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野鳥シリーズ62 キレンジャク・ヒレンジャク

  • 野鳥ファンに人気の冬鳥 キレンジャク・ヒレンジャク(スズメ目レンジャク科)

     冬鳥として日本にやってくるレンジャク類は、キレンジャクとヒレンジャク。尾羽の先端が黄色いのがキレンジャク、赤いのがヒレンジャク。その姿が美しく、共にバードウォッチャーに人気が高い。年によって飛来数の変動が大きく、大群で飛来する年もあれば、全く飛来しない年もある。2020年の冬は記録的な暖冬になったが、両レンジャクの当たり年であった。果実やヤドリギ、ナナカマドなどの木の実を食べる。一般的に、キレンジャクは東日本に多く、ヒレンジャクは西日本に多く見られる傾向があると言われている。ただし、上の写真のように両種は一緒に行動することが多い。雌雄同色。
  • 名前の由来・・・「連雀(レンジャク)」とは、雀の仲間が数多く連なることを意味し、この鳥が多数群れる習性に由来する。尾羽が黄色いのが黄連雀、尾羽が赤いのが緋連雀である。
  • 連雀・・・昔、行商人が背負子を背負った姿がレンジャク類の特徴的な翼を連想させ、渡り鳥のように移動することから、行商人のことを「連雀」「連雀衆」などと呼んだ。木製の背負子そのものを「連尺」といい、音が同じ「連雀」の字を当てるようになったと言われている。江戸時代、行商人が連尺のまま荷物を下ろす場所は、やがて商業地として栄え、「連雀」「連雀町」といった地名として現存している。
  • キレンジャクの特徴・・・先端が尖った長い冠羽とサングラスをかけたような黒い線、太った感じの体形が可愛い。ほぼ全身が褐色で顔には赤みがあり、黒い過眼線が額から後頭へ伸びるが、冠羽には達しない。喉も黒い。尾羽は濃い灰色で先端は鮮やかな黄色。 ヒレンジャクよりやや大きく、全長20cm。
  • ヒレンジャクの特徴・・・黒い過眼線は、尖った長い冠羽に達する。喉は黒く、顔には赤みがあり、ほぼ全身が褐色で、体下面の中央は淡い黄色(下の写真)。尾羽は濃い灰色で先端は赤い。キレンジャクよりやや小さく、全長18cm。 
  • ・・・どちらも「チリチリチリ」「チリリリリ・・・」などと控えめな声で鳴く。集団で一斉に「チリリリ、チリリリ」と鳴くと、小さな鈴がたくさん鳴っているような美しい音色になる。 
  • 生活・・・夏場は、シベリアやカムチャッカ半島などで繁殖し、秋の深まりとともに飛来する。繁殖地では、昆虫類もかなり食べるが、越冬地の日本では、果実や木の実を主食とする。その木の実を食べ尽くすと移動する。越冬地では、両者ともに群れで暮らす。低地の雑木林や農耕地、都市部の一般家庭の庭先にも姿を見せる。 
  • 両種は一緒に行動することが多い・・・上の写真は、キレンジャクとヒレンジャクの混群がケヤキの木に止まって毛づくろいをしているところ。 
  • 好む木の実・・・ナナカマド、ヤドリギ、ズミ、ツルウメモドキ、イボタノキ、カンボク、キヅタ、クワなど。
  • レンジャク類とヤドリギ・・・冬の雑木林では、レンジャク類がこの実を好んで食べる。その果肉には粘り気のある成分が含まれており、消化されなかった種は納豆のような白い糸を引き数珠つなぎのような状態で排出される。そしてその種が落下の途中で樹木の枝や幹に付着し、そこからまた根を張って成長する。ヤドリギは、レンジャク類のお陰で、高い梢に根を張り分布を拡大することができる。だから、ヤドリギにとって、その実を好むレンジャク類は、大切なパートナーである。 (ヒレンジャクの写真提供ブログ私の鳥撮り散歩
  • 当たり年・・・日本中に飛来するが、個体数は少ない。4~5年に1度、群れで飛来することが多い、不定期な冬鳥。渡りの途中で木の実が少ないと、日本にたくさんのレンジャク類が渡ってくることがある。そんな年を、野鳥ファンは「当たり年」と呼ぶほど稀なことである。当たり年になれば、時々、市街地にも現れ、電線やテレビアンテナ、庭木などに群れでとまっていたりする。遠くからだとレンジャク類だと判別するのは難しいが、望遠レンズで覗けば、尾羽の鮮やかな色で簡単に識別できる。
  • クリプトンにも現れる・・・クリプトン正面入口の斜面は、匍匐性のコトネアスター(バラ科の常緑低木)をグランドカバーとして植栽している。野鳥が好む真っ赤な実をたくさんつける。クリプトンの森周辺のナナカマドやヤドリギ、ツルウメモドキなどの木の実は、野鳥たちに全て食べられ皆無状態。唯一残っているコトネアスタ―の赤い実にやってきた。(撮影:2020年3月7日)
  • 目的の赤い実は道路沿いにあるので、人や車が頻繁に通ると、対岸のニセアカシアや電線に避難する。樹木に身を隠し、動かずに待っていると、数羽がコトネアスタ―の木に舞い降りた。
  • 赤い実がたくさん残っている位置に舞い降りた。左端が尾羽の赤いヒレンジャク、右端はキレンジャク。両種が一緒に行動しているのが分かる。
  • 舞い降りても、まだ警戒心が強く、すぐには食べず周囲を警戒する。
  • 密生したコトネアスタ―のヤブに隠れるように入り込み、赤い実をついばむ。
  • 赤い実をついばむ瞬間
  • 赤い実を呑み込む
  • 赤い実をくわえたキレンジャク。奥にもう一羽が写っている。ヤブに隠れて見えないレンジャクもいる。こちらが動かないと気付かないので、静止した状態で観察していると、だんだんヤブから出てきて大胆に赤い実をついばむようになる。ただしコトネアスターは常緑樹で、野鳥の一部が密生する葉や枝に隠れてしまうので、撮影は殊の外難しい。
  • 途中からヒヨドリもやってきて、赤い実をついばみ食べていた。
  • 結局、朝から夕方まで、コトネアスタ―の場所を離れなかった。ということは、赤い実がなくなるまでこの場所を離れないのであろう。ひとたび木の実をついばむレンジャク類を見つければ、場所を移動せずにじっくり観察、撮影できるということだろう。
  • 平安時代から「連雀」の名前で人々に愛されてきた鳥で秋の季語にもなっている。
    新しき雪の餌に来し黄連雀 深谷雄大
    連雀やひとりしたゝる松の中 蓼太
    ひしめきつ冠羽揃えて緋連雀 久永光子
    黄連雀噂の主の来たりけり 前田清子
    連雀の黄なる尾羽を打ちて去り 千葉薫
    黄連雀一羽こぼれて収まりぬ 永田耕一郎
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の野鳥」(山と渓谷社)
  • 「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(石田光史、ナツメ社)
  • 「身近な鳥のふしぎ」(細川博昭、ソフトバンククリエイティブ)
  • 「森の野鳥観察図鑑 鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ編著、主婦と生活社)
  • 「日本野鳥歳時記」(大橋弘一、ナツメ社)  
  • 「くらべてわかる野鳥」(叶内拓哉、ヤマケイ文庫)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)