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山野の花シリーズ⑬ タニウツギ・ヤマブキ

INDEX タニウツギ、ヤマブキ
 里山にタニウツギが咲き始めると、春が終わり、タケノコ採りの季節・初夏を告げる。沢沿いの林道を走っていると、その両サイドを淡い紅色の花々が延々と彩り、まるで「タニウツギロード」と呼びたくなるほど大きな群落をつくる。また、イワナ釣りで谷を歩いていると、その名のとおり、タニウツギの美しい花によく出会う。
タニウツギ(谷空木、スイカズラ科)

 主に日本海側の日当たりの良い山野に普通に生える落葉低木。花は、小枝の先から淡紅色~紅色の美しい花をたくさん咲かせる。花の形は漏斗形で細長い。時に白花のものがあり、シロバナタニウツギと呼ばれている。美しい花だが、火事を呼ぶとも言われ、家に持ち込んだり、庭に植えることを忌み嫌う風習がある。
▲白花ではないが、それに近い淡色のタニウツギ
花 期 5~6月 高さ2~5m
▲タニウツギのツボミ
▲滝を彩るタニウツギ ▲イワナ谷を彩るタニウツギ

名前の由来

 谷間に多く生えていることから、「谷空木」と書く。空木(うつぎ)とは、髄が消失し中空になる木を言うが、タニウツギには白い髄が詰まっている。
救荒植物

 かつては、若葉を蒸してから乾燥保存し、飢饉の際にカテ飯にして増量したり、焼餅の中身に入れたりと救荒植物として利用されていた。その使い方の詳細は、秋田県農業の神様・石川理紀之助翁の「山居成蹟」という書物に書かれている。

 それによると・・・若葉をよく干して臼でつき、米粒ほどとし、これを水に浸して蒸し、よく乾燥させる。いざ、というときには、逆にそれを煮て水気をしぼれば再び食べられるようになる。二重俵に入れて火棚や屋根裏の乾燥するところに上げておけば、何年たっても味は変わらない。
美しい花だが、縁起の悪い花

 花は実に美しいのだが、なぜか縁起の悪い花とされている。仙北地方では、この花を家の中に入れると、火災が発生するなどと忌み嫌われている。
 「火事花」とも呼ばれ、家に持ち帰るのを忌み嫌う風習は、どこから生まれたのだろうか。一説によると、タニウツギは、昔から飢饉の際の救荒植物としてよく利用されていたから、それを保護するために流布されたとの説がある。
花言葉 豊麗(豊かで美しい)
ヤマブキ
ヤマブキ(山吹、バラ科)

 山地の谷川沿いなど、湿った所に普通に生えるほか、庭などに広く植えられている。鮮やかな黄色の花を咲かせ、黄金色を山吹色というほど親しまれている。葉は、卵形又は狭卵形で、表面は鮮やかな緑色。縁には不ぞろいの重鋸歯があり、葉先は尾状に長い鋭尖頭となる。
▲生垣用に植えられたヤマブキ 
花期 4~5月 高さ1~2m
名前の由来

 古くは、「山振」の字があてられ、しなやかな枝が風に揺れる様子から名付けられた。
▲旧奈良家住宅
▲菅江真澄絵図「軒の山吹」(秋田県立博物館蔵) ▲「山吹の里・金足を訪ねて」の看板

山吹の里・金足

 菅江真澄が描いた絵図「軒の山吹」の説明文には・・・「秋田郡の金足の庄・・・などの村々では、3月の24日ごとに山吹の花で軒を吹く風習がある。その由緒は不明だが、とても面白い景色である。この庄を金足というのは金瀬などとでも書いたのだろうか。昔その源に鉱山があり、そこで働いていた人々がそこに住み着き『陸奥山に黄金花咲く』の例えのように、人々は山吹の黄金色の花で家ごとの軒を葺いたのであろう。」

 200年前、菅江真澄が見た風景「軒の山吹」の再現が、旧奈良家住宅を中心に4月下旬~5月上旬頃に行われている。
▲ヤエヤマブキ(八重咲きの園芸品種、プラザクリプトン樹木見本園)
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)
「秋田の山野草300選」(秋田花の会)