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山野の花シリーズ⑪ ムラサキヤシオツツジ、クロモジ

INDEX ムラサキヤシオツツジ、オオバクロモジ
 まだ残雪を踏む早春、タムシバやムシカリとともにブナ林を代表する低木の花である。他の落葉樹の花がまだ出そろわない新緑初期に咲く。淡い萌黄色の山々に濃い紅紫色の花が一際目立つ。「山笑う」季節を象徴する花で、木の花の中では一番好きな花だけに、何回撮影したか数えきれないほどである。
ムラサキヤシオツツジ(紫八染躑躅、ツツジ科)

 山地に生える落葉低木。開葉に先立って開花する。花は鮮やかな紅紫色で、枝先に3~4個つける。ブナ林や渓流沿いで良く見掛ける。低山帯~谷筋では、ゼンマイ採りの頃からワラビ採りの頃まで咲く。
▲ツボミ状態 ▲開葉に先立って開花
生育場所 山地~亜高山の林内、渓流沿いの斜面
花期 5~6月 高さ1~2mになり、よく分枝する。
名前の由来

 花が紫色の染料に何回もつけて染め上げたツツジのように鮮やかに見えることから、紫八染躑躅と書く。奥深い山に生えるので、別名「ミヤマツツジ」ともいう。
花言葉 優美、貴婦人
▲ブナ帯の渓流では、萌黄色の新緑に一際映えて美しい。

 淡い紅色の花が咲く真下の滝壺には、黒くサビついた尺イワナが潜んでいた。イワナも美しい花が好きなのだろうか。写真を撮った後、はやる気持ちを抑えながらエサを入れる。すかさず「ツンツン」というアタリが竿を握る手に伝わってきた。竿を上下に煽りながら挑発すると、底石の穴に向かって走った。合わせると意外に重い。その時釣れたのが、以下に掲げるイワナである。
▲上の滝壺で釣れた尺イワナ ・・・新緑と花を愛でながらイワナを釣る。ブナ帯の5月~6月は、花もイワナも山菜も最高のシーズンである。
▲新緑の渓流を彩る。
▲青空に映えるムラサキヤシオツツジ(森吉山)
▲逆光に新緑も花も透けて見える。
つつじ咲く 岩に愛され 岩愛し(高橋青砂)
オオバクロモジ
オオバクロモジ(大葉黒文字、クスノキ科)

 主に日本海側に生える落葉低木。幹や枝が緑色をし、枝を折ると芳香があることから、和菓子の楊枝に欠かせない樹木である。芳香、殺菌力、丈夫さなど、他の木には代えがたい価値がある。葉は枝先に集中し、新しい葉が展開すると同時に黄緑色の小さな花を10個ほどつける。
生育場所 日当たりの良い山地
花期 4~5月 高さ1~3m
▲クロモジで作った細工楊枝(五城目町朝市)
名前の由来

 葉が大きいことと、古くなると樹皮に地衣類が付着して黒い斑紋ができる。それが黒い文字のように見えることから、「大葉黒文字」と書く。小鳥をモチで捕る時、モチをつける止まり木にクロモジを使ったことから、別名「トリキシバ」、「トリコシバ」ともいう。
 森の上層に位置するブナなどの葉がなく、低木のクロモジに陽光が射し込む間が子孫を残すチャンスと言われている。まだ寒く虫も少ないが、冬を越したハエの仲間が、早春の陽射しを浴びると訪れる。
 根元から多くの幹が株立ちし、枝を広げる。葉が展開すると同時に黄緑色の花が多数咲く。早春のブナ林では、マンサクに次いで早く開花する。花は、半透明な黄緑色色で良く目立つ。葉からクロモジ油がとれ、香水や石けんに使われる。最近、マタギの里阿仁では、クロモジを細かく刻んで天日干ししたクロモジ茶が販売されている。
長生きするための戦略

 20年もすると、古い幹の葉の量は一定になる。古い幹が枯れると、根元から新しい枝が出てくる。根株は拡がり100年も生き続けるという。高木にはまねのできない生存戦略をもっていることから、ほとんど暗い林床でも長生きできる。だからブナ・ミズナラ林では、驚くほど多い。
 秋、黄色に色付く。果実は黒く熟し、種子から香油が採れる。マイタケ採りの人たちは、大きな株を見つけると、クロモジの枝で風呂敷のように包み、壊さないように持ち帰る。
▲黒マイタケ ▲落葉とナメコ
 ブナ帯の秋、キノコの王様・マイタケ採りが終わると、黄葉を愛でながら、ナメコ・ムキタケを採る。森の恵み・キノコ採りは、山に雪が降るまで続く。そして冬を越すと、また楽しい、楽しい花の季節がかえってくる。
参 考 文 献
「週刊 日本の樹木01 ブナ」(学研)
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)
「森吉山の自然」(「森吉山の自然」を発行する会)