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山菜採りシリーズ⑭ ゼンマイ

名の由来、ゼンマイ道、亀田ゼンマイ織、シーズン、採り方、干しゼンマイ、料理、薬効、ヤマドリゼンマイ
  • プロ向きの山菜・ゼンマイ
     ゼンマイの産地は、ブナ帯の豪雪地帯で交通の便が悪い山間奥地にあるが、良質のゼンマイが多く採れる。茹でて天日でよく干したゼンマイは、1万円/kgで業者が買ってくれたので、昔は、「泊り山」と言って、家族ぐるみで奥地のゼンマイ小屋に泊り込んで、ゼンマイ採りに専念する家族もあった。
     山ではゼンマイだけでなく、ほかの山菜や、山菜採りの合間に釣りなどでとったイワナを焚き火で燻製にして売ったりもした。
  • 名前の由来
     芽出しの渦巻き形の若葉は、銭を巻き込むような格好をしている。この「銭を巻く」という言葉がなまって、「ゼンマイ」となった。
  • 良質のゼンマイ
     清らかな水気が豊富なところ・・・ブナ帯の渓流沿いで、育ちの良い北側斜面・半日蔭になっている崖地のゼンマイは、スクスク伸びて軟らかく味が良い。
  • ゼンマイ道(平成元年撮影)
     ゼンマイ道を歩いていると、ゼンマイ小屋を建てる時に使った資材置き場によく出会った。右の大木の根元、ブルーシートに包まれているのが、その資材である。また、春はゼンマイ採り、秋はマイタケ採りのためのバイクも所々に置いてあった。山間部に住む人々にとって、ゼンマイとマイタケは貴重な現金収入源である。
  • 谷の北側斜面・・・下段に絶滅危惧種1B類のトガクシショウマ、上段にゼンマイの大群生は圧巻
  • ゼンマイのワタ
     ゼンマイにはワタ状のものがからまっている。それを茹でる前にとるか、茹でてからとるかは家によって違った。ワタを寝具に入れる綿代わりに使う場合は、茹でる前にとってよく乾燥させた。
  • 亀田ゼンマイ織
     ゼンマイの渦巻き状の若芽を柔らかく包んでいる綿・・・一般にフク綿と呼ばれている綿と綿花を混紡して織ったもので、防虫性と防水性がある。亀田のゼンマイ織は、1717年、越後から亀田に招いた職工が木綿の亀田縞を織ったのが始まりといわれる。
     ぜんまい織は、明治二十年代に綿布商人の佐藤雄次郎が考案、商品化したとされる。その後、ぜんまい綿、綿花、白鳥の羽根毛を混ぜて織ったぜんまい白鳥織というめずらしい織物もつくられた。現在、亀田ゼンマイ織は、天鷺村の中で実演見学・織物体験(天鷺ぜんまい織)が行われている。
  • スパイク付き地下足袋・金カンジキ、ザイル
     ゼンマイはシダ植物だから湿気の多い痩せた崖地によく生える。だから足下が滑らないよう、スパイク付き地下足袋の上に、アイゼンのような4本爪の特注・金カンジキを履く。特に良質のゼンマイは、素人が入れないような岩場の急斜面に生える。プロは、そうした急斜面の上の灌木類にザイルを結び、命綱を伝って斜面を移動しながらゼンマイを採る
     一日で採るゼンマイの重量は、平均して70キロほど。その重いゼンマイを背負って、分厚い雪渓が残る谷を歩く。だから腰痛や膝痛は職業病と言われているほど難儀な仕事である。
  • ゼンマイ採りシーズン
     ゼンマイは、雪が消えてから半月余りで芽を出してくる。雪渓が残る深い谷が新緑に包まれ、オオヤマザクラの花が咲き始めると、ゼンマイ採りのシーズンである。雪代にイワナが踊り、新緑に染まった斜面には、シラネアオイやトガクシショウマの花が咲き、雪崩斜面の腐葉土にはウドが次々と芽を出し始める。ゼンマイ採りシーズンは、四季の中で最も美しい季節である。
  • ゼンマイとシラネアオイ
▲左上の背の高い胞子葉の二本が男ゼンマイ ▲栄養葉を選んで折り採る
  • 採り方の注意点
     葉の若芽・栄養葉と胞子をつける胞子葉がある。胞子葉は、栄養葉より先に出て、巻き葉が扁平な球状になっているものを「男ゼンマイ」と呼び、採らずに残すことが持続可能なゼンマイ採りの鉄則。従って、栄養葉を選んで、その下の方からしごくようにして、柔らかい部分を折り採る。
  • 初夏、成長したゼンマイ
  • 青干しゼンマイ
     山奥では、天候が悪く、天日乾燥が困難な場合は、釜で茹でてから、火床をつくって焚き火でいぶしながら干し上げたさらに里に持ち帰ってから天日乾燥した。この方法でつくられたものは「青干しゼンマイ」と呼んだ。一方、里山で採り天日乾燥させたものは「赤干しゼンマイ」と呼んだ。
▲写真:2007年マタギサミットin東京(田口洋美東北芸工大教授)
  • ゼンマイの乾燥(赤干しゼンマイ)
     ゼンマイは採取後すぐに根元が硬くなるので、帰宅したらすぐに処理する必要がある。ムシロなどに広げ、霧を吹くと綿がとれやすい。綿をとりながら規格を選別する。鍋にゼンマイの約二倍の水を入れて加熱、沸騰寸前にゼンマイを入れて加熱する。緑色が消えて黄褐色になったら引き上げる。日当たりの良い場所に広げたムシロに、茹でたゼンマイをまんべんなく広げる。
     十分な日光を浴びると1~2時間ほどで赤味を帯びてくる。両手で丸めながらもんでいく乾燥中に5~6回もみながら干し上げる。表面に水分がなくなったら、500gほどを集めて両手で軽く5~6回繰り返してもむ。二回目以降は、同じ要領でもむ。最後は小分けして広げ、乾燥する。時々天地返しをし、仕上げに広げて干し上げる。天気が良ければ2~3日ほどで干し上がる
     乾燥歩留りは生の約1/11、含有水分は11%以下に乾燥させる。乾燥後は、厚めのポリ袋に入れ、乾燥剤を入れて保管する。
  • 乾燥ゼンマイのもどし方
     鍋に水とゼンマイを入れ、火にかけながら熱くなるまで手でよくもみほぐす。熱くなったら湯を捨てて、再度水を入れ、同じことを三度繰り返す。三度目の湯は、しばらく煮立たせてから火をとめ、半日ほどそのまま浸けっぱなしにしておく。
  • 料理
     生でアク抜きしたものも美味しく食べられる。綿毛をとり、重曹を入れた熱湯で茹で、半日ほど流水にさらしてアクを抜き調理する。煮物、油炒め、味噌汁、納豆汁、白和え、クルミ和え、辛子しょうゆ和え、マヨネーズ和え、各種鍋物など幅広く利用できる。
  • 薬用効果
     ゼンマイは乾燥することで栄養価が高くなる。昔から神経痛、かっけ、水腫、りん病、腹痛に効くと言われ、山村の保健食であった。他に催乳、強壮、補血、貧血、利尿、血圧降下。ゼンマイを常食すれば健康上大変有益と言われている。
  • 近縁種・ヤマドリゼンマイ
     ゼンマイが危険な岩場に多いのに対し、ヤマドリゼンマイは里山の明るく開けた湿原などに群生する。市場で売られているのは、ゼンマイよりヤマドリゼンマイの方が多いと言われている。ゼンマイと同じく栄養葉と胞子葉があり、胞子葉の丸く巻いた先端は、栄養葉よりも色が濃い。後から伸びてくる栄養葉の若芽だけを食用にする。
  • 食べられる栄養葉とカズノコ状の胞子葉が、ほとんど同時に出てくる
ゼンマイ写真館
参 考 文 献
「薬効もある山野草カラー百科」(畠山陽一、パッチワーク通信社)
「山菜・薬草 山の幸利用百科」(大沢章、農文協)
「ひと目でわかる 山菜・野草の見分け方・食べ方」(PHP研究所)
「山渓名前図鑑 野草の名前」(高橋勝雄、山と渓谷社) 
「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
「山菜採りナビ図鑑」(大海淳、大泉書店)
「日本の山菜100 山から海まで完全実食」(加藤真也、栃の葉書房)
「山菜と木の実の図鑑」(おくやまひさし、ポプラ社)
「採って食べる 山菜、木の実」(橋本郁三、信濃毎日新聞社)
「おいしく食べる山菜・野草」(世界文化社)
「昭和の暮らし2 山村」(須藤 功、農文協)
「山の仕事、山の暮らし」(高桑信一、山と渓谷社)