標本があれば、ある年代に、その場所には、この種の昆虫が確かに生息していた「証拠」になる。博物館や昆虫館などでは、標本にされた昆虫の記録を何百年も保存することができる。そうすることで、過去の自然を知る手掛かりにもなる。だから昆虫標本に、データラベルをきちんとつければ、記録を残すための価値ある標本になる。
     また同種の標本をある程度並べてみると、変異があることに気付かされる。同じ地域でも個体差があったり、地域ごとに比べるとはっきりとした地域差があったりすることに気付かされることがある。生物多様性(種の多様性・生態系の多様性・遺伝子の多様性)を知る材料になったり、昆虫が侵入したルートを推測する材料にもなる。(チョウ標本製作者:桑原 稔氏) 
  • INDEX 昆虫標本の基本は乾燥、チョウ採集の失敗例/殺し方、チョウの採集の注意点、チョウの標本をつくるための材料、チョウの標本のつくり方、標本箱、参考:昆虫標本/秋田県立博物館/東成瀬村まるごと自然館/大館市博物館/青森市森林博物館/只見町ブナセンター (チョウ標本製作者:桑原 稔氏)
  • 昆虫標本の基本は乾燥・・・昆虫の形を整えて乾燥させたものが基本。それをきちんと保管すれば、カビが生えたり、腐ったりしない。密閉した箱に入れ乾燥状態を保てば、何百年でも保存することが可能。(写真:クリプトンの森で採集された甲虫類の標本)
  • チョウ採集の失敗例・・・写真のジャコウアゲハは、室内で羽化した際、雑に採集したため、触角が欠けたり、ハネも傷ついて欠けている。これは標本をつくるための採集としては、初歩的な失敗例である。
  • 標本づくりを目的に採集した昆虫は、少々可哀そうだが、その場で殺すのが原則。
  • チョウの採集の注意点・・・鱗粉があるチョウやガは、ハネや触角を傷めないように採集するのがポイント。採集用の網は、できるだけ直径が大きく深いもので捕獲する。チョウが網に入ると、直接ハネを触らないように、ハネを背中合わせに閉じた状態で、胸部を強くつまんで圧死させる。ハネや触角を傷めないように三角紙(ハトロン紙)に入れて持ち帰る。その際、触角がハネ(三角紙の長辺)に沿うように収める。こうしないと触角が折れる危険性が高いので注意! 
  • 甲虫類・・・熱湯をかけるだけで簡単に殺すことができる。体についた虫を殺す場合は、容器に入れ冷凍庫で保存。乾燥は冷蔵庫で1週間程度おけばOK。
  • その他多くの昆虫・・・毒ビンに入れて殺す。毒ビンの中に入れる薬品は、薬局で入手できる酢酸エチルを使う。引火性のある劇物のため取扱注意。採集地に着いたら、毒ガスの発生する物質をティッシュなどに浸し、毒瓶の中に入れ、採った虫をすぐに殺せるようにしておく。
  • チョウの標本をつくるための材料
    1. 展翅板・・・チョウやガは、展翅板を使用してハネを広げて展翅する。溝の幅は、ちょうど昆虫の胸部が入る幅で、ハネが外へはみ出さないサイズを選ぶ。安価にやるには、発泡スチロール板を切り、貼り合わせて自作することもできる。
    2. ピンセット・・・脚や触角をつかみ、標本の形を整えるのに使う。先が細く、尖ったものを使用する。
    3. 柄付き針・・・翅脈を引っ掛けてハネを上に持ち上げるために使う。昆虫針を割りばしなどの先にしばりつけてもOK。
    4. 展翅テープ・・・展翅を仮固定するためのテープ。幅が14~60mmでフィルム製やパラフィン紙製。
    5. 昆虫針・・・虫に刺す専用の針で、細くさびにくい。
    6. 玉針・・・標本の形を整える。 
  • チョウの標本のつくり方
    1. 昆虫針をチョウの胸部の背中側から刺し、展翅板の中央の溝の真ん中に真っ直ぐ刺す。
    2. ハネを上から押さえるように展翅テープで仮固定する。
    3. 柄付き針でハネの脈(翅脈)に引っ掛けて、左右のハネを交互に少しづつ上げていく。ちょうど良い位置に来たら、テープを強く張り、玉針で固定する。
    4. 反対側のハネも同じように上げる。左右のハネを交互に少しづつ上げていく。
    5. 前ハネの後ろの縁が展翅板の溝と直角になるまで上げる。左右対称になるように微調整し、展翅テープを玉針で固定する。
    6. ハネの位置が決まると、ハネの近くに玉針を刺して固定する。
    7. 頭部の位置が曲がらないように調整し、触角を伸ばして、紙と針で固定する。 腹部が下がらないように、展翅板の溝に脱脂綿やティッシュで下支えをして腹部を上げておく。
    8. 種名・採集年月日・採集場所・採集者のデータラベルを付け、段ボールあるいは衣装ケースなどに入れて、1ヶ月ほど乾燥させると完成。 
  • 参考:昆虫標本作成講座・初級編~チョウの採集~ - YouTube
  • 参考:昆虫標本作成講座・初級編~チョウの展翅~ - YouTube
  • 標本箱・・・長期保存には、高価だが木製のものがオススメ。密閉し、衣料用の防虫剤を入れる。(チョウ標本製作者:桑原 稔氏、以下同じ)
  • 左上から(2列分)・・・キタテハ、シータテハ、サカハチチョウ、テングチョウ、オオウラギンスジヒョウモン♂、♀、メスグロヒョウモン♂、♀
  • 上からコムラサキ♀、♂、オオムラサキ♀、♂
  • 右2列・・・モンキチョウ、ヤマトスジグロシロチョウ、スジボソヤマキチョウ、モンシロチョウ、ツマキチョウ、キタキチョウ
  • 左上からゴマダラチョウ、イチモンジチョウ、クロアゲハ、アサギマダラ、ミドリシジミ、ウラギンシジミ、アカタテハ、ルリタテハ、ルリシジミ、ヤマトシジミ
  • 上左からカラスアゲハ、キアゲハ、アゲハ、クロアゲハ♂、♀、ジャコウアゲハ
  • 左からアオスジアゲハ、ヒメギフチョウ 
  • 上左からキタキチョウ、ヒメアカタテハ、アサギマダラ
参考:昆虫標本① 秋田県立博物館 
参考:昆虫標本② 東成瀬村まるごと自然館
参考:昆虫標本③ 大館市博物館
参考:昆虫標本④ 青森市森林博物館
参考:昆虫標本⑤ 只見町ブナセンター
参 考 文 献