本文へスキップ

2015森の学校⑬ ブナ帯の恵み講座

ブナ帯の恵み イワナ・山菜・キノコ講座&MY塩づくり
 2016年1月23日(土)、森の学校第13回「ブナ帯の恵み イワナ・山菜・キノコ講座&MY塩づくり」が秋田県森林学習交流館・プラザクリプトンで開催された。参加者は、今年最高の94名で大会議室が満杯になるほどの大盛況であった。講座では、ブナ帯の源流で撮影された画像・動画を中心にスライド約130枚を使い、プレゼン形式で1時間15分にわたって解説・・・その恵みの素晴らしさに、しばしば歓声があがった。

 MY塩づくりについては、森と塩のつながりや歴史・文化、海水から薪ストーブを使って塩をつくる方法、燻製、白炭で魚を焼けば美味いなど、塩にこだわった美味しい食べ方などが紹介された。

●内容/ブナ帯の恵みの素晴らしさ&海水から塩をつくる方法を学ぶ  ▲対象/一般
◆主催/秋田県森林学習館・プラザクリプトン
◆協賛/(一社)秋田県森と水の協会 協力/秋田県森の案内人協議会
「ブナ帯の恵み イワナ・山菜・キノコ講座」 講師:菅原インストラクター
ブナ帯のイワナ編
  • 清流のシンボル「イワナ」・・・夏でも水が冷たく美味しい水が無尽蔵に流れている清流に棲息
  • イワナの種類・・・動画「イワナ」、北海道にのみ生息するイワナ属「オショロコマ」
  • 頭のつぶれたイワナ・・・魚類生態学的に謎が多い怪魚が秋田に集団で棲息している話
  • イワナは何を食べているか・・・胃の内容物からブナ帯の落葉広葉樹がいかに重要かが分かる
  • イワナが棲む森・・・ブナは「イワナ付き林」、マタギにとっては「クマ付き林」
  • 動画「イワナの恋のダンス」・・・11月、産卵を前に繰り返すイワナの恋のダンス
イワナ料理
  1. 刺身・・・尺前後のイワナの刺身のつくり方、清流のイワナはクセもなく身が引き締まって美味
  2. イワナ寿司・・・軽くて便利な道具を使ったイワナ寿司のつくり方(上の写真)
  3. 皮の唐揚げ・・・皮は捨てずに二枚に切って唐揚げに。 食べるとパリパリと音が出て、何やらイワナのセンベイを食べているような音がするので、「イワナセンベイ」と呼んでいる。
  4. 骨酒・・・頭と骨も捨てずに、焚き火の煙で燻製風に燻し、熱燗を入れて骨酒に。 イワナは脂分が多く、出汁が良く出るので骨酒に最適な淡水魚。
  5. もつ焼き・・・胃の内容物をきれいに洗って、焚き火のオキでもつ焼きに→イワナは、きれいな水に棲息しているので捨てる所なく美味しくいただくことができる。
ブナ帯の山菜編・・・ブナ帯の山菜は、品質が最高ランク
  • ギョウジャニンニク・・・早春、カタクリが咲く頃に生えるギョウジャニンニクからスタート。
  • アイコ(ミヤマイラクサ)・・・ニリンソウが咲く頃、生えてくる。葉は栄養価が高いので、捨てずに味噌汁や天ぷらなどに利用する。
  • シドケ(モミジガサ)・・・苦味やアクが気になる方は、天ぷらがおススメ。
  • ヤマブキショウマ・・・クセもなく意外に美味しい山菜の一つ。
  • ウド、ウド畑の穴場・・・雪崩斜面の中腹・高台は腐葉土がぶ厚く、品質の高いウドが生える。
  • ゼンマイ・・・プロは一日70kgも採って、残雪の険しい山を歩く。だから腰痛になる人が多い。
  • ワサビ・・・この花が咲くと清冽な谷は桃源郷のように美しい。
▲5月下旬~6月は、イワナと山菜のフルコースが味わえる最高の季節
  • ミズ(ウワバミソウ)・・・春から秋まで食べられるので、山では一番お世話になっている山菜の筆頭。
  • ブナ~チシマザサ群落は、タケノコの宝庫
  • ニョウサク(エゾニュウ)・・・クマは発情期で沢に集まってくる。クマも大好物なので注意!
  • アキタフキ・・・北に行けば、クマもイワナもフキも大きくなる。だから人間の背丈より大きなアキタフキは、岩手、青森、北海道にも分布している。
  • アザミの茎・・・若芽より6月頃の茎がクセもなく、ボリュームもあって美味しい。
  • 動画「白神山地の難所・タカヘグリ、八幡平大深沢・ナイアガラの滝」
ブナ帯のきのこ編・・・生える時期、採り方、料理など
  • 晩秋~春・・・エノキタケ、ヒラタケ、シイタケ
  • 梅雨の頃・・・ウスヒラタケ、サワモダシ(ナラタケ)
  • 夏・・・マスタケ、キクラゲ、トンビマイタケ
  • 秋・・・マイタケは、花崗閃緑岩を抱く半枯れのミズナラによく生えると言われている。プロは、盆の頃になるとトンビマイタケを採りながら下見に山に入る。偶然を期待するような採り方はしない。何百、何千通りものコースが頭に入っている。経験とデータが全て。
  • ブナハリタケ・・・ブナの木に生え、大量に採取できるキノコ。独特の香りと出汁をよく吸うので、煮物や油炒めに最適。
  • サワモダシ・・・最もポピュラーなキノコだが、その年の天候によって生える時期が2週間ほどズレ込む。さらに腐るのも早く旬に当たるのが難しい。毎週のように山に入らないと旬には当たらない。
  • キツブナラタケ ・・・半枯れのミズナラの根元に生える。サワモダシの中では一番美味。マイタケ採りをしていると、よく見かける外道のキノコの代表。他にミズナラに生えるキノコは、シイタケ、マスタケ、ヤマブシタケ。
  • 黄葉~晩秋・・・ナメコ、ムキタケ
  • ナメコ・・・数百年ブナの倒木に生えたナメコは美しく、被写体としても一級品。ブナ林の宝石と呼んでいる。葉を落とした晩秋になると、森の中の見通しが良くなりナメコを発見しやすくなる。ただし、寒さは半端じゃないので防寒対策を十分に。
  • ムキタケ・・・大量に採取できるので、昔は塩蔵して冬の鍋料理に利用されるキノコの一つ。白神山地のサルは、冬の間、寒さに強いムキタケやヒラタケなどの凍り付いたキノコを食べて飢えをしのいでいる。
まとめ

 現在のブナ帯の植生ができあがったのは、今から約1万5千年前と言われている。その森の恵みを受けて縄文文化が開花し、1万年以上もの長きにわたり続いた。縄文土器はなぜうまれたのか・・・木の実や山菜は、アクが強くてそのままでは食べられないものが多い。灰と一緒に煮てアクを抜くために生まれたと言われている。縄文カレンダーもマタギの生業カレンダーもほぼ同じである。いずれもブナ帯の森と水に生かされた文化だと言える。

 その恵み・・・イワナや山菜、キノコをとって食べれば、ブナ帯の森と水に生かされていることを体で実感できる。ぜひ皆さんもブナ帯の恵みを楽しんでほしい。この講座がその一助になれば幸いである。
質問その1・・・サワモダシを冷凍してから解凍すれば解けたようになってしまうがコツは・・・

 私は急速冷凍ができるキノコ専用の冷凍庫を使っている。サワモダシは、湯がいてから食べる分だけ小分けにしてフリーザーバックに入れ密封してから冷凍保存する。食べる時は、解凍せず、そのまま鍋に入れるのがコツ。最もベストな保存は缶詰・・・缶詰なら汁物、鍋物以外の大根おろし和え、酢の物などにも利用でき、贈答用にも最適。

質問その2・・・クマの対策はどうしているか

 昔はクマ避け鈴を鳴らしていれば、クマに出会うことはほとんどなかった。クマと頻繁に会うようになったのは2004年以降・・・恐らく、人を恐れないクマが増えたからだろう。以来、クマ撃退スプレーを腰に下げている。唐辛子の成分で目や鼻、のどの粘膜を刺激し撃退する。特に親子グマは逃げないので最も注意が必要。これまで二度ほど子連れの母グマに吠えられたことがある。

 「ブォーン、ブォーン・・・」という地鳴りのような重低音で威嚇するので、武器がなければ怖くて逃げる確率が高い。そうなれば、クマは本能的に襲うと言われている。すなわち、クマに背を向けて逃げる行為は、自殺行為と言われている。問題は、クマと遭遇しても冷静な対応がとれるかどうか・・・クマ撃退スプレーを持っているだけで、例え母グマに吠えられたとしても、心に余裕があるので、クマと対峙しながら距離をとるような冷静な対応が可能である。ヒグマとも遭遇したことがあるが、全てクマ撃退スプレーのお陰で無用なトラブルを起こさずにすんでいる。
「MY塩づくり」 講師:進藤インストラクター
▲参加者にサンプルとして無料配布されたMY塩(男鹿の海水からつくった塩)

海と山を結ぶ「塩の道」(参考「生きていく民俗」宮本常一)

 海と山は、一見縁が遠い存在のように思うが、実は昔から塩でつながっていた。東北地方では、山村の人々が牛馬に薪を積んで山から下り、海岸に小屋掛けして、釜屋で塩を煮詰め、それを俵に入れて持ち帰った。そうした製塩は、明治の中頃まで見られた。

 海岸から遠く離れた鹿角地方などでは、そもそも海岸へ出るのが困難である。そういう奥地には、海岸地方の者が牛馬に塩を積んで運ぶ「塩の道」が縦横無尽に張り巡らされていた。一般的に塩と山村でとれるヒエなどの穀物と交換していた。また、山村の人たちにとっては、いつ来るか分からない塩を待ち切れず、塩を買いに出ることもあった。
 塩の専売法は、明治23年から92年間続いたが、1997(平成9)年に廃止された。以降、国内では、海水から自由に塩を作ることができるようになった。また、海外から天日塩・岩塩を自由に販売することができるようになった。
海水から塩をつくる方法
  • きれいな海で海水を汲みポリタンクに入れて持ち帰る。
  • 大きい鍋に海水を入れ、薪ストーブの上にのせて強火で煮詰める。
  • 濃度が22%ほどになると塩の結晶が現れる。木のシャモジでかき混ぜながら1/10の量になるまで煮詰める。海水が白く濁ってくる。硫酸カルシウムは水に溶けないので、フィルターで取り除く。
  • ろ過して透明になった海水を、中火で煮詰めると、シャーベット状の塩が現れる。
  • 水分が残っているうちにフィルターでろ過して、ニガリを分離する。フィルターには塩が残る。ろ過したニガリ溶液は、豆腐の凝固剤に使われる。
▲完成したMY塩

 男鹿の海水からつくったMY塩は、ミネラルをたっぷり含んでいるので、この塩を料理に使えば、オリジナリティの高い隠し味として使うことができる。ブナ帯でとったイワナ・山菜・キノコの恵みを、MY塩を使って料理したり、MY塩漬け保存したりすれば、海と山が密接につながっていることを体で実感できるに違いない。