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名の由来、花言葉、春山の妖精たち、菅江真澄、カタクリとアリ、和食・世界文化遺産、摘み草料理、薬効
 北国の遅い春は、春の女神・カタクリで幕を開ける。雪が解け始めると、待ちかねたように山の斜面一面に紅紫色の絨毯を敷き詰めたように一斉に咲く。古くから球根は、片栗粉の原料として、食用、薬用に利用され、若葉は山菜として利用されている。

 秋田では海岸部が4月上旬頃、内陸部は4月中旬~5月上旬頃、一斉に開花する。春告げ花は、カタクリだけでなく、キクザキイチゲやエゾエンゴサクも負けじと開花する。
名前の由来、花言葉

 カタクリは5~6年間は花が咲かず片葉である。その片葉には、鹿の子模様が現れることから、「片葉鹿の子(かたはかのご)」が「カタカゴ」になり、転化して「カタクリ」になったという。花言葉は、咲くその姿から「初恋」・・・カタクリの本場・北アメリカでも「ファーストラブ」である。
万葉の時代から人々に親しまれてきた早春の花

 「もののふの やそをとめらが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子(かたかご)の花/大伴家持」
 「かたかご」はカタクリの古名。寺の井戸に集まって水を汲む少女たちと、その井戸の上の斜面に一面に咲くカタクリの美景をよんでいる。
ユリ科カタクリ属の多年草

 タネから芽生えて7年ほどは葉が一枚しか出ない。その後、葉を二枚つけて花を咲かせる。寿命は15~20年ほどと言われている。日本に一種だけあって、北海道から九州まで生育するが、西には少ない。
スプリング・エフェメラル(春の短い命)

 カタクリは、雪解け直後に地上に顔を出し、すぐに花を咲かせる。花は5日ほどで終わり、本格的な春がくるころには葉のみとなる。初夏になると、葉も枯れ、地中の球根のみとなってそのまま越冬する。その地上に姿を見せる期間はわずか2ヶ月ほどしかない。こうした春植物を「スプリング・エフェメラル(春の短い命)」という。
春山の妖精たち・・・春咲く花は、命短し
▲フクジュソウ(毒) ▲オオイワウチワ ▲エゾエンゴサク (食)
▲エンレイソウ(毒・薬草) ▲キクザキイチゲ ▲ニリンソウ(食)
▲オオタチツボスミレ(食) ▲スミレサイシン(食) ▲オオバキスミレ(食)

菅江真澄 「カタクリ、スミレ」(1797年、外浜奇勝)

 「野路には、スミレ、カタカゴ(カタクリ)の花が咲き交じり、磯辺の山は桜が波の寄せるように盛りとなり、鳥の声にも、くれてゆく春が惜しまれるようになった」

菅江真澄「カタクリ、タチツボスミレ」(1807年、おがらの滝・八峰町)

 「たねまき桜(オオヤマザクラ)はいつが盛りであろうか・・・つぼみの桜が立っている崖にカタカゴ(カタクリ)の花が多く、タチツボスミレの花もかよわげに見えた
カタクリとアリの共存

 種子にはアリが好むエライオソームという物質がついている。この物質に誘引されてアリが食料として種子を巣に持ち帰り、エライオソースのみを食べて種子を巣の近くに捨てることによって生育地を広げている。
カタクリ群生の郷(秋田県仙北市西木村八津・鎌足)

 上の写真は、栗の林床を埋め尽くす花の絨毯。毎年4月中旬ともなれば、栗林の雪も解け、カタクリが林床一面を赤紫色に染め上げていく。春爛漫・・・雪国の百花繚乱の美を気軽に鑑賞できる場所としてオススメである。(開園は、4月中旬~5月上旬)
そり返った花弁

 カタクリの花は、気温が17℃以上になると、赤紫色の花をそり返らせ、蝶の吸蜜を助ける。しかし、日中でも雨や曇天になると雄しべや雌しべを守ろうと、花を閉じてしまう。こうした習性はキクザキイチゲなど早春の花に共通してみられる。
採り方

 ツボミ状態の若芽を選び、根元近くの茎をつかんで軽く上に引き上げると、スポッと白い茎より上が抜けてくる。食べ過ぎると下痢を起こすので、採取は早春の香りを楽しむ程度にとどめるべきである。
料理

 花も含めて全草をさっと茹でてから、冷水にさらし、おひたしで食べるのが定番。ほのかな甘味と歯ざわりが良いのが特徴。ほかに天ぷら、油炒め、汁の実、和え物、酢の物など。
「和食」が世界無形文化遺産に登録

 2013年12月4日、和食が世界文化遺産に登録された。その「和食」の特徴は、①「明確な四季と新鮮で多様な山海の幸」を使用していること、②季節の花や葉などあしらい、美しく盛り付ける表現法や、季節に合った食器の使用、部屋のしつらえなど、「自然の美しさや季節の移ろいを表現」していること、③栄養のバランスが良いこと、④正月や田植えなど年中行事と密接に関連していることだという。

 この定義にならえば、山菜や草花、木の葉、きのこなどの山の幸、イワナ、ヤマメ、アユ、カジカなどの清流の幸を組み合わせた田舎料理も立派な無形文化遺産と言える。
 「摘み草料理」に学べ

 京都北山のさらに奥、京都市内から北へ車で1時間余りもかかる山間地に「摘み草料理」で知られる美山荘がある。立原正秋や白洲正子、司馬遼太郎など多くの文化人に愛された人気の料理宿。もてなしの主役は、朝早く山野で摘み取ったセリ、コゴミ、ツクシ、タンポポ、ワラビ、イタドリ、フキなどの摘み草。季節の摘み草やきのこ、近郷の野菜、川魚を取り入れた美しい料理が人気の秘密・・・「浮世を離れ、花鳥風月に心を傾ける贅沢な料理」「桃源郷」などとも形容されている。
 「春の摘み草料理」とは「芽吹きをいただくこと」・・・「芽吹きをいただくということは、自然の命をいただくこと。人の手で摘んだものを人の手によって蘇らせ、滋味に変える。舌で味わうだけでなく、心と身体を豊かにしていただくのが、春の摘み草料理」・・・料理に日本人の自然観、四季折々の自然美を取り入れる感性、洗練された食文化は素晴らしい。

 秋田の草花は、種類と量が多いだけでなく、品質も一級品。それだけに、「摘み草料理」に学び、「浮世を離れた」秋田で、雪国独自の自然美を取り入れた「お・も・て・な・し」料理を創作していく必要があるのではないか。

 今回の山菜シリーズは、観賞用にとどめていた食用の山野草・・・スミレ類やエゾエンゴサク、エゾノリュウキンカ、ダイモンジソウを摘み草の一つとして取り上げてみたいと思う。
天日乾燥

 乾燥すると上品な香りと歯触りが増し、ゼンマイ同様、高級品扱いだという。さっと湯通ししたら、ムシロに広げ天日干しに。途中、2~3回天地返しをしながら乾燥させる。乾燥したカタクリは、ビニール袋に入れ密封して保存する。
薬用効果

 カタクリのデンプンは、解毒作用や緩和作用があり、かぜ、下痢、胃腸炎、子どもの嘔吐などに用いられる民間薬であった。極めて消化の良いデンプンだが、資源量が少なく生産されていない。今ではジャガイモのデンプンが代役を果たしている。
カタクリ写真館
参 考 文 献
「薬効もある山野草カラー百科」(畠山陽一、パッチワーク通信社)
「山菜・薬草 山の幸利用百科」(大沢章、農文協)
「ひと目でわかる 山菜・野草の見分け方・食べ方」(PHP研究所)
「山渓名前図鑑 野草の名前」(高橋勝雄、山と渓谷社)
「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
「山菜採りナビ図鑑」(大海淳、大泉書店)
「日本の山菜100 山から海まで完全実食」(加藤真也、栃の葉書房)
「週刊花百科 かたくりと春の山野草」(講談社)