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山野の花シリーズ⑤ オオイワウチワ+春を告げる木の花

INDEX オオイワウチワ、春を告げる木の花
 雪国の山村では春一番を告げる花がフクジュソウとバッケだが、ブナの森ではオオイワウチワである。ブナが芽吹く前、雪解けと同時に咲き、淡い新緑に包まれると、はかなく消えてしまう。けれども、葉が大きく一年中常緑であることから、スプリング・エフェメラルの中には入らない。
オオイワウチワ(大岩団扇、イワウメ科)

 葉の脇から花茎を直立し、1個の花を咲かせる。淡いピンク色の大きな花は、静寂の森にふさわしく、清楚で美しい。ブナの森に大きな群落をつくる。葉の質は厚く、光沢がある。葉の縁は、ノコギリの歯のように波状になっていてイワカガミに似ている。花が咲けば一目瞭然だが、葉で見分けるポイントは、イワウチワの葉先はへこみ、イワカガミの葉先は丸い。
名前の由来

 岩地に生え、葉が団扇(ウチワ)に似ることから岩団扇(イワウチワ)。青森から新潟の日本海側に生育するイワウチワは葉が大きいので、大岩団扇(オオイワウチワ)と呼ばれている。
花 期・・・4~5月

 ブナ林が芽吹く前は、山全体の見通しがよくきく。だから春グマ狩りのシーズンでもある。谷には雪崩の雪渓が連なり、流れは雪代で水かさが増し、轟音を発している。樹幹から「ホーホケキョ・・・」と、春を告げるウグイスの美声が響き渡る。小沢では「チャッチャッ・・・ピャピャ」と、大きな声を出す割りには最も小さな鳥・ミソサザイが、巣作りに忙しい。時折、「ギャー、ギャー」とうるさいカケスの声も混じる。
 そんな残雪の春山を歩けば、風通しの良い雪解けの斜面には、オオイワウチワの花が満開に咲き乱れている。林床を眺めると、まるで桜の花が散ったように一面白から淡いピンク色に染まっているように見える。
オオイワウチワ群落は、全体を撮るのが難しい

 早春、ブナ林の斜面を埋め尽くすオオイワウチワの大群落によく出会う。いざ写真に撮ろうとすると、光の加減なのか、葉に比べて小さな花は白く写り、花なのか草なのか判別がつけにくくなる。さらにチシマザサが邪魔をするから、目で見たようには撮影できないのが残念だ。
▲残雪とパッケ ▲カタクリ  ▲エゾエンゴサク

 雪解けの斜面にオオイワウチワが群生する頃、谷筋では、雪解けを待ちかねたようにバッケ、カタクリ、エゾエンゴサク、キクザキイチゲがやっと咲き始めたばかり。だから、オオイワウチワの花が咲いていたら、山菜採りシーズンには程遠いことを意味している。
花の色は多様性に富む

 白色に近いものから、淡いピンク、やや濃い紅色まで多様性に富む。もちろん、白のオオイワウチワもあるらしい。
生育地

 ブナ林の風通しの良い傾斜地に大きな群落をつくる。ブナ~チシマザサの中にも大きな群落をつくる。森吉山では、登山道からブナ林の傾斜地に一歩足を踏み入れると、オオイワウチワの群落に出会うことができる。
▲後ろ姿も美しい・・・花の下に2~3個の披針形の苞と、5片の卵形のガクがある。
「花言葉は春の使者」
春を告げる木の花
▲ネコヤナギ(3~4月)
 方言名の多い植物で、ヤナギの中では最も早く開花する。猫の毛のような穂形の花をつけることからネコヤナギ。このネコヤナギを抱いて寝ると、一夜で子猫に変わるとの言い伝えもある。他の植物が眠っている間に、花穂を出し始めるので、早くから切り取って仏前に供えたりする。
▲マルバマンサク(花期4~5月)
 早春、残雪の中から葉に先立って四弁の黄色の細長い花をつける。マンサクの名は、葉に先立って花が咲く「まず咲く」とする説や、枝先に多数咲く黄色の花が豊年満作を思わせることから「満作」とする説がある。仙北、北秋田地方の山間部では、マンサクの花が多く咲く年は「豊作」といい、花が一斉に咲くと気候が良く、花が下向きに咲くと「豊作」だという、作柄を予言する花だと信じられていた。

 菅江真澄は、湯沢市柳田付近の口遊びとして、「まんさくは、雪の中より急げども、花は咲くとも実はならぬ」と記している。
▲キブシ(3~4月)
 キブシの淡い黄色の鈴なりの花は、早春の山でよく目立つ。かつてキブシの実は、ヌルデの虫こぶの代わりにお歯黒の染料として使われてきた。だから、民俗学的にも重要な植物と言われている。
▲タムシバ(5~6月)
 タムシバは、芳香のある白い花を咲かせるが、コブシと違って花の下に葉がない。これに似たコブシの花は、昔から「タウチザクラ、タネマキザクラ、タウエザクラ」などと農耕暦とされている。また、花が上向きに咲くと、その年は良い天気、横向きは風、下向きは雨などと、天気占いにも使われた。
▲バッコヤナギ(4~5月)
 ネコヤナギは、渓流沿いの湿った場所に生えるが、バッコヤナギは、林道沿いの日当たりが良い乾燥した場所に生える。ネコヤナギに似ていることから別名「ヤマネコヤナギ」とも呼ばれている。
▲ナニワズ(ジンチョウゲ科)
 雌雄異株の落葉低木で、カタクリやキクザキイチゲが咲く頃、枝先に小さな花を多数集まってつく。花期は3~4月。
オオイワウチワ写真館
参 考 文 献
「世界遺産白神山地 自然体験・観察・観光ガイド」(根深誠、七つ森書館)
「森吉山の自然」(「森吉山の自然」を発行する会)
「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
「奥羽山脈 雪国の草花」(雪国の草花刊行会)
「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)