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 久しぶりに爽やかに泣ける映画を見た。それは簡単に言えば・・・都会と、その対極にある山村とのギャップが生み出す究極の面白さがあった。

 都会育ちの主人公・18歳の勇気は、大学受験に失敗、彼女にもフラれ、進路が決まらないまま卒業。ふと目にした「緑の研修生」のパンフレットの表紙・・・「森であなたと、働きたい」と微笑む美女に騙され、1年間の林業研修プログラムに参加することになった。

 ローカル線を乗り継ぎ降り立った駅は、ケータイも、都会の常識も通じない山間奥地の神去(かむさり)村であった。鹿やマムシ、山ビル、害虫だらけの山、「山猿」のように凶暴で野性的な先輩・伊藤英明の演技が光る。勇気は、過酷な林業の現場に耐え切れず逃げ出そうとするが、表紙の美女が神去村に住んでいることを知り、踏み止まる。

 都会とは正反対の異次元の世界・・・拒否反応を示したくなるほど強烈な村人たち、危険と隣り合わせの過酷な林業研修を通して、勇気に新たな発見、価値観が芽生えてゆく。そんな時、勇気の元彼女は、大学のスローライフ研究会のメンバーとして神去村の中村林業を訪ねてくる。

 スローライフとは、時間に追われながらファーストフードで食事を済ませる都会的な暮らしとは正反対の暮らし・・・田舎暮らし、あるいは山小屋で暮らすようなスローな生き方をすることである。そんな暮らしに憧れて神去村にやってきたのだが・・・

 彼らは、物見遊山的な観光気分で林業の現場を撮影したり、村人たちへの接し方も失礼極まりない。切れそうになった林業の先輩を前に、勇気は、かつて自分がいた世界に大きな違和感を感じ、彼らに「帰れ」と叫ぶ。この価値観の逆転シーンは、感動させられる。

 大木の上に登る林業家しか見たことのない風景・・・その迫力ある映像は、林業という未知の世界に引き込まれる。「自分たちは顔も知らない、曾おじいさんあたりが植えた木を伐って稼いでいる。同時に、今植えている苗は自分らが死んだ後に孫やひ孫が伐って生活の糧にするんだ」・・・そんな息の長い時間と空間をもつ林業、都会にはあり得ない山の神信仰、木を育てる大変さがジワリジワリと伝わってくる。

 そしてラストのクライマックスは、山の神の奇祭・大山祇祭(オオヤマヅミサイ)である。あのチャランポランな勇気が、ついに村人たちの祭りの一員として認められ参加する。フンドシ姿の男たちが、命がけで挑む山の祭り・・・ご神木・千年桧を切り倒す。そして巨大な男根の形に削り、それを滑り落とす木製レール、その先にワラで作った女陰が待っている。大自然と共生する生命力・子孫繁栄、無病息災・・・危険でワクワクするほどのリアルさで、観客を一気にクライマックスへと誘う。

 エンディングの字幕が流れる最後に・・・
 「緑の研修生」のパンフレットの表紙が再度出てくる。
 「木漏れ日の中で、僕らは輝く」・・・何と微笑む勇気が表紙を飾っているではないか。

 都会で居場所を失った若者が、幸運にも山の女神(美女)に誘惑されて、ついには山間奥地の林業の世界に居場所を見つける・・・その十人十色の幸せに、爽やかな嬉し涙が流れる。この映画は、自分の将来を決めることができない軟弱な若者が自立と成長を遂げるには、競争を勝ち抜くことではなく、自分の知らない世界に飛び込んで、新たな発見、価値を見出すことだという答えを示唆しているように思う。だから、林業を知らない人はもちろんのこと、森づくりに関わる人たちにも、ぜひ観てもらいたい映画である。ちなみに、DVDではなく、ぜひ臨場感のある映画館でご覧いただきたい。

映画『WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常』公式サイト 2014年5月10日全国公開
農林水産省/WOOD JOB!(ウッジョブ!)
農林水産省-5月10日 緑の特命大使任命状の授与
文部科学省 キャリヤ教育と映画「WOOD JOB!」
原作「神去なあなあ日常」(三浦しをん)特設サイト