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山野の花シリーズ63 ハス、スイレン

INDEX ハス、スイレン
ハス(蓮、スイレン科)

 ハスの原産地はインドで、中国経由で先史時代に日本に渡来したといわれ、仏教とのかかわりが深い植物。観賞用、食用として池や沼、水田で栽培。水面をおおってゆく葉、大きな美しい花、涼しげな風景を演出してくれる。白色~紅色の花弁が多数あり、雄しべも多数。朝、開花し数時間で閉じるパターンを3日間繰り返し、4日目に散る。根茎は蓮根で、葉は径20~50cmの円形で、柄は楯形。
花 期 7~8月
▲実の中の緑の種は、少し甘く食べられる。ただし、ハスのレンコンは、食用に栽培されているレンコンとは種類が違う。また、ハスの種は、硬い殻で守られていて、何と千年も生きられるという。
名の由来

 花の中心にある花床は、花後、大きくなってハチの巣に似るので、「ハチス」・・・平安後期頃から短縮され、「ハス」と呼ばれるようになった。
花の中心にある花床は、なぜ大きく平らなのか

 ハスは化石として発見されるほど古く、古代の植物の特徴が随所に見られる。その一つが平らな花床である。植物は古くは風で花粉を運んでいたが、恐竜が繁栄する頃になると、昆虫が花粉を運ぶようになった。その花粉を運ぶ役割を最初に果たしたのが、コガネムシの仲間だと考えられている。

 コガネムシの仲間は不器用なことから、動きやすいように花の上が平らになった。その後、器用に飛び回るハチやアブなどが登場すると、花々は、さまざまな形に進化していったと言われている。
ハスの葉は、水をはじく

 葉の表面には、細かい毛がたくさん生えていて、水がくっつかない撥水構造になっている。そのハスの葉の構造をヒントに、ヨーグルトが付着しないフタが開発されている。そのフタの内面は、微細な凹凸が無数にあり、ヨーグルトが付着してもすぐに転げ落ちるように脱落する。植物には、人間に役立つヒントがたくさん隠されていることが分かる。
ハスと仏教

 ハスは、渓流を流れるような美しい水(貧栄養化)の場合は、小さな花しか咲かせない。逆に不浄とされる泥水が濃ければ濃いほど(富栄養化)、この世のものとは思えない美しい大輪の花を咲かせる。その姿は、仏教が理想とするあり方とされ、極楽浄土に最もふさわしい花とされている。
 京都や奈良のお寺の池に、多数のハスが植えられている。ハスは、古くから神聖な存在とされ、仏教と深いかかわりをもつ植物であることが分かる。例えば、仏像はハスの花を象った蓮台に座っている。ハスの花を挿した水差しを持つ仏像や香炉などの仏具もハスの花の形をしている。お供え物の砂糖菓子もハスの花の形をしたものがある。「一蓮托生」という言葉も、仏教から生まれた言葉の一つである。
俳 句

鬼蓮の まだいしけなき 浮葉かな 杉浦東雲
鑑真の寺純白の蓮開く 倉持嘉博
遠ざかるほど 白蓮の 深き白 辻 恵美子
▲秋田市千秋公園のハス全景(2015年7月30日撮影)
スイレン
スイレン(睡蓮、スイレン科)

 日本に自生するスイレンは、ヒツジグサ、エゾノヒツジグサのみ。一般的なスイレンは、いくつかの野生種を交配、品種改良し、作出された園芸種で、様々な品種がある。スイレンは水位が安定している池などに生息し、地下茎から長い茎を伸ばし、水面に葉や花を浮かべる。
花 期 5月~9月
ハスとスイレンの見分け方

 ハスは、葉も花も水面より高く立ち上がるのに対して、スイレンは水面に浮いて立ち上がらない。スイレンもハスも葉は円形だが、大きな違いは、スイレンは葉に切れ込みがあるが、ハスには入らない。
名前の由来

 日中に花びらが開き、午後になると閉じる。これを3日繰り返す。これを人間に例えると、日中に目覚め、夜に眠るというサイクルに似ていることから、「睡眠する蓮」という意味で、「睡蓮」と書く。
▲スイレンの花が大好きなカルガモ
俳 句

睡蓮の水に二時の日三時の日 後藤 比奈夫
睡蓮の花の布石のゆるがざる 木内 彰志      
 石庭で有名な世界文化遺産・龍安寺(京都)の鏡容池は、京都屈指のスイレンの名所である。平安時代、龍安寺の一円が、徳大寺家の別荘であった頃、お公卿さんがこの池に龍頭の舟を浮かべて歌舞音曲を楽しんでいたという。春は桜、夏は水面にピンクや黄色のスイレンが咲き、秋はカエデが湖畔を彩る。どこの庭園も、森と水と四季折々境内を彩る草花が秀逸である。
参 考 文 献
「俳句歳時記」(角川学芸出版、角川ソフィア文庫)