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黄葉のブナ林トレッキング(乳頭高原)

 2018年10月18日(木)、森の学校「黄葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原のブナ二次林で開催された。参加者は27名。雲一つない好天に恵まれ、澄み切った青空に黄金色に輝くブナ林の美を満喫した。今年は、10月上旬に日本海を北上した台風25号の強風と塩害で沿岸部の街路樹や公園の葉が一斉に枯れ、紅葉はほとんど期待できない被害を受けた。内陸部に位置する乳頭高原も台風の影響を免れず、色付く前に枯れて茶色に変色している広葉樹が少なくなかった。それでも遠望すれば、黄色、紅色、茶色、緑色など多彩なコントラストはやっぱり美しい。例年とは異なる錦繍に衣替えしたブナ林のトレッキングを楽しんだ。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会 
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン  
  • 乳頭高原ブナ林トレッキングコース
    休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原→黒湯→孫六温泉→大釜温泉→妙乃湯→休暇村温泉郷(昼食)→旧乳頭スキー場→乳頭キャンプ道→先達川(ツアールの森)→鶴の湯別館山の宿
  •  関連ページ:新緑のブナ林トレッキング(2017年5月18日)
  • 休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。軽く準備運動をした後、黄葉初期のブナ二次林内の遊歩道を歩き、空吹湿原に向かう。
  • ブナ二次林をゆく・・・ブナ林の中は明るい。森林浴をしながら歩けば、疲労度が軽減され、快適にウォーキングできる。街中では丸一日歩くことは不可能だが、ブナ林の中なら不思議と歩くことができる。
  • ブナの実「並作」・・・東北森林管理局によると、秋田は、ほぼ半数の木が結実する「並作」。乳頭高原でも、落下したブナの実が例年より多い。
  • 別名「ソバグリ」・・・ブナの結実は、樹齢が約50~70年頃から始まる。殻の中には、三角形の茶色の実が二つ、向かい合って入っている。そのドングリの形がソバの実に似ていて、クリのような味がするので、別名「ソバグリ」と呼ばれている。 脂肪分が多く香ばしいブナの実は、人間が食べても美味い。
  • ブナの実は、ツキノワグマやニホンザル、ムササビ、リス、ネズミ、ヤマネなどブナの森に棲む野生動物たちにとって欠かすことのできない貴重な食料である。
  • ミズナラのドングリは豊作・・・今年は、コナラ、ミズナラのドングリ類が豊作。そんな中、9月30日に上陸した大型台風24号、10月7日の台風25号と立て続けにやってきたので、ドングリ類はほとんど林床に落下している。クマは、木に上ることなく大量のドングリを貪ることができる。だからクマ棚は皆無。これだけ木の実が豊富にあれば、今年の冬も、ベビーラッシュになるのであろう。
  • ヤマウルシの紅葉・・・羽状複葉は、黄色から真っ赤に色づいて美しい。
  • ヤマウルシの実・・・紅葉する頃になると、熟して外側の皮が剥がれて、白っぽい中果皮に包まれた種が現れる。栄養があるので鳥が喜んで食べる。
  • 空吹湿原入口の看板の前でクマ講座
  • クマに注意!・・・クマが看板をかじった古い痕跡と真新しい痕跡、微かなクマの爪痕も。
  • 2017年5月18日、空吹湿原の残雪にクマの大きな足跡・・・空吹湿原周辺の散策は、クマ避け鈴等のクマ対策は必須である。
  • 台風の影響①・・・ブナの葉が、黄色に色づく前に枯れて茶色に変色している。恐らく、台風の影響で葉と葉がぶつかり合って枯れたものであろう。それでも、光が当たると黄色、緑色、赤茶色のグラテーションが美しい。
  • 台風の影響②・・・雲一つない青空をバックにズームアップ。黄葉に枯れた葉がたくさん混じっているので、落葉寸前の「晩秋の黄葉」をみているような感じがする。 
  • 台風の影響③・・・光が当たると、稲刈り前の田んぼのように黄金色に輝く。
  • 風の影響が少なかった斜面のブナの黄葉・・・燃えているかのように黄金色に輝く黄葉と、その隙間から若干見える青空のアクセントが美しい。
  • ベニイタヤの黄葉・・・鮮やかな黄色に黄葉しているが、部分的に枯れて茶色に変色している。 
  • ミネカエデの黄葉・・・全体的に鮮やかな黄色だが、良く見ると葉が縮れて茶色に変色しているものも少なくない。見ようによっては、微妙な色のアクセントがあってオモシロイのだが・・・。 
  • オオカメノキ(ムシカリ)・・・赤紫色から紅色になり、美しく紅葉する。 果実は、夏に赤く色付き、やがて黒く熟すと、色々な鳥たちがやってくる。 
  • ガマズミ・・・黄色から赤、赤茶色に紅葉する。果実は、赤く熟し、霜が降りる頃になると、白い粉をふいて甘くなり、食べられる。
  • ミヤマガマズミ・・・ガマズミに似ているが、葉先が急に細くなって尖り、縁に浅い三角形の鋸歯があるので区別できる。葉柄は赤みを帯びることが多い。
  • コマユミ・・・赤い実と真っ赤に染まる紅葉が美しい。
  • 野鳥が好むミズキの果実・・・赤い珊瑚のような目立つ枝で鳥を誘う。黒く熟した果実は、上を向いているので鳥が食べやすい。
  • リョウブ・・・黄色から赤、褐色に紅葉する。 
  • ナナカマドの赤い実・・・雲一つない青空をバックに真っ赤な実が良く映える。果実は、葉が落ちた後も残るので、野鳥を誘惑するには効果的。野鳥たちにとっては、食料が乏しくなる冬の貴重な食べ物。ツグミ、ムクドリ、レンジャク類、カワラヒワ、ウソ、アトリ、ヒヨドリ、スズメ、カラスなど多くの鳥が採食する。 
  • コシアブラの黄葉と果実・・・若芽は山菜として有名だが、黄葉や実を見る機会は少ない。葉は5枚の小葉が掌状につく複葉。白っぽく半透明な黄色に黄葉する。果実は黒く熟し、多くの鳥が採食する。名前は、 昔、樹脂液を漉して金漆(ゴンゼツ)という塗料を作ったことに由来する。
  • 左から、ハウチワカエデ、ブナ、オオバクロモジ 
  • アクシバの赤い実・・・液果は球形で赤く熟す。高さ30~80cmの落葉低木。 
  • 白っぽいブナ・・・ブナには、幹から枝まで地衣類や蘚苔類に覆われていることが多い。しかし、硫化水素を浴びる周辺のブナには、それらが育たず、木肌が白っぽいブナが林立している。  
  • イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。
  • 標高800m以上の黒湯温泉から孫六温泉周辺は黄葉がピーク
  • 黄葉の絶景が広がる黒湯温泉(標高約840m)・・・乳頭温泉郷の最奥部先達川上流に位置する。古くは秋田藩の湯治場で、鶴の湯温泉に次ぐ歴史がある。発見は1674年頃と推測されている。
  • ブナ帯の黄葉美・・・雲一つない青空と秋の光が黄葉美を何倍にも美しく演出してくれる。つまり好天に恵まれないと、この錦繍の輝きは拝むことができない。ただし、晴天時、黄葉を美しく撮影するにはPLフィルターが欠かせない。
  • 先達川と黄葉美・・・先達川に架かる木橋から上流部を撮影。訪れる人々は、余りの美しさに感動。次々と木橋周辺で記念撮影していた。
  • 孫六温泉で休憩・・・先達川沿いに建つ湯治場。茅葺き屋根の伝統的な宿と黄葉に染まる森林浴、温泉交じりのマイナスイオンを浴びて、実に爽快な気分にさせてくれる。
  • ミズナラの黄葉・・・ブナと同じく、鮮やかな黄色に黄葉する。 
  • ハウチワカエデの紅葉 
  • オオバクロモジの黄葉 
  • トチノキの黄葉 
  • ヤマモミジの紅葉 
  • ホオノキ・・・黄色から褐色に色づく。 
  • ヒメアオキの赤い実 
  • ノコンギク 
  • アキノキリンソウ
  • 枯れススキと紅葉
  • ハウチワカエデの紅とブナの黄葉 
  • 大釜温泉・・・木造校舎を再利用した温泉宿
  • 妙乃湯(たえのゆ)温泉・・・女性に人気がある温泉宿。白い外壁がおしゃれ。 
  • 午後の部・・・旧乳頭スキー場→乳頭キャンプ道→先達川(ツアールの森)→鶴の湯別館山の宿
  • コマユミ・・・午後は標高が低くなるので、黄葉にはまだ早い。鮮やかな緑の葉に赤い実が良く目立つ。 
  • 稚 樹(乳頭キャンプ場)・・・落下した実のほとんどは、動物に食べられたり、腐ってしまう。そのうち、わずかに生き残ったものが、カギ形の幼根を出して固定し、冬を越す。うまく越冬できた実だけが、春に双葉を出す。しかし、この芽生えの多くは、動物に食べられたり、暗い所では枯れてしまうものも多い。運よく生き残ったものだけが稚樹となり、成葉をつけ、わずかな光の中で少しずつ大きくなっていく。 この二次林では、林床に驚くほどの稚樹が群生している。
  • 天然林と二次林の見分け方・・・上の写真のとおり、二次林は同じ年齢のブナが綺麗に林立しているのが特徴。乳頭高原のブナ林は、約80年ほど前に大部分のブナの木が伐採されたが、その際、ある程度の割合で残されたマザーツリーから自然に種が落ちて一斉に成長し、ブナの二次林が再生された森である。天然のブナ林は、200年から300年程度の巨木から数十年程度の若いブナまで広く混在し、木と木の間隔も広いのが特徴である。 
  • 鶴の湯峡に架かる吊り橋を渡る・・・最も狭くなった峡谷に昔ながらの吊り橋が架かっている。 昔、近在の農家の人たちは、農閑期になると、鍋釜、ふとん、米、味噌などを背負って奥深い山道を歩き、この吊り橋を渡った。貧しい農民にとって、年に一度の湯治は最高の贅沢、最高の健康回復法だった。そんな時代に思いを馳せながら渡る。  
  • 鶴の湯峡展望台・・・吊り橋から唯一の坂を登ると、平らな展望台に着く。眼下の葉陰越しに鶴の湯峡が見える絶景ポイント。 
  • ツアールの森・・・ドイツ大使のカールツアール氏がここを訪れた時、その植生の豊かさ、変化に富んだ風景の散策路を絶賛して、「ツアールの森」と名づけたという。
  • ヨーロッパのブナ林・・・純林に近い大面積のブナ林は、日本とヨーロッパのみ。しかし、氷河期を経たヨーロッパの樹木の種類は、日本に比べて遥かに少ない。ブナ林を構成する植物の種類は、ヨーロッパのブナ林に比べ、日本は5~6倍と、多様性の点で群を抜いている。だからカールツアール氏が絶賛するのも当然のことだったと思う。
  • 黄葉初期の鶴の湯温泉 ・・・1615年頃、既にこの湯は評判であったと言われ、400年余りの歴史を誇る。1658年頃、奥地の名湯の名を聞き、藩主佐竹義隆が、久保田から角館に出て、田沢湖畔潟尻から船で対岸の潟前に渡り、ここから馬で先達川をのぼり鶴の湯に入湯している。鶴の湯の玄関口にある木造りの門、その左手に茅葺きの陣屋と呼ばれる建物がある。これは、藩主が湯治の時に宿泊した由緒ある伝統建築物である。古くは「田沢の湯」と呼ばれていたが、1708年頃の記録によると、田沢のマタギ勘助が傷ついた鶴がきて病気を治していたところから「鶴の湯」と呼んだと言われている。  
  • 落葉のジュウタン・・・林床に降り積もった落葉には、登山靴一つの足にトビムシ類は1000匹もいるという。何層にも堆積した落ち葉は、ミミズ、トビムシ、ササラダニなどの土壌生物やさまざまな菌糸によって分解され腐葉土へと変化、森をつくる大切な養分となる。森は、まさにリサイクルの精密工場のような働きをしている。
  • 1cmの土をつくるのに、森林は100年以上もかかる。
  • ぶな清水・・・ブナ林から湧き出す水は、涸れることがなく、どこでも美味しい。
  • 落葉とイワナ・・・イワナを追って川を遡ると、必ずブナの森に辿り着く。その秘密は大量の落葉。晩秋から初冬にかけて渓流には大量の落葉が落下する。それを水生昆虫たちが食べる。イワナは、その虫たちを主食としている。つまり、水生昆虫とイワナは、ブナ帯の森が育んでいるのである。
  • 冬支度・・・標高の高い峰付近は、大方落葉し、ブナの白い骨格が剥き出しになっている。迫りくる厳冬に供え、峰から谷に向かって錦繍の衣を一気に脱ぎ捨てる。
乳頭高原のブナ二次林で見かけたキノコ
  • ブナハリタケ・・・ブナに生える白いキノコで、秋田では「ブナカノカ」と呼ばれている。とにかく収穫量が多く、古くから食用キノコとして重宝されてきた。 煮つけ、味噌汁、油炒め、天ぷら、炊き込みご飯、鍋物など。
  • サンゴハリタケ・・・ブナやミズナラの倒木に生える。クセのない風味で。酢の物やお吸い物に。
  • ムキタケ・・・秋田のブナ・ミズナラ林では、大量に採れるので山間地方を代表するキノコ。傘の表面に短毛が密生していて舌触りが悪いので、皮をむいて食べることから「ムキタケ」と名付けられた。納豆汁、シチュー、すき焼き、鍋物、バター炒め、おろし和え、つけ焼き、トマトとナスのグラタン、刺身風水煮など。
  • ブナシメジ・・・ブナなどの広葉樹の枯木や倒木に発生する。特徴は、傘の中央部に灰褐色の大理石模様があること。栽培品のブナシメジに比べると、遥かに大型になる。 味噌汁、天ぷら、和え物、煮物、炒め物、炊き込みご飯、マリネ、グラタンなど。
  • ナメコ・・・ブナ林を代表するキノコ。主にブナの倒木、枯れ幹、切株に群生する。発生のピークは、ブナ帯の黄葉がピークの頃である。ナメコ汁、納豆汁、いものこ汁、おろし和え、三杯酢、ワサビ醤油、鍋物、麺類の具、佃煮、網焼き、天ぷら、松前漬け、卵とじなど。
  • サワモダシ・・・秋田では、ナラタケ、ナラタケモドキ、オニナラタケ、キツブナラタケなどを総称して「サワモダシ」と呼んでいる。秋田の森では、大量に採取でき、かつ美味しいことから、塩蔵して冬に備えるキノコの代表で、昔から最も人気が高い。発生のピークは1週間前に終わったようで、大量に腐っていた。
  • クリタケ・・・ブナやクリ、ミズナラ、コナラなどの枯れた根株、倒木に株状に発生する。良い出汁が出るので鍋物や煮物に適している。 
  • ニガクリタケ(毒)
  • ツキヨタケ(毒)
  • 黄葉をバックに記念撮影