昆虫シリーズ72 世界の昆虫① 世界のチョウその1
2024年7月20~8月25日、「世界の昆虫展」が秋田県立博物館で開催された。世界の昆虫については、これまで本や写真で見たことはあるが、実物を見たことがなかった。今回、世界の昆虫標本約150箱を拝見し、その美しさや巨大さ、珍奇さなど、改めて昆虫の魅力に惹き込まれた。
世界のチョウその1では、世界のチョウ約1万8千種の中で、最も美しいチョウと言われるモルフォチョウやミイロタテハ(アグリアス)、世界一美しい蛾・ニシキオオツバメガ、熱帯アジアを代表する豪華なキシタアゲハ、前ハネの長さ世界一のドルーリーオオアゲハなどを中心に詳述する。
INDEX モルフォチョウの仲間、レテノールモルフォ、キプロスモルフォ、構造色、映画「天国の青い蝶」、メラネウスモルフォ、アキレスモルフォ、ペレイデスモルフォ、ディディウスモルフォの仲間、タイヨウチョウの仲間、モンテズマモルフォの仲間、シロモルフォ、ミイロタテハの仲間
、マニア垂涎の的、クラウディーナミイロタテハ、ナルキッサスミイロタテハ、ファルキドンミイロタテハ、ルリオビタテハの仲間、メダマチョウの仲間、ツマキフクロウチョウ、ニシキオオツバメガ、シンジュツバメガの仲間、ムラサキシジミの仲間、アカエリトリバネアゲハ、オビクジャクアゲハ、キシタアゲハ、アンフリサスキシタアゲハ、フィリピンキシタアゲハ、ヒイロツマベニ、シボリアゲハ、テングアゲハ、オオルリアゲハ、ドルーリーオオアゲハ、ザルモクシスオオアゲハ、ヒイロタテハの仲間、ヨーロッパのシロチョウ、マエモンジャコウの仲間
世界一美しいチョウ/モルフォチョウの仲間
中南米を代表する大型の美しいチョウ。青く輝くハネの美しさから、「世界一美しいチョウ」と言われるほか、「生きた宝石」「空飛ぶ宝石」「森の宝石」などとも形容されている。♂だけが美しいハネをもち、角度によって不思議な輝きを見せる。♂は♀にアピールするために美しく輝くようになったが、♀は地味な茶色。
レテノールモルフォ ・・・モルフォチョウの中でも、青い輝きが最も美しいハネをもつ。遠くを飛んでいても、ハネが日光に反射して青く光るという。ハネの裏側は、濃淡のある茶色模様で、余り目立たない。午前10時~午後1時ころ、ジャングルの木の梢近くや樹幹の上など、高い所を飛ぶ。主にアマゾン川流域に分布。
キプロスモルフォ ・・・青いハネに、真っ白なストライプが美しいモルフォチョウ。
構造色 (2024年7月24日、秋田さきがけ「輝く翅には秘密あり」(県立博物館)要約)
モルフォチョウのハネが強烈なブルーを放つのは、それ自体の色素ではなく、光の波長や鱗粉表面の超微細な表面構造により、あたかも色がついているように見える。それを「構造色」と呼ぶ。
レテノールモルフォのハネを実体顕微鏡で観察すると、長方形の鱗粉が屋根瓦のように重なり合い、規則正しく並んでいる。さらに高倍率でみると、鱗粉表面は細やかな筋が無数にあり、さらに複雑な構造をしている。薄い膜が何層も平行に並んだ、窓のブラインドのような構造が、鱗粉表面に畝状に等間隔で並んでいる。この構造と光の関係により、青い光が選択的に強められ、モルフォチョウ特有のブルーの光沢が生み出されている。
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参考動画:蝶の翅の構造色 /海野和男 - YouTube
映画「天国の青い蝶」 (2004年公開)・・・末期の脳腫瘍に冒された少年の夢は、世界でいちばん美しい青い蝶・モルフォチョウを一目見ることだった。その夢をかなえようと、母は有名な昆虫学者に、息子の夢をかなえてほしいと頼む。この映画は実話から生まれた映画で、カナダの昆虫学者と不治の病にかかった少年との交流から生まれた話。モルフォチョウを見た少年は、南米のジャングルの中で歩けるようになり、カナダに帰ると脳腫瘍は消えていたという奇跡の物語。モルフォチョウの美しさは、それほど見る人に感動を与えるのであろう。
(レテノールモルフォ写真出典:Wikimedia Commons )
メラネウスモルフォ ・・・森林の中に開けた道沿いなどを2mほどの高さで、かなりのスピードで飛翔し、落ちている果物などに飛来する。裏面は地味で黒っぽい(上右)。飛翔している時は、青い光を点滅させて飛んでくるようで、極めて美しいという。ギアナ高地から南ブラジルまで広く分布。
アキレスモルフォ ・・・青い輝きの部分が少なく、黒色の部分が多いモルフォチョウ。輝きの強いレテノールモルフォは林縁のチョウだが、アキレスモルフォは森林内の暗い場所を好む。アマゾン川流域に広く分布。
ペレイデスモルフォ (中米~南米北部)・・・アキレイモルフォなどと近いグループだが、青色の部分が最も広く、その輝きが強い種で「ブルーモルフォ」と呼ばれることがある。森林の内部より明るい林縁部に多いことから、「林縁を舞うブルーモルフォ」と呼ばれている。
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参考動画:南米のモルフォチョウ /海野和男 - YouTube
ディディウスモルフォの仲間 (南アメリカ)・・・大型のモルフォチョウで、上下に激しく揺れながら飛翔する。特殊な鱗粉を持ち、金属のような美しい輝きを放つ。
タイヨウチョウの仲間 (南アメリカ)・・・光沢のないモルフォの仲間で、モルフォチョウ科で最大のチョウ。アマゾン川流域を中心に分布し、オレンジ色、白色、黒色のハネが、アマゾン川に沈む太陽のようにも見える。最も高いジャングルの梢近くを、ハネを数回パタパタさせて滑空する姿は「森の王者」などと呼ばれている。午前11時ころから飛び始め、午後1時になると、全く飛ばなくなるという。おびき寄せるには、オレンジ色の団扇を使うという。
モンテズマモルフォの仲間 (メキシコ)・・・やや小型のモルフォで、樹林地に生息する。
シロモルフォ (中南米)・・・モルフォとは言うものの、青色の輝きがなく、白色をしている。中南米に5種知られている。
世界で最も美しいチョウその2・ミイロタテハ ・・・ミイロタテハの仲間は、学名の属名から「アグリアス」と呼ばれ、世界で最も美しいチョウの仲間と言われている。チョウは一般に♂が派手で、卵を産む♀は敵に襲われないように地味である。ところが本種は♂も♀も美しい。アマゾンの森の奥深くに生息し、ほとんど地面に下りてくることがないため、その生態に謎が多いという。(写真出典:Wikimedia Commons )
マニア垂涎の的 ・・・およそ9種に分類されるが、同種でも地域によって個体変異が大きく、それぞれに名前がついているという。そのどれもが美しい色と模様をしていることから、採集家にとっても、昆虫写真家にとっても垂涎の的だという。しかしジャングルの梢にすむミイロタテハに出会うのは、よほどの運がなければ難しいらしい。
クラウディーナミイロタテハ ♂(コロンビア、アマゾン川流域、ブラジル南部)・・・昆虫写真家・海野和男さんによれば、世界で一番美しいチョウは、クラウディーナミイロタテハの亜種・サンダナパルス(上右)だという。上左の個体には青がないが、サンダナパルスには鮮やかな赤と青があり、確かに美しい。(写真出典:Wikimedia Commons )
最も変化に富んだファルキドンミイロタテハ (アマゾン川中流南側、ネグロ川中流)・・・同一地域に棲むものでも同一種とは思えないたくさんの型があり、50以上もの名前がつけられるほど変異に富む。世界で最も個体変異の多いチョウと呼ばれている。裏面を見なければ、とても同一種とは思えない。今なお種分化の途中のチョウだとか、多様性を維持したまま個体群が存続する極めて珍しいケースなどと考えられている。
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参考動画: アグリアスを探しに Looking for Agrias/海野和男 - YouTube
メダマチョウの仲間 (ニューギニア)・・・刺激を受けると、前ハネをパッと開き、後ハネに隠していた大きな目玉模様を見せつけることで危険を回避する捨て身の技は、究極のダマシ戦略。目玉模様による効果は、フクロウやヘビの眼に似た模様によって鳥などの天敵をおびやかすためという説と、目玉模様を頭と誤認させることで天敵の攻撃をそらし、重要な頭を守るという説がある。
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参考動画:メダマチョウ /海野和男 - YouTube
ツマキフクロウチョウ (ブラジル)・・・ハネの裏側を広げて上下逆さまにすると、模様がフクロウそっくりに見える。実はフクロウじゃなくて、天敵であるトカゲは、自分より大きいトカゲを見つけると逃げるから、それに似せていると考えられている。
世界でもっとも美しいガ/ニシキオオツバメガ (マダガスカル島固有種)・・・大型のガで、マダガスカルの固有種。本種は、世界で最も美しいガと言われている。昼に飛び、チョウのように美しいことから、発見当初はアゲハチョウ属に分類されていた。ハネの鱗粉には縦筋が幾つもあり、その薄膜構造とこの溝に当たった光が干渉を起こして複雑かつ美しい色彩をつくりだす。
美しさの秘密は構造色 ・・・美しいハネは、見る方向によって色調が変化する。美しいものには毒があると言われる通り、本種の幼虫は、毒のあるトウダイグサ科の植物を食べ、成虫になっても毒が残っている。体に毒を蓄えていることをアピールするために、鮮やかな警告色になったと考えられている。
シンジュツバメガの仲間 (アフリカ・南アメリカ)・・・こんなに美しいガがいるのか、と驚くような派手な色彩で、かつ金属光沢がある。
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参考動画:ウラニアツバメガの集団 /海野和男 - YouTube
アカエリトリバネアゲハ (マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島)・・・マレーシアの国蝶で、鳥のような大きなハネと、赤いエリのような胸を持つ。名前は、赤い襟巻をしている鳥のような姿に由来している。♂は集団でミネラルを求めて温泉などに水を吸いに来る。♀は木の高い所やジャングルの奥にいるので、なかなか見つからないという。
だから♀の比率は♂の1/100と言われていたが、近年、その比率は1対1であることが分かった。
アカエリトリバネアゲハの発見者・ウォーレス ・・・このチョウを初めて発見したのは、長期間マレー半島を旅し、ダーウィンと共に進化論を提唱したウォーレスである。彼は、ボルネオで発見したこの蝶にbrookianaという種名をつけた。その由来は、当時ボルネオに君臨したイギリス人・ジェームズ・ブルークスにちなんだもの。食草はウマノスズクサの仲間。
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参考動画:マレーシアのアカエリトリバネアゲハを見に行こう /海野和男 - YouTube
アカエリトリバネアゲハは、温泉の水をこよなく愛する点が特徴。マレーシアのタパー近郊の温泉に吸水に集まり、その場所は何十年も変わらないという。温泉の水にはナトリウム分が含まれ、そのナトリウムを摂取するために集まると考えられている。1匹が吸水に降り立つと、周りを飛んでいたものが次々と着陸し、時には50匹を超える吸水集団ができるという。
キシタアゲハ (インド~ニューギニア)・・・熱帯アジアを代表する豪華なチョウ。上ハネは黒に静脈が白っぽい色で縁どられている。後ハネは明るい黄色で、日が当たると黄金色に輝く。19種が知られている。
アンフリサスキシタアゲハ (上左/スンダランド)・・・スンダランドを代表する美しいキシタアゲハ。主に低山地から標高1000m程度の熱帯雨林の林縁で見ることができる。
フィリピンキシタアゲハ (上右/フィリピン)・・・パラワン島では、後ハネの黒色部が黒色部が著しく拡大している。ミンダナオ島の南部のタラウド諸島では、ほぼ真っ黒になるという。
シボリアゲハ (ブータン~タイ)・・・ブータン、アッサム、中国南西部、ミャンマー及びタイ北部に分布する。タイの生息地は、森林火災などによって破壊され、絶滅した可能性が高いという。特にブータンシボリアゲハは、「ヒマラヤの貴婦人」と呼ばれる幻の大きなチョウとして知られている。
テングアゲハ ・・・ラオス北部では、テングアゲハとオウゴンアゲハの2種が知られる。遥か昔にアオスジアゲハの仲間から種分化したと考えられている。「幼虫は何の木の葉を食べているか」を知るために、日本人の研究者が何度も挑戦し、やっとインド北部の山中にあるキャンベリーモクレンの木で卵を発見し、初めて卵・幼虫・サナギ・成虫の様子を明らかにした。
参考動画:オオルリアゲハ Long MOV /海野和男 - YouTube
アフリカを代表するドルーリーオオアゲハ(アフリカ中央部) ・・・前ハネが著しく突出したアフリカ最大のチョウ。前ハネの長さは世界一。猫を死なせるほどの強い毒をもつという。アフリカの熱帯雨林地域に生息。
ザルモクシスオオアゲハ(アフリカ中央部 )・・・アフリカ中央部を代表するアゲハチョウ。ハネを広げると15cmと大きい。そのハネは構造色をもち、羽ばたきと共に灰色がかった青から、輝きを持つ青へと微妙に変化して美しい。熱帯のジャングルにすむ毒チョウ。
オオルリアゲハ (ニューギニア)・・・オーストラリア区で最も美しい蝶の一つで、モルフォチョウのように美しい青や緑の構造色を持つカラスアゲハの仲間。飛ぶとき、美しい構造色は光を反射し、その光は数百m先にも届くという。本種を見ると、幸せになるという伝説がある。林縁に咲く様々な花を訪れるが、帰化植物のランタナ(中南米原産)を特に好むという。
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参考動画:キシタアゲハ /海野和男 - YouTube
ルリオビタテハの仲間 (中南米)・・・一文字の青い帯状紋を持つ大形のタテハチョウで、中南米に多くの種が知られる。非常に速い速度で飛び、チョウの中でも飛翔力はトップクラス。世界で最も美しいチョウの一つにあげられ、愛好家も多いと言われている。
オビクジャクアゲハ (東南アジア)・・・緑色の帯が美しいカラスアゲハの仲間。マレー半島では、北部の低地に多く、雨の少ない乾季に数を増やす。森林性であるが、明るい場所にも出てきて、路上で吸水したり、白い花で蜜を吸うを姿が見られる。
ルリモンアゲハの仲間 (スマトラ、ジャワ島)・・・青緑色の紋が美しいカラスアゲハの仲間で、最も分布が広い。台湾から中国、インド、インドシナ、スマトラ島、ジャワ島に分布。平地から山地まで、林さえあればどこでも見られる普通種。
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参考動画:ルリモンアゲハのスロー動画 /海野和男 - YouTube
ヒイロツマベニ (インドネシア)・・・強烈な赤橙色が印象的なチョウで、インドネシアのベレン島で発見された。この島にはツマベニチョウも混成しているという。
ヒイロタテハの仲間 (アフリカ)・・・♂の真っ赤なハネが印象的だが、♀は地味。アフリカに生息するタテハで約70種が知られている。
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参考動画:ヒイロタテハの飛翔 Cymothoe sangaris /海野和男 - YouTube
ヨーロッパのシロチョウ ・・・左からエゾシロチョウ、クロケアモンキチョウ、ベニヤマキチョウ。白または黄色で中型の種が多く、マメ科やアブラナ科植物を食草としている。モンキチョウ類は、ユーラシア大陸の乾燥した草原や高山に多くの種が知られている。
マエモンジャコウの仲間 (中南米)・・・派手な斑紋がある。
青紫色に輝くムラサキシジミの仲間 (インド~オーストラリア)・・・光沢のある青紫色が宝石のように輝く。約200種。
参 考 文 献
「世界で最も美しい蝶は何か」(海野和男、草思社)
「世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑」(海野和男、草思社)
「世界のふしぎな虫 おもいろい虫」(今森光彦、アリス館)
「GET!角川の集める図鑑 昆虫」(丸山宗利ほか、KADOKAWA)
「講談社の動く図鑑MOVE昆虫」(講談社)
「すごい自然図鑑」(監修 石田秀輝、PHP研究所)
「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(監修 須田研司、日本文芸社)
「366日の美しい昆虫」(三才ブックス)
「世界のチョウ大図鑑」(福田晴男、国土社)
「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
「世界一うつくしい昆虫図鑑」(クリストファー・マーレー、宝島社)
秋田さきがけ 特別展「世界の昆虫展」/輝く翅には秘密あり(秋田県立博物館)2024.7.24
参考動画:unnokazuo(海野和男) - YouTube
特別展「世界の昆虫展 世界は昆虫であふれている」(秋田県立博物館)