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森の学校2016 第3回「日本の原風景が残る清流の里」探訪

元気ムラの旅シリーズ 五城目町馬場目・杉沢地区
 2016年5月15日(日)、森の学校2016第3回「元気ムラの旅シリーズ 日本の原風景が残る清流の里探訪」が、五城目町馬場目・杉沢地区で開催された。一般参加者、森の案内人等34名が参加。県内で三番目に古い「福禄寿」酒蔵見学、500年の歴史をもつ五城目朝市、杉沢交流センター「友愛館」見学と干しゼンマイ・スギナ茶体験、古民家「盆城庵」で清流定食を満喫した後森林鉄道があった頃の林業の話、映画「釣りキチ三平」のロケ地になった三平家と奇岩「ネコバリ岩」を見学した。

◆主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン(018-882-5009)
◆協賛/(一社)秋田県森と水の協会
◆協力/清流の会(会長金澤幸則)、秋田県森の案内人協議会
▲「清流の会」会長の金澤幸則さん  ▲ガイドは清流の会顧問の石川交三さん 
「福禄寿」酒蔵見学
  • 福禄寿酒造は、500年の歴史をもつ五城目朝市通りの南入口に位置している。創業は1688年、県内で三番目に古い造り酒屋である。 蔵元は代々「渡邊 彦兵衛」を名乗り、現在は15代目(五城目町長)に当たるという。
  • 秋田の新キャッチコピー「あきたびじょん」には、温泉、農、酒、水など12のテーマが設定されている。その一つ「酒は秋田だべ!」のポスター撮影は、福禄寿の酒蔵で行われた。「古蔵の酒に、一生を捧ぐ人」の笑顔が素晴らしい。
▲上酒蔵 ▲下酒蔵
  • 平成8年、上酒蔵、下酒蔵、事務室、住宅の4ヵ所が全国登録有形文化財に指定されている。上酒蔵は、18世紀末の土蔵造の酒蔵で、秋田の酒蔵の原型と評価されている。現在は、瓶詰め直前の貯蔵タンクが置かれ貯蔵蔵として利用されている。下酒蔵は、19世紀初期の酒蔵で、昭和初期から酒をねかせる貯蔵庫として使われている。
  • 仕込み水・・・ 水質は中硬水で、カルシウムイオン、マグネシウムイオンが多量に含まれ、その含有量は最良のイオンバランスといわれている2:1の比率を保っているという。
  • 甑(こしき)・・・米を蒸すことは、その後の酒造りを大きく左右する重要な工程。その酒米を蒸すための大きな桶のことを甑と呼ぶ。杉材を利用しているが、価格は何と150万円もするという。
  • 米の国秋田は酒の国・・・秋田県は、気候的にも米作に適した地域で、良質な米どころとして有名である。酒造りには、「あきたこまち」や「めんこいな」といった飯米も使われるが、吟醸酒などの高級酒は、酒造好適米を使う。福禄寿酒造は、地元農家とタイアップして五城目町酒米研究会を設立。その品種は、秋田県オリジナルの酒造好適米・・・秋田酒こまち、美郷錦、美山錦、吟の精の4種類。もちろん、酒造好適米の代表種として名高い山田錦も使っている。
 500年の歴史・五城目朝市
五城目朝市の歴史

 1495年頃、馬場目の地頭安東季宗(あんどうすえむね)が家臣の斎藤弥七郎に命じて「市神」と書いた八角柱を旧馬場目村町村に立ててまつらせ、そこに市を開いたのが始まりと伝えられている。「町」は「市」を意味していて、市(町)の立つ村ということで「町村」と呼ばれるようになったという。

 1589年、安東氏の内紛によって馬場目城が滅び、五城目に藤原内記秀盛が入ると、柱は現在の五城目に移された。江戸時代には、阿仁鉱山への物資補給の基地となり、西からは男鹿の海の幸、潟の幸、東からは山の幸が集まってきた。さらに秋田藩の保護もあって、市はますます繁昌し、五城目は在郷町として発展した。

 かつては、上町通り・下夕町通りに、2と7のつく日に交互に立つ六斎市であった。現在は、毎月2・5・7・0のつく日に開催。臨時市は、5月4日祭市、8月13日盆市、12月31日歳の市を開催している。場所は、下夕通りの一部に限定された。五城目朝市は、1495年に始まり、1995年に500年を迎えた。
ごじょうめ朝市plus+

  朝市の伝統を守り、未来の可能性を拓く場として、毎月2・5・7・0のつく定期朝市の開催日が日曜日にあたる日を 「ごじょうめ朝市plus+」として拡充・・・いつもの朝市の風景はそのままに、歴史的な文脈・文化を受け継ぎ守りながらも、若者出店や新たなチャレンジを応援している。従来の朝市が、若者や若い家族連れも楽しい朝市へと広がっている。5月15日は、日曜日に当たることから、「ごじょうめ朝市plus+」で開催された。
スーパーとの違いは・・・

 便利になったスーパーでは、季節を感じることが乏しくなっている。500年の伝統を持つ朝市は、売り子との会話、人々が交流する場になっているほか、四季折々、自然の恵みの旬とともに、その季節の移り変わり・自然の循環する時間を知らせてくれる。そこがスーパーとは決定的に違う点である。特に今年は、雪解けが早く、5月に入って気温も上昇・・・ありとあらゆる山菜が一斉に生えてきた。ゆえに今年の朝市は、アイコ、シドケ、ウド、ミズ、ヤマワサビ、アキタフキ、ワラビ、笹竹、タケノコ(ネマガリダケ)、セリなど種類がやたら多いのが際立っていた。
▲茎が太く品質の高いアイコ  ▲ワラビとミズ 
▲ウドとヤマワサビ  ▲タケノコと笹竹
▲ワラビとアキタフキ  ▲セリ
▲八郎湖産鮮魚・・・朝獲れたばかりで、まだ生きているフナ、ナマズ、エビ類 
▲山野草
杉沢交流センター「友愛館」
  • 杉沢交流センター「友愛館」の前身は、2005年に閉校になった杉沢小中学校。外観は、打放しコンクリートだが、内部には木材がふんだんに使われている。体育館正面に掲げられた「清流」「友愛」の書は、本校卒業生で秋田大学名誉教授・故石川三佐男さんの直筆。
  • 杉沢小学校校歌・・・「馬場目岳の山ふところに そびえたち/学びの舎は わが母校/杉の芽立ちの すくすくと/のびるがごとく すこやかに/大空高く のびてゆく/杉沢 杉沢 小学校・・・」とある。この校歌や杉沢という地名から、周囲の山々に秋田杉がいかに多かったかが分かる。
  • 2009年3月に公開された実写版映画「釣りキチ三平」は、「日本の原風景が残る清流の里」杉沢地区の北ノ又集落やネコバリ岩周辺で主に撮影されたことから、友愛館には「釣りキチ三平」の絵や原作者の矢口さんと滝田監督のサイン入り写真パネルが大きく掲示されている。これがこの地域自慢の宝物の一つ。
  • シンポジウム「釣りキチ三平」を描いた2人のアーティストと秋田の再生・・・映画「釣りキチ三平」のDVDが発売された2009年10月、広域五城目体育館を会場に、原作者の矢口高雄さんと滝田洋二郎監督の二人を招いてシンポジウムが開催された。
  • その際、「ネコバリ岩」での遡行写真を大きく引き伸ばしたパネルに、矢口さんと滝田監督の2人がサインをしている。その貴重なパネルが「友愛館」の中でも目立つ壁に大切に掲示されている。
  • 友愛館の玄関先では、山菜採り名人の地元の方々を講師に「干しゼンマイのもみ方体験」と「スギナ茶のつくり方・効能」について学んだ。
  • 干しゼンマイ・・・ゼンマイの乾燥は、もみ手の技術で美味しさが決まると言われる。その名人の技を拝見しながら体験を行った。ゼンマイは採取後すぐに根元が硬くなるので、帰宅したらすぐに処理する必要がある。ムシロなどに広げ、霧を吹くと綿がとれやすい。綿をとりながら規格を選別する。鍋にゼンマイの約二倍の水を入れて加熱、沸騰寸前にゼンマイを入れて加熱する。緑色が消えて黄褐色になったら引き上げる。日当たりの良い場所に広げたムシロに、茹でたゼンマイをまんべんなく広げる。
  • 十分な日光を浴びると1~2時間ほどで赤味を帯びてくる。両手で丸めながらもんでいく。その際、優しくもむのがコツ。乾燥中に5~6回もみながら干し上げる。表面に水分がなくなったら、500gほどを集めて両手で軽く5~6回繰り返してもむ。二回目以降は、同じ要領でもむ。最後は小分けして広げ、乾燥させる。時々天地返しをし、仕上げに広げて干し上げる。天気が良ければ2~3日ほどで干し上がる
  • 乾燥歩留りは生の約1/11、含有水分は11%以下に乾燥させる。乾燥後は、厚めのポリ袋に入れ、乾燥剤を入れて保管する。
  • スギナ茶のつくり方・・・スギナはツクシが成長した後に生えてくる雑草。スギナを採って良く洗う。日干しで乾燥させる。乾いたスギナを細かくカットし、フライパンで軽く煎りながら、残った水分を飛ばし香りを良くする。
  • スギナ茶の効能・・・スギナはミネラルの宝庫で、野菜の代表・ほうれんそうと比較すると、リン、カリウムは5倍、カルシウムは155倍、マグネシウムは3倍など、圧倒的なスペックを誇る。ミネラルが不足気味な人、ストレスを感じている人、自律神経に不安を感じている人、皮膚炎でお悩みの人などに効能があるという。清流の会の「爺婆元気部会」の皆さんは、このスギナ茶を製品化し販売(120g一本、千円)。農家レストラン「清流の森」で、お茶として提供している。
  • スギナ茶の飲み方・・・やかんに水1リットルにつき大さじ1~2杯を入れ、沸騰後泡が持続する程度のトロ火で7~8分煮詰める。急須の場合は、大さじ1~2杯を入れ、熱湯を注いでお好みの濃さになるまで蒸らしてから飲む。
  • 地元の特産として栽培しているシドケ(モミジガサ)、ギョウジャニンニクの畑を見学  
古民家「盆城庵」
  • 盆城庵・・・古民家を復元した茅葺き民家で、農家レストラン「清流の森」の隣にある。囲炉裏もあり、昔懐かしい山村の暮らしを体験できる1日1組限定の宿。冬季(12月~3月)は休館。この古民家の中で、地元の山の幸満載の清流定食をいただいた。 
  • 問い合わせ 農家レストラン「清流の森」 電話018-853-2577、五城目町商工観光課 電話018-852-5222。
  • 古民家で味わう清流定食・・・天ぷら(タラノメ、ミズの葉、カボチャ、ウドなど)、イワナのムニエル、バッケの佃煮、ニョウサクの煮びたし、山ワサビのしょう油漬け、アイコの味噌マヨ、ミズのガッコ、フキの葉のふりかけ、アザミの味噌汁。さらにワラビ、タケノコ、イワナの骨の唐揚げ、食後にホットコーヒーのサービスも。
  • 贅沢な古民家に加え、窓辺から垣間見える新緑と清流を借景に味わう清流定食は、ここでしか味わえない絶品の味であった。地元の旬の素材を活かした食文化・・・そのレベルの高さを実感させられた。ご馳走様でした。
  • 農家レストラン「清流の森」・・・盆城庵の隣に2010年4月24日にオープン。かつては杉沢小中学校の北ノ又冬季分校だった建物を改装して農家レストランに生まれ変わった。イワナや山菜、野菜をメインにした伝統食だけでなく、山菜や野菜などの直売コーナーも価格が安く充実している。当日は、晴天の日曜日とあってほぼ満席状態が続くほど賑わっていた。
  • お問い合わせ 農家レストラン「清流の森」 電話018-853-2577
    ●開館時間   8:30~17:00 (食事提供は11:00~15:00)
    ●定休日    木曜日 (冬期休館12月~3月) ●駐車 約12台
  • 森林鉄道があった頃の林業の話・・・元トロッコの運転手・石川 勝巳さんから、五城目営林署創設110周年記念「営林署のしごと」の資料をもとに、林業で栄えていた頃の話を伺った。山で伐採した材木は、600m~1kmほどの距離を索道で運び、その後トロッコで運搬した。木材の運搬だけでなく、日常の買い物や嫁、婿の運搬までしたので、地元の人々には大変喜ばれた。
  • 森林鉄道・・・森林から生産される木材を運搬するために設けられた鉄道のこと。昭和11年、北ノ又・仁別間が森林鉄道でつながる。昭和16年、森林軌道北ノ又・杉沢線開通。昭和30年、森林鉄道に機関車が入る。昭和46年、県内最後となる杉沢森林鉄道が廃止。馬場目・杉沢の奥地は、かつて「デロ杉流域」と呼ばれていた。奇妙な名前の意味は・・・「全て」という意味を方言で「でろっと」ということから、「流域全てが杉」という意味らしい。
映画「釣りキチ三平」ロケ地・北ノ又集落「三平家」
「釣りキチ三平の家」(五城目町北ノ又集落)

 2008年8月、実写版映画「釣りキチ三平」の撮影が、五城目町北ノ又集落、ネコバリ岩周辺で行われた。三平の家は、坂道の高台にある茅葺民家。茅葺き民家が残る北ノ又集落は、1987(昭和62)年に公開された映画「イタズ-熊-」のロケ現場にもなっている。
 現在、三平家は空き屋になっているが、映画撮影記念として整備され、撮影の様子を写した写真パネルや出演者のサイン色紙、原作者・矢口高雄さんのカラーサイン色紙などが飾られている。管理人は、この家の持ち主・潟上市の近野俊一さん(上左の写真)。
  • 公開期間 4月上旬~11月中旬
  • 開放時間 午前9時~午後5時、入場無料
  • 近野俊一さんは、増田町の出身で矢口高雄さんが狙半内の奥地から町に出て下宿していた頃、良く知っている仲だという。1987年、「イタズ 熊」(東映)のロケ現場になった際、矢口さんは警察署長役で出演。そんな縁もあって、滝田洋二郎監督が三平家にふさわしい古民家が見つからずに難渋していた際、近野家の古民家を紹介したのも原作者の矢口さんであった。そんな深い縁もあって、矢口さんのサイン入り色紙が数多く飾られている。
  • 土屋 太鳳(つちや たお)さんのサイン色紙・・・三平の隣・幼なじみの少女・高山ゆりを演じた土屋太鳳さんは、当時無名だったが、今ではNHK連続テレビ小説「まれ」のヒロインに抜擢された。急きょ、無名時代のサイン入り色紙を取り出し、一番目立つ棚に飾っている、と自慢気に話す近野さんの誇り高い笑顔が印象的だった。これも、「日本の原風景が残る清流の里」を守り続けてきたご利益であろう。
  • この囲炉裏を囲んで「卵かけご飯」を食べるシーンが撮影された。 その一幕を再現すると・・・
  • 魚紳が朝めしを猛然と食っている。一平も食い始める。・・・
    三平「どこか行くだか?」、一平「夜鳴き谷じゃ」、三平「夜鳴き谷・・・」
    魚紳「岩魚の楽園だよ」・・・三平「あ、ああ!行く!行く行く行く!」・・・
    と言って、卵かけご飯を、ガツガツ食べるシーンが撮影された。
2008年8月、ロケ現場撮影風景・・・ 五城目町での撮影は、8月10日~19日まで行われた。
ロケ現場その2「奇岩・ネコバリ岩」
  • ネコバリ岩の名の由来・・・高さ約6メートルの巨岩の上に根を張った巨木の森・・・その姿は、「気張っている」ようにも見える。これを方言で「ねこばる」という。漢字表記は、当て字だが、根が波のように張って離れた地面とつながっていることから「根古波離岩」と名付けられた。「清流の会」では、ネコバリ岩までの山道に砂利を敷いたり、軌道跡の草刈りなどを行っている。
  • 「ネコバリ岩」の標注と一緒に記念撮影・・・夫婦そろって記念撮影をしたいと、シャッターを押すのを頼まれた。その際、「最後の遺影に」と言われたので、「ここで撮影すれば、死ぬまでネコバルな」と返すと大笑い、横とアップ、さらに縦構図と三枚も撮影してしまった。それほど、ストーリ性もあり印象深い景勝地である。
  • 新緑のシャワーと清流のマイナスイオンを全身に浴びてネコバリ岩周辺をゆっくり散策・・・映画では、夜泣き谷の怪物を求めて、一平じいさん、三平、魚伸、そして姉の愛子の4名のパーティが三平家を出発。ネコバリ岩周辺では、渓流を上るシーンが撮影された。ガイドによれば、「映画のラストシーンに出てくる滝はどこか」とよく聞かれるという。残念ながら、最後の滝は、由利本荘市法体の滝だから、かなり遠い。
  • 参考:映画「釣りキチ三平」・・・主なロケ地
    1. 鮎釣り大会・・・湯沢市秋の宮の清流・役内川
    2. 三平家・山間部の小さな村・・・五城目町北ノ又集落
    3. 渓流遡行シーン・・・五城目町ネコバリ岩周辺
    4. 墓参り・・・横手市雄物川町
    5. マタギ小屋・・・東成瀬村すずこやの森
    6. 魚止め滝・・・東成瀬村天正の滝
    7. 夜鳴き谷・・・由利本荘市法体の滝
参 考 文 献
「五城目町史」(五城目町)
「五城目・朝市・五百年」(小野一二、五城目町)
「営林署のしごと」(森林資料館 五城目城)
配布資料「スギナ茶はミネラルの宝庫!」(清流の会)