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山野の花シリーズ25 コバイケイソウ・タカネアオヤギソウ

INDEX コバイケイソウ、タカネアオヤギソウ
 夏の湿原は、まず白のコバイケイソウが大きな群落をつくって咲き、それが終わりかけるとニッコウキスゲが次々と咲き始める。登山者に最も知られている高山植物の一つ。花は毎年咲かず、3~4年に1回程度しか咲かない。ただし豊作の年に当たると、圧倒するほど見事である。その群生の見事さは、ニッコウキスゲと並び高山植物の横綱である。
コバイケイソウ(小梅蕙草、ユリ科)

 コバイケイソウは、背が高く白い穂が目立つ。花は白色で、円錐状にたくさん集まって咲く。豊作の年、遠くから見ると、まるでトウモロコシ畑のようにも見える。ふつう中央の枝に両性花、脇の枝に雄花がつく。雄しべは6個、花被片より長い。花の後の実は、さく果(熟すると下部が裂け、種子が散布される果実)である。
▲コバイケイソウの実(八幡平・八瀬森湿原) ▲八幡平・大谷地湿原
生育場所 高山の湿原や雪田周辺
コバイケイソウは猛毒

 雪解けの湿原にいち早く芽を出したコバイケイソウの若芽は、ウルイやギョウジャニンニクと間違えやすく、誤食事故が毎年のように起きている。全草に有毒アルカロイドを含有し、加熱しても毒は消えない。誤食すると嘔吐、下痢、手足のしびれ、めまいなどの症状が現れる。特に根茎は、死に至るほど毒性が強いので、決して手を出さないこと。

 当たり前のことだが、国立公園の特別保護地域など、植物や昆虫などの持ち出しが一切禁止されている地域での採取は、食用と言えども厳禁!。
▲残雪と花が芽を出し始めたコバイケイソウ(開花初期の風景)
花期 6~7月 草丈50~100cm

 高山植物は、環境が厳しいために、ほとんどが地面にへばりつくように背丈の低いものが多い。そんな中、草丈が1mにもなる大型でかつ大群落を形成することから、百花繚乱のお花畑の中でも一際目立つ。
 高山の短い夏・・・大きな白い花たちが肩を寄せ合うように列をなし、見渡す限り斜面を純白に染め上げる姿は圧巻である。それだけに豊作の年に当たれば、高山の夏を謳歌する格好の被写体である。
名前の由来

 バイケイソウは、花が梅に、葉がケイラン(蕙蘭)に似ていることから、「梅蕙草」と書く。その小形タイプであることから、「小梅蕙草」と書く。
花言葉 遠くから見守る
八幡平大場谷地のコバイケイソウ
秘境の花園「八幡平・北ノ又湿原」

 北ノ又湿原は、八幡平・大深沢支流の北ノ又沢を登り詰めた源流部の左岸、標高1370m~1415mに広がる湿原である。ニッコウキスゲも咲くが、とりわけコバイケイソウの群生美が圧巻である。猛烈な薮こぎを伴う沢登りをしなければ拝むことができない秘境の花園である。
八幡平のコバイケイソウ

 八幡沼の北側に広がる湿地、雪田周辺は、豊作の年に当たると、見渡す限り列をなして咲く。そのコバイケイソウの大群落は圧巻である。
八幡平大沼森林セラピーロードのコバイケイソウ
コバイケイソウと昆虫

 コバイケイソウは、数年に一度一斉に開花する。その規模が大きければ大きいほど、花粉媒介昆虫を呼び寄せやすいから、他の個体と交配しやすいなどのメリットがあると考えられている。ただし、なぜ一斉に開花するのか、その仕組みは未解明だという。
 考えるに、これだけ大型の花を一斉に咲かせるには、相当土の栄養を奪われるに違いない。ブナの実の豊作も、数年に一度と言われる。多雪の高山帯・・・その厳しい自然の中で花の豊凶が繰り返されるのは、理屈抜きで当たり前のことのように思う。
タカネアオヤギソウ
タカネアオヤギソウ(高嶺青柳草、ユリ科)

 写真は、和賀山塊・薬師平のお花畑に咲くタカネアオヤギソウの群落。白っぽい花はイブキトラノオ、黄色の花は、ニッコウキスゲとトウゲブキ。タカネアオヤギソウは、草丈が高く、その茎の先に花序をだし、黄緑色の6弁花を多数つける。高さ20~60cmにもなる。その背高ノッポの花が、草むらの中で揺れる姿が印象的である。下部の葉は広被針形で、上部の葉は線形となる。
花 期 7~8月 
名前の由来

 高山の「高嶺」に咲き、花の色が「青」、葉の状態が「柳」に似ていることから、「高嶺青柳草」と書く。
▲イブキトラノオとタカネアオヤギソウの混生(真昼岳)
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の野草」(山と渓谷社)
「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
「山渓名前図鑑 野草の名前 夏」(高橋勝雄、山と渓谷社)
「高山植物ポケット図鑑」(増村征夫、新潮文庫)