本文へスキップ


INDEX ニリンソウ、トリカブト
 カタクリやキクザキイチゲのピークが過ぎると、渓流沿いや林床に大群落をつくるニリンソウが一斉に咲き始める。このニリンソウが満開になると、それに呼応するかのようにホンナ、アイコ、シドケなどの山菜が次から次へと生えてくる。だからニリンソウが開花すると、山は、コダシを下げた山菜採りでにぎわいはじめる。
▲ニリンソウの大群落

 林床が新緑のグリーンの中に点々と星のように咲く白い花の群れ・・・見る者を圧倒するような群落を形成する。これが食用と知れば、食べたくなるのも分かるような気がする。ただし、猛毒・トリカブトの若芽と似ているので要注意!
ニリンソウとアイコ・・・ニリンソウが咲くと山菜御三家も芽を出す
▲二輪咲き ▲三輪咲き 
名前の由来

 キンポウゲ科の多年草で、花期は4~5月。葉は3枚が輪生し、その中心から二輪寄り添って咲くことからニリンソウと名付けられた。しかし、花は必ず二輪とは限らず、一輪から三輪の花をつけるものもある。ちなみにイチリンソウは、花が一輪しか咲かないが、サンリンソウは、二リンソウと同じで一輪~三輪咲きまである。
▲ニリンソウとミヤマキケマン(毒)
▲ニリンソウとトリカブトの混生

猛毒のトリカブトに注意

 ニリンソウは、猛毒・トリカブトと同じキンポウゲ科だが、食用になる山菜の一つ。ただし、ニリンソウとトリカブトは、若葉が似ているだけでなく混成している場合も多く、誤食事故が多い。花芽や花が咲かない若葉は採らないのが無難である。
▲ニリンソウの若葉

菅江真澄「ニリンソウ、シオデ、アザミ」(1795年、津軽の奥)

 「人情のある老人が宿を貸してくれて、夕飯にニリンソウ、シオデ、クマアザミを煮て、この海苔もきょう摘んだのだといってだした」・・・津軽(日本海側・白神)では、200年余り前、ニリンソウを食べていたことが分かる
▲トリカブトの若葉
▲ニリンソウとトリカブトの混生

 上の混生写真二枚を見て、どれがトリカブトか分かりますか・・・花芽や花がなければ、ほとんど識別不能なほど似ている。命をかけてまで食用にする価値はないと思うのだが・・・。
採り方

 猛毒のトリカブトと間違わないためには、花芽や白い花のついたものを確認して一本一本摘み取る。ニリンソウは柔らかいのですぐに摘み取れる。
料理

 花が美しい割にはアクが意外に強い。塩をひとつまみ入れた熱湯で5分ほど茹で、冷水に10~15分ほどさらしてアクを抜いてから調理。おひたし、煮物、汁の実、ごま和え、酢味噌和え、天ぷらなど。花は山の幸料理の彩りに使うと食欲をそそる。
▲ニリンソウの花を、イワナの刺身に添える(料理に季節感を表現)
薬用効果・・・リューマチ、神経痛。根茎を日干しにしたものを煎じて服用する。
トリカブト
 花が美しいトリカブトは、キンポウゲ科トリカブト属の多年草で、日本では約30種自生している。日本の毒草の中では、最も毒性が強い。春先にニリンソウやシドケと間違えて採取し、中毒する例が後を絶たない。誤食すれば重篤あるいは死に至ることもあるので、初心者は、山菜採りのベテランから実地教育を受けるとともに、日頃から自然に学ぶ必要がある。
名前の由来

 名前は、花の形が舞楽を奏でる人がかぶる鳳凰の頭をかたどった兜に似ていることに由来し、「鳥兜」あるいは「兜菊」、「兜花」とも呼ばれている。
▲雪解けとともに芽を出すトリカブト
▲ニリンソウと間違えやすいトリカブトの若葉
全草が猛毒

 トリカブトの根は太く、特に毒性が強いが、全草が猛毒。トリカブトの花や花粉、蜜まで危険と言われるほどの猛毒である。毒成分は植物の中でナンバーワン、天然ものではフグに次ぐと言われている。アイヌは、トリカブトの毒をつけた矢尻でクマやシカを獲った。

菅江真澄「ヒグマとトリカブト」(1789年、えみしのさへき)

 「虎と同じく、ヒグマは自分を恐れないものを怖がるクセがあるという。怒りたけったヒグマに向かっては鋭い鉾も剣もとうてい及び難いが、アイヌの毒矢(毒はトリカブトを使う)はひとすじで射殺す。あるいはアイマツフ(仕掛弓)といって、弓に毒矢を仕掛けておく。その弓弦に糸を張り、その糸に少しでも触れれば、ヒグマでもシカでも、毒矢がさっと飛んできて獣のからだにたち、殺してしまうという」
毒草が薬草に

 トリカブト類は毒物の代表であるが、一方、重要な薬草でもあった。特に中国最古の薬物書である「神農本草経」にも処方が詳しく記され、古くから利用されていた。現在でも、中国四川省では、栽培したトリカブトの根を塩蔵や加熱処理して毒成分を加水分解し、減毒化したものを薬用にしている。
ニリンソウ写真館
参 考 文 献
「薬効もある山野草カラー百科」(畠山陽一、パッチワーク通信社)
「山菜・薬草 山の幸利用百科」(大沢章、農文協)
「ひと目でわかる 山菜・野草の見分け方・食べ方」(PHP研究所)
「山渓名前図鑑 野草の名前」(高橋勝雄、山と渓谷社) 
「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
「山菜採りナビ図鑑」(大海淳、大泉書店)
「日本の山菜100 山から海まで完全実食」(加藤真也、栃の葉書房)