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五感で楽しむ「紅葉のブナ林トレッキング」(乳頭高原)

 2024年10月22日(火)、森の学校「紅葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原(仙北市)のブナ林で開催された。一般参加者は31名。紅葉の絶景は秋晴れが絶対条件だが、そんなまたとない好天に恵まれた。燃え上がる「花もみじ」を観賞しながらトレッキングを楽しんだ。さらに昼食後、ブナの森と水のもつ癒しのパワーで、ストレス低減や五感を使ってリラックスできる森林セラピー体験が行われた。また昨年は、ほとんどの木の実が大凶作でクマ問題がピークに達したが、今年はブナの林床に落下したブナの実が多く見られた。加えて、ミズナラのドングリやヤマブドウも豊作になったことで、冬眠前に懸念されたクマ問題も沈静化しているのであろう。しかし今秋の木の実が豊作ということは、クマのベビーラッシュが予想されることから、引き続き注意が必要であろう。
  • 共催/秋田県森の案内人協議会、秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会
  • 秋晴れの下、休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。3班に分かれて、軽く準備運動をした後、出発。 
  • 午前のコース・・・旧乳頭スキー場(標高770m)→休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原(890m)→黒湯(830m)→孫六温泉(工事中)→大釜温泉→妙の湯→休暇村乳頭温泉郷→旧乳頭スキー場(標高770m)
  • 旧乳頭スキー場の草地を掘り返した犯人は?・・・掘り返された土には、イノシシの足跡がはっき残っていた。乳頭高原のような豪雪地帯には生息しないとされていたが、今では県内のあちこちで目撃されている。食性は、ヤマイモやハギの根、タケノコ、ドングリなどの植物と、昆虫やミミズ、カニ、カエル、ヘビなどの小動物も捕食する雑食性である。剥がされた芝生の下には、大型のトバミミズが生息しているので、それを食べるために掘り返した痕跡であろう。
  • 参考:イノシシの生態・・・主に夜行性だが、昼間に活動することもある。♂は単独行動をするが、♀は子どもを含む5~6頭の集団で行動する。幼少期のイノシシは、縞模様が縦に生えているので「ウリ坊」と呼ばれているが、生後4ヶ月以降になると消える。稲や芋などの農作物も大好物で、イノシシが食事した跡は、辺り一面の土が掘り返され、ヒヅメの痕跡が残っているので分かりやすい。イノシシの生息密度が高くなると、休耕田や田んぼ、畑などで、派手に掘り返されたりするので、深刻な被害を与える。
  • ブナの実「並作~豊作」・・・遊歩道沿いにブナの実がたくさん落ちていた。今年は並作から豊作。ブナの結実は、樹齢が約50~70年頃から始まると言われている。殻の中には、三角形の茶色の実が二つ、向かい合って入っている。そのドングリの形がソバの実に似ていて、クリのような味がするので、別名「ソバグリ」と呼ばれている。 脂肪分が多く香ばしいブナの実は、人間が食べても美味い。  
  • 参考:ブナの実を100%食べたクマの糞(2022年11月7日大平山系のブナ林で撮影) 
  • クマ対策は引き続き要注意!・・・ブナの実が豊作になると、翌年の1月頃にベビーラッシュになると言われている。だから冬眠明けの5月以降は、危険な親子グマに遭遇する確率が高くなると予想されるので、引き続き要注意!。 
  • ブナ林に囲まれた池の丸太イワナの鑑賞・・・休暇村手前に、ホンナ沢から清流が流れ込む池がある。その池の透明度は高く、丸々太ったジャンボサイズのイワナが悠然と泳ぐ光景を鑑賞できる。イワナ好きにはたまらない池だが、「釣りは禁止」につき注意!  
  • 休暇村乳頭温泉郷近くのブナ林 
  • ホオノキの黄葉/ハリギリ(センノキ)
  • 根元近くから折れたブナの倒木・・・上を見上げると、森にポッカリと穴が開いたように光が林床に降り注ぐ。林床には、光を得て喜ぶブナの稚樹たちがあちこちに生えていた。
  • ツルリンドウ・・・チシマザサに巻き付いたツルリンドウの枝先には、赤い実がたくさんついていた。 
  • ツクバネソウ・・・輪生する4枚の葉の先に羽根つきの羽根のように、黒く熟した実が上向きにつく。 
  • ヒメモチ・・・名前は、小形のモチノキの意味。モチノキは、樹皮から鳥もち(鳥を捕まえるための粘着性の物質)を作ることから名づけられた。木陰に生え、下部はいくらか横に這う。 
  • イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。
  • 薬師神社/黒湯温泉と紅葉
  • ホオノキの実・・・種子は、赤い実がとうもろこし状に集まった形で、ややグロテスクな形状をしている。この色と形が、鳥にはよく目立つ。10月頃、袋が割れて中から赤い種子が出てくる。鳥は、その赤い実を食べて、移動した後に、糞と一緒に種子を地面に落として種を散布してくれる。
  • 工事中の孫六温泉を通って大釜温泉に向かう
  • 大釜温泉・乳頭山(烏帽子岳)蟹場コース登山口
  • 妙の湯から休暇村乳頭温泉郷を経て、出発地点に戻り昼食。
  • オオバクロモジの黄葉
  • 赤い実と紅葉が美しいコマユミ
  • 鳥が好む赤い実が美しいマユミ
  • 美しいハウチワカエデの紅葉・・・カエデの仲間では、葉が最も大きいから、一度に色づかず、葉先から少しづつ変化していく。黄緑、黄色、オレンジ、赤など変化に富み、多彩なグラデーションでブナ帯の森を艶やかに彩る。 
  • オオカメノキの紅葉
  • ツルウメモドキの実・・・秋に黄色に熟すと3つに裂け、中から赤色の仮種皮に包まれた種子が現れる。ツル性の仮種皮の色が美しいので、生け花やリースによく使われる。 
  • 野鳥たちが好むナナカマドの真っ赤な実・・・真っ赤な果実は、葉が落ちた後も残るので、野鳥を誘惑するには効果的。野鳥たちにとっては、食料が乏しくなる冬の貴重な食べ物である。
  • ヤマブドウの紅葉 
  • 黒く熟したヤマブドウ・・・今年は豊作
  • ヤマウルシ/ツタウルシの紅葉
  • ブナの黄葉・・・ ブナは黄色に黄葉するが、その期間は意外に短く、早々と褐色へと変化する。
  • スコットカメムシ・・・光沢のある銅褐色の背中に白斑があるカメムシ。鍵が掛かった無人の建物の壁に大量に集まっていた。集団越冬するために、無人の建物の中に侵入していた。ブナ、ミズナラ、ハンノキ、シナノキなどの植物に寄生する。
  • 午後の部・森林セラピー体験(指導者:森林セラピスト奥山さんと長崎さん)
  • 森林セラピーとは・・・これまで感覚的に語られてきた「森林浴」の癒し効果を科学的に解明し、「ココロとカラダの健康づくり」に活かそうという試みで、一歩進んだ「森林浴」ともいえる。ブナ帯の森の香りや空気の清浄さ、美しい森の色彩、清流、景観などが人の生理に及ぼす効果について、科学的に実証され、さらに関連施設などの自然・社会条件が一定の水準で整備された地域を森林セラピー基地として認定されている。秋田県では、鹿角市が唯一「森林セラピー基地」に認定され、5つ (八幡平森林、湯瀬渓谷森林、東山森林、黒森山森林、中滝森林) のセラピーロードがある。
  • ブナの森の中を歩くと、眠っていた五感が研ぎ澄まされる。森の葉が風に揺れる音、落葉を踏みしめる音、大量に落果しているブナの種を踏む音、沢水の流れる音、野鳥の囀り、虫の声などの天然の音は、血圧の低下や脳活動の沈静化に効果がある。木の葉や幹を触る、巨木に抱きつく、森林美を見る、木の香りを嗅ぐ、名水や渓流魚、山菜、木の実、キノコを味わう、天然温泉に入るなど、五感で味わう森林のパワーで心と体を癒すことができる。もちろん、人の五感機能を回復・改善するのにも役立つ。
  • 森の音楽セラピー・・・森の中に仰向けに寝転び、眼をつぶる。長崎さんは、録音した伴奏に合わせて、オカリナの演奏を奏でてくれた。ブナの森に溶け込むような森の音楽セラピーに全員が酔いしれた。その美しい音色につられて、参加者以外の人も数人集まってきて聞き入っていた。
  • キタキチョウも舞う・・・音楽セラピー体験が行われた近くのアザミにキタキチョウがやってきて蜜を吸っていた。演奏が始まると、逃げるどころか、音楽に合わせて寝転んだ参加者の周辺を延々と舞い続けていた。
  • 最後に、参加者全員に暖かいハーブティー(ペパーミント)がふるまわれた。
  • 今回、初めて乳頭高原のブナ林の中で森林セラピー体験が行われた。想い出すのは、2015年に行われた「八幡平森林セラピーロード」での素晴らしい体験である。改めて、乳頭高原のブナ林と温泉群は、八幡平に匹敵する素晴らしい「森林セラピーロード」だと思った。