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森の学校2021 梅津一史の昆虫講座

  2022年1月22日(土)、森の学校「梅津一史の昆虫講座」が秋田県森林学習交流館・プラザクリプトンを会場に開催された。参加者は44名。講師は、秋田県で希少な昆虫の専門家・梅津一史さん。これまで秋田県で見つかった昆虫は何種か、秋田県に侵入した外来昆虫、温暖化に伴って北上している昆虫、絶滅のおそれのある昆虫などをテーマに、90分余りにわたって詳細に解説。今後、「昆虫シリーズ」を編集する際は、今回の講演内容を参考にしていきたいと思う。
  • 主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 協賛/(一社)秋田県森と水の協会
  • 協力/秋田県森の案内人協議会
  • 講師・・・元県立博物館主任学芸主事・梅津一史さん(秋田自然史研究会、日本昆虫学会、日本鱗翅学会、日本蛾類学会などの会員)
  • これまで秋田県で見つかった昆虫は何種?・・・約6,700種。他県と比べてみると、よく分かっているのはトンボ87種、チョウ122種、ガ約2,800種など。ハエ・蚊、ハチなどは全く調査不足。 
  • 調査が進んでいる県では,9,000~10,000種くらいになる。秋田県の解明率は7割くらい?と低い。その理由の一つとして、アマチュアの昆虫好きが少ないためか、昆虫専門の同好会がない。昆虫同好会がないのは、恐らく秋田県が全国で唯一というのはショッキング。少なくとも、小学生から大人まで入れる秋田昆虫同好会があればと思う。
  • 秋田県に侵入した外来昆虫
  • アメリカシロヒトリ・・・北米原産で、終戦直後に東京で最初に発見され、今では北海道から九州まで広く確認されている。幼虫は樹木中心にさまざまな植物の葉を食べる。秋田県では1965年に大曲市で確認されたのが最初で、その後各地へ広がった。現在は市街地での発生は少なくなったが、河川敷や海岸防風林などでよく見られる。
  • ブタクサハムシ・・・北米原産。国内では1996年に千葉県千葉市で初めて発見された。秋田には1999~2000年頃に侵入。数年で全県に広がった。国内では、ブタクサ、オオブタクサ(=クワモドキ)、オオオナモミ、イガオナモミ、キクイモ、ヒマワリの摂食が認められている。 
  • 比較的最近、秋田県に侵入した外来昆虫・・・北米原産のプラタナスグンバイは、2013年に初めて秋田市で確認された。本種に汁を吸われて葉が黄色くなったプラタナスがあちこちに見られた。他にアワダチソウグンバイ、ラミーカミキリ、マツヘリカメムシ。 
  • 今後、侵入が懸念される外来種
  • アカボシゴマダラ・・・中国など大陸産のアカボシゴマダラが放蝶により関東一円に定着。東北地方でも、2013年に福島県で、2019年に宮城県で見つかっている。幼虫はエノキの葉を食べ、同じ植物を食べる在来種のゴマダラチョウやオオムラサキと競合する。特定外来生物、生態系被害防止外来種。
  • クビアカツヤカミキリ・・・中国,モンゴル,朝鮮半島,台湾,ベトナムが原産地。国内では2012年に愛知県で初めて確認され、その後関東~関西,四国に分布が拡大。サクラ,ウメ,カキ,モモ,ポプラなどの樹木に寄生して弱らせたり、枯死の原因となる。特定外来生物.生態系被害防止外来種。 
  • 温暖化に伴って北上している昆虫・・・秋田県が分布の北限であったアオスジアゲハ、クロアゲハ、ヤマトシジミ、ショウリョウバッタ、コカマキリは、青森県でも見つかっている。 
  • ウラギンシジミ・・・典型的な暖地性のチョウだが、県内で越冬するようになった。右上の写真は、2015年12月、にかほ市象潟のヤブツバキの葉裏にとまって越冬中のウラギンシジミ。1980年代までは、新潟県が北限であったが、2015年~2016年に越冬が確認された。この個体は、3月末まで生き延び、越冬に成功している。♂は赤橙色の斑紋、♀は白~青白色の斑紋がある。食草は、クズ、フジ、ハリエンジュなどのマメ科植物。
  • 秋田県が北限の昆虫で、今後、北上していくと思われる昆虫・・・アオバハゴロモ、ヒメカマキリ、ジャコウアゲハ、エゴヒゲナガゾウムシ、ヒラタアオコガネ、カネタタキ
  • 今後、秋田県に北上してくるかもしれない昆虫・・・モンキアゲハ、ムラサキシジミ、ツマグロヒョウモン。カナブンは、関東以西では普通種。カナブンがいない地方では、ドウガネブイブイなどのコガネムシ類を「カナブン」と呼んでいることもあり、勘違いしないよう注意が必要。
  • ツマグロヒョウモン・・・もともと南のチョウだが、温暖化とともに著しく北上している種で、秋田でも「迷チョウ」として毎年のように見つかっているという。2017年秋には、秋田市内で多数飛んでいる場所が見つかり、幼虫も発見されている。幼虫は、庭に植えられたパンジーやビオラを好んで食べることから、温暖な住宅地で越冬するのではないかと言われている。ヒョウモンチョウの仲間は年に1回しか発生しないが、本種は暖かければ何回でも発生する。
  • 秋田県版レッドリスト2019によれば、絶滅のおそれがある昆虫は、水辺・湿地に生息する種で約4割、次いで草原に生息する種が多い。いずれも人間の土地利用の変化が、昆虫の生息環境の悪化につながっていると考えられる。 
  • 水辺・湿地の絶滅のおそれがある昆虫・・・カトリヤンマ(秋田県:絶滅)、オオキトンボ(絶滅)、ハッチョウトンボ(準絶滅危惧)、マダラナニワトンボ(絶滅危惧ⅠB類)、ハネビロエゾトンボ(絶滅危惧ⅠA類)
  • 絶滅したオオキトンボ・・・平地の広い池や沼に生息する。能代市や秋田市に産地が知られていたが、1990年代前半を最後に記録がない。平野部から丘陵地の湿地は、人間活動により消滅あるいは環境悪化が起きやすい。さらに、水生昆虫やトンボ、鳥までも捕食する外来魚・ブラックバスの影響が追い打ちをかけたと考えられている。
  • タガメ(絶滅危惧Ⅱ類)・・・田んぼに生息するタガメは、今では多くの水田で姿を消してしまった。数が激減した原因は農薬の影響があるかもしれない。
  • ゲンゴロウ(準絶滅危惧)・・・田んぼやため池にすんでいるゲンゴロウは、かつて誰もが知っている虫であったが、農山村の水辺環境の悪化が進み、今では非常に少なくなっている。さらに、外来種の侵入によって絶滅の危機にある。アメリカザリガニは、ゲンゴロウ類が産卵する水草やエサとなる小動物を食べてしまう。全国のため池に放流されたブラックバスは、水辺の生き物を何でも食べてしまうので、ゲンゴロウ類などの水生昆虫に深刻な影響を与えている。
  • マークオサムシ(絶滅危惧ⅠA類)・・・湿地に住む甲虫で、雄物川中・下流に産地が知られていた。しかし、2000年以降は全く記録がなく、絶滅したのではないかと言われていた。ところが2015年、米代川流域で発見された。
  • チョウカイシロコブガ(絶滅危惧ⅠA類)・・・鳥海山麓で採集された標本をもとに、1993年に新種として命名産地は秋田県内1ヵ所のみ。 
  • 秋田県で絶滅したオオウラギンヒョウモンとチャマダラセセリは、どちらも草原に住むチョウ。いずれも1970年代初めが最後の記録。温暖で雨が多い日本の気候では、草原はいずれ森林になってしまう。長い間、草原が維持されてきたのは、農村で牛馬を養うために、火入れや刈り取りを繰り返してきたためである。農業の機械化によって不要となった草原は、現在、ほとんどが消滅。一見草原に見える外来種の牧草地は、かつて里山の草原にいた動植物は見られない。
  • ハヤチガ(絶滅危惧ⅠB類)・・・国内では、砂浜海岸だけに生息するガで、本州日本海側の数ヵ所しか産地が知られていない。秋田市の雄物川河口付近の海岸は、数少ない生息地の一つ。
  • ヒメギフチョウ(絶滅危惧Ⅱ類)・・・かつては男鹿を除けば全県に分布していたが、秋田市周辺では、多産地とされた高尾山でも、その姿を見ることがなくなった。コナラの雑木林と、その林床に生えるカタクリや食草もあるのに、なぜか消えてしまった。春を告げるヒメギフチョウが見られないのは、やっぱり寂しい。
  • 里地里山の荒廃・・・かつて集落や農耕地周辺の山林は、薪や木炭を得るため定期的に伐採されてきた。低木も燃料や刈敷として利用されるため刈り取られてきた。このため原生林とは異なる「雑木林(薪炭林)」が成立していた。しかし、燃料が石油など化石燃料主体に変化すると、放置された薪炭林の植生が変化、スギ植林への転用が行われた。ヒメギフチョウの場合は、木が大きくなり、下生えが密生するなどで、林の中が暗くなり、生息地として不適になった場所もある。中には、高尾山のように、いなくなった原因がわからないケースも多い。(写真提供:左合 直(さごう ただし)氏 HP「蝶の生態写真」)