森の学校 乳頭高原・紅葉のブナ林トレッキング
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2025年10月21日(火)、森の学校「紅葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原(仙北市)のブナ林で開催された。一般参加者等30名が参加。紅葉の絶景は秋晴れが絶対条件だが、残念ながら曇り時々小雨模様であった。しかし最近の急激な冷え込みで、例年より紅葉の見頃が早く、その絶景を楽しむことができた。昨年は、ブナの実が豊作だったので、今年の1月はクマのベビーラッシュになったと予想される。加えてクマは、栄養価の高い人の食べ物に依存する割合を年々高めていることから、個体数が爆発的に増えていると推測される。そんな中、今秋はブナの実が「大凶作」に加えて、ナラ類のドングリも「大凶作」で、クマの食べ物がほとんど見当たらない。だから乳頭高原のブナ林でも、クマの気配が全く感じられなかった。恐らく、里グマに加えて奥山のクマも一斉に里へと移動した結果、里から市街地に至るまで、連日、クマの異常出没と人身事故が多発する異常事態に陥っているのであろう。
- 共催/秋田県森の案内人協議会、秋田県森林学習交流館指定管理者
- 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会
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- 休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。
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- メインガイド・・・秋田駒ヶ岳・乳頭山周辺でパークボランティアをしている森の案内人・亀井健一さん、植物に詳しい森の案内人・菅原與志美さん。2班に分かれて出発。
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- コース・・・旧乳頭スキー場(標高770m)→休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原(890m)→黒湯(830m)→孫六温泉→大釜温泉→妙の湯→休暇村乳頭温泉郷→旧乳頭スキー場(標高770m)
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- マザーツリー・・・ブナの寿命は300~400年と言われている。乳頭高原のブナ林は、約80年ほど前に大部分のブナの木が伐採されたが、その際、ある程度の割合で残された母樹を「マザーツリー」という。樹齢200~300年前後のマザーツリーから自然に種が落ちて一斉に成長し、今日のブナの二次林が再生された。この森は、人の手による植林ではなく、マザーツリーを残すことで自然再生できることを示すお手本のような森である。
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- ブナ林に囲まれた池の丸太イワナ・・・休暇村手前に、ホンナ沢から清流が流れ込む池がある。その池の透明度は高く、丸々太ったジャンボサイズのイワナが悠然と泳ぐ光景を鑑賞できる。イワナ好きにはたまらない池だが、「釣りは禁止」につき注意!
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- ヌメリスギタケ/ムキタケ(食用)・・・ムキタケは、ブナやミズナラなどの立枯木や倒木に重なり合って群生する。このキノコが生えると、マイタケの発生は終わりと言われている。
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- 紅葉と黄葉・・・同じ「こうよう」でも、赤く染まる葉は「紅葉」、黄色に染まる葉は「黄葉」と書く。黄葉するか、紅葉するかは、ほぼ遺伝子で決まっているらしい。ブナ帯における黄葉の代表がブナ、ミズナラで、紅葉の代表がモミジ・カエデ類である。ただし、光の当たり具合、気候条件に応じて黄葉したり、紅葉したりするものもある。それだけ多様な黄葉、紅葉を楽しむことができる。
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- 美しい紅葉の条件・・・最低気温が8℃以下になると紅葉が始まると言われている。その中でも美しく紅葉するには・・・
- 夜の急激な冷え込み・・・最低気温が5℃以下であること
- 十分な日当たりと昼夜の気温差が大きいこと
- 適度な湿度・・・適度な雨量が適度な間隔で続くこと。ブナ帯の渓谷は、この三条件がそろうので紅葉の名所が多い。
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- 木の葉が紅葉するのはなぜ?・・・樹木の葉は、カロチノイドと緑の色素クロロフィルを持っているが、通常はクロロフィルの含有量が多いため緑に見える。秋、葉を落とす準備として、葉の付け根の所に離層というミゾができる。そしてクロロフィルが分解され始めると、カロチノイドの黄色が目立ってくる。分解される速度がクロロフィルより遅いので、葉は一時的に黄色になる。
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- 葉に蓄積した糖類が紫外線を浴びると、アントシアンやタンニン系の色素に変化する樹木は、それぞれ赤や茶に紅葉する。ハウチワカエデやモミジ、ナナカマド、ツタウルシ、ニシキギなどは赤く(紅葉)なり、ブナ(上の写真)やトチノキ、イチョウ、カツラなどは黄色(黄葉)になる。
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- ウスタビガ(ヤママユガ科)・・・ブナ林が黄葉する頃に羽化する。だからハネは黄葉に同化した黄色で、半透明の目玉模様がある。写真の個体は、乳頭キャンプ場のトイレの壁に張り付いていた。
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- 同じ木でも葉の色が違うのはなぜ?・・・赤色のアントシアンの生成には、日光、夜間の冷え込みが条件となっている。枝先の葉に比べ、木陰、葉陰の葉は、日中の光、夜の冷え込みが不足しているので、同じ木でも赤と黄色が現れる。これは紅葉する木全てにあてはまるという。
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- 落葉が茶色になるのは・・・カロチノイドも分解され、食害を防いでいるタンニンから褐色色素のフロバフェンができるためである。
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- 落葉のジュウタン・・・林床に降り積もった落葉には、登山靴一つの足にトビムシ類は1000匹もいるという。何層にも堆積した落ち葉は、ミミズ、トビムシ、ササラダニなどの土壌生物やさまざまな菌糸によって分解され腐葉土へと変化、森をつくる大切な養分となる。森は、まさにリサイクルの精密工場のような働きをしている。また1cmの土をつくるのに、森林は100年以上もかかると言われている。
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- 凍裂(とうれつ)・・・ブナの幹が縦に一直線に割れた線が入っている。これは幹が凍結して膨張し、弾けるように裂ける現象。これを凍裂と言い、摂氏零下25度以下で起こるという。
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- ブナの樹皮・・・灰白色でなめらかな樹皮には、地衣類や苔の仲間などがつき、特有の斑紋(上左写真)がある。ところが、硫化水素を浴びる周辺のブナの幹では、特有の地衣類などが育たず、木肌が白っぽいブナ(上右写真)が林立している。
ちなみに日本海側のブナは、樹皮が白っぽいので「シロブナ」とも呼ばれている。
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- イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。
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- チシマザサてんぐ巣病・・・菌えいに侵された枝は、毎年小さくなりながら枝をだしていくという。
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- 黒湯温泉と紅葉・・・乳頭温泉郷の最奥部先達川上流に位置する黒湯周辺は、ちょうど紅葉がピークを迎えていた。黒湯は、古くは秋田藩の湯治場で、鶴の湯温泉に次ぐ歴史がある。発見は1674年頃と推測されている。黒湯の主人は、大仙市「旧池田家庭園」で知られる池田家16代目当主である。
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- 新しくなった孫六温泉 六庵・・・先達川沿いに建つ湯治場で、「孫六温泉 六庵」としてリニューアルオープンしている。
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- 乳頭温泉郷湯めぐり号・・・ブナの森を駆け抜け、鶴の湯、妙の湯、黒湯温泉、蟹場温泉、孫六温泉、大釜温泉、休暇村乳頭温泉郷の七つの湯を楽しむことができる。ブナの森でキャンプしながら、秘湯を巡る温泉三昧を楽しむこともできる。
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- 妙の湯から休暇村乳頭温泉郷を経て、出発地点に戻る。
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- 美しいハウチワカエデの紅葉・・・カエデの仲間では、葉が最も大きいから、一度に色づかず、葉先から少しづつ変化していく。黄緑、黄色、オレンジ、赤など変化に富み、多彩なグラデーションでブナ帯の森を艶やかに彩る。日当たりの良いところほど、美しく紅葉する。日陰で日射不足になると黄色いままのことが多い。
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- ヤマウルシ・・・・カエデやツタよりも早く、黄色から真っ赤に紅葉して美しい。
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- オオカメノキ(ムシカリ)・・・黄色から赤紫色、紅色になり、美しく紅葉する。
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- ベニイタヤ・・・黄色に黄葉し、やがて赤褐色になる。
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- ヤマブドウの紅葉・・・大きな葉は、黄色からオレンジ、赤、赤紫に色づいて美しい。
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- オオバクロモジ・・・秋、鮮やかな黄色に色付き、ブナ林内を黄色に染める。
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- ミズナラの黄葉・・・黄葉から褐色に変化。落葉するにつれて青空が透けて見えるようになるが、そのコントラストがまた美しい。
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- コシアブラの黄葉・・・葉は5枚の小葉が掌状につく複葉。白っぽく半透明な黄色に黄葉する。名前は、昔、樹脂液を漉して金漆(ゴンゼツ)という塗料を作ったことに由来する。
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- ホオノキの黄葉・・・ホオノキは黄色から褐色に色づく。
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- ミネカエデ・・・鮮やかに黄葉し、高山帯の紅葉の絶景を演出する主役の一つ。
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- 形見とて 何か残さむ 春は花 山ほととぎす 秋はもみじ(良寛)
何も形見として残すものはないが、春になったら桜の花を、夏はほととぎすの鳴く声を、秋は紅葉を楽しんでくれればいい。
紅葉は、桜の花のように華やかで、はかない。ひとたび木枯らしが吹くと一斉に落葉し、沈黙の冬へ。やがて春が来れば、ブナ帯の木々は一斉に芽吹き、新緑は谷から峰へとまたたくまに駆け上がっていく。ブナ帯の春夏秋冬は、まるで生と死の循環のようにも見える。だからブナ帯の森から生まれた縄文人は、生と死の循環のシンボルとして、丸い円を描くように環状列石を造り、永遠に続く子孫繁栄を願ったと考えられている。
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