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名前の由来、菅江真澄、俳句、卒業花、採り方、料理、薬効、用途が広いアキタブキ、写真館、白石のフキ
 早春、雪はまだ深いが、日増しに細くなっていく。珍しく暖かい日が続くと、一部雪が解けて土がのぞいた斜面にバッケが一斉にほころぶ。雪国の人々は、雪の下から顔をのぞかせた土と、春の使者・バッケの群れを見るとたいそう喜ぶ。

 バッケは、数ある山菜の中でもトップバッター・・・バッケ味噌にしたり、天ぷらにしたりして食べる。長い冬の間、深い雪の下でじっと耐えた苦しみのせいだろうか・・・ほのかな苦味がある。でも、このほろ苦い味こそ、体調のくずれを癒す妙薬なのである。
秋田県の花、名前の由来

 昭和29年、NHKが全国から「郷土の花」を募集したことがきっかけで、秋田の花に「ふきのとう」が選ばれた。秋田では「バッケ」と呼ぶ。古名「山生吹(やまふふき)」が、フキの名前の由来。「山」は自生地を示し、「生吹」は元気よく伸びることを表現している。
 また、フキの葉は、昔、「尻拭き」に使用した「拭きの葉」から「フキ」になったとする説もある。
 陽射しもすっかり春めいてくると、昼の暖気で解けた雪が、夜間の寒気でカチカチに凍り「かた雪」になる。かた雪になれば春が近い。その雪の上を渡り歩いて、一直線に学校まで歩いた。日当たりの良い土手ともなれば、日増しに薄くなった雪を跳ね除けバッケが顔を出し始める。
菅江真澄「バッケ(ふきのとう)とマンサク」(1785年2月22日、3月6日、小野のふるさと)

 「湯沢に行ったが、高く積もった雪はわずかばかり消え残っているだけで、堤に萌えるバカイ(バッケ)、ヒコヒコ(ギシギシ)を摘み歩き、カコベという器に入れてゆく女が群れていた・・・

 (湯沢市)杉沢とかいう村までくると、村中そこここに垣根をめぐらして黄色の花が咲いていた。この花は一月のはじめ、まだ雪のかかっている垣根に匂う万作という花である。この里のことわざに「まんさくは雪のなかよりいそげども、花は咲くとも実はならぬ」とうたう」
「ふきのとう」を季語にした俳句

ほとばしる 水のほとりの ふきのとう 野村泊月
蕗の薹 春の幸せ ほろにがき 伊藤知子
ほろにがさも ふるさとの 蕗のとう 山頭火

雪国の 春こそきつれ 蕗の薹 西島麦南
バッケ咲ぐ 津軽の野さも 春コくる 佐藤秀隆
 バッケが残雪から顔を出すと、待ちに待った「渓流釣り」もスタートする。太公望たちは、深雪と雪解け水をものともせず渓流へどっと繰り出す。初物のイワナを釣り、初物の山菜・バッケを摘んで、久々に山の幸で一杯飲む。
卒業花=人生の門出を祝う花

 昔、校庭の土手にバッケが顔をのぞかせると、校舎の窓から「蛍の光」の歌が流れた。だからバッケは、別名「卒業花」とも呼ばれていた。早春、萌黄色の小さな芽は、暖かくなるにつれてあっという間にアキタブキと呼ばれる大きなフキに化けるのである。その高さは2mにもなり、大人の背丈を超える。だからバッケは、雪国の「卒業花」=人生の門出にふさわしい花とも言えるであろう。
▲メス花のタネ

 バッケは、雌雄異株で、雄花は、花粉をつけているので遠めにも黄色っぽく見え、あまり大きくならずに枯れる。雌花は、白い花をつけ、種子をより遠くに飛ばすために、50cm程まで伸びる。その後タンポポのような綿毛をつけた種子を風に乗せて飛ばし、生育地を広げる。株は地下茎を横に伸ばして生育場所を広げ繁殖する。 
採り方

 採取は、まだ開かない若芽を選び、手でひねりながら採るか、地際よりナイフで切り取る。手で採る場合は、無造作に採ると途中でちぎれて外側の葉がバラバラになることがあるので注意。
料理

 さっと茹でて刻み味噌汁にはなしたり、天ぷらにする。天ぷらは、油がアクを抑えてくれるのでアク抜きの必要がなく、まろやかで食べやすい味になる。バッケは少し開けかけたものでもOK・・・外皮をとり、姿形よく揚げる。独特の苦味と春の香りを楽しむのがバッケ料理のコツである。

バッケの酢みそ入り天ぷら

 バッケをよく洗い、水気を切って二つに縦割りにする。ボールに味噌、酢、砂糖を入れ、よく混ぜて酢みそをつくる。バッケの上の部分に切れ目を入れ、酢味噌を詰める。ころもを薄めにつけ、中温から高温の油でカラッと揚げる。
バッケみその作り方

 よく水洗いし熱湯で色好くサッとゆでる。冷水にさらし、ザルに上げる。よく水分をとり、細かく刻む。フライパンに油を熱し、刻んだバッケを炒め、味噌、砂糖あるいはみりんを加えて、さらに弱火で炒める。
薬用効果

 バッケはビタミンK、葉酸、クエルチン、ケンフェノール、苦味質、精油、ブドウ糖、アンゲルカ酸を含み、昔から民間療法に使われてきた。せき止め、去たん、解熱、健胃、胃腸病、食欲増進、打ち身、切り傷、虫さされに効く。

 漢方では款冬花(かんとうか)と呼ばれている。陰干しにして煎じて飲んだり、葉の生汁を患部に塗る。
 食用の美味しいアキタブキは、沢筋の水気のある肥沃な場所で、かつ日陰になったところに生えているものが柔らかくて美味しい。特に根元をナタで切ると水が滴るようなものは極上品である。一方、水気が少なく、日当たりの良い場所に生えているフキは硬くて不味い。また赤いものも×。若々しく茎が白味がかった青いものが旬である。
 北海道、北東北に自生するフキは大型で、「アキタブキ」と呼ばれている。野生の種で「アキタ」の県名がつくのは誇らしく、それだけ秋田県を代表する植物だと言える。高さは1.5m~2mにもなる。

菅江真澄「北海道奥尻島のアキタブキ」(1789年、えみしのさへき)
 「この島に生える大蕗(アキタブキ)は、丈の高さは5、6尺で、茎は周囲5、6寸あり、葉は4、5尺の広さがあって、この下に隠れると雨露がしのがれるという」
用途が広いアキタブキ

 秋田音頭には、「コラ秋田の国では 雨が降っても唐傘などいらぬ 手頃な蕗の葉 さらりとさしかけ サッサと出て行くかえ」・・・アキタブキは食べるだけでなく、日よけ、雨よけ、水飲み容器、収穫した山菜やイワナ、キノコを包んだり、イワナの蒸し焼きにも使える。さらに渓流ならどこにでも生え、大変重宝する植物である。
▲クマがアキタブキを食べた痕跡

 ツキノワグマは、アザミ、エゾニュウ、フキ、アイコ、ミズなどの山菜も好物である。タケノコのシーズン以外は、山菜、多肉多汁の植物を食べることから、クマの糞は繊維質を多く含み、黒くベトっとしている。特にタケノコシーズンが終わった7~8月は、沢筋にクマが集まっているので注意。
採り方

 フキの旬は初夏の6月頃。鎌あるいはナイフで根元を刈り取る。一般に葉は切り落とし、茎だけ食用とする。ただし、フキの葉はβ-カロテンが茎の170倍もあり栄養価が優れている。捨てないで、フキの葉みそや佃煮、おひたしなどで食べるとベスト。

捨てないで利用する「フキの葉みそ」

 フキの葉を茹でて水に入れ、細かく刻んで水に1時間ほど浸けてアクを抜く。ザルに上げて水気を絞る。フライパンに油を熱し炒める。甘味噌(みそ、砂糖、酒)を加えて、水分がほとんどなくなるまで炒める。最後に白いゴマを加え混ぜる。甘味噌にニンニクを加えても美味しい。

 夏の硬くなったフキの葉を利用する場合は、葉の葉脈を除いた緑葉の部分だけで「フキの葉みそ」をつくれば、酒の肴になる。
料理

 フキはアクが強く、そのままでは食べられない。熱湯で茹でてから、冷水で冷やして皮をむき、水に一晩ほどさらしてアクを抜いてから調理する。フキの油炒め、フキと魚の煮物、佃煮、味噌汁の実など。

フキの油炒め

 アク抜きして皮をむいたフキを、食べやすい幅で斜め切りにする。油揚げなどを混ぜて油で炒める。唐辛子で辛味をつけると旨味が出る。
保存法

 昔は5月~6月頃、半日で十貫目くらい採った。これを大鍋で茹でて皮をむき、小さな束にフキの皮を束ね、大きな樽に塩漬けにした。食べる時は、流水にさらして塩を抜き調理した。保存は、塩蔵のほか、味噌漬け、粕漬、つくだ煮など。フキは大量に採ることができるので、昔から山菜として食生活に大いに役立つ山菜の代表格である。
バッケ&アキタブキ写真館
菅江真澄「長木川のアキタブキ」(1803年、にえのしがらみ)

 「大館の町を去って長木川を渡った・・・そこに生える山蕗は、阿仁山や太良山のそれに勝って、茎はたいへん大きくて長く、葉が広い」
菅江真澄「白石のフキ」(1802年6月18日、しげき山本)

 「(藤琴川白石沢)ここに白石のフキといって、世間に類のないほど良いものがあり、その葉はたいそう大きく、茎も太く丈高く、やわらかで味も特にすぐれているという。このフキをいまも刈りとる人が多い・・・白石川の源を見るためになおゆくならば、津軽郡尾太岳に至るという。」
参 考 文 献
「薬効もある山野草カラー百科」(畠山陽一、パッチワーク通信社)
「山菜・薬草 山の幸利用百科」(大沢章、農文協)
「ひと目でわかる 山菜・野草の見分け方・食べ方」(PHP研究所)
「山渓名前図鑑 野草の名前 春」(高橋勝雄、山と渓谷社)
「聞き書 秋田の食事」(農文協)
「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
「山菜採りナビ図鑑」(大海淳、大泉書店)
「日本の山菜100 山から海まで完全実食」(加藤真也、栃の葉書房)
「菅江真澄遊覧記1、4」(内田武志・宮本常一、平凡社ライブラリー)