本文へスキップ

山野の花シリーズ③ フクジュソウ(福寿草)

 フクジュソウは、雪国に春一番を告げる草花の代表である。だから、バッケと並び「春の使者」と呼ばれている。雪解けとともに鮮やかな黄金色の花を咲かる。昔から幸福と長寿を呼ぶめでたい花として愛され、正月の床飾り用として鉢植えがよく出回っている。別名ガンジツソウとも呼ばれている。開花後に茎が伸び、葉が広がる。花は光を受けて大きく広がり、雨天時には閉じる。
フクジュソウ(福寿草、キンポウゲ科)

 雪解けとともに地表にツボミと芽を出し、数cmの高さで黄金色の花を開く。この頃が最も美しい。やがて草丈は15~30cmにもなる。江戸時代から栽培され、園芸品種も多い。花が終わると、金平糖に似た果実をつける。花期は3月から4月。生育場所は山地の林下。花言葉は、永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福。
名前の由来

 早春に黄金色の花を咲かせることから、一番に春を告げるという意味で「福告ぐ草」という言葉は江戸時代に使われた。その後、ゴロが悪いので、おめでたい「寿」と差し替えられ「福寿草」となった。この「寿」は、長寿の意味もあり定着したという。
フクジュソウのツボミ

 落葉に埋め尽くされた森の中に入る。まだ花は開かず、淡黄色のツボミが数株群れ、何とも可愛いい。分厚い落葉をかき分けると、白くスベスベした茎が意外に長い。そのツボミを顔に見立てれば、そのすぐ下にある羽状の葉が、首に緑の襟巻きを巻いたようにも見える。時折、頭上から陽が差し込めば、一斉に笑い出す。一転、小雪が散らつくと、寒さで震えているようにも見える。
絶滅危惧種から、一転ランク外に

 北国では、初春の山歩きで最もポピュラーな花だが、全国的には、個体数が危機的水準にまで減少しているらしく、2000年版のレッドデータブックでは、絶滅危惧種2類に指定されていた。しかし、2007年8月の見直しによって、ランク外となった。
春一番の陽光に踊り出す

 ツボミから花が開く頃になると、花の下だけでなく、茎の中間部にも羽状の葉が出てくる。春一番の陽光に、襟巻きと緑のスカートをまくり上げて、ダンスを踊っているようにも見える。
山間部では、日当たりの良い棚田斜面にも生える

 棚田の斜面に、雪解けを待ちかねたように花を咲かせたフクジュソウ。暖かい陽射しが降り注ぐ斜面は、花の開く角度も大きく、黄色も鮮やか。花の色は、光沢のある鮮やかな黄色で、残雪に一際映えて美しい。しかし、その美しい草花も、木々が芽吹く頃には枯れてしまう。
 下から虫の目線で撮影すれば、黄金色に輝くチューリップのようにも見える。フクジュソウの生息環境は、やや湿った落葉広葉樹林の林床で、特に石灰岩地を好むらしい。沖縄を除く北海道から九州まで分布するが、北海道や東北に多く自生している。
全草が有毒

 全草が非常に危険な有毒植物で、死亡例もあるという。地面から芽を出したばかりの頃は、フキノトウと間違えて採取し、中毒を起こすらしい。全草に強心配糖体のシマリンやアドニトキシンが含まれ、摂取すると、嘔吐、下痢、呼吸困難、心臓麻痺を引き起こし、重篤になれば絶命することもある。一方、毒は薬になるらしく、昔からこの根を煎じて強心剤、利尿剤など薬草として利用されてきた。ただし素人が手を出せば、中毒を起こす危険も大きく、ただ鑑賞するだけにとどめたい。
フクジュソウと里山の保全

 写真は二次林の雑木林だが、ようく眺めてほしい。林床には、低木や笹がほとんど無いことが分かるだろう。これは村人が定期的に下草を刈っている証拠。だから日当たりもいいし、地面に落ちた大量の落ち葉でフカフカ状態を維持することができる。こういう場所は、フクジュソウにとっても天国。こうした村人たちのたゆまぬ維持管理があるからこそ、フクジュソウの群落が保全されていることを見落としてはならない。
映画「幸福の黄色いハンカチ」

 眼に鮮やかな黄色い花を見ていると、山田洋次監督の名作「幸福の黄色いハンカチ」を思い出す。殺人罪の服役を終え、刑務所から出てきた男・健さん。その男を出迎える妻・倍賞千恵子さんが飾った「黄色いハンカチ」。何枚もの黄色いハンカチがはためく感動のラストシーンは、何株もの黄色いフクジュソウと重なるものを感じる。
フクジュソウと虫

 鮮やかな黄色に誘われて、次から次へと虫たちがやってくる。フクジュソウに集まる虫は、ハエやハナアブの仲間が多い。体長わずか3mmほどのハモグリバエは、フクジュソウの葉に穴をあけて潜り、トンネルを掘りながら内部を食べて成長するという。
フクジュソウが虫を呼ぶ高等戦術

 フクジュソウの咲く頃は、まだ寒く虫は少ない。フクジュソウが、その少ない虫たちを引き寄せる戦略は・・・光を良く反射する花びらを開き、太陽光を集めるパラボラ太陽光のような働きで虫を温めるサービスを行っている。花の上で温められ、元気になって次のフクジュソウに飛び、また冷めた体を温める。この時、花粉が運ばれ受粉させるという高等戦術を駆使しているのである。
棲み分け

 他の植物と競争することを避け、雪が解けるとトップに咲くことによって生き延びてきたといわれている。ここにも「弱肉強食」ではなく、見事な「棲み分け」で多様性を維持してきたことが分かる。
▲スプリング・エフェメラル・・・アズマイチゲの群落と福寿草
 元旦や 一輪開く 福寿草 (正岡子規)
 水仙の 冬にならんで 福寿草 (正岡子規)
 福寿草 家族のごとく かたまれり (福田蓼汀)
 裏山に えくぼの日ざし 福寿草 (成田千空)
参 考 文 献
「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
「奥羽山脈 雪国の草花」(雪国の草花刊行会)
「関東周辺 花の山歩き」(淡交社)
「うまい雑草、ヤバイ野草」(森昭彦、ソフトバンク クリエイティブ)
「山渓名前図鑑 野草の名前 春」(高橋勝雄、山と渓谷社)
「山渓カラー名鑑 日本の野草」(山と渓谷社)