昆虫シリーズ74 世界の昆虫③ 世界のカブトムシ
中南米には、ヘラクレスオオカブト、マルスゾウカブト、サタンオオカブト、アクテオンゾウカブト、ノコギリタテツノカブト、ネプチューンオオカブトなど多くの種類が生息している。次いで東南アジア・中国・インドには、コーカサスオオカブト、ゴホンツノカブト、アトラスオオカブトなどが生息している。アフリカには、大きな角をもつ大型のハナムグリが繁栄し、それと競合するカブトムシは少ない。
2024年7月13日~8月25日、横手市秋田ふるさと村で開催された「カブクワ王国」では、世界で人気のカブトムシ、クワガタムシの実物展示が行われた。「世界の昆虫展」(秋田県立博物館)の標本と合わせて、撮影した写真を中心に詳述する。
INDEX ヘラクレスオオカブト、極太極短、ヘラクレスオオカブトの一生、ヘラクレスリッキー、ヘラクレス・エクアトリアヌス、コーカサスオオカブト、アトラスオオカブト、アクテオンゾウカブト、エレファスゾウカブト、マルスゾウカブト、ネプチューンオオカブト、サタンオオカブト、ギアスプランディ、ボルネオオオカブト、ケンタウルスオオカブト、マヤシロカブト、シロカブト、グラントシロカブトムシ、ヒルスオオカブト、タテヅノカブト
ヘラクレスオオカブト (中・南アメリカ)
体の最大の長さは18cm以上で、世界最大のカブトムシ&甲虫としてギネス世界記録に認定されている。黄金色に輝く、その風格から「カブトムシの王様(キングヘラクレス)」と呼ばれている。オスの角は体長のほぼ半分もの長さがあり、最強と名高いコーカサスオオカブトでも本種には勝てないと言われている。主な活動時間帯は夜で、高木の樹液や果実の汁を吸う。幼虫期は最長2年、成虫の寿命は最長1年半ほどと長い。
名前の由来 ・・・ギリシャ神話に出てくる最大の英雄「ヘラクレス」に由来する。
昆虫界の横綱 ・・・最大の武器は、太く長く伸びた角。リーチが長いので相手の攻撃をものともせず、長い角で相手をはさんで豪快に投げ飛ばす。カブトムシ相撲でヘラクレスにかなうものはいない。だから「強いものほど無用な殺生はしない」と言われる通り、普段はどっしり構え穏やか。戦う必要があれば受けて立つ。まさに「昆虫界の王様」である。
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参考動画:ヘラクレスオオカブトの喧嘩 Hercules beetle fight /海野和男 - YouTube
ヘラクレス・(亜種名) ・・・ヘラクレスオオカブトは、産地別に亜種の細分化が進み、12亜種に分けられている。ヘラクレス・ヘラクレス(バス・テール島、ドミニカ島)やヘラクレス・リッキー(ベネズエラ等)、ヘラクレス・エクアトリアヌス(アンデス山脈東部~アマゾン川上中流域等)など、各亜種ごとにヘラクレス・(亜種名)で呼ばれている。その中でも断トツの人気があるのがヘラクレス・ヘラクレスである。
大型種の割には幼虫期間が短く、大型個体を作出しやすい。上手に飼育すれば1年以上生きる。
ヘラクレスオオカブト極太極短 (グアドループ諸島)・・・ヘラクレスオオカブトの魅力は、長く伸びた胸角にある。根元が盛り上がり、先端まで太さのある個体は極太と呼ばれる。その極端な個体が極太極短のデフオルメボディである。繁殖は超難関種だという。
ヘラクレスオオカブトの一生 ・・・卵(約75日で孵化)→幼虫(10ヶ月~2年)→サナギ(約75日)→成虫(8ヶ月~1年)
ヘラクレスリッキー (ベネズエラ)・・・ヘラクレスの仲間で、最も攻撃的な種類。バナナが大好きだが、怒らせると怖い。頭の角の先がフックのような形になっている。
ヘラクレス・エクアトリアヌス (エクアドル)・・・ヘラクレスの仲間で、上ハネが黄色いのが特徴。体長は160mmを超える大型もいるが、なかなかお目にかかれない激レア種。
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参考動画:ヘラクレスオオカブト3亜種の解説 /海野和男 - YouTube
ネプチューンオオカブト (中米)
世界で2番目に大きなカブトムシで、ヘラクレスオオカブトに並ぶ人気がある。艶やかな真っ黒なボディと、大きく伸びる角が魅力。胸角から一対の小さな角が出る。比較的体は小さく、その分、大きく伸びる角がよく目立つ。アンデス山脈西側の高い山に住んでいるので、暑さに弱い。樹液や腐った果実を好む。
名前の由来 ・・・ローマ神話の海の神「ネプチューン」に由来する。
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参考動画:ネプチューンオオカブト VS ヘラクレスオオカブト /海野和男 - YouTube
サタンオオカブ ト(ボリビア)・・・元々ネプチューンオオカブトと同一種だったが、分布域が分断されたため、独自の進化を遂げた。それ故、「ネプチューンの小型版」と言われている。頭角と胸角はあまり伸びず、大きく湾曲するのが特徴。見つけるのが難しい、レアなカブトムシで、ボリビアの悪魔と呼ばれているが、意外とおとなしい。黄金のフサフサで敵をしっかりつかんで離さない。
コーカサスオオカブト (インドネシア)・・・東南アジアに分布する種類としては最大で、120mmに達する大型種。標高が高く、湿った森にすむ。気性の荒さはカブトムシ界ナンバー1で、触るものあれば、お腹をシューシュー鳴らして襲い掛かる。自慢の長い脚を使って、あの手この手で攻撃してくる総合格闘家タイプ。足の爪は鋭く、腕や手に止まらせると、なかなか引き離せないほど。例え体を持ち上げられ、不利な体勢になっても、長い脚で相手をつかみ、粘りに粘る。この不屈の闘争心が、ヘラクレスオオカブトと並び「世界最強」と言われる所以であろう。
強いのに、なぜ気性が荒いのか? ・・・ヘラクレスオオカブトが生息する南米では、大型カブトムシが少なく競争相手が少ない。一方、本種が生息する東南アジアには敵が多く、戦わなければ生き残れない環境のため、好戦的になったと考えられている。
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参考動画:ヘラクレスオオカブトvsコーカサスオオカブト /海野和男 - YouTube
アトラスオオカブ ト(フィリピン、インドネシア、インドほか)・・・真っ黒だが、光沢があり、光の当たり具合でメタリックに発色する。3本の大きな角をもつコーカサスオオカブトの仲間で、気性がかなり荒く、攻撃的でよく戦う。長い3本の角で相手を押さえ込むように持ち上げる。しかし、木にしがみつく力が非常に強く、簡単には持ち上がらない。コーカサスオオカブトより標高の低い場所で見られる。個体数が多く、安価な外国産カブトムシとしてペットショップやホームセンターでよく売られている。初心者向けの種類と言われている。
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参考動画:アトラスオオカブトの闘い /海野和男 - YouTube
ゾウカブト (中南米)・・・全身が黄色っぽい毛で覆われた大型のゾウカブトムシ。体長も130mmに達する重量感あふれる種類だが、性質はおとなしく、ほとんど闘争することはない。平地にすみ、夜、明かりに集まる。衝突してランプを割るほど重量がある。
アクテオンゾウカブト (中南米)・・・世界で最も重い昆虫としてギネス世界記録認定されている世界最大の昆虫の一つ。コロンビアやペルー、アマゾン川流域に生息。左右から突き出る2本の胸角が特徴で、横幅のある丸っこい体型で重量感がある。「南米の重戦車」と呼ばれている。夜になると飛んで行って、車のガラスを割ってしまうこともあるという。カブトムシの中で幼虫期間が最も長く、4年以上かけて成虫になるという。名前は、ギリシャ神話に出てくる狩人・アクテオンにちなんだもの。最大の全長は120mmで、エレファスよりやや小さい。輸入量は多いが、飼育は15~25℃の飼育温度を維持する必要があることから、やや困難。
エレファスゾウカブト (メキシコ)・・・アクテオンと同じゾウカブトの仲間。大型で体全体に毛が生えている。その長い手足でつかまれると、なかなか引きはがすのが難しい。
マルスゾウカブト (中南米)・・・他のゾウカブトと同じく、重量感と威圧感があるが、性質は温和。黒光りする体と、胸角は太く短いのが特徴。
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参考動画:マルスゾウカブトvsセアカフタマタクワガタ /海野和男 - YouTube
ギアスプランディ (ブラジル)・・・滅多にお目にかかれない中型種。
ボルネオオオカブト (モーレンカンプオオカブト/東南アジア)・・・東南アジアのボルネオのみに生息するオオカブト。体の幅が狭く、大きく伸びる立派な角が3本と独特の金属光沢がある。一般的にアトラスオオカブトよりも大きく、コーカサスオオカブトよりやや小さい。
ケンタウルスオオカブト (アフリカ)・・・アフリカに生息する唯一の大型カブトムシ。アフリカ中央部から西部にかけて分布する。頭と胸に大きな角がある。幼虫は腐植質の土中にすみ、ココヤシや各種樹木の根を食害する。成虫は、主に夜間ココヤシや他のヤシ類の樹液に集まる。地域によって成虫を食料にする所もある。
マヤシロカブト (ホンジュラス)・・・シロカブトの仲間で、艶のある体はヘラクレスに似ている。生息地がメキシコ、グアテマラ、ホンジュラスにまたがるマヤ地域に分布することが、本種の名前の由来である。頭の角が斧のようになっていてカッコイイ。
シロカブト (アメリカ南部)・・・アメリカ合衆国では最大のカブトムシで、アリゾナ州付近に多い。体は光沢のある灰黄褐色で、前バネの斑紋は左右不対象。
グラントシロカブトムシ (アメリカ)・・・北アメリカ最大のカブトムシ。ヘラクレスオオカブトを縮小したような体型で、存在感のあるクリーム色のボディが特徴。砂漠地帯の高い山のある森に生息。マットに潜ったり、体面が濡れると黒っぽく見えるが、乾くと真っ白になる。成虫の寿命は6カ月。全長70mm.
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参考動画:グラントシロカブトvsカブトムシ web /海野和男 - YouTube
ヒルスシロカブ ト (ヒルスオオカブト/メキシコ南部、グアテマラ)・・・ボディの色は白というより黄色みが強く、体長80mmに達する大型種。シロカブト3種の中では、一番長寿で大型化する。種小名は本属の最大種の由来にもなった英雄ヘラクレスの息子ヒルスに由来する。
ノコギリタテヅノカブト (ベネズエラ、コロンビア)・・・前脚が極端に長いのがタテヅノカブトの仲間の特徴で、細い木に登ったり、他の♂との闘争に役立てているらしい。本種はオレンジ色の頭部が目立つ。細長い頭角と胸角が上方に向かって伸びる。標高1800~2000mの高地に生息していて、細い竹の汁を吸っている。
参 考 文 献
「世界のクワガタムシ・カブトムシ カラー図鑑 飼い方」(青木猛、西東社)
「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(監修 須田研司、日本文芸社)
「GET!角川の集める図鑑 昆虫」(丸山宗利ほか、KADOKAWA)
「世界のふしぎな虫 おもいろい虫」(今森光彦、アリス館)
「講談社の動く図鑑MOVE昆虫」(講談社)
「すごい自然図鑑」(監修 石田秀輝、PHP研究所)
「366日の美しい昆虫」(三才ブックス)
「世界のチョウ大図鑑」(福田晴男、国土社)
「大自然のふしぎ 昆虫の生態図鑑」(学研)
「世界一うつくしい昆虫図鑑」(クリストファー・マーレー、宝島社)
「双葉社スーパームック 美しすぎるカブトムシ図鑑」(双葉社)
参考動画:unnokazuo(海野和男) - YouTube
特別展「世界の昆虫展 世界は昆虫であふれている」(秋田県立博物館)
「カブクワ王国」(秋田ふるさと村)