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山野の花シリーズ92 ヤマノイモ、オニドコロ

  • ヤマノイモ(自然薯、ヤマノイモ科)
     ツル性で、地中に深く伸びる芋は自然薯とも呼ばれ、古くから食用にされてきた。平安時代には、酒宴の最後にヤマノイモでつくった芋粥をいただいたという。身近な野草で、街中にも普通に生えている。芋の寿命は一年で、毎年新しい芋に入れ替わっている。夏から秋にかけ、葉の脇に丸いムナゴができるが、これも食べられる。ムカゴが地面に落ちると、そこから芽が出て新しい株が育つ。本種の近くに食用にならないオニドコロが生えているので注意が必要。オニドコロは丸いハート形の葉が互生しているので区別できる。根茎の皮をむいて干した生薬を「三薬」という。身近なスーパーなどで売られているのは、中国原産の近縁種・ナガイモである。
  • 名前の由来・・・人里に植えられている里芋に対して、山の中に自然に生えていることから、「山の芋」と書く。 
  • 別名・自然薯(ジネンジョ)・・・「薯」は芋を表す漢字で、自然に生える芋の意味で、「自然薯」と書く。
  • 花期・・・7~9月 
  • ・・・細長いハート形(三角状披針形で基部は心形)。鋸歯はなく、先は尖り対生する。 
  • 雄花・・・雌雄異株で、雄花は直立して、柄のない花を上向きに多数つける。 
  • 雌花・・・穂は下向きに垂れ下がる。子房に翼がある。 
  • 秋に目立つ黄葉とムカゴ 
  • ムカゴの採取と料理・・・葉腋についたムカゴは、熟すと、ちょっと触れただけでポロリと落ちるので、ザルや帽子で受け皿にして採取する。皮つきのまま洗ってご飯に炊き込んだムカゴ飯や炒め煮、素揚げ、塩ゆでなどにして食べる。
  • ドライ化した種子・・・径5mmほどの扁平な円形で、周りに翼状の膜がつく。ツルをリースとしても楽しめる。 
  • 自然薯の採り方・・・芋は細長く、地中に向かって真っすぐに伸びるため、掘るのは大変だ。まずムカゴ採りの際に印をつけておく。地上部が枯れる頃が堀りどきである。長い棒先に刃のついた専用道具で掘るが、とにかく丁寧さと根気が必要。掘った跡は、必ず埋め戻すことを忘れずに。 
  • 自然薯の特徴と料理・・・栽培品のナガイモに比べて、粘りが強く、コクがある。アクが出て変色するのを防ぐため、芋は皮を剥き酢水につけてから、すりおろす。それに醤油や出汁などを加えてトロロにする。海苔で巻いたり、刻んでワサビ醤油で食べたりする。 
  • オニドコロ(ヤマノイモ科)
     ツル性のヤマノイモに似ているが、全草が毒草で、苦みが強く食用にならない。特に太くねじまがった根茎に多いジオスコリン、ジオスシンなどには溶血作用があり、口腔内や胃腸の炎症、麻痺などを引き起こす原因になりうるという。かつては、細かく砕いて渓流に流し、麻痺した魚を獲るアメながしにも利用したという。簡単な見分け方は、本種の葉は丸いハート形で互生する点である。ヤマノイモの葉は、細長めで対生する。 
  • 名前の由来・・・地下茎には、ヒゲ根が多く曲がっている様子を老人に見立て、海の老人を「海老(エビ)」というのに対して、野の老人の意味で「野老(トコロ)」に加えて、大きな葉を持つので「鬼」を頭につけて、「鬼野老」と書くなど諸説ある。長寿の象徴として正月飾りに使った。 
  • 花期・・・7~8月 
  • ・・・互生し、心円形から三角状心形で、先が長く尖る。葉柄の基部にムカゴはできない。 
  • ・・・雌雄異株。淡い黄緑色の小さな花を多数つける。花被片は6個あり、平開する。雄花は葉腋から立ち上がる花序につき、雌花は反対に垂れ下がる花序につく。 
  • 果実・・・楕円形の蒴果で上向きにつき、3個の翼がある。 
参 考 文 献
  • 「江戸草花図鑑」(岩槻秀明、エクスナレッジ)
  • 「山菜ガイド」(今井國勝・万岐子、永岡書店)
  • 「食草・薬草・毒草が分かる野草図鑑」(金田洋一郎、朝日新聞出版)
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野草」(山と渓谷社)
  • 「里山のつる性植物」(谷川栄子、NHK出版)