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森の学校2014 第13回森と健康を考える「炭焼き体験」

 2015年2月7日(土)、森の学校第13回森と健康を考える「炭焼き体験」が由利本荘市赤田地内で開催された。参加者は、一般参加者・スタッフ合わせて42名が参加。

 カンジキを履いて、里山の再生を行っている森をスノートレッキングしたり、炭焼きはなぜ美味いか、その理由と試食、薪割り体験、白炭窯の窯出し体験、炭の多様な効能について学んだほか、各団体の里山再生に関する情報交換を行った。

●内容/炭の窯出し体験と多様な効能  ▲対象/一般、親子
◆主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン(018-882-5009)
◆協賛/(一社)秋田県森と水の協会 
◆協力/ロッカ森保全ボランティア、秋田県森の案内人協議会
白炭窯の窯出しのタイミング

 窯出しのタイミングは、「火入れしてから何時間ぐらいか」と質問したら、進藤インストラクターは、それは煙の具合をみて判断するしかなく、職人の勘だという。

 「炭」(岸本定吉)によれば・・・木酢煙がなくなってからネラシ(空気を入れる)を始める。その時、木酢煙が出るようでは炭化が不十分だからやめる。無理をしてネラスと炭が砕ける。温度が1000度以上になると、白色に輝き、炭が硬くなる。急冷しても砕けないので、急いで窯出しをする。
カンジキ・スノートレッキング

 炭焼きのプロが、窯出しのタイミングを調整している間、再生された里山をカンジキで歩くスノートレッキングを行った。幸いこれ以上ない好天に恵まれ、最高のカンジキ体験日和であった。応援スタッフからカンジキの履き方の指導を受けながら長靴に固定し、出発。
 雪解けの斜面から、早くも顔を出したパッケ(ふきのとう)を見つけて大喜びする女の子。今冬は、12月に大雪が降ったが、年を明けてから海岸部は暖冬が続いていた。さらに、この日は気温も高く、秋田市土崎港の屋内緑地公園・セリオンリスタでは、紅梅が咲き誇ったという。
冬芽の観察

 冬芽は、花や葉と並んで、植物の見分ける重要な手がかりで、専門家であればこの冬芽だけで植物名がわかるという。葉っぱの柄がついていた痕(水や養分を送っていたパイプの葉痕)が冬芽とセットで良く見ると、色々な動物やサンタクロースの顔に見える。冬芽の観察は、想像力を働かせて見ると確かにオモシロイ。
モウソウチクの伐採

 秋田のモウソウチクの北限は、由利本荘市から秋田市に北上している。そのモウソウチクが密になって荒れるだけでなく、周囲の放置された里山林をのみこみながら勢力を拡大している。ロッカ森保全ボランティアが主体となって組織した「赤田竹伐隊」では、そうしたモウソウチクの伐採などを行っている。間引きされた竹林は、空間が広く明るい。
▲イタチの足跡
▲秋に紫色の美しい花を咲かせていたアザミは、こんな綿毛に変身していた。
▲ユズリハ ▲アオキ

 ユズリハは、暖かい地方の山地に見られ、冬になっても葉は落ちない。春になって若葉がのびると古い葉は「若葉に譲る」ように散る。親が成長した子にあとを譲るのにたとえて、めでたい木とされ、古くから正月の飾りに使われている。
▲ホコリタケ目のきのこ・・・棒で袋を突っつくとホコリが出る。
オオバコ相撲と同じ「冬枝相撲」

 オオバコ相撲は、二人でオオバコの茎をゴシゴシとこすりながら、相手の茎を切り取った方が勝ちとなる子どもの遊び。森の案内人の田口さんは、子どもの頃、堅雪を渡って冬芽の枝を折り、二人で枝を絡めて引っ張り合い、小枝を切り取った方が勝ちとなる冬枝相撲をして遊んだという。
▲冬のキノコを見つけて喜ぶ  ▲オオバユリと枯れた茎と蒴果
 
 オオバユリの枯れた茎と蒴果(さくか)は、森のクラフトやドライフラワー用の生け花等に利用されている。
▲炭焼きと試食・・・理由はともあれ、炭火焼の美味さに納得

炭火焼で焼けば、なぜ美味いのか。

 炭火で焼くと、遠赤外線が表面のタンパク質を高温で焼き固めるので、肉汁は中に閉じ込められる。さらに、その熱がほどよく中に伝わるので、外側はパリッと焼き目がついて香ばしく、中はジューシ―に焼き上がり、うまみもキープされるからである。
 うなぎの蒲焼きに備長炭を使う理由は・・・高熱を発し、火が長持ちするばかりでなく、うなぎを焼く時に火加減を調節しやすいからである。備長炭は、団扇であおぐと高熱になるが、そのままでおくと灰をかぶって低温になり、そのまま火が長持ちする。また炭が飛ばない。

 他の木炭は、あおぐと高熱になり過ぎ、うなぎの皮が焼け焦げるだけでなく火持ちも短い。電気、ガスでは、生臭みが消えにくい。それは高級な魚やビフテキ、焼き鳥でも同じ。木炭の火は、安価な黒炭がバーベキューなどの調理に広く利用されているのも含めて、これに勝る調理用の燃料はないことが分かる。
薪割り体験

 薪ストーブ生活を楽しむ場合、薪割りは欠かせない作業だ。力任せに斧を振り下ろせば、すぐにダウンしてしまう。効率よく薪割りするには、当然コツを要する。そのコツは、振り下ろした斧の重みを最大限に活用することだという。

 斧の自重が最大になった時に、薪に対して斧の刃が直角に当たるのが理想的である。そのことを頭に置いて、台座の高さや薪からの距離を決める。 台座に薪を置くときは、根元を上にした方が少ない抵抗で割ることができる。ネジレや節があって割るのが困難な場合は、クサビを利用すると割れる。
木炭の生産量の推移

 炭は、かつて日常生活に欠かせないエネルギー源であった。その炭の国内生産量は、昭和25年当時、200万トン、炭俵に換算すると1億3200万俵にも達し、山村の大きな収入源になっていた。長年、これだけ大量の炭を消費しても、日本の森林は荒廃することがなかった。炭は、石炭や石油のように枯渇することがない再生可能なエネルギー源だからである。だから、森林の荒廃は、炭の衰退と無関係でないことが分かる。

 炭が衰退していくのは、ガスや電気、さらに昭和30年代前半から始まる「燃料革命」、すなわち石油に移行していくにつれて減少していく。かつて炭の生産量が200万トンあったものが、昭和55年には7万4千トン、平成21年には3万4千トンまで激減している。
▲窯出し体験その1

白炭の窯出し

 白炭窯は、炭焼きの終わりごろ、窯口を大きく開いて、空気を窯の中に大量に入れる。すると窯の中の炭材に火がつき、中のガスも燃えて、真っ赤になり、温度は1000度を超す。そのままにしておくと、全部灰になってしまう。だから頃合いを見て、真っ赤になった木炭を窯口から引きずり出す。
 上の写真は、一般参加者が窯出しした炭に、消火用の灰をかける。この灰を消し粉と呼ぶ。消火した炭は、灰のついた白っぽい色をしていることから白炭と呼ばれている。

 木を炭に変えていく作業は、木に含まれる水分をなくし、さらに木の繊維の間にある成分を、熱で追い出すことで炭化させる。白炭の場合、木が木炭になると、重さで八分の一から九分の一に減少する。木の長さも三分の二ぐらいまで縮むという。今回、白炭に使用した樹木はナラである。
▲窯出し体験その2

炭焼きと森林再生

 樹を切って山から出す仕事の典型が「炭焼き」である。炭の利用は、里山をきれいにし、風通しをよくして、森の再生を助ける。さらに木炭は、再生可能なエネルギーであるから、人間が自然と共生し、持続可能な社会を実現するために、ふさわしい永遠のエネルギーともいえる。だから、ロッカ森保全の会のように、山から広葉樹を切り出し、木炭に変える活動に多くの仲間が集まる理由の一つであろう。

 また、繁殖し過ぎた竹林を整備して竹炭に変えている取り組みも素晴らしい。炭を暮らしに生かして、こうした取り組みを応援してほしいと願う。
若山牧水、炭焼きの詩

冬山にたてる煙ぞなつかしき ひとすじ澄めるむらさきにして
山里に雪来るはやく炭小屋の 軒のせまきに稲かけ乾せり
夕月の細くかかれる山の端に 炭窯のけむり白くあがれり
長塚節、炭焼きの詩

炭がまを焚きつけ居れば赤き芽の ザクロのうれに没日(いりひ)さし来も
炭がまを夜見に行けば垣の外に 迫るがごとく蛙きこえ来
炭がまを這い出てひとり水のめば 手桶の水に樫の花浮けり
▲出来上がった白炭 ▲断面は割れ目が少ない

炭の多様な効能

調理用の燃料・・・うなぎの蒲焼き、焼き鳥、ビフテキ、バーベキューその他の焼き物料理、せんべい、その他菓子類の焼き物などである。
暖房用として、白炭を火鉢やコタツに使う。白炭はガスがほとんど出ず長持ちする。
花炭、装飾炭、華道用、木炭のオブジェ

・水道水の嫌な臭いをとり、美味しい水にしてくれる。
・直接炭を入れてご飯を炊けば美味しくなる。
・下駄箱、冷蔵庫、トイレ、車などに置けば脱臭効果がある

・流し台、タンス、押入れ、床下などに置けば調湿効果がある
・花壇、植木鉢、田畑などに粉炭をまけば土壌改良材
水の浄化(八郎湖の水質浄化に活用)

野菜の日持ちが良くなる・・・野菜は、冷蔵庫に入れても「エチレンガス」を発生し、傷みを早めてしまう。炭を野菜室に入れると、このガスを吸着してくれるので野菜の日持ちが良くなる。炭を微粉末化した専用の炭シートは、吸着能力が炭の1.5倍近く高い。

良く眠れる木炭枕。その他入浴剤、電磁波遮断などに利用。
▲炭を使った行燈と花炭
▲秋田の自慢「ガッコ(漬物)」 ▲竹林から採取したタケノコの煮物
▲暖かい豚汁を食べながら昼食
▲炭焼きや里山再生に関する情報交換会 
花炭

 花炭は、「飾り炭」とも呼ばれ、500 年の歴史を持つ。古くから茶の湯の世界で菊炭と共に使用され、優雅で高尚なものとして珍重されてきたと言われている。木の実、葉、花、果物など素材そのままの形で炭化させてつくる炭の一種である。木炭より比較的簡単に作ることができる。マツボックリやクリなど乾燥したものは短時間でできるという。この花炭は、一般参加者の記念として配布された。
参 考 文 献
「炭」(岸本定吉、創森社)
「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)
「男の民俗学Ⅱ山野編」(遠藤ケイ、小学館文庫)