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森の学校2023 五感で楽しむ「新緑の真人山トレッキング」

 2023年5月16日(火)、森の学校「五感で楽しむ゛新緑の真人山トレッキング゛」が横手市増田町真人山で開催された。参加者は35名。さくら名所100選・真人公園を起点に、新緑と満開のヒメシャガが延々と連なる九十九折りの登山道沿いを登り、途中最も眺望が良い三吉神社を経て標高390mの真人山山頂へ。ヒメシャガをはじめ、ミヤマガマズミ、タニウツギ、ホオノキ、ヤマツツジ、サルトリイバラ、マルバアオダモなど数えきれないほどの草花や恋の季節を迎えた野鳥の囀り、花に訪花している昆虫などを観察しながら、新緑の里山をトレッキング。さらに昼食後、樹林呼吸や森の音楽セラピーなどの森林セラピー体験が行われ、まさに五感で楽しむ新緑の真人山トレッキングを満喫した。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会
  • 真人山トレッキング講師・・・酒井さん、亀井さん、菅原さんなど森の案内人7名 
  • 真人山トレッキングコース・・・真人公園→三吉神社(標高350m)→真人山(標高390m)→同じく復路は九十九折りの登山道を下って真人公園へ
  • 新緑のヒメシャガ・ロード・・・真人山登山道沿いには、ヒメシャガ・ロードと呼びたくなるほど、山頂まで延々と咲き乱れる大群落には驚かされる。
  • 満開のヒメシャガ・・・淡紫色のアヤメに似た美しい花を咲かせる。花びらの中にある黄色い斑紋は、虫たちに蜜のありかを知らせる大切な道しるべ(蜜標)である。 
  • 城の守り用に植栽・・・シャガは、葉が滑りやすく、音も立てるので、城の守りとして城内によく植えられた。 
  • ヒメシャガの蜜を吸うミヤマセセリ・・・コナラ、ミズナラなどを食草とするセセリチョウの仲間。日中、雑木林の林床を跳ねるように飛翔し、各種花を訪れる。地面にハネを開いて止まり、日光浴をする習性がある。
  • コナラの花・・・若葉を広げると同時に花を咲かせる。雄花序は、長さ6~9cmで、本年枝の下部に多数垂れ下がる。雄花は黄褐色。雌花序は短く本年枝の上部の葉の脇から出る。 
  • ミヤマガマズミとガマズミの見分け方・・・ミヤマガマズミ(上の写真)は、葉の先が尾状に伸びて鋭く尖り、葉柄に長い絹毛が散生するのに対して、ガマズミは葉先の尖りが鈍く、葉柄に開出毛と星状毛が密生する点で区別できる。ミヤマガマズミは、ガマズミより標高の高い山地に生える。 
  • ミヤマガマズミの花と昆虫・・・小さな白い花を多数開き、虫が着地しやすいように上向きで花の面積も広い。昆虫を誘う花の匂いは、人間にとって良い匂いとは言い難いが、虫にとっては媚薬のような独特の香りで虫を誘惑していると言われている。何より、クリの花と同じく、たくさんの昆虫(上の写真はクロハナムグリ)が集まってくる。
  • ウワミズザクラ・・・花だけ見ると、とてもサクラの仲間とは思えない。コップを洗う細長いブラシのような白花を咲かせる。ソメイヨシノもオオヤマザクラも花を落とした頃に開花する異色のサクラである。果実は、食用になる。また、鳥類やツキノワグマも大好物で、その実を食べて移動した後、糞とともに種を散布し、分布を拡大してきたことから、山野の至る所に自生している。 
  • エゾユズリハ・・・春になって若葉がのびると、古い葉は「若葉に譲る」ように散ることことから、親が成長した子にあとを譲るのにたとえて、家系が途切れることなく続く象徴とされ、めでたい正月の飾り(門松、しめ飾り、鏡餅)に使われている。ユズリハの変種で、高さが1mにも満たないほど低いのが特徴。
  • ウゴツクバネウツギ・・・ツクバネウツギの変種で、北日本の日本海側に分布する。ツクバネウツギとの区別点は、全体的にやや大型で、葉だけでなく枝や葉柄にもまっすぐに立った毛があること。新潟県はツクバネウツギとウゴツクバウツギの分布境界にあり両種が自生しているという。 
  • ヤマウルシ・・・かぶれの原因となるので注意。春の新葉は、枝先に集まって立ち上がり、葉柄、葉軸が赤褐色で目立つ。だから葉柄、葉軸が赤いので危険!と覚えておくと分かりやすい。 
  • 日本の野生ツツジの代表種・ヤマツツジ・・・全山新緑に包まれる晩春から初夏にかけて、色鮮やかな朱赤色の花を開く。ヤマツツジの花は、花粉を運んでもらうパートナーをアゲハチョウに限定して進化したと考えられている。また花をかむと、さわやかな酸っぱさが口に広がる。花から花冠を抜き取って、花の姿のまま、サラダにして食べたり、チャーハン、ピラフ、コンソメ風スープなどに散らして風流を味わうことができる食用花でもある。ただし、有毒植物のレンゲツツジの花と間違わないよう注意! 
  • ホオノキの大きな葉・・・大きな葉の特徴は、香りがあるので良い風味がつくこと、殺菌・抗菌作用効果によって食材の保存に役立つ効果があること、さらに葉は水をはじき、燃えにくいことである。だから昔は、ホオノキの葉を干したものを束にして、町の店に売った。店では、砂糖や魚、キノコなどを売る際、今のビニール袋の代わりに包んで売った。山では、釣り上げたイワナの鮮度と風味を保つために、味噌を塗ってホオノ葉に包んだりした。炭火の上に網を敷き、イワナの朴葉味噌焼きをすれば、葉が燃えずにイワナと味噌が香ばしく焼ける。 
  • 参考::原始的なホオノキの花・・・ホオノキの花は、1億5千年前に初めて花を咲かせたモクレン類の原始的な特徴をもっていると言われている。蜜はないが、白い大きな花弁と強い香り、たくさんの花粉で虫を呼ぶ。1日目は、花弁が半開きで、中の雄しべは未成熟だが、雌しべは成熟していて、虫が運んできた花粉で受粉する。2日目は、花がスープ皿ほどに開き、雄しべが成熟して花粉を出し始める。両性花だが、雌性先熟することによって、自家受粉を避けながら、他家受粉=遺伝子の多様性を確保している。 
  • 花が誕生した初期の送粉者は誰?・・・花粉を運ぶ役割を最初に果たしたのは、コガネムシの仲間だと考えられている。そのコガネムシの中で、花に特化して進化したのがハナムグリである。ハナムグリの全身には、細かい毛が密生している。彼等が花に潜り込むと、毛足に花粉がつく。身体中に花粉をまとったハナムグリは、また別の花に潜り込むことで、花粉が雌しべに付着し、受粉が行われる。(写真: ミヤマガマズミの花に群がるクロハナムグリ) 
  • ウリハダカエデ・・・緑色のスベスベした樹皮は、マクワウリの実に似ているのが最大の特徴。葉は大きく、カエルの手のように五角形に近い形をしている。 
  • モミジイチゴ・・・葉は、モミジの葉に似た切れ込みがあり、白い花を下向きに咲かせる。6月下旬頃、黄色に熟した果実(参考:右上写真)は、野生のイチゴの中で最も美味しい。
  • ヤマジノホトトギス・・・葉の縁は多くは波打ち、緑色の葉には濃緑色の斑状の模様がある。花期は8~10月で、花(参考:右上写真)は噴水のような形になっている筒の部分は白く、紫色の斑点のある花を1~3個開く。
  • キブシ・・・わずかに残っていた「花かんざし」のような花。江戸時代、既婚女性が歯を黒く染めたお歯黒にヌルデの種子・五倍子(フシ)を使用した。その代用としてキブシの果実(参考:右上写真)が利用されたことから、木の五倍子(フシ)で「木五倍子」と書く。
  • サルトリイバラ・・・サルトリイバラにはトゲがあり、猿が引っ掛かって捕まってしまうことから、「猿捕茨」と書く。ただし、トゲの数は少なく、猿が捕まるほど鋭くもない。そのかぎ状のトゲと葉柄の巻きヒゲで他の植物に絡みつき、茎を伸ばす。ルリタテハの幼虫は、全幼虫期にわたってサルトリイバラの葉を食べて成長する。雌株には丸い実がなり、秋に赤く熟し良く目立つ。その赤い実は、生け花やリースなどに利用される。
  • キバナイカリソウ、チゴユリ
  • ノギラン、キクバオーレン
  • 途中最も眺望が良い三吉神社(標高350m)・・・田んぼが広がる横手盆地から遠くは鳥海山まで見える。特に田んぼに水を張った時と黄金色に実った時期は、最高の絶景を拝むことができるという。ぜひ拝んでみたい。
  • 横手盆地の広さは日本一・・・横手盆地は、北部を仙北平野、中南部を平鹿平野と呼ぶこともあるが、その大きさは総面積約694km²。2位の松本盆地480km²に対して約1.5倍の差がある。確かに県外から来た人たちは、延々と続く広大な田園地帯に一様に驚くので納得!。
  • 森のエビフライ・・・松ぼっくりの中の種を、ニホンリスが食べた残骸を「森のエビフライ」と呼んでいる。アカマツの球果には、40~50個の種が入っている。この種を取り出すためにリスが鱗片をかじって剥がす。三吉神社の鳥居の下には、たくさんのエビフライがあった。横手盆地の絶景を眺めながら、松ぼっくりを食べるニホンリスお気に入りの食事場所でもある。
  • 三吉神社にて記念撮影
  • タニウツギ・・・花は、淡紅色~紅色の美しい花をたくさん咲かせる。花の形は漏斗形で細長い。美しい花だが、火事を呼ぶとも言われ、家に持ち込んだり、庭に植えることを忌み嫌う風習がある。秋田では、タニウツギが咲き始めると春が終わり、タケノコ採りの季節と言われているが、地球温暖化の影響で、今年の開花は2週間近くも早い。
  • タニウツギの花で吸蜜するキアゲハ
  • クマヤナギ・・・「熊柳」の名前の由来は、その茎が強いことから熊に例え、若葉は柳の葉に見立てたもの。ツルは長く伸び強く丈夫なので、輪かんじきや馬のムチを作ったという。実は初め緑色で、後に赤くなり、最後に黒く熟す。甘味があり食べられる。熟す頃に、新しい花が咲くので、花と実を同時に見ることができる。
  • マルバアオダモ・・・アオダモの仲間だが、鋸歯のギザギザが目立たず、ほぼ全縁でしばしば波打つ葉が特徴。花は、枝先を真っ白にするほど華やかに咲く。ヤチダモは風媒花だが、アオダモの仲間は虫媒花で、たくさんの昆虫が集まっていた。
  • 参考:アオダモ蛍光実験・・・枝を切って水に入れると、殺菌性の強いクロマリン配糖体のエスクリンなどが水に溶け出し、青色の蛍光を発することが名前の由来。
  • ユキツバキ・・・秋田県内では主に県南地方に自生し、北限のユキツバキとして知られている。雪の下に潜って、寒さや乾燥から体を守るため、高さは1~2mと低いのが特徴。
  • オオカメノキ・・・卵円形の大きな葉を亀の甲羅に見立てたのが和名の由来。また、ハムシの一種が葉の葉脈だけ残して葉脈標本のように食べてしまうことが多いことから、「虫食われ」が転訛し、別名ムシカリと呼ばれている。
  • 真人山山頂(標高390m)
  • ヒデコ(シオデ)、ワラビ
  • アオオサムシ・・・最も普通に見られるアオオサムシは、緑色の金属光沢があるが、地域によって個体差があり、金緑色~赤銅色の光沢をした個体も少なくない。上ハネに鎖状の筋を持つのが特徴。夜行性で夜に出歩き、ガの幼虫やミミズ、死んだばかりのセミなどを食べる。元気のよい虫よりも、ちょっと傷ついた虫を好む。その理由は、エサの昆虫が噛まれて体液が漏れると、その匂いに集まる習性があるからである。
  • ムモンホソアシナガバチ・・・体は黄色と薄茶色の縞模様、細身で小型のアシナガバチ。低山地の里山的環境に生息する。一般的にアシナガバチは単独で越冬するが、このハチは、コナラなどの樹洞に集団で越冬する。その数は数十匹から数百匹の大集団になることもある。
  • 観察した野鳥・・・キビタキ、エナガ、シジュウカラ、センダイムシクイ、メジロ、ウグイス、ノスリ、アカゲラなど多数。真人山は、ブナ林こそ見られないが、コナラ、ミズナラ、ヤマモミジ、各種サクラ類などを中心とした多種多様な樹木と林床を彩る草花、その植物たちに依存した昆虫、野鳥、ニホンリスなどを観察すれば、真人山の生物多様性の豊かさが分かる。
  • 森林セラピー講師・・・奥山さん、長崎さん 
  • 森林セラピーとは・・・現代人は、自然から遠くなるにつれて、ストレスは増大。そんな「ストレス社会」と言われて久しく、うつ病や認知症などの精神疾患も年々増大している。さらにメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)など健康に対する不安も拡大している。森林は、こうした現代人が抱える悩みを解消してくれるパワーを持っていることが実証されている。森林セラピーは、科学的な証拠に裏付けされた森林浴のことである。
  • 五感を使ってリラックス・・・森の中を歩くと、眠っていた五感が研ぎ澄まされる。森の葉が風に揺れる音、水の流れる音・瀬音、野鳥の囀り、カジカガエル、セミなどの天然の音は、血圧の低下や脳活動の沈静化に効果がある。五感で味わう森林のパワーで心と体を癒すことができる。もちろん、人の五感機能を回復・改善するのにも役立つ。 
  • 森の音楽セラピー・・・森の中に仰向けに寝転び、眼をつぶる。長崎さんは、録音した伴奏に合わせて、オカリナの演奏を始めた。まさに森の音楽セラピーに全員が陶酔しきっていた。終わると大きな拍手を浴びた。そのアンコールの拍手に応えて、「リンゴ追分」まで演奏してくれた。タイトルどおり「五感で楽しむ新緑の真人山トレッキング」に相応しいフィナーレであった。