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2014雪国に春を告げる草花

 雪国の人々にとって、春を告げる草花ほど輝いて見えるものはない。そんな光景を見たくて、雪解けが早い男鹿の海岸を走り、まだ芽吹く前の雑木林に分け入った。すると、明るい林床には、フクジュソウやバッケ、カタクリ、キクザキイチゲ、エゾエンゴサクなどが一面に咲き競っていた。こうした春を告げる草花の群れに出会うと、誰もが笑顔になり、生きている喜びが湧きあがってくる。(撮影:2014年4月2日)
▲バッケ(ふきのとう)

 日当たりの良い道路沿いや斜面、棚田の畔、川の土手など至る所に顔を出していた。地元の人たちも好天に誘われて、春一番の恵みを摘み取っていた。
  バッケは、眺めるだけでなく、自然の苦味と春の香りを楽しむ山菜のトップバッターでもある。料理は、天ぷら、バッケ味噌が定番。
▲フクジュソウ(毒)

 明るい雑木林の斜面を上ると、鮮やかな黄色の花がお出迎え。既に草丈は伸び、旬を過ぎてはいたが、この黄色の花を見つけると、映画「幸福の黄色いハンカチ」を思い出す。それもそのはず、花言葉は、永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福なのだから。
「春のはかない草花」(スプリングエフェメラル)

 フクジュソウは、雪解けとともに花を咲かせ、木々が芽吹く頃には枯れてしまう「春のはかない草花」(スプリングエフェメラル)の代表的な早春植物である。同種に、カタクリ、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、エゾエンゴサク、ショウジョウバカマなどがある。直売所に寄ると、春の草花・フクジュソウの鉢物が玄関先で販売されていた。
▲カタクリと背後の白花はキクザキイチゲ

 カタクリとキクザキイチゲの競演は、何度見ても素晴らしい。秋田では海岸部が4月上旬頃、内陸部は4月中旬~5月上旬頃、一斉に開花する。
 花言葉は、咲くその姿から「初恋」・・・カタクリの本場・北アメリカでも「ファーストラブ」という。花を愛でる感性は、世界共通ということか。
▲キクザキイチゲの群落

 早朝は、花が萎んでいたが、暖かい春の陽射しを浴びると一斉に開き踊りだした。
 花の名前の由来は、キク科ではないが、花の咲き方が「キク」のような形で咲くので「キクザキ」、一つの花を咲かせるので「イチゲ」・・・合わせて「キクザキイチゲ」の名前がついた。  
▲ヤマワサビの白花

 こんなに早くワサビの花を見るとは・・・思わず数本採取する。定番の醤油漬けで、春一番の辛味をいただく。 
▲ナニワズ

 「春のはかない草花」(スプリングエフェメラル)を撮影しに出掛けると、よく見掛ける低木林がナニワズ。枝先に小さな黄色の花が多数集まってつき良く目立つ。
▲エゾエンゴサク

 毒草の多いケシ科の中では数少ない食用種で、漢方の生薬名は「延胡索(えんごさく)」。
▲コバイケイソウの群落(毒)

 鮮やかな緑色で、葉が開く前の若芽は美味しそうに見えるが毒草・・・ウルイと間違えて誤食する場合が多いので注意。
▲早春の味(バッケ、カタクリ、ギョウジャニンニク、ヤマワサビ)

野に生える山菜などに命を込める料理人

 「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」で、野に生える山菜などをメインに「料理に命を込める」料理人・中東久雄さんの番組は素晴らしかった。彼は「摘草料理」で有名な料理旅館・美山荘三代目当主の次男で、今や「京都で最も予約が取りにくい」といわれる料亭「草喰(そうじき) なかひがし」を営む。

 彼は毎朝、店で使う食材を集めるために、京都・大原へと出かけて山菜を採り、顔なじみの農家の畑で野菜を収穫する。そして皿の上で、大原の自然を巧みに表現する。例えば春の息吹を伝える食材「ふきのとう」は・・・

 「ふきのとう」は、苦みが強いが、あえて塩を加えず真水でゆで、苦みを残す。この苦みこそ、雨露や炎天下にさらされた山菜の生命力を伝える重要な要素。食材の声に耳を傾け、手をかけすぎず、食材の「命の味」を最高に引き出す・・・その技と心は秀逸である。座右の銘は、兄からもらった手紙「誇り高く平らに生きよ」・・・山菜の声なき声に耳を傾け、謙虚に学びながら生きることだという。

 今年も、山の命をありがたくいただく山菜の季節が、すぐそこまでやってきた。山の恵み・・・その声なき声に耳を傾け、山に謙虚に学びながら生きたいと思う。