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モリエールあきた


スギの語源、神社とスギ、精英樹、天然秋田スギの分布、天神貯木場、スギの歴史と文化、きみまち阪と七座山
 仁鮒水沢の保護林は、木曽ヒノキ、青森ヒバとともに、日本三大美林・天然秋田スギを代表する森である。昭和22年に保護林に指定されている。面積は18haほどで、3千本もの秋田スギの巨木が林立している。林内に整備された木道は、一周30分ほどで散策できる。

 遊歩道の中ほどに、日本一の天然秋田スギ「きみまち杉」(右の写真)がある。胸高直径164cm、高さが58mで日本一高いスギとして1996年、秋田営林局が日本一宣言をした。名前の由来は、紅葉の名所「きみまち阪」からとっている。
仁鮒水沢スギ植物群落保護林案内図

場所 秋田県能代市二ツ井町田代字田代沢国有林4林班と小班 (google地図)
面積 18.46ha
林齢 180年~300年 平均250年(推定)

指定時期
 昭和22年 (旧称)仁鮒水沢学術参考保護林
 昭和46年 秋田県史跡名勝天然記念物
 平成5年 仁鮒水沢スギ植物群落保護林

問い合わせ先
 能代市観光振興課   電話 0185-89-2179
 米代西部森林管理署 電話 0185-54-5511
▲道路沿いの案内看板 ▲仁鮒水沢スギ保護林の無料駐車場

 JR二ツ井駅から車で約20km、25分。入り口の100mほど手前に、無料駐車場とお手洗いがある。
▲保護林入口 ▲リニューアルされた木道 ▲巨木の名称等を記した標識

 保護林内を散策する場合、クマ避け鈴を鳴らして歩けば安心だ。入口から一周約800mは全て木道が整備され、歩きやすい。ただし、雨後で木道が濡れている場合は滑りやすいので注意。分岐点に案内図、秋田スギの巨木には「名前、樹高、直径、材積」を記した標識があるので分かりやすい。
▲「泣き杉」・・・樹高40m、直径94cm、材積11m3 ▲案内看板
スギの語源

 スギは、日本にしか生育していない固有種で、学名は「クリプトメリア-ジャポニカ」。語源には色々な説があるが、真っ直ぐ上に伸びる木だから直木(すくき)の意味という説が最も有力である。ほかに、アイヌ語のシンクニー(真っ直ぐな木の意味)から転じたものという説もある。
▲入口から280m地点・・・「もっくん杉」のある分岐点

 ここからが保護林の核心部。右に進めば東屋まで約170m、左に進めば約270mで「日本一高い天然秋田スギ、きみまち杉」へ。いずれのコースを辿っても一周すれば、この分岐点に戻ってくる。
▲「もっくん杉」・・・樹高55m、直径126cm、材積24m3 ▲分岐点の案内標識
 木道沿いに、苔生した天然秋田スギが天を突き刺すように延々と連なっている。奥に進むに連れて、幹も太くなる。神が宿る森とは、こんな森を言うのであろう。圧倒するような存在感に、見上げては感嘆の声をあげ続けた。
森子大物忌神社(由利本荘市森子)のスギの巨木 ▲羽黒山参道のスギの巨木

神社とスギ

 どこの神社にもスギの大木があるのはなぜだろうか。スギは、様々な木々の中でもとりわけ太く高くまっすぐに成長する。だから、神様は空高くそびえる杉の大木を伝って天上界から地上界へ降臨してくると考えられている。つまり、スギの大木は、神の依代として神社になくてはならない樹木なのである。

 ということは、天を突き刺すように真っ直ぐ伸びた日本一高い秋田スギの森は、日本一神様が地上に降臨しやすい森と言えるであろう。そう考えると、新たなパワースポットを発見したようなワクワク感を感じた。 
▲再整備された木の階段 ▲「恋文杉」・・・樹高56m、直径102cm、材積17m3

精英樹「恋文杉(コイブミスギ)」

 山に植える木は高く、太く、早く、素直に育ち、大きくなった時に木材としての利用価値が高くなるような苗木を植える必要がある。そんな特に優秀な樹木を精英樹として選んでいる。この「恋文杉」は、昭和37年に精英樹に指定されている。正式名称は「能代106号」である。
▲東屋方向に上る ▲「仁鮒杉」・・・樹高55m、直径116cm、材積21m3
 
▲東屋
▲東屋から230mで「きみまち杉」へ ▲「水沢杉」・・・樹高50m、直径144cm、材積28m3
▲東屋から木道を下って行くと、ほどなく「きみまち杉」へ 
▲「きみまち杉」と並んで林立している「田代杉」・・・樹高53m、直径120cm、材積22m3

天然秋田スギの分布

 秋田県北部の米代川流域の中・下流部、雄物川流域に集団分布するほか、男鹿半島、秋田市仁別、森吉山、鳥海山などにも局部的に成立している。
▲日本一の天然秋田スギ「きみまち杉」・・・樹高58m、直径164cm、材積40m3

 高さ58mは、15階建てのビルに相当する。この木一本で53坪の家が一軒建てられるという。昔は、こんな天然秋田スギの巨木が、米代川流域を中心に広く分布していたことを思えば、「木の国秋田」と呼ばれる理由が良く分かる。
 ▲「秋田美人杉」・・・樹高54m、直径88cm、材積13m3 

秋田スギの特徴

 裏日本系統のウラスギに属し、枝が細く老齢になっても成長を持続する。特に米代川流域のものは、鮮やかな鮮紅色でツヤが良く、軽くて弾力性に富むなどの特徴がある。米代川流域で生産された天然秋田スギ材は、その優れた材質が賞賛され、昭和30年代をピークに全国に供給された。
森林軌道(写真:「秋田営林局 百年のあゆみ」(秋田営林局広報室)より)

 秋田の森林鉄道は、大正2年に二ツ井町の仁鮒軌道が鉄道化されて以降、最盛期の昭和22年には、163路線、1,218.7kmに達した。この距離は、秋田市から新幹線で新大阪までに至る距離とほぼ同じ長さ。山々を網の目のように走っていた森林軌道は、木材を運ぶだけでなく、山あいの集落を結ぶ重要な交通手段でもあった。

 なお、現在の仁鮒から保護林に至る川沿いの道路は、森林軌道の軌道敷を利用してつくられた。
▲天神貯木場(能代市二ツ井町) ▲筏流し(米代川)
(写真:「二ツ井史稿NO.18 高岩山・七座山とその周辺」(二ツ井町史編纂委員会)より)

東洋一の大貯木場「天神貯木場」

 昭和初期の時代は、能代港までの木材の輸送は水運が唯一の方法であった。当時、小阿仁川を利用していたが、渇水などで安定しないことから、水量が豊かな米代川本流にその適地を求めた結果、天神地区に貯木場を開設するに至った。

 昭和6年、天神貯木場は七座営林署天神貯木場として開設されている。最盛期には、天神貯木場だけでも常時120人から200人もの職員、作業員が働き、日本一、東洋一の大貯木場として名声を誇った。昭和55年3月に廃止となり、歴史に幕を閉じた。
▲清酒の仕込み樽 ▲大館伝統工芸品「曲げわっぱ」
(上の写真:仁別森林博物館)

スギ文化

 スギは、家や家具、彫刻、工芸、樽・桶、船、下駄など用途も幅広く、日本人の暮らしの中に多く使われている。日本酒に香りをつけるため酒樽にも利用される。秋田スギは、酒樽として奈良県の吉野スギに劣らない。かつては、樹皮で屋根をふいたり、葉で線香をつくったりした。

 曲げわっばは、秋田スギの柾目板を用いて作られた曲げ物の器。もともとは杣夫(きこり)が作り、弁当箱として利用していた。曲げ物細工が商品として生産され流行したのは、文政年間頃からである。武士の内職として興り、弁当箱などの実用品だけでなく、茶道の道具なども作られ、秋田スギの伝統工芸品として有名になった。
▲板屋根に使った小羽板
▲払田柵にスギの角材が使用された ▲1000~1300年頃、天然秋田スギを使った井戸  ▲秋田スギの利用「桶樽」
(上の写真:仁別森林博物館)

 遺跡調査から、スギは縄文時代早期より使われていたことが分かっている。また、西暦1000年頃 払田柵跡に近隣のスギの角材が使われた。外柵の延長が約4km・・・それを長さ4m×30cm四方の角材で隙間なく並べ、さらに北側には内柵も連ねてある。その威容はさながら西部劇にでてくる砦のようであったという。

 神社や寺の境内、参道には、必ずといっていいほどスギの大木があり、一本杉、夫婦杉、三本杉など杉が信仰の対象にもなっている。スギは、日常生活を支える材木として、また信仰の面でも重要な役割を果たしていることから、日本文化を支えてきた木の代表といえる。
秋田スギの父「賀藤景林」

 江戸時代初期、佐竹氏が水戸から秋田に移った頃は、天然秋田スギが無尽蔵にあったと言われ、藩の財政に大きく寄与した。しかし、大量の秋田スギを伐採したために、秋田スギの荒廃が続き、森林保護と植林を進める林政改革が二度も行われた。

 「国の宝は山なり、山の衰えはすなわち国の衰えなり」という名言は、秋田藩に家老をしていた渋江正光である。また、「砂防林の神様」「秋田スギの父」と言われる賀藤景林は、具体的な植林、保護計画を立案し、生涯で250万本ものスギを植林した。その意志は長男にも引き継がれ、親子二代にわたる植林で日本三大美林の一つ・秋田スギの基礎をつくりあげた先人である。
秋田スギを使った木造二階建ての校舎(能代市立二ツ井小学校) 

 スギ、マツなどの針葉樹の他に、児童に樹種を知ってもらうため、ブナ・ナラ・タモなどの広葉樹も利用している。
 
▲夫婦岩 ▲ベンチのある撮影ポイント ▲一本松と七座山

ちょっと寄り道「きみまち阪と七座山」

 きみまち阪一本松から七座山を望む景観は、江戸時代の紀行家・菅江真澄が絶賛しただけあって素晴らしい。撮影ポイントは、きみまち阪キャンプ場方向の車道を走り、「夫婦岩」の広場に駐車。ちょっと上に「一本松」の看板から細尾根沿いに60mほど歩けば、ベンチのある絶景ポイントへ。
菅江真澄、「きみまち阪から七座山を望む」(しげき山本、1802年3月10日)

 「加護山の中腹に立って眺めると、間近い七座山や、遠近の山々が流れゆく川に沿って連なっている景観は、言葉にあらわしようもなく美しい・・・鳥居をくぐると、ひしひしとたつ大岩の姿は、中国の大湖を描いた有名な絵画をみるのと等しかった・・・

 年を経た松、杉、ヒノキ、桜、槻、桂、カエデなどの茂りあうたくさんの木の中に、大岩の頂が現れている景色はことにすばらしい」と、景観の美しさを絶賛している。
▲きみまち阪「屏風岩の紅葉」  
▲恋文ポスト ▲恋文神社・・・夫婦杉の真ん中に鎮座している小さな祠。カップルで願うと夫婦になれるという。
▲屏風岩の絶景を眺めながら休憩できる「きみ恋カフェ」 ▲天然秋田スギのテーブル ▲全てハート形の「きみ恋カレーライス」500円、コーヒー付で700円
七座山の天然秋田スギ
 七座山の麓を車や自転車でゆっくり走るだけで、天然秋田スギやブナなどの原生的な森の雰囲気を味わうことができる。登山ルートはいろいろあるが、最短コースで片道30分ほどである。

七座山自然観察教育林 面積:99ha

 七座山(主峰:権現座287m)は、藩政時代に御直山(おじきやま)として保護された天然秋田スギを主体とした原生的な天然林で、誰もが気軽に天然秋田スギを鑑賞できる穴場的なスポットである。昔から、七座山一帯は修行の場として信仰を集めており、地元山の会の元旦登山でも有名である。

 天然秋田スギを主体にブナ、イタヤカエデ、ミズナラ、トチノキ、カツラなどの老木が鬱蒼と生い茂り、潅木の種類も多い。コブシ、エゴノキ、ウリノキ、ミツバウツギ、ヤマツツジ、ハナイカダ、ムシカリなどの花が咲く。シダの仲間も多く、特にシケチシダは分布の北限とされている。
神木「七廻杉」(能代市二ツ井町荷上場字五輪台)

 高岩神社に向かう途中の右手に一際大きいスギの巨木「七廻杉」がある。高岩山に登るひとたちは、必ず仰ぎ見る大樹だという。名前の由来は、息をつかずに七回まわると、願い事が叶うむと言われることから「七廻杉」と呼ばれるようになった。

 昔は、このようなスギの巨木が鬱蒼と茂る深山幽谷の高岩神社として、県北一円の信仰を集めていたという。
参 考 文 献 等
仁鮒水沢スギ植物群落保護林パンフレット(PDF:1,281KB)(東北森林管理局)
仁別森林博物館(東北森林管理局)
「恵みの森 癒しの森」(矢部三雄、講談社)
「秋田営林局 百年のあゆみ」(秋田営林局広報室)
「二ツ井史稿NO.18 高岩山・七座山とその周辺」(二ツ井町史編纂委員会)
「菅江真澄遊覧記」(内田武志・宮本常一編訳、平凡社ライブラリー)

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