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ツキノワグマの生態と人身被害防止

2017年クマ関連ニュース  2017年11月5日 クマ棚追加
 クマによる人身被害を防止するためには、まずクマと出会わない、クマを引き寄せない方法を心掛けることが最も重要である。そのためには、まずクマの生態をよく知ることである。また、最近は、人を恐れない里グマの出没や、2004年以降、木の実が不作の年には、人身被害が激増している。だから、万が一を想定し、これまで以上に積極的な被害防止対策を講ずることが必要である。
  • ツキノワグマの主な生息地域・・・ツキノワグマは、九州で絶滅、中国地方・四国では絶滅が危惧される地域個体群としてレッドデータブックに掲載されている。秋田県内の生息数は、おおむね千頭前後で推移している。
  • クマが棲む森・・・県内の生息域は、ブナ・ナラ等の落葉広葉樹で代表される冷温帯林の分布とほぼ一致・・・白神山地、大平山・白子森、森吉山、奥羽山脈(八幡平~秋田駒~和賀山塊~栗駒山)、鳥海山地域に分布している。
  • ツキノワグマ (写真:2014年5月上旬、河原に倒れていたツキノワグマ)
     体色は黒。胸にV字・三日月型の白い斑紋(月の輪)があるが、稀にない場合もある。木登り、穴掘り、水泳が得意。冬に穴ごもりして、メスは1~3頭の子を産む。

    ■体長・・・1.2m~1.5m
    ■体重・・・オス約80~130kg、メス50~80kg
  • クマ対策の難しさ・・・「熊」という漢字は、「能」力のある四つ足動物と書く。つまりクマは、知能・学習能力が高い。だから、人間にとって都合の良い学習をすれば、人に危害を加えたりしないが、反面、悪い学習をすれば、とことん悪いこともする。奥山のクマと、里山のクマでは、学習の内容・質が異なる。地域差、個体差によって性格が異なるだけに、クマ対策は難しい。
  • ツキノワグマの強力な爪・・・前足は筋力が発達していて、鋭く固い爪は片足に5本もあり、強力な武器になる。人身被害の多くは、この強力な爪による裂傷である。馬の太い首を一撃でへし折るほどの能力がある。
  • 参考 ヒグマ
     体色は赤褐色と黒褐色の二つのタイプがあり、その色彩と濃淡には変異が多い。基本的には森林性だが、明るい草原、河川の河口部などでも活動する。いったん何かに執着すると、執拗に追うことがある。

    ■体長・・・普通180cm、最大2m
    ■体重・・・200kg、最大400kg (ツキノワグマの最大130kgに対して3倍以上の400kgと巨大)
▲穴から出たクマの足跡
  • ツキノワグマの生態と四季の行動
     クマは、一般に11月中旬から4月下旬まで約5ヵ月間越冬する。穴から出るのは4月中旬~5月上旬頃。その年に出産したばかりの親子は一番遅く、山が新緑に包まれる5月下旬頃と言われている。
  • 越冬明けの糞・・・クマは越冬を終えると必ず「栓」と呼ばれる大きな糞をする。太くて大きく、水気がとても少ないのが特徴。
▲オオバクロモジ
▲タムシバ ▲雪崩にやられたカモシカ
  • 穴から出ると、タムシバの花やオオバクロモジの若芽を手前に手繰り寄せて食べる。また、雪崩地に集まり、前の年に落ちたブナの実やドングリ、雪崩にやられたカモシカの死骸などを食べる。 クマは、死んで腐った肉でも食べる。だからクマと遭遇した場合「死んだふり」をすれば助かる、という俗説は危険なので注意。
  • 参考:うつぶせ首ガード法・・・クマ研究者が、山に慣れていない一般人に適した方法として推奨している方法。地面にうつぶせになって腹部を守り、両手で首と顔面をカバーし、背中は背負っているザックでカバーする方法。ただし100%安全とは言えないが、重症化を防ぐ効果はあるとされている。
  • クマに食べられたカモシカの食痕(2012年5月中旬、太平山系) ・・・最初は内臓を食べ、草木を被せて隠しておく。そして全て食べ尽すまで何度もやってきて食べている。残っているのは、食べられない骨と皮、ヒヅメだけである。その周辺には、何度も来て食べた証しとして、カモシカの毛が入った糞が幾つも残っている。クマにとっては、肉が容易に手に入るのであれば、植物より肉がいかに好きであるかが分かる。
  • カモシカの毛が大量に入ったクマの糞(2012年5月中旬、太平山系)
▲同上拡大・・・カモシカの毛が混じっているのがはっきり分かる
  • ここ20年ほどで「シカが日本の自然を食べ尽す」と言われるほど、ニホンジカが爆発的に増加している。「マタギサミット」では、クマがシカを襲って食べるケースが増えていることが報告された。こうしたクマの肉食化が進めば、人を襲って食べることにもつながるのではないかと懸念する声があった。もともと、ツキノワグマは、「食肉目クマ科」で、歯の構造、消化器系は肉食向けにできているからである。
  • 春グマ猟・・・残雪期の4月下旬~5月上旬頃。猟師は、春の堅雪なら移動しやすいし、白い雪の上の黒いクマを発見しやすい。また、この時期は、万病の薬として高価な熊の胆(写真右上)が最も大きく、毛皮や肉なども捨てるところなく利用できる。 だから、マタギにとってクマは「害獣」ではなく「宝物」なのである。
  • 「毛干しをするクラ場」(写真:阿仁比立内マタギの狩場)・・・地形の悪い崖のような場所を「クラ」と呼び、冬眠明けのクマがつきやすい場所である。冬眠中、固まった体をウォーミングアップしたり、濡れた毛を干すために、クマたちは見通しの良い「クラ場」に集まってくる。
 
  • 伝統的な大深沢巻き狩りの図・・・下から勢子が獲物を追い出す。クマは真っすぐ登ろうとする習性があるので、上で鉄砲を持った射手(ブッパ)が陣取る。シカリは、合図役として見通しの良い対岸に陣取り全体の指揮をとる。
  • 春グマ狩り復活のメリット(マタギサミットにおけるマタギたちの意見要約)
    1. クラ場で行う巻き狩りの中には、数頭のクマたちがいるが、捕れるのは良くて一匹である。だから巻き狩りは、学習能力の高いクマに対して、人の怖さを教育することができるメリットもある。さらに、見通しが効くから、オス、メス、子グマの区別がはっきりできるし、頭数も確認できる。
    2. 毎年、伝統的な春グマ狩りを行うことによって、危険なクマの出没を減少させ、旬でない夏の有害駆除を抑制できる。これまでの駆除の悪循環を断ち切り、「宝物」と位置付けている春グマ狩りの好循環が続けば、クマとの共存を図ることが期待できる。
    3. さらに伝統的な狩猟技術の維持向上、後継者の確保育成が期待できる。クマは、マタギにとって多過ぎても困るが、いなくても困る「宝物」。そして山の神様を恐れ敬い、獲物が獲れると、山神様の授かりものとしてケボカイの儀式を行う共生の文化「マタギ文化」の継承も期待できる。
  • 5月、ブナの若葉と花がその年初めてのごちそう・・・ブナはミズナラなどより芽吹きが早く、やわらかい若葉の量も多い。だからブナの若葉は、冬眠明けのクマにとって春一番のごちそうである。
  • 5月、森林起動跡・杣道などを歩き、新緑の谷を俯瞰すると、ブナの枝がワサワサと揺れる光景に出くわすことがある。
▲春、クマがブナの若葉を食べるために上ったクマの爪痕  
▲アイコ
▲ミズバショウ ▲ミズ ▲エゾニュウ
▲ミズバショウの花が終わった頃、クマが大きな葉を食べた痕跡 (2014年5月31日、白神山地)
  • 5月~6月山菜採り注意・・・春から初夏にかけて、沢は山菜の宝庫、クマも沢に集まる。バッケやアザミ類、ミズバショウ、ザゼンソウ、アイコ、ミズ、セリ、エゾニュウなどの多肉多汁の植物を好んで食べる。
  • 山菜類を食べている時期のクマの糞は、繊維質を多く含み、黒くべとっとしている。
  • 親子グマの糞・・・真ん中が母グマ、両サイドの黒っぽい糞が子グマ
  • クマと出会った事例①・・・雪代時の大クマ
     2012年5月下旬、雪解け水で沸き返る太平山系の沢へイワナ釣りに出かけた。クマは大岩の陰で草食いに夢中になっていた。釣り人2人は、腰にクマ避け鈴を下げていたが、雪代の音で鈴の音がかき消されてしまった。クマとの距離が5mほどまで接近した時・・・やっとクマが鈴の音に気付き、岩陰から立ち上がって、我々を確認しようとした。

     デカイ!・・・100kg以上はある大クマであった。腰のクマ撃退スプレーを確認、冷静に対峙。
     クマは釣り人二人を確認後、逃走を選択・・・斜面を物凄いスピードで駆け上がって行った。

    教訓①・・・沢の音が大きい谷では、クマ避け鈴は万能ではない
    教訓②・・・クマ撃退スプレーを腰に下げていたので冷静に対峙
    教訓③・・・複数で行動していたので、クマは逃走を選択
  • クマがタケノコの皮をむいて食べた痕跡 
▲タケノコ(チシマザサ) ▲100%タケノコを食べていたクマの糞
  • 6月はタケノコが食事の中心・・・山は、初夏ともなればタケノコ採りで賑わうが、タケノコはクマの主食である。5月下旬から7月上旬頃まで、1ヶ月余りにわたってタケノコを主食に食べ続ける。
▲タケノコ銀座(八幡平~秋田駒)
  • タケノコ採りはクマに注意!・・・チシマザサ群落では、初夏ともなるとタケノコたちが次々と生えてくる。タケノコは、雪国で最も人気が高い山菜の代表格だが、ツキノワグマも大好物。クマは好物を夢中で食べている時は、人の接近になかなか気づかない。さらに、繁殖期で気が立っている上に、笹薮で遭遇すれば逃げ場を失い攻撃してくる可能性が高いと言われる。だから、クマ被害防止対策は必須である。
  • 6月下旬、キイチゴが熟す頃が繁殖期・・・発情したメスグマは、キイチゴを夢中で食べている生後1歳半の子グマと子別れする。これをマタギは「イチゴ落とし」という。有害駆除されたオスグマの胃に子グマの毛が入っていることがある。こうした共食いは、オスグマがオスの子グマを殺すことによって、自分の遺伝子を残そうとする行動だと言われている。

    ○繁殖能力は4歳から
    ○繁殖期 6月中旬~7月中旬
▲クマがフキを食べた食痕 ▲クマがエゾニュウを食べた食痕
  • 夏、草食いの季節、再び沢に集まる・・・7月~8月、沢に集まりエゾニュウ、ミズ、フキなどを食べる。特にエゾニュウが大好き。この時期、沢を歩けば、あちこちで植物が倒れ、クマが食べた食痕やクマ道が至る所にできている。また、蜂蜜が大好物で養蜂業の被害も多い。
▲沢沿いを歩いたクマの足跡
  • クマの行動時間帯・・・夏の活動時間帯は、朝4時~7時、夕方5時~9時(食事)。行動範囲は、平均40km2程度。春~夏は狭い範囲を歩くが、秋は一挙に広がる。
  • 昆虫類・・・アリ類やハチ類、クワガタ、オサムシなどの昆虫も食べる。スズメバチの巣も叩き落として成虫やさなぎ、幼虫を食べる。
  • ガソリンやオイル、クレオソートの臭いに激しく反応する・・・木製案内板・東屋などにクレオソート(木材防腐剤)を塗ると、クマに噛み付かれる(写真は、八幡平長沼の東屋)。環境省のクマ被害防止対策の中には「クマは草刈機、チェーンソーなどの機材に使われるガソリンやオイルあるいはクレオソートなど防腐剤にも嗜好性があり誘引される場合があるので、給油場所、保管場所の周囲に注意を払ってください」と書かれている。
  • 夏の終わりはオニグルミ・・・8月下旬、熟していないオニグルミを食べる。熟すと殻が固く、クマでも歯が立たない。
  • 秋はドングリ類とクリ・・・好物のドングリは同じ場所で1時間も食べ続ける。
  • 2017年10月28日(土)、真新しいクマの爪痕・・・太平山系の源流部・数百年ブナの幹に、つい最近上り下りした爪痕がいくつも刻まれていた。上を見上げると・・・ 
  • クマ棚・・・今秋、ブナの実を食べたクマ棚である。クマは、実のなった枝を手繰り寄せて折り、食べ終わった枝を自分の尻に敷く。次第に鳥巣状のベットになる。これをクマ棚と呼び、その上で眠ることもある。今年はブナの実「凶作」と言われているが、地域差が著しく、豊作の場所もある。だからクマ対策は、県内一律に考えるのではなく、地域差を考慮する必要がある。
  • クマがブナの実を食べるために折った枝が散乱・・・クマ棚の下を見れば、クマが枝を折って下に落とした残骸が到る所にあった。クマは、クマ棚をつくるだけでなく、鈴なりに実をつけた枝を折り、下に落としてから食べる場合も少なくない。ここから50mほど離れたブナ林の下には、凄まじい数の枝が散乱していた。
  • クマ棚その2・・・ウワミズザクラ、ミズキ、オニグルミ、ミズナラ、クリ、ブナなどの実を食べるときにできる。クリは、口で噛み砕き、皮だけツルリと吐き出す。
  • 着床遅延・・・クマは、初夏の繁殖期に受精卵がすぐに着床しない。11月頃、脂肪を十分蓄えられると着床、妊娠する。凶作だと着床せず、流産する。これは母子共に倒れるのを防ぐためだと言われている。
  • 出産は1月、1~3頭。小さく産んで大きく育てる・・・体重は300~400gと小さく産み、冬眠明けには体重が10倍になるという。
  • 木の実が大豊作の翌年は要注意・・・2013年は、ブナの実・木の実が豊作であった。故に妊娠率は上がったと推測。豊作の翌年は決まって不作。だから、2014年は危険な親子グマに注意が必要と言われていた。ちなみに2014年のツキノワグマによる人身事故は、100人の大台を超え118人(うち秋田10人)。
  • 2015年は、ミズナラ、コナラなどのドングリ類が大豊作で、今冬、出産ラッシュになったと推測される。2016年は、危険な親子グマに遭遇する機会も増えると予想され、特に注意が必要である。
▲越冬穴の存在を誇示するサイン
  • 冬眠・・・11月中~4月下・・・上の写真は、クマがブナの幹に刻んだ越冬穴のサインである。その際、越冬穴の方向は、右手でやれば右側に、左手でやれば左側にあるという。 越冬穴は、立ち木にできたウロ、倒木や根上がりがつくる穴、土穴、岩穴などを利用する。
  • クマの人身被害防止対策
    1. 一人ではなく複数で行動すること。
    2. 音で自分の存在をアピール・・・「クマ避け鈴」や「ラジオ」、「笛」、「爆竹」。
    3. 残飯や生ゴミは絶対に捨てないこと。餌付いたクマは、人間に寄ってくるので危険。
    4. 臭いでアピール・・・腰に下げる「蚊取線香」も有効。夏は、虫よけとクマ避けの一挙両得のアイテム。
    5. 危険なクマの出没警報が出されている周辺には、絶対に立ち入らないこと。
    6. 「熊撃退スプレー」を携帯すること。なぜなら1~5までは、クマとの遭遇を回避する対策だが、近年、そうした対策をとっていても、危険な親子グマや残飯などに餌付いたクマ、人を恐れなくなった新世代のクマと遭遇し、人身事故を起こすケースが増えているからである。
  • 子連れのクマに注意!・・・子連れの母グマが最も危険である。母グマは、人と出会っても子グマを助けようと決して逃げないからである。特に母グマと子グマの間に入れば、攻撃される確率が高い。母グマは木に登るとき、上の写真のように必ず子グマを上に上げる。それは下の外敵から守るためだと言われている。
  • クマと出会った事例②・・・親子グマ

     2008年10月中旬、二人でキノコ採りに出掛けた。もちろん、二人ともクマ避け鈴を腰に下げていた。右岸の急崖の小沢を落差80mほど上り、ブナの巨木が林立する平坦な場所に出る。突然、右手前方から子グマらしき鳴き声が聞こえた。ほどなく「ブォーン、ブォーン・・・」という地鳴りのような重低音が森全体に響き渡った。

     我々の体全体に伝わるような物凄い重低音・・・明らかに「ここを立ち去れ」というような威嚇の音である。幸い、私は熊撃退スプレーを腰に下げていた。その武器を確認し、冷静?に観察。二人は、警告音のする方向に対峙し、相手の動きを警戒した。前方のヤブは、全く揺れる気配はない。その場を動かず、ヤブに伏したまま威嚇し続けている。

     襲う気配がないことを確認し、後ずさりしながら距離をとった。背後の急な沢を下って何とか難を逃れた。母グマには、二人で鳴らしていたクマ避け鈴が聞こえていないはずはない。人の怖さを知らない子グマが2頭もいれば、母グマは逃げずに守ろうとしたに違いない。つまり、クマ避け鈴だけでは、親子グマに対して100%安全とは言えない。
  • 万が一遭遇したら・・・クマの走る速度は、時速40km以上(100m 9秒)。逃げる者を追う習性がある。だから背を向けたり、走って逃げるのは自殺行為。何より、冷静さを保つことが第一である。その秘訣は・・・
  • 積極的な被害防止対策・・・爆竹、クマ避け鈴、クマ撃退スプレー、山刀など積極的な被害防止対策が重要。こうした武器を持っていれば、クマと万が一遭遇しても、意外に冷静さを保つことができる。そして慌てず、騒がす、クマと向き合ったまま静かに後ずさりして離れるのが基本中の基本である。
  • 襲ってきたら・・・死んだふりは×。「熊撃退スプレー」が有効と言われている。熊撃退スプレーは、北米のグリズリー対策として開発された。唐辛子(カプサイシン)の成分で目や鼻、のどの粘膜を刺激し撃退する。狙うのは、クマの眼と鼻。クマが大声で鳴くほど強力で、闘争心を一気に失い逃げるが、無害という優れもの。ただし、風下にいる場合は自滅する場合もあるので過信は禁物。

     なお、耐用年数が切れたら、上の写真のように実際に噴射してみることをオススメしたい。その威力を実際に体感することが大切である。
▲北海道日高の笹薮 ▲ヒグマの好物「タモギタケ」
  • クマと出会った事例③・・・ヒグマ

     二人で北海道イドンナップ越え沢のヤブを歩いている時、尾根付近で夏のキノコ「タモギタケ」を発見した。荷をおろして、採り始めると・・・突然、右斜め上方向からヒグマが接近してきた。爆竹を2回鳴らしたが、全く足が止まらない。人間の背丈を超える笹が大きく揺れながらこちらに向かってくる恐怖・・・「これは、ヤバイ!」

     急ぎ荷を担ぎ、右手にガードを外したクマ撃退スプレーを持ち、向き合いながら左手方向へトラバース。一定の距離をとると、幸いヒグマの足は止まり、追跡してこなかった。
  • ヒグマは、なぜ二人に向かってきたのだろうか。冷静に考えると、「クマは食べ物を見つけるとその場所に執着し、近づくものに対して威嚇や攻撃をする」習性がある。タモギタケはヒグマの大好物であった。それを知らずに採ろうとしたから威嚇接近したのであろう。

     それでも、接近するヒグマに対して冷静な行動をとれたのは、クマ撃退スプレーという武器を持っていたからである。もしこうした武器を持っていなければ、冷静さを失い襲われる確率が高かったように思う。
  • クマによる人身被害・・・2004年以降、全国的に人身被害が急激に増加している。そのうち秋田は、全国の約1割を占め人身被害の数が多い。
  • 1980年~2000年 死傷者数5人~36人2001年以降は47人~147人と激増。
  • 2004年 死者2人を含む111人(秋田11人)、2006年 死者5人を含む145人(秋田16人)、2010年147(秋田10人) 、2014年118人(秋田10人) ・・・100人の大台を超えたのは4回・・・ブナの実、ドングリの豊凶だけでは説明困難。
  • 2016年度・・・県内の死傷者数は19人(うち死者4人)、目撃情報は872件、有害駆除の頭数475頭は、共に過去最多を記録。
  • 近世弘前藩のクマによる人身被害の記録・・・東北歴史博物館主任研究員・村上一馬さんが、弘前図書館に通い「弘前藩国日記」を解読した貴重な内容。(2007年6月30日、第18回マタギサミットin東京)
  • 元禄9年5月24日青森市、女3人がフキを採りに行き、一人がクマに連れ去られた。急ぎ戻り、村中の者とともに現場へ行くと、女の死骸をクマが喰っていたので、クマを追い払った。
  • 元禄11年6月11日、深浦にて薪とりに山へ行った者(50余歳)が帰らないので、家族で探しに行くと、クマに喰い殺されていた。しかも、その場からクマは逃げずに怒って立ち上がるので、いったん戻り、翌朝40人で屍体を引き取ってきた。腹と頭は喰い破られていた。大勢でわめいて追い払ったが、クマは2、30間の所から離れようとしなかった。
  • 元禄12年4月29日深浦町、娘18歳が「カテ草」(雑炊などに炊き込む山菜)を採りに行き、クマに喰い殺された。腹が喰い破られ、首から頭まで剥がされていた。
  • 元禄16年6月5日深浦町、娘22歳がクマに喰い殺された。死体は、肩から肘までと股の肉が喰われていた。
  • 享保5年9月14日つがる市、女子6歳がクマに噛み殺され、沖中野村・金田村などの五人が畑などで傷付けられた。
  • この記録から、ツキノワグマが人を襲い食べていたことが分かる。「弘前藩国日記」元禄8年~享保5年(1615-1720)の間に死者16名、行方不明1名、半死半生1名、重軽傷21名、計39名の人身被害があった。被害の多くは、山菜採りの時期に集中しており、現代と変わらない。
  • 人を恐れないクマの異常出没の背景・山の変化・・・山仕事も激減し、至る所で林道崩壊しても復旧せず、荒れ放題になっている。大平山丸舞口登山道は、沢を横断する木橋が幾つも架かっているが、ほとんど壊れて登山者は皆無。白子森登山口に通じる井出舞沢林道も荒れ放題で、登山者は皆無。
  • 奥地の広葉樹の森が見事に復活・・・秋田県内では、森林起動廃止から45年~100年余りが経過し、上の写真(森林起動時代のレールの残骸が転がっている沢)のようにブナ帯の広葉樹が見事に再生している。クマのエサとなる森が復活していることから、クマの生息数増加に直結していると推測される。ちなみに県内の渓流で40年近くイワナを釣っているが、「クマも増えているが、イワナも増えている」ことを実感している。
 
  • 狩猟者激減、高齢化 秋田県内の狩猟者数の推移
    ○ 1992年 4,932人→2016年 1,648人 24年間で1/3に激減
    60歳以上7割以上・・・高齢化顕著
    抑止力が大幅に低下し、人の怖さを知らないクマが増加していると言われている。
▲豪雪地帯の山村
▲離村記念碑(萩形)  ▲開墾記念碑(八木沢) ▲旧マタギの村「八木沢」
  • 里山の荒廃、耕作放棄地、廃村化・・・平成17年度の国勢調査によると、65歳以上の高齢者が集落の半分以上を占める集落数は108。加えて秋田県は高齢化率が全国一である。このまま山間地域を中心に、里山の荒廃、耕作放棄地、廃村化が進むと、クマの生息適地が拡大することになる。最近では、人を恐れない里クマが増えているという問題が指摘されている。
  • 識者評論「野生動物の出没」(田口洋美東北芸工大教授、秋田さきがけ)

     「社会は近代以降著しい変化を遂げ、人々も農林水産業という自然由来の生業から消費型の都市生活を指向するようになり、地域が野生動物を山間へと押し上げる力を失っていった

     それは私たちの自然からの撤退を意味し、野生動物たちはこの人間の後退に反応しはじめたといえる。各地でクマたちが同時多発的に出没するのも、単に食物の不足というだけでなく、私たち人間の側の変化という視点も見逃せないのである」 
  • 谷沿いに続く杣道を堂々と歩いているクマの足跡(2015年5月22日)
▲杣道のまん中にあったクマの糞
  • 昔のクマは、警戒心が強く、沢沿いを歩くにしても身を隠せる藪の中を歩いていた。だから、沢沿いでクマの足跡を見ることはほとんどなかった。しかし、今や沢沿いにクマの足跡や糞を見つけることが珍しくなくなった。さらに、昔から地元のマタギらに使われていた杣道は、歩く人がほとんどいなくなり、伸びた草に隠れて消えつつある。久しく人が歩かなくなった杣道は、クマ道へと変わりつつあるようだ。
  • クマと出会った事例④・・・人も車も恐れないクマ

     2013年7月24日、八幡平アスピーテラインを秋田方向に車で下っていると・・・大沼を過ぎた道路左手の草むらに黒い物が見えた。「クマだぁ~」と心の中で叫び、急ブレーキを踏む。時間は午後1時頃、食事に夢中のようだ。

     幸い、こちらを気にする様子もない。車内の後窓から撮影していると、対向車線から八幡平に向かう車が通り過ぎた後、右手のクマに気付き、バックしてクマの真横で止まった。一瞬、クマは警戒するように顔を上げたが、気にすることもなく再度エサを食べ続けた。

     恐らくアリの巣を掘って食べていたのであろう。 また別の車がクマに気付き至近距離で止まった。クマは振り向きもせず、食事に夢中であった。こういうクマには、クマ避け鈴も通用しないであろう。一般にクマ対策のマニュアルには、「臆病、慎重、神経質で暗い所に潜む」とある。しかし、このクマはその正反対・・・「大胆、無警戒、無神経に観光道路に出没」していることに驚かされた。
  • マタギたちは言う。「人を恐れないクマが我々の生活圏に近づいていることは間違いない」・・・実際、2004年以降、山でクマに遭遇する機会も格段に増え、人身被害も激増している。だから、山菜採り、登山、沢登り、渓流釣り、キノコ採りを楽しみたい方は、これまで以上に「積極的な被害防止対策」が必要である。(写真:2006年マタギサミットin東京)
  • 人里へクマ類をおびき寄せない対策その1・・・クマは、学習能力が高い動物なので、「人里の味を覚えさせない=誘因物を除去する」ことに尽きる。
    1. 残飯、生ごみは絶対に捨てないこと。これは「鉄則」である。
    2. 出没地域は、生ごみの堆肥化を中止する。クマの食べ物は野外に放置しない。
    3. 不要な柿やクリなどの果樹は放置しない。早めに処理するか、伐倒すること。
    4. 廃棄農作物を田畑等に放置しない。適切に処理すること。
    5. 廃屋等で不要になった果樹類は伐倒する。
    6. クマ類の恒常的出没地域は、電気柵を設置。
  • 人里へクマ類をおびき寄せない対策その2・・・クマは、ヤブの中に身を隠して移動する。明るい場所に身をさらすことを嫌う習性がある。だから、森林と農地、宅地、通学路との間にクマが出没しにくい空間をつくる、すなわち緩衝帯の設置(里地里山の保全)が有効である。
  • 事例・・・桑やクルミ、クリなどの果樹類の全伐採、スギ林の強度間伐、下草刈り、クマ類の通り道になっている川沿い両サイドの刈り払い、耕作放棄地の解消、ヤギや牛を使った除草など、村ぐるみで大規模な緩衝帯整備を実施し、効果をあげている事例がある。
  • 里地里山の保全は、クマ類の野生動物に対して、人間のテリトリーを主張する行為でもある。野生動物との共生は、里地里山の保全、衰退する農林業の活性化が欠かせない。
2017年度クマ関連ニュース
▲2017年5月28日、仁別林道で小沼森林インストラクターが撮影した親子グマ。
  • クマによる死傷者数20人、過去最多を更新・・・今年はブナの実、ナラ類のドングリが凶作と言われているが、身近な公園ではナラ類のドングリが大豊作、太平山系・ブナ原生林地帯のブナの実は豊作の場所もある。クマ対策は、県内一律ではなく、地域差を考慮した対策、対応が必要であろう。いずれにしても、「死傷者数、クマの目撃件数、駆除数」とも、過去最多を記録。いずれも二年連続で過去最多を更新したということは、クマの生息数の増加、里グマ化の進行が我々の想像を超えているように思う。
  • 親グマに襲われ男性重傷・・・10月26日、北秋田市阿仁のリンゴ畑でクマによる食害が多発していたため、午前6時頃、所有者の男性(84)が仕掛けていたワナの様子を見に行ったところ、体長約80cmの子グマが掛かっているのを発見直後にスギ林から現れた親とみられるクマに襲われ、顎の骨を折るなどの重傷を負った。→子連れの母グマが最も危険である。母グマは、ワナにかかった子グマを助けようとその場から離れずにいたのであろう。
  • 逃げようとして転倒、67歳男性けが・・・集落内でクマの出没が相次いでいたことから、10月25日、北秋田市の自治会役員をしている男性が、1人で見回りをしていたところ、体長約1mのクマと遭遇。逃げようとしたが転倒し、右側頭部と左脚を引っかかれるなどした。近くで農作業をしていた70代男性は「この辺はクリやカキの木があり、普段からクマの出没が多いが、人を襲うとは」と驚いていたという。→クマの出没に際して、見回りを行う際、人が見回りをすれば逃げるようなクマではなくなっている。だからクマと遭遇した場合、襲われた場合を想定した対策を講じてから見回りをすべきである。さらには、「背中を向けて逃げることは自殺行為」であることを肝に銘ずべきであろう。
  • 今冬のクマ猟解禁、58頭を上限・・・10月20日、県環境審議会自然環境部会において、県が今冬のツキノワグマの狩猟を解禁する方針を示し、同部会が了承した。ただし、捕獲の上限を58頭とした。本年度の捕殺頭数は9月末時点で過去最多の533頭を記録したが、警察には連日のように目撃情報が寄せられている。県自然保護課は、生息区域が現行の管理計画の1.5倍に拡大していると推定していることや、市街地や学校周辺での目撃が増え、県民生活に支障をきたしているなどが理由。
  • クマ駆除、過去最多を更新する533頭・・・今年度クマの駆除数は、9月末時点で過去最多だった昨年の476頭を上回る533頭に達した。そのうち95%は、住宅地や農地に出没したことに伴う有害駆除であった。昨年と今年の駆除数を合計すると1,009頭で、ほぼ県内の推定生息数1,013頭に近い驚異的な数字。また、今年の目撃件数は、過去最多だった昨年の872件を大きく上回る1,169件に上っている。改めて里クマ化の進展の凄まじさ、深刻さと、実際の生息数は千頭を遥かに上回ることが裏付けられたように思う。
  • 男鹿市、4日連続でクマ目撃・・・9月17日、空白地帯の男鹿市でクマが初めて目撃された。その後26~29日には4日連続で目撃された。男鹿市でも、里山の荒廃や耕作放棄地の拡大が進んでいるだけに、クマにとどまらず、ニホンジカやイノシシを含めて、今後の動向が気になる。
  • 渓流釣り、クマに襲われ重傷・・・9月23日、午前6時頃、八峰町真瀬川河口から約1.2キロ上流の左岸で渓流釣りをしていたところ、突然現れた体長約1.2mのクマに襲われ、顔面裂傷の重傷を負った。近くにいた知人が棒でクマを叩くと立ち去ったという。今年は渓流釣りの人身事故が3件と多いのも気になる。
  • ジョギング中、クマに襲われ負傷・・・9月18日午後6時頃、大館市花岡川の土手でジョギングをしていた男性(40)が、自宅に向かって走っている途中、突然、クマが後ろから足元にぶつかってきて土手の斜面を転げ落ちた。起き上がろうとしたところ、体長約1mのクマが2頭おり、そのうちの1頭に両手首をかまれた。同日午後6時頃、五城目町の寺の墓地でも目撃された。最近は、特に夕方の目撃事例が多い。秋、クマは冬眠に備えてエサを探し回ることから、行動範囲が一気に広がると言われている。それだけに、クマが活発に行動する朝晩の散歩やジョギング、山仕事、農作業等は極力避けるか、あるいは遭遇した場合の対策を講じて行動すべであろう。
  • 空白地帯にも出没・・・9月17日午後4時40分頃、県内で唯一クマの空白地帯であった男鹿市野石でクマが目撃された。つい先日(9月11日夕方)、大潟村でもクマが目撃され、2009年以来2度目の珍事として騒がれたばかり。これまで県内のクマの生息分布は、奥山から里へと急激に拡大し、男鹿市と大潟村を除いて「ほぼ飽和状態」になっていると言われていた。その勢いは、さらにエスカレートしていることが伺える。
  • クマの目撃件数、千件超える・・・県警に寄せられたクマの目撃件数は、9月6日現在、1,003件。既に過去最多だった昨年の872件を大幅に上回っている。車とクマが衝突する事故も26件に上り、過去最多を記録。小中学校の敷地内に出没するケースも多発している。クマ騒動は、最悪だった昨年から、さらにエスカレートしている印象を受ける。
  • 川釣りの男性負傷・・・9月1日午後4時20分頃、秋田市太平山谷の太平川左岸で、釣りをしていた男性(60)がクマに襲われ頭や左耳に裂傷を負った。釣りの最中、川近くのやぶから体長約80cmのクマが現れ、驚いた男性は仰向けに転倒し、クマに頭と耳をかまれた。119番通報をした地元の人によると、7月頃、川の近くで3頭のクマを目撃したという。犯人は、親離れしたばかりの若いクマだろうか。
  • クマ出没警報、10月末まで延長・・・県は、8月の目撃件数は過去5年で最多だった昨年8月を上回るほどクマの頻繁な出没が続いていることから、8月末まで発令していたツキノワグマ出没警報を10月末まで延長すると発表。
  • 大湯環状列石にクマ・・・7月15日午後0時20分頃、鹿角市十和田大湯の国特別史跡「大湯環状列石」の近くの縄文の森に、体長約1mのクマが出没。市は、遺跡への立ち入りを全面的に禁止した。→2017年は、小泉潟公園や横手公園、県立中央公園など、人がたくさん訪れる都市公園に頻繁に出没している。これまで中山間地域がクマの侵入を阻止してきた緩衝帯としての機能がほとんど失われていることを意味しているのではないか。だとすれば、事態はかなり深刻である。
  • 伊勢堂岱遺跡、クマに襲われ市職員けが・・・7月14日午前9時40分頃、伊勢堂岱遺跡で市教育委員会の男性課長がクマに襲われ、頭や腕にけがを負った。6月18日にクマの出没をしたことを受け、一般公開を中止していたが、その後目撃情報がなかったので、14日に全国史跡整備市町村協議会東北地区協議会45人が同遺跡を現地視察する予定だった。男性課長ら3人は、安全確認のため巡回していた。環状列石の入口付近でクマ避けの爆竹を鳴らした後、ほかの職員から離れて再び爆竹を鳴らそうとしたところ、やぶから出てきた体長約1mのクマに襲われた。クマ避けの爆音器を1基追加して2基設置していた。→クマ避け対策として設置した爆音器2基は、クマが音に慣れると効果がなくなるのではないか。複数でかつ爆竹を鳴らした直後にもかかわらず、クマに襲われている。これまでの常識的な対策では不十分。
  • 県はクマの出没警報、8月末まで延長・・・詳細は秋田県自然保護課「ツキノワグマ情報」を参照。
  • ブナの実凶作か、森林管理局予測・・・7月13日、福島を除く東北5県のブナの結実予測を発表。秋田県は「凶作」と見込まれた。ちなみに宮城と山形両県は大凶作、岩手県は凶作、青森県は並作であった。
  • クマ目撃最多ペース、4~6月424件・・・今年4~6月の県内ツキノワグマ目撃件数が424件で、過去最多の昨年の同時期を上回るペースとなっている。今年の6~7月は、2016年の冬に生まれた子グマが親離れする時期に当たる。→昨年、約500頭も有害駆除したにもかかわらず、これだけ目撃件数が多いということは、ツキノワグマの推定生息数1,015頭に対して、実際はその何倍も生息しているのではないか親離れした若いクマは、私たちの生活圏内に出没する可能性が高く、今後注意が必要である。
  • 鹿角市八幡平、植栽男性がクマに襲われけが・・・6月28日午後5時50分頃、鹿角市八幡平字林崎の男性が苗木を植えるため県道沿いの林に入ったところ、クマに出くわし、左目付近や耳の後ろなどを引っ掛かれた。現場は、民家が点在する山あいの集落。→山林作業員はもちろんのこと、森林ボランティア活動をする場合も、クマ撃退スプレーを腰に下げるべき時代に入ったように思う。
  • 渓流釣りでクマに襲われ夫婦重軽傷・・・6月24日、藤里町素波里湖から2キロほど離れた渓流で、釣りをしていた秋田市の夫婦がクマに襲われ、男性は全治約3カ月の重傷、妻は軽傷を負った。二人は、クマ避け鈴を身に着け、9時30分頃から渓流釣りを始めたが、近くの藪から体長約1mのクマが突然現れ、襲われた。→複数でかつクマ避け鈴を着けていても襲われた。
  • タケノコ採りの女性死亡・・・2017年5月27日、仙北市田沢湖玉川の山林でタケノコ採りをしていた女性(61)の死亡が確認された。現場の状況から、クマによるものとみられる。女性は知人と二人でタケノコ採りに出掛け、午前6時頃、クマ避け鈴を身に着けて入山。同8時半頃車に戻った知人は、被害女性がなかなか戻ってこないため、知人男性に捜索を依頼。国道から30mほどの地点でうつ伏せで倒れていた女性を発見した。
  • 「ツキノワグマ出没警報」を発令・・・県は5月27日、クマによるものとみられる死亡事故が発生したことを受け、県内全域に「ツキノワグマ出没警報」を発令した。発令期間 平成29年5月27日~平成29年7月15日まで。県内では、27日の死亡事故のほか、5月9日には大仙市協和船岡の山林で山菜採りの男性がクマに襲われ、重傷を負っている。詳細は秋田県自然保護課「ツキノワグマ情報」を参照。
  • 教訓・・・被害者は、クマ避け鈴を2個つけて入山していたにもかかわらず、クマと遭遇し襲われた。死因は出血多量で失血死。人や車を恐れなくなったクマに対しては、音で自分の存在をアピールしても効果がないと推察される。また、残飯などに餌付いたクマに対しては、クマ避け鈴が逆効果になる事例も少なくない。故に、クマとの遭遇を回避する対策だけでは不十分。クマと遭遇した場合、あるいは襲われた場合も想定し、これまで以上に「積極的な被害防止対策」が必要である。
  • クマの人身被害防止対策(再掲)
    1. 一人ではなく複数で行動すること。
    2. 音で自分の存在をアピール・・・「クマ避け鈴」や「ラジオ」、「笛」、「爆竹」。
    3. 残飯や生ゴミは絶対に捨てないこと。餌付いたクマは、人間に寄ってくるので危険。
    4. 臭いでアピール・・・腰に下げる「蚊取線香」も有効。夏は、虫よけとクマ避けの一挙両得のアイテム。
    5. 死亡事故等危険なクマの出没警報が出されている周辺には、絶対に立ち入らないこと。
    6. 「熊撃退スプレー」を携帯すること。なぜなら1~5までは、クマとの遭遇を回避する対策だが、近年、そうした対策をとっていても、危険な親子グマや残飯などに餌付いたクマ、人を恐れなくなった新世代のクマと遭遇し、人身事故を起こすケースが増えているからである。
2016年度クマ関連ニュース
  • 2016年6月時点、死者4名・・・鹿角市十和田では、5月、タケノコ採りの男性3名がクマに襲われ、相次ぎ遺体で発見されるという悲惨な人身事故が多発していた。さらに6月10日、クマに襲われたとみられる女性の遺体が発見され、犠牲者は史上最悪の4人目・・・これまで経験したことのない異常事態であることは明らか。
  • クマの胃に人体の一部・・・鹿角市十和田で2016年6月10日に射殺されたクマの胃の内容物を調べた結果、タケノコに混じって人のものとみられる肉片や髪の毛が見つかった。北海道のヒグマと同じく、人の味を覚えた人食いグマほど怖いものはない。そんな人身事故が多発している地域は、危険極まりないので絶対に立ち入らないこと。
  • 岩手県自然保護課では、2016年6月23日、全国で初めて「クマ出没警報」を出した。さらに「山菜採りやキノコ採りでは、ラジオで音を出すとともに、熊撃退スプレーの携帯を心がける」など注意を呼び掛けている。
  • 秋田県自然保護課では、2016年9月1日、県内で初めて「ツキノワグマ出没警報」を発令した。期間は12月末までの4ヵ月間。(上の写真:北秋田市阿仁クマ牧場くまくま園のツキノワグマ)
  • 2016年8月末時点、秋田県のクマによる死傷者数17人(うち死者4人、重症5人、軽傷8人)、目撃件数は775件。今年は、木の実が不作と予想されていることから、今後も出没が続くと見られている。特に秋のキノコ採りは、県内全域が危険区域・・・より積極的な被害防止対策が必要である。
  • 2016年8月、農作業中の人身事故の事例・・・8月9日午前4時50分頃、鹿角市八幡平の畑で男性(77)がジャガイモを収穫中に背後からクマに襲われ、頭や背中を引っかかれた。約10分後、約250m東の畑でも女性(75)がクマに襲われ、右太ももを引っかかれた。翌日10日、午前6時10分頃、仙北市西木町の畑で男性(83)がキュウリを収穫中、目の前に親子グマが現れたので自宅方向に走って逃げたが、親グマに追い付かれ正面から襲われ重傷を負った。
  • 県自然保護課では、「朝夕、1人で農作業中に襲われるケースが多い」ことから、作業をする際にはラジオや鈴を持ち歩く、一人での作業は控える、作業時間を日中にずらす、ことなどを呼び掛けている。
  • 東北森林管理局、本県ブナの実「皆無」・・・9~10月、本県の国有林内では53地点で実施。うち48地点は全く結実しておらず、残る5地点もわずかな結実だっため、「皆無」と判断。
  • 2016年度は、死傷者数は19人、目撃情報は872件、有害駆除の頭数475頭は、共に過去最多を記録・・・人身事故は、農作業中7人、タケノコ採り5人、ワラビ採り2人、キノコ採り・新聞配達・ジョギング・犬の散歩・河川の確認がそれぞれ1人。山菜採り、キノコ採りといった奥山での事故より、農作業中など、生活圏内での事故が多いのが特徴。
  • 2017年度、ツキノワグマの生息調査にカメラトラップの手法導入・・・関係者から2016年4月時点の推定生息数1,015頭に対して「もっと生息しているのではないか」との指摘が出ていた。踏査対象の180区画の一部に誘因物であるハチミチを高く設置し、ツキノワグマがハチミツをとろうと立ち上がった瞬間、センサーカメラで個体ごとに違うクマの胸にある白い月輪紋を動画撮影して個体を判別する。 踏査結果と組み合わせることで、これまでより正確な生息数の把握が期待できる。
  • 参考 岩手県の事例・・・1989年約1,000頭、2001年約1,100頭と発表。しかし、モニタリング調査だけでは正確な個体数を推定することは困難であること。従来の手法では生息数を過小評価している可能性が高いことから、ヘア・トラップの手法(誘因物の周りに有刺鉄線を張り、クマの体毛をDNA鑑定して個体識別する手法)を導入した結果、かつての3倍強に当たる「3,400頭」と推定している。
  • 参考PDF「クマ類の個体数を調べる ヘア・トラップ法とカメラトラップ法の手引き(統合版)」
  • 「鹿角市におけるツキノワグマによる人身事故調査報告書」(日本クマネットワーク)の要旨
    1. 4人の犠牲者全員がクマの食害を受けていたが、その情報が県や市に十分伝わっていなかったために、事故の重大性が認識されず、対策が遅れた。
    2. 事故に複数のクマが関与していた可能性はぬぐえない。2 件目の犠牲者の目撃情報・・・「クマは大きかった」との証言もあり、射殺されたメスとは別の大型のオスの個体が関与していた可能性も否定できない。
    3. 他にも人を襲う可能性があるクマがいる前提で、今後も現場付近へ入山は控えるべき。
  • 人を襲ったクマの特定・DNA分析・・・県は、クマに襲われて死者が出た場合、遺体に付着したクマの体毛や糞のDNA分析を行い、人を襲ったクマが複数いたかどうかも含めて、人を食べたクマの特定を目指す予定。事故後に現場周辺で捕獲したクマのDNAも分析することで、人を襲った個体が駆除されたかを確認する。17年度一般会計当初予算案にDNA分析の費用を含むツキノワグマ被害防止対策事業費965万円を計上。
参 考 文 献
「山でクマに会う方法」(米田一彦、山と渓谷社)
参考HP「日本ツキノワグマ研究所