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 2013年5月29日(水)、森の学校第3回目森林インストラクターと行く「玉川水系の酸性水に学ぶ」が開催された。一般参加者21名、講師・スタッフ4名、合計25名が参加。「玉川の水はなぜ青いのか」「田沢湖にクニマスはなぜいなくなったのか」などについて現地で詳しく学んだ。また、玉川ダム上流の戸瀬公園で自然観察会も行われた。

●内容/玉川水系酸性水対策の現状について学ぶ
◆主催/秋田県森林学習館・プラザクリプトン(018-882-5009)
◆協賛/(一社)秋田県森と水の協会 協力/秋田県森林インストラクター会
 講師は、玉川の酸性水や同水系の水力発電に詳しい森林インストラクターの小沼啓作さん。

コース・・・プラザクリプトン先達川真水導水地点見付田玉川酸性水導水地点鎧畑ダム玉川ダム資料室戸瀬公園玉川温泉大噴中和処理施設秋田県玉川温泉ビジターセンター田沢湖
 玉川ダム資料室には、ダムができるまでの経過や役割、「玉川酸性水中和処理の概要」、ダム湖周辺に生息する生物などについて模型、映像、標本、パネル等で気軽に学ぶことができる施設。小沼講師は、展示物を利用して玉川酸性水の中和処理方法などについて詳しく解説してくれた。
 中和方式は「粒状石灰中和方式」と言い、粒状の石灰石が大量に詰まった中和反応槽に玉川温泉の酸性水を流入させて中和する方法である。この施設で玉川温泉の95%を中和処理することができる。大噴でPH1.1〜1.3の酸性水をPH3.5以上を目標に放流しているという。

 石灰石は1日約55トン消費し、それに要する費用は、年間2.3億円。 
玉川の水はなぜ青いのか

 玉川の酸性水には、鉄分とアルミニウムが含まれている。下流に行くに従って、鉄は重いので川底に沈殿する。そのため、川の石が茶色く変色している。一方、アルミニウムは、粒子が小さいので沈殿しない。波長の短い青い光がアルミニウムで散乱され青く見える。田沢湖の水が青く見えるのも同じ理由である。
 玉川ダム宝仙湖の上流部にある戸瀬公園では、清流のシンボル・エゾノリュウキンカやシラネアオイが満開に咲き誇っていた。新緑の森と清流が流れる水路沿いを散策しながら自然観察を行った。気軽に多様な樹木や草花を観察撮影できる素晴らしい公園だと絶賛する声が多く聞かれた。
▲清流沿いに群生しているエゾノリュウキンカ

 清流沿いの水辺や湿地に群生し、鮮やかな黄金色の花を咲かせる。葉の形がフキに似ていることから「ヤチブキ」とも呼ばれている。
▲水面に黄金色の花が映り美しい
▲ネコノメソウ・・・常に清冽な飛沫を浴び、湿度の高い場所に群生する。名前の由来は、昼間の猫の目を閉じた瞳孔にたとえたもの。
▲シラネアオイの群生

 戸瀬公園のシラネアオイの特徴は、紫色が濃く、群生の規模が大きいこと。1科1属1種の日本特産種。和名は、日光白根山にたくさんあり、花がタチアオイに似ていることから名づけられた。 
▲玉川園地自然研究路(一周1kmの遊歩道)を歩いて大噴へ
▲「湯華」をとる樋

 温泉に溶け込んだ硫黄分が樋を黄色に染めている。これを「湯華」と呼び、採取して乾燥させ入浴剤やねり湯華として販売している。
 玉川温泉には、大小さまざまな湧出口があり、中でも「大噴」と呼ばれる湧出口からは、98度の温泉が毎分8、400リットルも噴出、一ヶ所からの湧出量は日本一を誇る。その下流は、幅3mの湯の川となって玉川に注いでいる。この温泉は、PH1.2ほどと日本一の強酸性水で、昔から「玉川毒水」と呼ばれ、魚も棲めない「沈黙の川」であった。
▲かつて岩盤浴する人たちで賑わった岩盤テントはなくなっていた。
▲玉川温泉ビジターセンター・・・ここで昼食。 ▲センター周辺に咲いていたキクザキイチゲ
 ビジターセンターでは、玉川温泉のあゆみや玉川温泉の源・焼山、温泉の危険性、日本一の強酸性泉、玉川毒水などについて学ぶことができる施設。
▲田沢湖

 田沢湖は水深423.4mで日本一、世界でも17番目に深い湖である。面積は25.8km2、周囲20kmと比較的小さいが、貯水量は日本で4番目に多い。かつては、水深100m程度で、水温が4〜5度と周年安定、溶存酸素量も低層まで充分あった。当時は、日本固有の淡水魚・クニマスやイワナ、アユ、ヌマガレイなどが生息していた。
▲大野台スキー場から仙北平野を望む

 仙北平野の開墾は、今から約180年前の文政年間、時の秋田藩主佐竹侯により計画された。玉川を堰止め、延長30kmに及ぶ用水路「御堰(おせき)」が完成したのは1833年。しかし、玉川毒水による農業被害と、度重なる災害に見舞われ、決壊埋没し、空しく荒廃していた。

 「仙北平野には、広大な荒野が残されていた。ここに大きな川・玉川の水を引けないものか・・・」その長年の夢が動き出したのは、昭和12年、「田沢疏水国営開墾事業」である。

 この計画は、玉川の水を田沢湖に流し込んで、その毒性を薄め、生保内発電、夏瀬発電で発電用水として利用し、その下流の神代調整池から放流された水を玉川抱返り頭首工で取水し水田に利用しようというものである。その規模は、県内に例をみない3,000haに及ぶ大開墾事業であった。
▲クニマス標本オス・・・全長25.3cm、採集年月日・大正14年4月1日(仙北市田沢湖資料館) ▲クニマス標本オス・・・全長26.8cm、採集年月日・昭和5年9月12日(仙北市田沢湖資料館)

田沢湖にクニマスはなぜいなくなったのか

 昭和15年1月、電源開発と玉川疎水国営開墾事業により、田沢湖に玉川の強酸性水が導入された。その結果、湖の水質は大きく変わり、水位変動も大きくなり、それまで安定していた環境は失われた。クニマスのほか田沢湖の魚類全てが死滅してしまった。
▲玉川酸性水中和処理施設

 玉川毒水は、2割〜3割の米の減収をもたらし、下流農民を苦しめ続けた。さらに、生活用水にも適さず、発電・河川構造物にも被害を与えていた。その対策として、玉川ダムの一環で玉川酸性水中和処理施設を建設。平成元年10月から運転開始。現在、農業用水の取水地点・玉川頭首工でPH5.7→PH6.5程度に改善され、農業用水基準PH6.0以上を確保している。
▲田沢湖に生息するウグイの大群

 田沢湖ではPH4.7→PH5.3程度に改善されている。今では辰子像の立つ湖岸でたくさんの群れを観察することができる。
▲山梨県西湖で捕獲されたクニマスの標本 ▲生きていたクニマスを喜ぶポスター

生きていたクニマス

 2010年、京都大の中坊徹次教授(魚類学)や、東京海洋大客員准教授でタレントの「さかなクン」らの調査により、70年前に絶滅したはずのクニマスが山梨県の西湖で発見された。環境省は、レッドリストの「絶滅」指定を見直し、本来の生息地以外に移されて生きている種と位置付けて「野生絶滅」に指定している。
参 考 文 献
「玉川温泉 公式ガイドブック」(秋田文化出版)
「玉川」酸性水対策 玉川中和処理の概要」関連パンフレット
HP「田沢疎水は語る」(美しき水の郷あきた)

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