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森の学校2020 乳頭高原紅葉のブナ林トレッキング

 2020年10月20日(火)、森の学校「紅葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原(仙北市)のブナ林で開催された。参加者は23名。紅葉の鑑賞は、秋晴れに限る。色づいた森や渓谷は、陽射しを受けると俄然輝いて燃え上がるからだ。そんなまたとない好天に恵まれ、ブナ帯の紅葉美はクライマックスに達した。古来紅葉は、春の花に対して、秋の美を代表するもの。透き通るような青空をバックに、陽射しを浴びて燃え上がる「花もみじ」を観賞しながらトレッキングを満喫した。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会 
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 乳頭高原ブナ林トレッキングコース
    旧乳頭スキー場(標高770m)→休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原(890m)→黒湯(830m)→孫六温泉→大釜温泉(770m)→妙乃湯→休暇村温泉郷(昼食)→旧乳頭スキー場→乳頭キャンプ場(700m)→先達川・鶴の湯峡(620m)→ツアールの森→鶴の湯別館山の宿(580m) 
  • 休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。雲一つない秋晴れ・・・ブナ帯の紅葉を観賞しながらトレッキングするには、これ以上ない好天に恵まれた。軽く準備運動をした後、黄葉初期のブナ二次林内の遊歩道を歩き、紅葉最盛期の空吹湿原に向かう。
  • 清流のシンボル「イワナの池」・・・休暇村手前を流れるホンナ沢から清流が流れ込む池がある。その池には、丸々太った30~35cm前後のイワナが悠然と泳ぐ光景を見ることができる。イワナ好きにはたまらない池だが、釣りは禁止につき注意! 
  • 今年の異常を象徴するキノコたち①ブナハリタケ・・・ブナの倒木や枯れ木などに群生するブナハリタケは、例年9~10月中旬頃に発生する。今年は大幅に遅れて10月上旬まで姿を現さなかった。
  • ②毒キノコ・ツキヨタケ・・・キノコ中毒NO1のツキヨタケは、例年、ブナ帯の紅葉が始まる頃には姿を消す。ところが、今年は10月下旬に最盛期を迎えている。2週間は遅れている印象を受ける。
  • ③サワモダシ・・・例年、10月上旬頃に大発生するサワモダシが下旬になっても新たに発生している。さらに毒キノコ・ツキヨタケと似ている食用キノコ・ムキタケも顔を出し始めた。
  • ④マイタケ・・・キノコマニアに最も人気が高いマイタケは、ムキタケが出ると終わりと言われている。今年は、マイタケの発生が大幅に遅れただけでなく、発生期間が極端に短かった。ブナ帯のキノコは、9月以降「異常」が続いている。 
  • クマゲラの採餌跡・・・クマゲラの好物は、ブナの枯死木に巣をつくるムネアカオオアリ。枯れたブナの幹に一際大きく縦長の穴を開けた採餌跡があった。下に落ちた木屑の欠片も大きい。亀井ガイドによれば、営巣は確認されていないが、採餌跡はあちこちで観察されているという。今回のトレッキングでも3ヵ所で確認された。
  • クマゲラの詳細は、「野鳥シリーズ34 クマゲラ」を参照。  
  • クマに注意!・・・空吹湿原の古い看板には、今年もクマがかじった真新しい痕跡があった。木製案内板や東屋などにクレオソート(木材防腐剤)を塗ると、クマが好んで噛みつく例があちこちで見受けられる。環境省のクマ被害防止対策の中には、「クマは草刈機、チェーンソーなどの機材に使われるガソリンやオイルあるいはクレオソートなど防腐剤にも嗜好性があり誘引される場合があるので、給油場所、保管場所の周囲に注意を払ってください」と書かれている。  
  • 空吹湿原(890m)は、紅葉真っ盛りであった。 
  • ウワミズザクラの紅葉と黒く熟した実・・・果実は、野鳥だけでなくクマも好物でよくクマ棚をつくる。クマはこの果実を種ごと呑み込んだまま、移動してから未消化の種とともに糞をし、種子を散布してくれる。クマも森づくりに貢献していることを忘れてはならない。
  • 赤い実と紅葉が美しいコマユミ・・・紅葉が美しいニシキギの仲間で、この赤い実を好む野鳥たちが種を運んでいるのか、至る所にコマユミが自生している。 
  • マザーツリー・・・ブナの寿命は300~400年と言われている。乳頭高原のブナ林は、約80年ほど前に大部分のブナの木が伐採されたが、その際、ある程度の割合で残された母樹を「マザーツリー」という。樹齢200~300年前後のマザーツリーから自然に種が落ちて一斉に成長し、今日のブナの二次林が再生された。この森は、人の手による植林ではなく、マザーツリーを残すことで自然再生できることを示すお手本のような森である。
  • ブナの樹皮・・・灰白色でなめらかな樹皮には、地衣類や苔の仲間などがつき、特有の斑紋(左上写真)をつくりだす。右上写真は、硫化水素を浴びる周辺のブナの幹で、特有の地衣類などが育たず、木肌が白っぽいブナが林立している。 ちなみに日本海側のブナは、樹皮が白っぽいので「シロブナ」とも呼ばれている。
  • イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。
  • 黄葉、紅葉の絶景が広がる黒湯温泉(標高約840m) ・・・乳頭温泉郷の最奥部先達川上流に位置する。古くは秋田藩の湯治場で、鶴の湯温泉に次ぐ歴史がある。発見は1674年頃と推測されている。黒湯の主人は、大仙市「旧池田家庭園」で知られる池田家16代目当主。
  • 美しい紅葉の条件・・・最低気温が8℃以下になると紅葉が始まると言われている。その中でも美しく紅葉するには・・・
    1. 夜の急激な冷え込み・・・最低気温が5℃以下であること
    2. 十分な日当たり昼夜の気温差が大きいこと
    3. 適度な湿度・・・適度な雨量が適度な間隔で続くこと
      ブナ帯の渓谷は、この三条件がそろうので紅葉の名所が多い。
  • 木の葉が紅葉するのはなぜ?
     樹木の葉は、カロチノイドと緑の色素クロロフィルを持っているが、通常はクロロフィルの含有量が多いため緑に見える。秋、葉を落とす準備として、葉の付け根の所に離層というミゾができる。そしてクロロフィルが分解され始めると、カロチノイドの黄色が目立ってくる。分解される速度がクロロフィルより遅いので、葉は一時的に黄色になる(写真:ハウチワカエデの黄葉)。 
  • 葉に蓄積した糖類が紫外線を浴びると、アントシアンやタンニン系の色素に変化する樹木は、それぞれ赤や茶に紅葉する。ハウチワカエデやモミジ、ナナカマド、ツタウルシ、ニシキギなどは赤く(紅葉)なり、ブナやトチノキ、イチョウ、カエデ、カツラなどは黄色(黄葉)になる(写真:ハウチワカエデの黄葉から紅葉へ)。 
  • 落葉が茶色になるのは・・・カロチノイドも分解され、食害を防いでいるタンニンから褐色色素のフロバフェンができるためである。 
  • 黒湯~孫六温泉周辺は、秋晴れに紅葉が光り輝き、燃え上がるような美しさ。
  • ブナ林の黄葉・・・ブナは黄色に黄葉するが、その期間は意外に短く、早々と褐色へと変化する。落葉するにつれて青空が透けて見えるようになる。そのコントラストがまた美しい。 
  • ナナカマドとハウチワカエデの競演
  • 孫六温泉で休憩・・・先達川沿いに建つ湯治場。発見は1902年(明治35年)。茅葺き屋根の伝統的な宿と紅葉に染まる森林浴、温泉交じりのマイナスイオンを全身に浴びて、実に爽快な気分にさせてくれる。乳頭温泉郷ブナ林散策道は、「ココロとカラダの健康づくり」にすこぶる役立つ隠れた森林セラピーロードと言える。
  • 孫六温泉から先達川沿いの黄葉美を観賞しながら大釜温泉に向かう。   
  • 左:ミヤマガマズミの赤い実は果実酒、ジャム、漬物の色付けに利用する。右:リョウブ
  • 左:大釜温泉・・・木造校舎を再利用した温泉宿。右:妙乃湯(たえのゆ)温泉・・・女性に人気がある温泉宿。白い外壁がおしゃれ。
  • 妙乃湯(たえのゆ)温泉脇の渓谷は、マイナスイオンと青空、紅葉の絶景が素晴らしい。
  • 午後の部・・・旧乳頭スキー場から乳頭キャンプ道へ。
  • コマユミの赤い実 
  • 左:ブナ林における自然観察ガイド。右:ハリギリの黄葉。 
  • サワフタギ・・・秋、瑠璃色に熟すので良く目立つ。 
  • 乳頭キャンプ場のブナの実・・・遊歩道沿いにブナの実がたくさん落ちていた。今年は豊作とまではいかないが、並作だろうか。ブナの結実は、樹齢が約50~70年頃から始まる。殻の中には、三角形の茶色の実が二つ、向かい合って入っている。そのドングリの形がソバの実に似ていて、クリのような味がするので、別名「ソバグリ」と呼ばれている。 脂肪分が多く香ばしいブナの実は、人間が食べても美味い。
  • 乳頭キャンプ場(700m)から先達川・鶴の湯峡(620m)へ・・・途中、ブナの枯木にクマゲラの大きな採餌跡があった。 
  • 鶴の湯峡に架かる吊り橋を渡る・・・最も狭くなった峡谷に昔ながらの吊り橋が架かっている。 昔、近在の農家の人たちは、農閑期になると、鍋釜、ふとん、米、味噌などを背負って奥深い山道を歩き、この吊り橋を渡った。貧しい農民にとって、年に一度の湯治は最高の贅沢、最高の健康回復法だった。そんな時代に思いを馳せながら渡る。
  • ツアールの森・・・ドイツ大使のカールツアール氏がここを訪れた時、その植生の豊かさ、変化に富んだ風景の散策路を絶賛して、「ツアールの森」と名づけたという。
  • 左:ツルリンドウの実は赤い宝石のような輝きがある。右:腹菌類・シロツチガキ・・・外皮は裂けて5~10片に星形に開き、白色のち褐色、反転して下部に巻き込む。 
  • 左:サワモダシ。右:終点、鶴の湯別館山の宿(580m)