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昆虫シリーズ56 ガの仲間③ シャクガの仲間

  • シャクガの仲間
     シャクガ科の仲間は、日本だけで700種以上、幼虫は全て「シャクトリムシ(尺取虫)」という共通点がある。幼虫は、体を曲げて縮めては伸ばす、独特の歩き方をする。クワエダシャクのように体を静止すると、木の枝に化けるという擬態によって、天敵に見つからないようなスゴ技をもっている種もいる。緑色や黄色の尺取虫は、葉の色に紛れて目立たない。黄色と黒のような目立つ色の尺取虫は、敵に危険を知らせる「警告色」と呼ばれいる。成虫は、体が細く、ハネの幅が広いのが特徴。よく止まる木の葉に似た模様のハネをもつ種類が多い。(写真:クワエダシャクの幼虫)
  • ウメエダシャク
     平地から低山地の公園や果樹園などに生息。成虫は、昼間に飛ぶガで、黒いハネに白い紋が並ぶチョウのような美しいルックスをしている。食草のそばでふわふわと飛び回る。
  • 腹部は淡い黄橙色で黒色の斑が並ぶ。
  • 幼虫・・・初夏に多い身近な尺取虫。黒い体に赤褐色の縞模様が入っている。梅や桃、桜、ニシキギ、エゴノキなどを好み、時には葉を食べ尽くしてしまうこともある。だから農家や園芸家から嫌われている。幼虫は梅の木の葉を食べるので、名前に「ウメ」がつく。 
  • 発生期・・・6~8月。 
  • 食草・・・梅、モモ、リンゴなど。 
  • ユウマダラエダシャク
     乳白色のハネに灰黒色の斑紋がある。前ハネ前縁中央にある灰色の斑紋の中に黒い輪っか状の紋がなければ本種。大きさに個体差があり、斑紋の変異もあるので識別に注意が必要。類似種も多く、識別も難しいが、本種は最も普通に見られる。マサキの垣根などの周辺を弱々しく飛ぶ。灯にも飛来する。開張30~50mm。
  • 掲載写真の注意点・・・専門家によれば、キタマダラエダシャクも黒い環状紋がないので、写真だけでは確定できない点に注意。
  • 発生期・・・5~6月、8~10月。 食草・・・マサキ、コマユミ、ツルマサキなど。 
  • ヒメマダラエダシャク・・・前ハネ前縁中央にある灰色の斑紋の中に黒い輪っか状の紋がある。大きさに個体差があり、斑紋の変異もあるので識別に注意が必要。開張20~38mm。
  • 掲載写真の注意点・・・専門家によれば、黒い環状紋はキタマダラエダシャク、ユウマダラエダシャク以外の種に現れるので、掲載写真だけでは判定できない点に注意。
  • 成虫は5~9月に現れる。食草は、ツルウメモドキ、クロヅル、テリハツルウメモドキ。
  • オオナミシャク・・・体色は地味で樹皮によく似ている。丘陵地に棲み、樹木の幹にからむツルの上で見つかる。
  • 成虫は5~6月に現れる。食草はイワガラミ。
  • クワエダシャク・・・平地や丘陵地に棲み、クワの木で見つかる。幼虫は、お尻にある末端の脚で枝に止まって枝に擬態する。冬の間は、2センチほどと小さい。春になって葉が出てくると、その葉を食べて大きく成長する。養蚕が盛んな時代は、クワ畑の害虫であった。中齢が枝先で越冬する。
  • クワエダシャク成虫
  • ウスバフユシャク(シャクガ科)
     冬に現れる尺取り虫の仲間。フユシャクに共通した特徴は、口が退化していて一切餌を食べないこと、♂は飛べるが、♀はハネが退化して飛べないことである。上の写真は、左が♀で右が♂。同じ種とは思えないほど、姿形が異なる。羽化した♀は木の幹などに登り、フェロモンを出して♂を呼び交尾する。12~2月に現れる。♂開張21~30mm、♀体長9~10mm。幼虫は、公園や林のサクラ類の新葉でよく見つかる。北海道から九州まで分布。広食性。(写真出典:Shipher (士緯) Wu (吳))
  • 交尾をすませた♀は、歩いて幼虫が食べる木を探して移動する。目的の木を見つけると、日中、暖かな日に枝や幹の割れ目に産卵する。(写真出典:Shipher (士緯) Wu (吳))
  • ♀のハネは、なぜ退化したのか?・・・寒い冬は、体の表面積が小さいほど体温を保つのに有利だからと言われている。
  • ハスオビエダシャク幼虫・・・平地から山地にすみ、初夏のころに現れる。幼虫の尾には、1対の赤茶色の突起がある。
  • 中齢は、頭部がオレンジ色で腹部は黒っぽい。  
  • フタナミトビヒメエダシャク幼虫・・・緑地で普通に見られる。細長い胴体を起こして、葉の上に止まる。触れると体を左右に揺らす。初夏から秋、年2化。 
  • ハグルマエダシャク幼虫・・・幼虫は、葉の色に紛れて目立たない。春から初夏、年1化。食草は、イヌツゲ、アオハダ、ソヨゴ、ウゴックバネウツギなど。 
  • オカモトトゲエダシャク(シャクガ科)
     早春に現れ、小枝に止まると、その存在に気付きにくい。ハネは棒状に畳み込み、その面積を最小にするスタイルは、擬態の一つであろう。飛ぶときは、棒状に畳み込んでいたハネを面状に広げる。夜間、♂は灯によく飛来するが、♀はそのような習性がないため、見ることは極めて少ない。幼虫は、様々な広葉樹の葉を食べ、6月頃にサナギになると、翌春の羽化まで長い眠りにつく。2月末から4月に現れる。北海道から九州まで分布。開張33~46mm。
  • 名前の由来・・・「岡本」は、発見者の岡本半次郎の名で、幼虫が、背中にトゲを持ち、枝に擬態した尺取虫であることから。
  • オカモトトゲエダシャク幼虫・・・幼虫は、新緑の頃、様々な樹木の枝先で見つかる。体を丸めた独特のポーズで鳥の糞に擬態する。春から初夏、年1化。 
  • シロツバメエダシャク
     名前の由来は、全体が白く、後ハネの尾状突起がツバメの尾を連想させるエダシャクの仲間だから。前に淡い褐色の帯状筋が2本あり、その間にウスキツバメエダシャクのようなさざ波模様がない。平地から山地にすみ、神社や沢沿いの林縁などで見られる。幼虫で越冬する。 
  • 発生期・・・6~7月、9~10月。食草 イヌガヤ、イチイ、キャラボク、チャボガヤ、トウヒ。 
  • ウスキツバメエダシャク
     顔は橙褐色で、前ハネは黄色っぽく全体にさざ波が強い。筋は茶色っぽい。尖った尾状突起付近に赤茶色の斑点が2つ入る。平地から山地の林周辺や草むらに生息。夜、明かりにも飛来するほか、クリなどの花に集まり、日中に活動していることもある。アセビなどには毒があるが、エサを通じて体内に蓄積するので、天敵に襲われないといわれている。
  • 発生期・・・5~11月
  • 食草・・・ブナ科、ニレ科、マメ科、スイカズラ科など。
  • ツマキシロナミシャク・・・ハネは白黒の斑紋と黄色い縁取りがある。後ハネ外縁部の黄色部は大きく明瞭。
  • 発生期・・・6~8月。
  • 食草・・・サルナシ 
  • ツマトビシロエダシャク・・・分布 北海道~九州。発生期 5~6月。食草 タニウツギ、ツクシヤブウツギ。
  • フタモンクロナミシャク・・・分布 本州、四国、九州、奄美大島、石垣島。
  • 発生期・・・4~9月。食草 不明。
  • ミスジツマキリエダシャク・・・その名のとおり、3本の横線が目立つが、実際は4本の横線がある。前ハネ外縁が角張り、後ハネ外縁は鋸刃状。色彩の斑紋は変異に富む。
  • 生期・・4~8月
  • 食草・・・スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツなどの針葉樹。
  • オオハガタナミシャク・・・明瞭な白い縁取りの帯模様がある。腹部を上げて止まる習性がある。年2化、5~9月に出現。食草は、ヤマブドウ、エビヅルなど。
  • ウンモンオオシロヒメシャク・・・灰白色地に薄茶褐色~灰褐色の模様があり、不明瞭な眼状紋がある。低地の雑木林で見られる。幼虫は、食草や周りの植物に棒状にまっすぐ止まる。5~9月に現れる。食草は、スイカズラ、アラゲヒョウタンボク。
  • カギシロスジアオシャク・・・鮮やかな青緑色で、前ハネに白色の内横線と外横線があり、前縁で白紋となる。灯によく飛んできて、ハネを平たく広げて止まる。 発生期 5~9月。平地から山地まで広く普通に見られる。食草は、クリ、コナラ、クヌギ、ミズナラなどのブナ科。
  • カギシロスジアオシャクの幼虫・・・クヌギやコナラの葉を食べるカギシロスジアオシャクの幼虫は、冬芽から芽がほころぶ変化に合わせて、脱皮しながら自分の姿を変えていく。若齢幼虫の時は、コナラの冬芽に擬態。中齢幼虫の時は、クヌギの新芽に擬態。終齢幼虫(上の写真)の時は、ほころびかけたクヌギの芽に擬態する。
  • クロスジアオシャク・・・カギシロスジアオシャクとよく似ているが、本種は、ハネの外縁が波打っていること、横線が太くほぼ直線であることで識別できる。成虫は6~8月に現れる。食草は、クリ、クヌギ、アラカシ、コナラ。
  • カバエダシャク・・・前ハネの横線が「二」の字で、ハネ頂付近に白色紋がある。山地に生息し、明かりに飛来する。
  • 発生期・・10~11月。広食性。
  • シダエダシャク・・・分布 北海道~九州。4~6月に現れる。食草は、ワラビ。
  • セスジナミシャク・・・黒褐色に白色線が網目状に走る。前ハネに茶色い不定形の紋がある。低山地から山地に普通に見られる。年2化、4~10月に出現。食草は、アケビ、ミツバアケビ。
  • オレクギエダシャク・・・色彩の濃淡にはかなりの変異があり、黒化型も出現する。成虫は5~9月に現れる。食草は、ハルニレ、ムソメイヨシノ、ズミ。開張21~37mm。
  • ウスイロオオエダシャク・・・大型で、内横線の内側とハネ頂の赤褐色斑が目立つ。発生期 5~8月。 食草は、マユミ、ツリバナ、ヒロハツリバナ、マサキ、ツルウメモドキ。
  • オオバナミガタエダシャク・・・木の幹に擬態し、見分けがつかないほど。だから樹木の幹にべったり貼り付くようにとまっていることが多い。発生期  6~9月。食草は、ブナ科、バラ科、ヤナギ科、カバノキ科など広食性。
  • トビネオオエダシャク・・・成虫は5~8月に現れる。広食性。
  • ヨモギエダシャク・・・黒い波模様。裏面に黒点が1つ。ハネの濃淡には個体差が大きい。広食性でナシ、リンゴ、モモ、クリなどの果樹類のほか、チャ、ダイズ、アズキなども食害する。開張35~56mm。全国に分布。
  • 発生期 4~11月。広食性。 
  • フタホシシロエダシャク・・・白色で黒色~褐色の斑紋が2つある。発生期  4~8月。食草は、ソメイヨシノ、ウワミズザクラ、マメザクラ、ナナカマドなど。
  • キオビベニヒメシャク・・・分布 本州、四国、九州。発生期 5~9月。食草は、イヌダテ、ミゾソバ。
  • アシブトチズモンアオシャク・・・緑と茶色の地図のような色合いが鮮やか。地図のような斑紋のハネからこの名がついた。枯れかけの葉っぱに擬態しているらしい。平地から低山に生息し、明かりに飛来する。発生期 4~9月。食草はテイカカズラ。分布は宮城県以南、四国、九州。
  • キオビエダシャク
      寒冷な秋田には生息しないが、南方に生息する美しい蛾の一つ。光沢を帯びた濃紺に鮮やかな黄色の帯状斑紋が特徴。成虫は昼行性で、様々な植物に訪花する。生垣や防風林などに使われるイヌマキの害虫として知られている。分布 九州南部から南西諸島。
  • 幼虫・・・シャクトリムシで、橙色の斑紋が目立つ。キオビエダシャクの幼虫は、イヌマキやナギの葉を好んで摂食する。大量に発生し、食欲が旺盛で、加害された樹木は葉が全て食い尽くされるほどだという。
  • 発生期・・・3~11月。突発的に大発生し、食草を大規模に食害する傾向がある。
  • 食草・・・イヌマキ、ナギ。
参 考 文 献
  • 「日本の蛾」(岸田泰則、Gakken)
  • 「昆虫のふしぎ」(監修寺山守、ポプラ社)
  • 「昆虫の森」(丸山宗利、笠倉出版社)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「蛾の図鑑」(今井初太郎、メイツ出版)
  • 「ポケット図鑑 日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「道ばたのイモムシ、ケムシ」(川上洋一、東京堂出版)
  • 「イモムシとケムシ」(小学館)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)