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森と水の恵み・山菜図鑑

  •  緑黄野菜の乏しい雪国にとって、山菜は、なくてはならない貴重な食料である。秋田の伝統的な山菜料理は、おふくろの味とも言われ、保存の仕方、戻し方、食べ方に工夫を凝らした利用法が伝承されている。
     「森と水の恵み・山菜図鑑」では、秋田を代表する山菜の見分け方、採り方、簡単な料理法を紹介する。雪国秋田の森と水の豊かさ、大切さ、田舎の味に代表されるスローフードを見直すキッカケになれば幸いである。
  • 森と水の恵み「山の幸定食」・・・雪国の春は、新緑と「山の幸定食」が楽しめる最高の季節である。
  • 雪国の山菜文化・・・雪国・秋田は、ブナ帯に位置している。ブナ帯の山菜は、種類も量も比較にならぬほど豊富で、「山菜文化」とも呼ばれている。早春、山の木々が一斉に芽を吹き、緑の衣をつけはじめる。あたり一面が若緑になると、山は、コダシを下げた山菜採りでにぎわう。

山菜図鑑INDEX
バッケ(ふきのとう) カタクリ ギョウジャニンニク クレソン(オランダガラシ)
アザミ類 アサツキ(ヒロッコ) ヤブカンゾウ コゴミ(クサソテツ)
ツクシ ヨモギ タラノ芽(タラノキ) イタドリ(サシボ)
ニリンソウ 猛毒・トリカブト ホンナ(イヌドウナ) シドケ(モミジガサ)
アイコ(ミヤマイラクサ) ウド(ヤマウド) ワサビ(ヤマワサビ) ミズ(ウワバミソウ
ウバユリ トリアシショウマ スミレサイシン ゼンマイ
ヤマドリゼンマイ ウルイ(オオバキボウシ) コバイケイソウ(猛毒) リュウキンカ
エゾニュウ(ニオサク) ワラビ タケノコ(ネマガリタケ) ヒデコ(シオデ)
アキタフキ 山菜採り、きのこ採りのマナー
春の使者・バッケ(ふきのとう:秋田県の花)
 
  •  バッケ(ふきのとう)は、雪が解け、春の光を浴びると一斉にほころぶ。雪国秋田では、この花を見つけると、待ちわびた春がきたことを実感する。山菜としての利用は、まだツボミが開かない若芽が旬。春の香りとほろ苦さを楽しむ山菜として親しまれている。
  •  バッケは、棚田の畔や道端、沢の土手など日当たりの良い場所に群生する。食用としては、花を包む苞が開ききらないものを選んで採取する。
  • 採り方・・・採取は、まだ開かない若芽を選び、地際よりナイフで切り取るか、手でひねりながら採る。
  • 料理・・・天ぷら、刻んで味噌汁、バッケみそ、揚げ田楽など。独特の苦味が山菜マニアに好まれている。
  • バッケみその作り方
     よく水洗いし熱湯で色好くサッとゆでる。冷水にさらし、ザルに上げる。よく水分をとり、細かく刻む。フライパンに油を熱し、味噌、砂糖を入れて練る。刻んだバッケを入れて、ざっと混ぜる。
春告げ花の代表・カタクリ 
  •  芽吹く前の里山やブナ林の斜面では、足の踏み場もないほどの大きな群落をよく見かける。「春の女王」とも呼ばれ、早春の山野草の中では、最も人気が高いが、全草山菜として利用できる。花がツボミ状態の若芽が旬。
  • 採り方・・・ツボミ状態の若芽を選び、根元近くの茎をつかんで軽く上に引き上げると、スポッと白い茎より上が抜けてくる。食べ過ぎると下痢を起こすので、採取は早春の香りを楽しむ程度にとどめるべきであろう。
  • 料理・・・花も含めて全草をさっと茹でてから、冷水にさらし、おひたしで食べるのが定番。ほのかな甘味と歯ざわりが良いのが特徴。ほかに天ぷら、油炒め、汁の実、和え物、酢の物など。
ギョウジャニンニク(アイヌネギ)
  •  ギョウジャニンニクは、深山で修行する山岳信仰の行者たちが、荒行に耐える強壮薬として好んで食べたことから名付けられた。鱗茎が網目状の繊維で覆われている。北海道ではアイヌネギと呼ばれている。 開いた若芽は毒草のコバイケイソウやスズランと似ているので注意。根際が網目状の繊維に覆われ、ニンニクのような強い臭いが判別の決め手である。
  • 採り方・・・葉が一枚しかつけないものと、二枚のものがある。茎が太く、葉が二枚出るまでには、7〜8年もかかるという。だから茎が太く、葉が二枚のものを選んで採取する。また、根こそぎ採らないように、必ずハサミまたはナイフで一本、一本根元を切り取ること。
  • 料理・・・生食(茎の根元部分)、おひたし、醤油漬け、酢味噌和え、豚バラの油炒めなど。
  • ギョウジャニンニクと豚バラの油炒め・・・根際の網目状の繊維を取り除き、適当な長さに切る。豚バラを炒めた後、ギョウジャニンニクを入れて炒め、万能つゆなどで味付けする。
クレソン(オランダガラシ)
  •  明治の頃、香辛野菜として持ち込まれたものが全国に野生化した外来種。しばしば深山の沢沿いや湧水池にも野生化したクレソンを見掛けることがある。沼の水面を覆い尽くすように群生し、その繁殖力の強さには驚かされる。
  • 採り方・・・ナイフで根元を切り採る
  • 料理・・・生のままサラダや刺身の薬味、天ぷら、煮物、汁の実など。
アザミ類
  •  小沢沿いの斜面にいち早く芽を出したアザミ・・・その仲間は種類が多く、どれも棘だらけで、すぐにアザミと分かるが、何というアザミかとなると区別が難しい。しかし、春の若芽や初夏の若茎は、どの種類のアザミも食べられるから安心だ。
  • 採り方・・・アザミの旬は、雪消え直後に開いたロゼット状の若葉である。葉の先に刺があるので、軍手は必携。手で採らず、根を引き抜かないようにナイフで切り取る。
  • 料理・・・刻んで味噌汁の具、天ぷら、茹でてゴマ味噌和え、おひたし。
  • アザミの酢味噌和え
     アザミを洗って塩をひとつまみ入れた熱湯で、茶色のアクがでるまで長めに茹でる。水にさらし、十分水気を切って適当な長さに切る。酢味噌で和えて器に盛る。
  • アザミのおひたし
  • 初夏の若茎は、ゆでて水にさらし、皮をむいてからマヨネーズで食べると美味い。
アサツキ(ヒロッコ)
  • 道端や畑、土手など身近な場所に生える。昔は、雪が解け出すと、子供たちが「ヒロッコ採り」と称してよく採った。地中にラッキョウに似た球根があり、全草を利用する。
  • 採り方・・・スコップで球根ごと掘り出す。
  • 料理・・・白い鱗茎は、生のまま味噌をつけて食べる。軽く茹でて、おひたしや和え物、天ぷら、炒め物など。
ヤブカンゾウ
  •  山里の村周辺を歩けば、簡単に見つけることができる。しばしば耕作放棄地にも群生している。若芽は緑が鮮やかでみずみずしい。
  • 採り方・・・葉がばらけないように根際からナイフで切り取る。
  • 料理・・・軽く茹でてから水にさらす。軽いヌメリがある。おひたし、酢味噌和え、煮付け、天ぷら、汁の実、油炒め、バター炒めなど。
コゴミ(クサソテツ)
  •  山地の湿っぽい林床や渓流沿いなどに生える。伸び始めた葉の先が、ゼンマイのようにしっかり巻いている若芽が旬。秋田では、頭が低いからコゴミと呼ぶ。あっという間に伸びるので、採取適期は意外に短い。クセのない味で万人に好まれ、今では栽培物がスーパーで売られている。
     山菜として食べるシダ植物には、ゼンマイ、ワラビなどがあるが、アクが強く、下ごしらえが面倒だ。ところがコゴミは、アクもなく下ごしらえも簡単で、万人に好まれる山菜である。
  • 採り方・・・葉が開く前、丸く巻いた若芽の根元部分をナイフで切り採る。ただし、二番芽まで採ると、その株は弱くなるので必ず残すこと。
  • 料理・・・軽く茹でると、鮮やかな緑色になる。胡麻和え、酢味噌和え、マヨネーズ和えが定番。他に天ぷら、汁の実、煮物、サラダ、漬物など料理のバリエーションも広い。
  • 早春の山の幸定食
     左上からバッケ味噌、ギョウジャニンニクと豚バラの油炒め、コゴミとマヨネーズ、左下からヤマワサビの醤油漬け、イワナの塩焼き、カタクリのおひたし
ツクシ
  •  日当たりの良い土手や空き地、荒地などに群生する。10cmくらいのツクシを採る。ハカマを除いた茎だけを茹でてから水にさらし調理。卵とじ、煮物、酢の物、汁の実、胡麻和え、味噌和えなど。
  • ツクシの卵とじ・・・ハカマをとる。熱湯でサッとゆでる。絞って適当な長さに切る。サラダ油で炒める。砂糖、みりん、醤油で味付けして、最後に卵でとじる。
ヨモギ
  •  田んぼの畔や土手、空き地、山野の日当たりの良い場所に群生する。萌え出たばかりの新芽は、草餅やヨモギ団子に利用される。健胃作用や疲労回復に効果があるとされる薬草の一種。生のまま天ぷら、茹でて水にさらし、各種和え物や油炒め、汁の実に。
タラノ芽(タラノキ)
  •  山地の林や原野、林道沿い、伐採跡地などに見られる落葉低木。新芽は古くから人気のある山菜で、今では温室栽培もされている。同じ木の芽では、コシアブラの若芽も有名だが、秋田ではほとんど食べない。
  • 採り方・・・幹が棘だらけなので軍手をし、芽先を折り取るか、ナイフで切り取る。この恵みを持続的に利用するためには、脇芽、二番目は必ず残すこと。
  • 料理・・・ハカマを取り除き、生のまま天ぷらが定番。網の上で焼きながら味噌をつけて食べる味噌焼き、軽く茹でてからおひたしや胡麻和え、酢味噌和え、マヨネーズ和え、煮びたしなど。
イタドリ(サシボ)
  •  秋田では、「さしぼ」・「さしぼっこ」と呼ばれ、由利地方では、この若芽がよく食べられている。ぬるぬるとした食感が特徴。このイタドリの枯れ茎には、イタドリ虫(サシドリ虫)がいて、イワナやヤマメの釣り餌になる。
  • 採り方・・・土から顔を出したばかりの若芽、成長したイタドリとも、手で折り取るかナイフで切り取る。
  • 料理・・・皮をむき塩漬けにしてから、味噌汁や煮物にすると美味い。酸味があるから酢を使った料理が合う。茹でてから水にさらし、酢味噌和えや胡麻和え、酢の物、汁の実、油炒めなどに。生のまま天ぷらや塩をつけても食べられる。
山菜シーズン到来を告げるニリンソウ
  •  カタクリやキクザキイチゲのピークが過ぎると、ニリンソウが咲き始める。やがて、ニリンソウの大群落が満開になると、ホンナ、アイコ、シドケなどの山菜が次から次へと生えてくる。ニリンソウの開花は、山菜シーズンの到来を告げる草花でもある。だから草花たちの観察は、山菜のピークを読むためにも欠かせない。
▲ニリンソウ1 ▲ニリンソウ2
  • ニリンソウとトリカブト(毒)の混生
     ニリンソウとトリカブトは、若葉が似ているだけでなく混成している場合も少なくない。上の写真を見て見分けがつくだろうか。緑色の若葉がトリカブト、薄赤紫色の若葉がニリンソウである。・・・実に紛らわしい。おひたしが定番だが、自信のない方は絶対に手を出さないこと。
猛毒・トリカブトに注意
  •  日当たりの良い雪解けの斜面に群生したトリカブトの若芽。日本の毒草の中では、最も毒性が強い。ニリンソウやシドケと間違えて採取し、中毒する例が後を絶たない。
  •  トリカブトの根は太く(右の写真)特に毒性が強いが、全草が猛毒。トリカブトの花や花粉、蜜まで危険と言われるほどの猛毒である。
  • トリカブト食中毒事故
     最近では、2012年4月8日、猛毒のトリカブトをニリンソウと間違えて食べ、函館市の父子2人が死亡、1人が重症となった。死亡した父子は、山菜採りにもよく行っており、しかも、出かける前に、食べられる山菜と有毒植物の見分け方を植物図鑑で確認していたという。
     それでも山菜のニリンソウとの違いを見極められず、誤ってトリカブトを食べてしまった。この二種は、生えている場所が同じで、かつ早春の若葉の形や色がそっくり。誤食すれば、舌先がしびれ、ひどい嘔吐、痙攣に襲われ、強烈な麻痺が全身に広がって呼吸が止まる。
     古来より本草学の世界では、トリカブトの研究で命を落とす例は数限りなくあったという。日本では、東大教授の白井光太郎博士・・・トリカブトは、猛毒とは言え微量であれば強壮薬、強心剤、興奮剤になるという。その減毒加工を行って、不老長寿の薬にしようと、慎重に実験したが、ついに他界した。
     トリカブト博士でも死亡するほどの猛毒・・・従って、紛らわしいニリンソウは、草花として鑑賞するだけにとどめるべきだと思う。
ホンナ(イヌドウナ)
  •  渓流周辺の湿った斜面に生える。独特の香りと味があり、シドケ、アイコと並び雪国を代表する山菜の一つ。民謡「秋田おばこ」には「おばこどこさ行く/うしろのお山さ/ホナコ折りに」と歌われるほど親しまれている。秋田では、ホンナ、ホナコ、ボンナなどと呼ぶ。
     ホンナ(イヌドウナ)は、キク科の中でも葉がコウモリやカニのような形をしているので覚えやすい。葉の形によって数種類あるが、どれも食べられるので安心。もちろん若芽や若葉の頃が旬。
  • ホンナ(イヌドウナ)・・・秋田では、葉の付け根が大きなヒレのようになったヨブスマソウの変種・イヌドウナが良く利用されている。
  • 採り方・・・手で軽く折れる硬さのところから採取する。
  • 料理・・・軽く茹でて、水にさらし、鰹節をふりかけたおひたしが定番。他にごま和えや酢味噌和え、油炒め、天ぷら、汁の実など。アクは少なく、鍋物に入れても、煮物に入れても味が良くしみて美味しく食べられる。長期保存は塩漬け。
山菜の王様・シドケ(モミジガサ)
  •  山菜特有の香りと苦味があり、ブナ林を代表する山菜の一つ。葉が開く前は傘のように垂れ、葉が開くとモミジの形をしていることからモミジガサと名付けられた。渓流沿いの斜面などに生える。秋田では、シドケと呼ばれ、山菜の王様として重宝されている山菜の一つ。
  •  一般に、沢沿いの下にアイコ、上の斜面にシドケが生えている。開いた葉の形がモミジに似ていて光沢があり、写真の被写体としても一級品。茎が太く、葉が開ききらない若芽の頃が旬。
  • 採り方・・・採取は、できるだけ茎が太いものを選び、手で自然に折れるところから折るのがコツ。少々面倒だが、一本、一本根元をナイフで切り取ると、見た目が美しく後始末も簡単である。
  • 料理・・・おひたし、天ぷら、汁の実、煮付け、油煮、ごま和えなど。長期保存は、塩漬けや茹でたものを天日で乾燥させて保存する。
  • シドケの天ぷら
▲シドケのおひたし ▲シドケとアイコのおひたし
  • 山菜のおひたし
     山菜特有の香り、歯ごたえ、うまみを簡単な調理で味わうのが「おひたし」。まず塩を一つまみ入れて大鍋を沸騰させる。熱湯に山菜を根元から入れ、再度沸騰したらOK。茹ですぎると風味を損なうので注意が必要だ。茹でたら、素早く冷水にさらす。かたく絞ってからかつお節をふりかけ、醤油、ごま醤油などで食べる。
山菜の女王・アイコ(ミヤマイラクサ)
  •  シドケと並びブナ林を代表する山菜。大きく伸びたアイコは、全草に鋭い刺があるのが最大の特徴で、素手で触ると悲鳴を挙げるほど痛いので注意。深山刺草(ミヤマイラクサ)と呼ぶように、山菜として深い山地の沢沿いに群生している。山菜特有のクセがなく、万人向きの山菜である。
  • 採り方・・・全草にトゲがあるので、必ず軍手をはめて採る。腐葉土が厚い所では、土中に入った茎の部分は意外に深い。できるだけ深い根元から採取するには、手前に折り返すように折り採るのがコツ。
  • 料理・・・おひたしは、塩をひとつまみ入れた熱湯でサッと茹でてから冷水にさらす。一本一本皮をむいてから適当な長さに切り、マヨネーズやかつお節をふりかけ、醤油をつけて食べる。他に和え物、汁物、炒め物、一夜漬け、味噌漬けなど。
▲アイコの葉は、味噌汁の具に利用する ▲アイコの葉とエノキタケの味噌汁
▲熱湯で茹で、水にさらし皮をむいてから調理する ▲アイコのおひたし
▲アイコ、コゴミ、シドケのおひたし ▲アイコとシドケのおひたし
  • 山菜の和え物
     おひたしに一工夫加えた調理法が和え物。酢味噌和え、ゴマ和え、豆腐を使った白和え、辛子と醤油を混ぜた辛し和え、クルミやピーナッツをすって和えたものなど。
ウド(ヤマウド)
  •  腐葉土が雪崩で堆積した崩壊斜面に極上のウドが群生する。反対に腐葉土が浅く痩せた斜面のウドは品質が劣る。土から顔を出したウドは、姿、形ともに美しく、被写体としても魅力的な山菜である。
  • 食べ頃のウド畑。生長しても先端の柔らかい部分は食べられる。
  • 採り方・・・落葉を取り除き、根元深くナイフを突き刺し切り取る。深山のウドは根も茎も太く、ボリューム満天で採るのがすこぶる楽しい。
  • 料理・・・茎は味噌をつけて生食、酢味噌和え、ゴマ味噌和え、納豆和え、若芽は天ぷらが定番。ウドの変色を避けるには、酢水にさらすこと。皮を使ったキンピラも美味い。
▲ウドのキンピラ ▲ウドのステック
▲山菜の天ぷら ▲ウドの天ぷら
  • ウドのドレッシング和え
     ウドは皮をむき、拍子切りにし、水に入れてアクを抜く。その他の野菜(きゅうり、ピーマンなど)を千切りにする。ウドのミズを切り、他の野菜と一緒に盛り付け、ドレッシングで和えて食べる。
  • 雪解けの雪崩斜面に次々と芽を出した山菜たち
     同じ斜面にシドケ、ウド、アイコが一斉に萌え出すと、春の山菜採りはピークを迎える。
  • 山菜ピークの頃の山の幸
     ホンナ、ウド、タラノメ、ミズ、シドケ、アイコ・・・「食」をベースに考えると、山菜がピークに達する春から初夏の山がベストシーズンと言える。
清流のシンボル・ワサビ(ヤマワサビ)
  •  ワサビは、傾斜がきつく、きれいな水が湧いているか、斜面のすぐ下に伏流水が流れているような湿っぽい清流沿いに大きな群落をつくる。周囲の林相は、サワグルミ林の場合が多い。採取時期は、春から初夏、白い花を咲かせる頃である。鼻にツンとくる独特の辛みと風味が特徴。
  • 採り方・・・野生のワサビの根は、意外に細く小さい。持続的な利用を考え、根は太いものだけを選び、数本採るだけに止める。ワサビの本命は、根を除いた若葉と花茎・・・だからナイフや鎌で刈り取るのがコツ。
  • ワサビの若葉・・・ワサビの葉は、艶のあるハート形で美しい。
  • 料理・・・茎と葉を細かく刻み、湯通し又はさっと茹でてから、冷水で冷やす。おひたしや和え物、一夜漬けに。根はすりおろし、刺身の薬味に。花は料理の彩りに使うと食欲をそそる。大量に採取した時は、粕漬けや万能つゆに漬け込むと美味い。
  • イワナの刺身には、ヤマワサビがベスト
  • 山ワサビの醤油漬け
     山ワサビをよく洗い、食べやすい長さに刻む刻んだワサビをザルに入れ、上から熱湯をまんべんなく注ぐストックバックに入れ、万能つゆを注ぐ冷蔵庫で冷やす・・・一晩寝かせば出来上がり
ミズ(ウワバミソウ)
  •  春から秋まで長い期間食べられるだけに、最も利用されている山菜の代表格。上の写真のように沢筋の湿地帯に「ミズ畑」と呼ばれる大群落を形成し、大量に採取できる。クセもなく、どんな調理にも合う。根元の色によって、アオミズ、アカミズと区別している。
  • 採り方・・・根が太く赤味の強いものを選び、根際から一本づつ根を残すように折り取るか、ナイフで切り取る。束ねたら、葉の部分をねじり取って茎だけ採取する。
▲ミズは皮をむいてから調理する ▲ミズの油炒め
  • 料理・・・ミズたたき、即席漬け、汁の実、煮付け、おひたし、油炒め、卵とじ、和え物など。
  • ミズの即席漬け
     ミズは葉とヒゲ根をとってよく洗い、皮をむく。沸騰したお湯に塩をひとつまみ入れてゆで、冷水にさらしてから、3〜4cmほどの長さに切る。みじん切りにしたショウガと塩をふり、指先で軽くもみながら混ぜ合わせる。塩昆布で混ぜ合わせると簡単である。数時間で食べられる。
  • ミズたたき
     アカミズの葉をとってざっと熱湯を通し、ビニール袋に入れ、その上からすりこぎでたたいてつぶす。さらにまな板の上で粘りが出るまで包丁でたたく。これに味噌を入れて混ぜながら軽くたたいて、最後に山椒の葉(またはニンニク)を細かく刻んで入れる。小鉢に盛り、山椒の葉を添える。
▲ミズの雄花 ▲ムカゴ状の実「ミズのコブコ」
▲採取したミズのコブコ ▲ミズのコブコの松前漬け
  •  9月頃になると、茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実がつく。秋田ではミズのコブコと呼んでいる。カモシカは、ミズのコブだけを選り分けて食べるくらいで、人間にとっても大変美味い。ミズのコブだけを採取したものを味噌漬にすると、粘りのある美味しい漬物「ミズのコブコ漬け」ができる。
ウバユリ
  •  開く前の若葉を採る。茹でて、おひたし、和え物に。
     鱗茎は、秋に掘る。掘り取った鱗茎は、塩茹でしてから、和え物や煮物、天ぷらなどに。
トリアシショウマ
  •  トリアシショウマは、茎が赤褐色の毛が密生していて、茎の途中から三本に分かれている。まるで取りの足に似ていることからトリノアシなどと呼ばれている。太い茎を選び、自然に折れるところから折り取る。茹でておひたし、和え物に。
スミレサイシン
  •  春、先端が尖った円心形の葉と淡い紫色の花をつける。全草が食用として利用できる。若芽と若葉は、和え物、天ぷら、花はサラダ、酢の物、天ぷら、根茎はとろろに合う。
ゼンマイ
  •  ゼンマイは雪崩の多い危険な急崖に生える。それだけに山のプロと呼ばれる人たちが採る山菜の筆頭である。沢沿いの湿り気のある急斜面を好み、大群落を形成する。春先の若芽は、銭がクルクル回転しているように見えるので、銭舞(ゼニマイ)と呼ばれたことから名付けられた。ちなみに時計のゼンマイは、このシダ植物の名前が由来だという。
胞子葉が開いているのが「男ゼンマイ」
  • 採り方の注意点・・・葉の若芽と胞子をつける胞子葉がある。胞子葉を「男ゼンマイ」と呼び、採らずに残すことが持続的なゼンマイ採りの鉄則である。従って、栄養葉を選んで折って採る。
  •  かつては、山の中に造ったゼンマイ小屋に泊まり込み、ゼンマイ採りに専念する家族もあった。夫がゼンマイを折り、妻が天日で乾かしていく。プロのゼンマイ採りは、夫婦二人の共同作業が基本だった。今では奥山でゼンマイを採る山人を見かけることがなくなった。
  •  ゼンマイには山地に自生地としているゼンマイと、里山周辺の湿地に自生しているヤマドリゼンマイの2種類がある。共に美味しい。  
  •  採取したゼンマイは、その日のうちに処理する。重曹や木灰を入れた釜でゆで、蓋をして一晩おき、流水で洗ってアクを抜く。昔は、囲炉裏に吊るした干棚で、燻製のように燻しながら干したが、今は天日乾燥が一般的である。
  • 山村のゼンマイ干し(羽後町田代)
     乾燥ゼンマイは、アク抜きしたゼンマイを天日で干しながら丹念に手でもみ、完全に水気を抜いたもの(天日干しは3日ほど)。ゆでたゼンマイをムシロに広げて干し、まだ柔らかいうちに両手で丹念にもむ。緑色のゼンマイは、干しあがると黒っぽくなる。こうして乾燥すれば、長期保存が可能で、かつ香りが豊かになり、うまみも増す。
  • 料理・・・味噌汁、煮物、和え物、油炒め、天ぷら、納豆汁、各種鍋物など
  • 干しゼンマイの戻し方
     人肌ぐらいの湯に5〜6分つけて、少し柔らかくする。そのゼンマイを60度くらいの湯に浸し、自然に冷ます。この時アクが出て、液が茶色になる。これを3〜4回繰り返して、アクを抜きながら徐々にもどす。
ヤマドリゼンマイ
  •  ゼンマイとして食用に利用されているのは、ゼンマイとヤマドリゼンマイの二種。ゼンマイは危険な岩場に多く生えるが、ヤマドリゼンマイは高原の開けた明るい草地、湿地に生える。その名は、山鳥の住むような所に生えることに由来する。ゼンマイに比べ楽に採取でき、味もゼンマイに劣らない。
  •  ゼンマイは白っぽい綿毛を被っているのに対し、茶褐色の綿毛を全身に被っている。綿毛と芽先の巻いた部分は取り除き、ゼンマイと同様、茹でた後干して保存する。干しゼンマイとして売られているものは、ヤマドリゼンマイの方が多いと言われている。
ウルイ(オオバキボウシ)
  •  山に生える多年草で、7月頃になると薄紫色の美しい花を咲かせる。食べるのは若葉の丸まったものや葉柄で、葉柄だけは大きくなっても食べられる。地上に芽を出した若芽は、毒草のコバイケイソウと似ているので注意。(上の写真は、リュウキンカが咲いていた湿地帯に生えていたウルイ)
  • 渓流沿いの日当たりの良い湿った斜面などに生える。
  • 採り方・・・葉の開かない丸まっているものが旬、その茎の部分をナイフで切り取る。若い葉でも苦味が強いので、葉の部分は手でちぎり、茎の部分だけ採取する。
  • 料理・・・刻んで味噌汁。茹でてから、冷水にさらし、マヨネーズ、ワサビ、ゴマなどで和える。また、一夜漬けも独特のヌメリと歯応えがよく美味い。
コバイケイソウ(猛毒)
  •  雪解けの湿った場所に群生するコバイケイソウ。若芽がギボウシ類やギョウジャニンニクに似ているので注意。コバイケイソウとバイケイソウは、共に根茎が死に至るほどの猛毒。
リュウキンカ
  •  渓流沿いの湿地や沼地、高山の湿原にも生える草花で、鮮やかな黄金色の花と光沢のあるハート型の大きな葉が特徴。春から初夏にかけて、柔らかな茎と葉を摘み取る。
  • 料理・・・茹でて、おひたし、和え物に。
エゾニュウ(ニオサク)
  •  沢沿いの適度な湿り気のある半日蔭のような所に生える。株の真ん中の若い茎を切り取り、皮をむいて塩蔵する。アクが強く、すぐに食べられない。ただし味はすこぶる美味。
  • 料理・・・煮物、油炒め、煮付け、天ぷら、汁の実など。
▲夏、クマはこの大型の草を好んで食べる。
  •  エゾニュウは香りが強く、口にすると舌にセロリのような刺激がある。クマは、この味を好むらしく、夏になると、沢沿いの到る所で食べた痕跡がみられる。ヒグマも夏はエゾニュウを好んで食べる。
ワラビ
  •  最も身近で美味しい山菜の代表。伐採跡地など日当たりの良い草地や川沿いの土手などに生える。(写真は、先端のホダを取り除いたワラビ)
  • 採り方・・・まだ葉が開かないコブシ状で、太いものを選び、自然に折れるところから折り取る。
▲先端のホダを取り除く ▲重曹をふりかける ▲熱湯を注ぎ蓋をして一晩おく
  • ワラビのアク抜き
     ワラビは洗って硬い根元を切ってから、指先で先端部分のホダをとる。大きめの容器にワラビを並べる。木灰又は重曹をふりかける。熱湯をワラビが完全に隠れるまでムラのないように全体に回しかける。蓋をしてそのまま翌朝まで置く。
     翌朝、アク水を捨て、ワラビを冷水の中につけて数回水をとりかえるか、1〜2時間流水にさらしてから使う。
  • 料理・・・おひたし、たたき、しょうが和え、汁の実など。
  • ワラビの長期保存法
     ワラビはたくさん採って樽に漬け込み、長い冬の食糧として蓄える。採ってきたワラビを次々と樽に積み重ね、その度に真っ白になるほど塩をふって重石を置く。褐色の水がしみ出て蓋の上まで上がってくるが、そのままにして次のワラビを積み重ねていく。アク抜きをしなくても食べられるようになる。
     また、ゼンマイと同様、天日で乾燥させた干しワラビにして保存する方法もある。
  • 現場で楽しむ山菜料理・・・右下からワラビ、シドケ、アザミの茎、ウルイ、ウドのきんぴら
タケノコ(ネマガリタケ)
  •  5月下旬から6月、ブナ林などの下に大群落をつくるササの仲間。タケノコは、数ある山菜の中でも間違いなく横綱級の美味さ・・・その美味さは一度食べると病み付きになるほど美味い。しかし、早朝、魔の笹薮に飛び込み、タケノコ採りに夢中になる余り、方向を見失い、遭難するケースが絶えないので注意。
  • 採り方・・・標高1000m前後の山に生えるタケノコは、太く味もすこぶる美味い。笹薮の地上に少し顔を出したくらいのタケノコが旬。土をはらい根元近くを起こして折りとる。
  • タケノコの皮むき・・・100円ショップで売っている万能皮むき器が便利である。
     タケノコの先端から根元にかけて、一筋の切れ目を入れるだけで簡単に皮を剥くことができる。長刀のように伸びたタケノコは、節々が硬いので硬い部分を包丁で切り落とし、軟らかい部分のみ食用として使う。
▲サワモダシ(ナラタケ)を入れたタケノコ汁 ▲シンプルなタケノコの味噌汁
  • 料理・・・アクがほとんどなく、味は上品で淡白、香りや舌ざわりもすこぶるよく、雪国では最も人気が高い山菜の一つ。採りたてのタケノコをその場で調理し食べるタケノコ汁は格別に美味しい。皮をむかずに、焚き火で焼いてから、味噌をつけて食べる焼きタケノコ、天ぷら、タケノコとブナカノカ(ブナハリタケ)の煮付けなど各種煮物、鍋物など、どんな料理にも合う。
  • タケノコ汁
     あたためた鍋にサラダ油で豚肉を炒め、水とタケノコを入れる。アクをすくいながらタケノコが柔らかくなるまで煮る。八分目ぐらい煮えたところで、コンニャク、ニンジン、味噌を入れ、味がしみこむまで煮込む。
  • タケノコの長期保存
    皮をむき、タケノコの缶詰で保存するのが一般的である。
▲クマがタケノコの皮をむいて食べた痕跡(6月上旬、八峰町真瀬川中ノ又沢県境稜線) ▲クマの糞は、100%タケノコ(6月中旬、仙北市田沢湖町大深沢支流ヤセノ沢源頭)
  •  初夏になるとクマは、チシマザサの若芽が土から顔を出す場所を移動しながら一ヶ月もタケノコを食べ続けるという。従ってクマと遭遇する機会も多く、人身被害も絶えないので注意。
  • クマ被害防止対策・・・一人ではなく複数で行動すること。クマ避け鈴やラジオ、笛を鳴らすなど、クマに対して常に自分の存在をアピールすること。残飯や生ゴミは絶対に捨てないこと。襲ってきたら、熊撃退スプレーが有効と言われている。
山のアスパラガス・・・ヒデコ(シオデ)
  •  秋田では「ヒデコ」と呼び、民謡「ひでこ節」に登場するほど馴染み深い山菜の一つである。「十七、八 ナ/今朝のナァ/若草/どこで刈ったナァ/このひでこナア/アラヒデコナァ・・・」。若い男女が、山菜のヒデコを採る時に歌った唄である。
     山野の日当たりの良くないところに生えるつる草で、ほかの植物にまといついて生長する。稀に大きな群生もみられる。一番生え、二番生え、三番生えと摘むことができる。
  • 料理・・・ベーコン巻き、おひたし、三杯酢、白和え、からし和え、味噌と納豆和え、煮びたし、すまし汁、煮付け、天ぷらなど料理のバリエーションが広い。
アキタフキ
  •  秋田名物の秋田フキは、秋田市仁井田地区で栽培されており、6月頃には6〜7尺にも達する。盛りの時は、「フキ林」を見るようだったという。この大型の変種・アキタフキは、秋田から岩手県以北、北海道に分布しており、野生のものでも高さ1.5m〜2mにもなる。別名オオブキとも呼ばれている。
  • 採り方・・・フキの旬、刈り取り時期は初夏の6月頃。ナイフで切り取ったフキの芯から、雫が滴るようだと極上品。切り口の真ん中が黒褐色に汚れているものは、虫に食い荒らされた跡なので捨てること。葉も切り落とし、茎だけ食用とする。
  • 料理・・・フキはアクが強く、そのままでは食べられない。熱湯で茹でてから、冷水にさらした後、一本づつ丁寧に皮をむいてから調理する。フキの油炒め、煮物、佃煮、味噌汁の実など。
  • フキの長期保存
     大鍋で茹でて、皮をむき、小束にフキの皮で束ね、大きな樽に塩漬けにする。食べる時は、流水にさらして調理する。他に味噌漬、粕漬、佃煮、砂糖漬などがある。
山菜採り、きのこ採りのマナー
  1. 国立公園の特別保護地域など、植物や昆虫などの持ち出しが一切禁止されている地域での採取は厳禁。
  2. 私有地や森林組合などが入会権を持っている場所は、当然のことながら採取禁止で、決して立ち入らないこと。こうしたエリアには「山菜採り、キノコ狩り禁止」といった表示板が多い。
  3. 山菜は採り過ぎると、その場から消えてしまう種類が多い。良いものを選び、間引くように採取するのがコツ。
     ・例1: タラノメ・・・3番芽までつむと芽が出てこなくなるので、採取を慎むこと。
     ・例2: ゼンマイ・・・褐色の胞子のうのついた男ゼンマイは採らずに残す。
  4. 山菜以外の山野草類をみだりに採取しない。
  5. ゴミは全て持ち帰ること。
参 考 文 献
「あきた郷味風土記」(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
日本の食生活全集⑤「聞き書 秋田の食事」(農山漁村文化協会)
「阿仁川流域の郷土料理」(モリトピア選書9、建設省東北地方建設局森吉山ダム工事事務所)
「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)
「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
「ブナの森と生きる」(北村昌美、PHP新書)
「釣り人のための山菜・きのこ」(菅原光二著、つり人社)
「山菜と木の実の図鑑」(おくやまひさし、ポプラ社)
「うまい雑草、ヤバイ雑草」(森昭彦、ソフトバンククリエイテブ)
「山野草カラー百科」(主婦の友シリーズ、主婦の友社)
「山菜採りナビ図鑑」(大海淳、大泉書店)
「日本の山菜100 山から海まで完全実食」(加藤真也、栃の葉書房)
「OutdoorBooks5 山菜&きのこ採り入門」(大作晃一、山と渓谷社)
「OutdoorBooks13 山菜、キノコ、木の実採り入門」(鈴木アキラ、山と渓谷社)