本文へスキップ

里山フォレスターに学ぶ森のアレコレ

森の学校 大内三川権現山麓の里山散歩

  2017年9月15日(金)、森の学校「里山フォレスターに学ぶ森のアレコレ 大内三川権現山麓の里山散歩」が、由利本荘市大内権現山麓で開催された。一般参加者、森の案内人等35名が参加した。「里山エコの森づくり」を実施している「あきたエコマイスター県央協議会」と、地元住民主体の「権現山里山保全ネット」が、心を一つにして手入れをしている権現山麓の里山を散策。里山フォレスターの皆さんから、森づくりの苦労話や、森林の果たす役割、里山に手入れをし続けることによって春にはカタクリやキクザキイチゲが林床一面に咲き乱れ、秋には紅葉が里山を錦繍に彩るほか、ホダ木に生えたシイタケやナメコなどの森の恵みも多くなることを学び、参加者から春と秋に再度訪れてみたいとの声が多く寄せられた。
  • 主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン(018-882-5009)
  • 協賛/(一社)秋田県森と水の協会
  • 協力/あきたエコマイスター県央協議会、権現山里山保全ネット
  • 権現山里山保全ネット代表 高橋 三夫さんが取り組みの概要を解説・・・秋田県水と緑の森づくり税事業を活用して、温暖化防止に役立つ二酸化炭素の吸収に着目した森林整備を約4haを対象に実施。年間行事として、森林内の下刈り、植菌・キノコ採取、自然観察会、森林に関する講習会、エコツーリズムの受け入れ、子どもの木工教室、小学校の森林内学習、環境イベント参加など、年間10回程度開催。
  • 権現山里山保全ネット・・・林野庁「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」事業を活用して、地域住民主体による共同活動として森林整備13haを対象に実施。1期目(平成25~27年度)から取り組み、現在2期目(平成28年度~)、6haに取り組んでいる。里山林の保全として、広葉樹の除・間伐、下刈り、つる切りを実施しているほか、カタクリ・キクザキイチゲなど早春の森を楽しむ集い、ホダ木の生産、憩いの森景観整備を行っている。 
  • 吉井正善副代表の作品・・・長年里山を手入れし続けた成果として、美しい草花たちが復活。その成果を「里山の四季」として写真を展示。吉井さんは、写真を撮りながら趣味の短歌も詠んでいる。「次世代へカタクリの園贈らんと/笹藪払う郷の野山で」 。
  • 権現山里山保全ネットの看板・・・駐車場のある広場向かいには、「次世代への贈り物」と題したカタクリの大群落と、「里山の森に咲く紅筋山百合」の看板が一際目立つ。里山の散策は、3班に分かれて出発。
  • 手入れが行き届いた里山は、さすがに明るく、森林浴を存分に味わいながら歩くことができる。ブナやコナラ、クリなどの広葉樹の森から木漏れ日が射し込む林床には、様々な植物を観察することができた。 
  • キバナアキギリ
  • クロモジ
  • クルマユリ
  • シラヤマギク
  • 心憎い演出・・・散策ルートには、わざと手入れをしていない区間を残して、そのむさ苦しさを体験させるという、心憎い仕掛けがあった。草木が背丈以上に密生し、歩く道が分からないほど。まるで「魔のヤブこぎ体験」に等しい。その苦しい区間を抜けると・・・
  • 手入れが行き届いた森にやっと出る。すると、苦しみから一気に解放され、ホッとする。やっぱり明るく、見通しの良い森がいい。こうした手入れが行き届いた里山は、危険なツキノワグマの出没を防止する緩衝帯としての機能も果たしていることを忘れてはならない。県内のツキノワグマの目撃件数は、過去最多だった昨年の872件を大幅に上回る千件を超え、大きな社会問題になっているが、ここ大内三川地区では、目撃がゼロとのことである。
  • アザミ類
  • モミジコウモリ 
  • よく手入れされたなだらかな斜面を下る。この一帯は、広葉樹が芽吹く前の4月上旬頃、カタクリの一大楽園になるという。ぜひ見てみたい、と誰しも思うような素晴らしい里山である。
  • 森林浴・・・その効果は、樹木が発するフィトンチッドと呼ばれる物質が森の空気を浄化させることから、清々しい気分にさせてくれる。さらに、自律神経を安定させたり、精神的にリラックスさせてくれる。また、非日常の森林空間に入ると、日常の雑念がなくなる。近年では、森林に数日滞在すると、免疫機能の向上に特異性を持つことが実証されている。だから、数時間歩いても、不思議と疲れないのであろう。
  • 下刈りやつる切りなど、里山保全の苦労話や喜び、森林の多面的な機能などについて、里山フォレスターの方々から現場で直接聞くと、やはり説得力が違う。 
  • オヤマボクチ
  • 樺細工用に皮を剥いだ跡
  • キリギリスの仲間・・・緑の葉の上にいると、同化していて見つけるのが難しい。
  • クリ(食用) 
  • ヤマハギ 
  • ガマズミの赤い実 
  • サルナシ(食用) 
  • 秋の恵み、アミタケ(食用)・・・クセのない風味で歯切れも良い。塩蔵すれば通年楽しめる。 
  • 残念ながら毒キノコに分類されてしまったスギヒラタケ
  • 採草地から道の駅おおうち方向を望む 
  • 童心にかえって「ヤッホー!」・・・ある日、親子連れで遊びに来た子どもの一人が、採草地に駆け上がり、向かいの山に向かって「ヤッホー」と大きな声をあげたら、ヤマビコが返ってきた。「ヤマビコだぁ~、本で読んだことはあるけど、ヤマビコを初めて聞いた」と、アルプスの少女ハイジになった気分で目を輝かせたという。かつての少女たちも一斉に「ヤッホー!」と叫んでみたものの、残念ながら返事なし。最後に、再度一斉に叫んでみたが、やはり無言のままであった。山にもその日の気分があるようだ。
  • ノコンギク
  • イヌダテ
  • アカツメクサ
  • オオイタドリ
  • キンミズヒキ
  • イヌトウバナ
  • ブタナ 
  • ゲンノショウコ
  • シイタケの原木(コナラ)
  • 斜面に寝かせているナメコの原木(サクラ) 
  • 昼食会場になった大内三川情報拠点施設の直売所・・・地元でとれた野菜や木の実、川ガニ(モズクガニ)、漬物などが安値で販売され、飛ぶように売れていた。 
  • 昼食・・・地元手づくりのナメコ・サワモダシ汁、ガッコを囲んで、持参したオニギリ、弁当を食べる。森の恵み、キノコのみそ汁は、お代わりが相次ぐほど美味かった。ご馳走様でした。 
  • 高橋 三夫さんによる森づくり講座・・・地球温暖化防止に役立つ二酸化炭素の吸収に着目した「里山エコの森づくり」を行っている理由について、森林の有する多面的機能や、光合成のしくみ、森林による二酸化炭素の吸収量と炭素の固定といった難しいテーマについて、手づくりのパネルを使って分かりやすく説明してくれた。
  • 森林の有する多面的な機能・・・土砂災害防止や土壌保全の作用、生活に欠かせない水の確保・洪水緩和、地球温暖化防止のための二酸化炭素吸収作用、生物多様性保全、保健・レクレーション機能、木材などの物質生産機能など。これらを貨幣換算すると、年間73兆円にもなる。
  • 光合成のしくみ・・・大気中から取り込んだ二酸化炭素と、根から吸い上げた水を原料に、緑色の葉緑体が光エネルギーを利用して、ブドウ糖やデンプンなどの有機物を生産し、酸素を大気中に放出する。生産された有機物は、炭素が鎖のようにつながった化合物だが、植物の葉緑素は、二酸化炭素の炭素同士を次々と結合する役目を果たしている。つまり植物だけが自給自足で栄養分をまかない、自分の体を作り上げていくことができる。その大集積所が森林なのである。
  • 森林を中心とした食物連鎖・・・動物は、他の生物を栄養として取り込まなければ生きていけない、いわゆる「消費者」に過ぎない。だから生産者である森林に、虫や野鳥、小動物が群がり、木の幹や葉などに巣をつくったり、葉や花や実を食べたりして生きている。その動物をエサにする大型動物もやってくる。森林は、食物連鎖のベースになっている。だから、もし森林がなくなければ、多様な動物たちは生きていけないことが分かる。
  • 森林による二酸化炭素の吸収量と炭素の固定・・・炭素固定量は樹齢とともに変化し、一定の樹齢まで増加した後、樹木の成熟に伴って減少していく。こうした森林の二酸化炭素吸収源に着目すれば、伐期に伐採し、木材として利用し、伐採後は植栽するという森林の循環が極めて重要であることが分かる。国のアンケートによると、国民の森林に対する期待として森林の二酸化炭素吸収機能が自然災害防止と同様に高い値を示している。だから私たちは、森林の有する多面的機能のうち、温暖化防止に役立つ二酸化炭素の吸収に着目した森林整備を行っている。