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森の学校2020 炭焼き体験

 2020年2月6日(土)、2020年度最後の森の学校「炭焼き体験」が由利本荘市赤田地内で開催された。参加者は20名。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、発令中の緊急事態宣言が、3月7日まで1カ月間延長された。これを受けて、毎年恒例の炭焼き体験と言えども、三密(密集、密接、密閉)を避ける必要があることから、昼食と交流会は中止とし、少数限定でかつ炭焼き体験のみのシンプルな形で実施された。
  • 主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン(018-882-5009)
  • 協賛/(一社)秋田県森と水の協会
  • 協力/ロッカ森保全ボランティア、秋田県森の案内人協議会
  • 秋田白炭窯吉田式・・・炭焼き体験が行われる小屋の前には、「秋田白炭窯吉田式」と書かれた看板が掲げられている。その由来は・・・
     秋田では、院内銀山や阿仁銅山など、県内の鉱山が盛んな時代は、木炭の需要が大きかった。幕末には、藩の直営銅山の精錬用に7万7千俵が使われていた。しかし、品質は粗悪な木炭であった。その品質の改良に大きく貢献したのが、秋田白炭窯の考案者である吉田頼秋氏である。その名にちなんで「秋田白炭窯吉田式」と呼ばれている。
     彼は、福島県箕輪村の出身だが、昭和2年、秋田県の要請を受けて技師として就任し、県内木炭改良技術講習を重ねた結果、吉田窯が著しい勢いで普及し、秋田のナラ白炭は県外にも評価を高めた。後に岸本定吉博士によって「秋・備(秋田備長炭)」と称されるように、全国的評価を得るに至った。
     昭和9年10月、吉田頼秋技師は、横手市山内村で講習中に死去。現在でも、木炭を生産する人々で、「吉田窯」の名を知らない人はいないと言われている。その功績は極めて大きく、横手市山内村の鶴ヶ丘公園に吉田頼秋氏顕彰碑が建立されている。 
  • 野生動物問題は農山村の衰退にある・・・「シカ問題を考える」(高槻成紀、ヤマケイ新書)要約
     「シカが増えたのはなぜかというと、すぐにオオカミが絶滅したからだとか、森林を伐採してエサが増えたからだとか、ハンターが少なくなったからだという説明がされる。だが、それらを時間軸に乗せてみれば、そのどれもシカ増加と時間的ずれがあることが分かる。最も同調しているのは、農山村の過疎による農業生活の大変化である」・・・つまりシカ問題は、日本の農山村の衰退にあることを明確に指摘している。これはクマ問題も同様である。
  • 役に立たない山・・・「老炭焼き人は、人が手をかけなくなって荒れ放題になった山を見て、『モダ山になってしまった』と嘆いた。無駄な、役に立たない山という意味である」(「木の教え」塩野米松、ちくま文庫)
  • 炭焼きと森林再生・・・雑木を伐って山から出す仕事の典型が「炭焼き」である。炭の利用は、里山をきれいにし、見通し、風通しをよくして、森の再生を助けると同時に、ツキノワグマやニホンジカ等の野生動物の侵入を阻止する緩衝帯としての機能を回復させることにもつながる。
     一方、木炭は、再生可能なエネルギーであるから、人間が自然と共生し、持続可能な社会を実現するために、ふさわしい永遠のエネルギーともいえる。年々深刻化する野生動物問題は、これまで経験したことのない深刻な社会問題になっている今こそ、こうした循環型の取り組みの重要性を再認識すべきであろう。
  • 炭とは・・・簡単に言うと木を蒸し焼きにしたもの。炭焼きは、無酸素状態に近いから、木材の成分が熱によって分解され、ガスや煙となって取り除かれ、炭素成分だけが固体となって残る。これが炭である。体積は約1/3に減るが、木材そのものの組織構造は変わらない。木炭には、黒炭と白炭がある
  • 「白炭」の名の由来・・・焼き上がる頃、口を開けて約千度の高熱で焼き、まだ赤々とした炭を窯から出した後、素灰を掛けて消化させる。その消し粉をかけた時に白い粉が付くので「白炭」と言う。 
  • 白炭の特徴
    1. 非常に硬く、叩くと高い金属音がする。
    2. 着火しにくいが、安定した温度を長時間保ち、新しい炭を途中補填しても、温度が下がらず焼きムラもできない。
    3. 蒲焼きや焼き鳥など炭火焼にこだわる飲食店で使われている。
    4. ガスがほとんど出ないので、室内のホリゴタツや火鉢に最適である。ただし値段は高い
  • 参考:黒炭の特徴
    1. 焼き上がる頃、窯を密閉したまま火が消えて冷えるのを待つのが黒炭である。文字どおり見た目が黒い。
    2. 黒炭は、軟らかく、着火しやすいが、火力が弱く、長持ちしない。
    3. その分値段が安く、一般にキャンプのバーベキューなどに使われている。
  • 白炭の工程
    1. 地元の山から原木のコナラを伐り出す。
    2. 窯詰め」・・・原木の長さを整えて奥の方から縦に詰めていく。
    3. 口焚き」・・・原木の水分を抜く工程で、柴などを燃やして温度をあげ、煙が白色から空色に変わるまで焚いて、口を塞ぐ。
    4. 焼火」・・・220℃ほどの温度を保ち、しっかりと炭化させる。
    5. 塞いでいた窯の口を開けるタイミング・・・煙の色と臭いだけで判断する。炭になるにつれて、白い色が無色透明に近くなり、木の焦げた匂いがしなくなる。次第にガスのような刺激臭が強烈になるにつれ、煙が無色透明になったら、炭化が終わり、口を開けるサインである。
    6. ネラシ(精錬)・・・窯の口を少しずつ開け、空気を入れる。すると、中のガスに火が点き、燃え始める。中の炭の全てが真っ赤になり、表面の皮が燃え落ちるまで温度を上げていく。この作業をネラシ(精錬)という。このネラシは、炭焼き職人の勘と経験が全てだけに一番難しい技術と言われている。
    7. 窯出しのタイミング・・・窯から炭を引っ張り出すタイミングは、炎の先が黄色(金色)になった時である。肉眼でははっきり識別できるが、写真では撮れないほど微妙な色である。 
  • 窯出し作業・・・窯出しの際、燃焼中の木炭は、1,200度前後の高温である。だから、窯出しの作業は極めて熱く、大変な作業。窯出し体験をする場合、ナイロン製の衣類や樹脂製のメガネなどは解けてしまうので特に注意が必要である。 
  • 窯出しの道具・・・先がL字型のカギのついた出し棒で引き出す。 
  • 消し粉・・・引き出した炭は、速やかに素灰(土に窯の灰を混ぜたもの)をかぶせ、空気を遮断して火を消す。この素灰を消し粉と呼ぶ。消火した炭は、白っぽい色をしているのが特徴。  
  • 窯出し体験 
  • 花炭・・・「飾り炭」とも呼ばれ、500 年の歴史を持つ。古くから茶の湯の世界で菊炭と共に使用され、優雅で高尚なものとして珍重されてきたと言われている。木の実、葉、花、果物など素材そのままの形で炭化させてつくる炭の一種である。 
  • 今回、花炭に使用した植物・・・ツバキの実と葉(ツボミも)、ナンテンの葉と実、ハスの実、トチの実、アメリカフウの実、松ぼっくり(ストローブマツ、ドイツトウヒ、アカマツ)、クリの実、シャリンバイの葉と実など。         
参 考 文 献
  • 「シカ問題を考える」(高槻成紀、ヤマケイ新書)
  • 「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)